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80.お待たせいたしました

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「お待たせいたしました。もしや最強にして……いえ、その、至高にして孤高の魔法使い様であらせられますか?」
「あー、そんな呼び方する奴もいたっけー?」

 戻されたギルドカードを受け取りながら、ノムルは首筋を掻く。
 なんのこと? とばかりに首を傾げて見上げるユキノは無視して、魔法空間にギルドカードをしまった。

 ノムルには二つ名と呼ばれるものが多くある。すでに二つ名ではない気もするが、勝手に増えていくのだから仕方ない。
 多くは彼の力を恐れた者たちが付けた、好ましいとは言えない種類のものだ。
 しかし中には、彼を崇拝する者たちが付けた二つ名もある。その一つが、先ほど薬屋が口にした、『至高にして孤高の魔法使い』だ。

「ノムルさんは有名人なのですか?」
「少しねー」
「ほほう」

 問うてきたユキノが高尚そうな相槌を打っているが、どこまで理解しているのかは怪しいものだとノムルは思う。

「ユキノちゃんにとって、有名人って誰?」

 どうでもいい話題だとは思いつつ、気になったので聞いてみた。

「私にとってですか? そうですね。歌三角師匠でしょうか?」
「誰?」
「なんと!? 歌三角師匠をご存じないとは……。ノムルさん、ちょっと残念です」

 ふうっと息を吐きながら肩を落として首を左右に振る幼女。
 少しばかりいらっと来たノムルだが、亜人の有名人など教えられても仕方ないと、それ以上は聞かなかった。

「そういや一人しか依頼を出していなかったみたいだけど、この大きさの店なら、もっと雇えるんじゃないの?」

 日帰りならばまだしも、数日を要する護衛依頼では、最低でも二人か三人は雇うものだ。
 ノムルの指摘に、男は目を瞠る。

「え? 一パーティ、最大三人までという依頼をしていたのですが?」

 どうやら冒険者ギルドとの間で、齟齬が起きていたらしい。

「いつものことだと冒険者ギルドに任せていたのが、よくなかったようですね。後で確認しておきます。とはいえ夜間の見張りをしてくれればいいので、一人でも構わないのですけど。ちょっと待っていてください」

 そう言って初老の男が奥に声を掛けると、四十代前半に見える男が顔を出した。
 人の良さそうな柔和な顔つきだが、にこやかに細められた目の奥は鋭い。一見すると分かり辛いが、服の下にある肉体は、かなり鍛えられているとノムルは見抜く。

「息子ですよ。ヤナにはこれが向かいます」
「ジョイと申します。よろしくお願いします」
「俺はノムル。こっちは娘のユキノ」
「ユキノです。よろしくお願いします」

 物腰の柔らかなジョイが差し出した手は、薬屋らしからぬ、ごつごつとした手だった。
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