ACES IN SKIES

みにみ

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蒼海の凶鳥

決着

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空は、奇妙なほど静かだった。
ポーラリア上空。
夜明けを迎えきれなかった雲が、低い高度で引きちぎられ
戦火の残滓を含んだ空気が渦を巻いている。
「……来たか」
正面、微かに映る影。
レーダーはすでに何度も警告を鳴らしていたが
視認するまで“隕石”という存在は実感を伴わなかった。
YF-23。
黒く、鋭く、空そのものを裂くような輪郭。
(これが……)
ハルピーヤの操縦桿を握る手に、嫌というほど力が入る。
身体はすでに限界を超えていた。
Gスーツは役に立たず、内臓が上下逆に引き裂かれる感覚は常に付きまとっている。
それでも――
(それでも、止めねばならない)
推力偏向ノズルを最大可動域へ。
機体は通常の機体ではありえない角度で機首を振り
失速寸前から再び速度を得ながら曲がり切る
一度目の交差。
正面。
互いの機影が視界いっぱいに広がる。
「――撃て!」
R-77発射。
だが次の瞬間、ミサイルは意味を失う。
ECMの嵐。
隕石は、まるで存在しないかのようにミサイルを欺き、軌道の外へ滑り落ちる。
二度目、三度目。
旋回。
反転。
上昇からのダイブ。
速度計が狂ったように振れ、視界が暗転と回復を繰り返す。
血が逆流し、意識が遠のく。
(まだだ……!)
四度目の交差。
今度は近い。
互いのキャノピー越しに、相手の存在を“感じる”距離。
被弾。
左翼に衝撃。
だが致命傷ではない。
(さすがだ……)

五度、六度。
空が、狭くなる。
この空域にいるのは、もはや二機だけだ。

七度目。
正面からのガンパス。
曳光弾が交差し、空に赤い線を刻む。
サーリア9は歯を食いしばった。
(これほど……これほどの相手が、敵にいたとはな)
八度目。
隕石が、わずかに遅れた。
――好機。
推力を殺し、強引に機首をねじ込む。
至近距離。
20ミリが火を吹く。
命中。
だが――
「……落ちない、だと?」
YF-23は左主翼を削られながらも、なお飛ぶ。
九度、十度。
すでに、数字に意味はない。
ただ、互いに“死なない理由”だけが、操縦桿を動かしている。
(私は……)
一瞬、脳裏に両親の顔が浮かぶ。
そして、部下たち。
(だから、私はここにいる)


世界が、歪んでいた。
左主翼の三割を失い、機体は常に左へ引きずられる。
操縦系統は警告音を鳴らし続け、計器の半分は沈黙している。
それでも――
(飛べる)
それだけが、事実だった。
「……しぶといな」
無線越しに聞こえる、落ち着いた声。
サーリア9。
その声には、怒りも焦りもなかった。
ただ、同じ空を生きてきた者だけが持つ、静かな覚悟があった。
十一度目の交差。
リカは、あえて正面を選ぶ。
逃げれば負ける。
この相手には、それが直感でわかった。
ミサイルロック。
サイドワインダー。
だが、まだ撃たない。
十二度目。
敵が先に動く。
推力偏向で、無理やり角度を作ってくる。
Gが限界を超え、視界が白くなる。
(……今だ)

十三度目。
正面。
距離、角度、速度。
全てが、ほんの一瞬だけ噛み合う。
「――フォックス2!」
サイドワインダー発射。
サーリア9が回避行動をとる
だが、もう遅い。
サイドワインダーは右エンジンエアインティークに直撃。
火炎が迸り推力を喪失。
Su-37EMFは、ついに高度を失い始める。
リカの機体も、限界だった。
操縦桿は重く、応答は遅い。
それでも、無線は繋がっていた。

「隕石……いや、アリス」
かすれた声。
「他の隊員はどうなった」
「全機無事に戦闘空域を離脱。ハーギアに向かった」
短い沈黙。
「そうか……なら今回は、私の勝ちだな」

「……ベイルアウトは」
「しない」
サーリア9の声は、どこか安らいでいた。
「この機体のせいで身体はボロボロだ。
 戦争で敵機を落としてから、そうそう生き延びようとも思わん」

「……そう、か」
「人生の最後に、いい戦いをさせてもらった」
高度が、どんどん下がっていく。
「アリス。君が飛ぶのは、何のためだ」
問いは、静かだった。
「それさえ分かれば、君はもっと舞える。
 それに僚機は……掛け替えのないピースだ。一度失えば、二度と戻らない」
通信が、途切れがちになる。
「……少し喋りすぎたかな。
 まぁいい」
最後に、はっきりとした声。

「空を駆ける全ての者たちに、栄光あれ。
 それと……あの馬鹿な私の部下たちに会ったら伝えてくれ。生きろ、と」
次の瞬間。
光が迸って爆散。
Su-37EMF Гарпияは、空の中で消えた。
ベイルアウトは、なかった。
リカは、操縦桿を握ったまま、ただその空を見つめていた。
隕石は、まだ落ちていない。
だが、この空で――
一人のエースは、確かに、空へ還った。
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