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プロローグ
米軍の損失
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1945年1月、太平洋戦争はすでに終局へと向かう様相を呈していた。
フィリピン・ルソン島上空は、強大な火力と
圧倒的な物量を誇る米軍の制空権下にあり、
アメリカ陸軍の「空の支配者」P-51Dマスタング戦闘機隊は、
その力を誇示するように悠々と哨戒飛行を続けていた。
その日、晴れ渡った青空のもと、第352戦闘機群に属する
P-51D「マスタング」 8機の編隊が、定時哨戒のためルソン島北部を飛び立った。
編隊長は、2度の撃墜王(エース・オブ・エース)たる名誉を持つ
ベテラン、ロバート・L・ジョンソン大尉。
彼は無線で軽快に仲間に話しかけていた。敵の航空戦力は壊滅し、もはや危険はない。
彼らに与えられた任務は、地上部隊への協力を妨げる残存勢力の掃討、
そして、何よりも米軍の絶対的な支配を日本軍に見せつけることだった。
しかし、この編隊が基地へ帰投することはなかった。
当初、米軍司令部は気象条件の急変や
エンジン故障による事故を疑った。だが、その後も同様の事態が続発する。
1月15日:B-25爆撃機を護衛していたP-38「ライトニング」2機が
護衛対象への合流直前に通信を絶ち、消息不明。
1月20日:偵察任務に出ていたF-6F「ヘルキャット」単機が
帰投予定時刻を過ぎても基地に戻らず。
1月24日:哨戒中のP-40「ウォーホーク」の編隊が
突如として激しい戦闘音を最後に沈黙。
これらは単なる事故ではなかった。米軍はルソン島上空に
「ゴースト・ファイター」の存在を疑い始める。
敵の戦闘機が現れ、交戦の報告もないまま
経験豊富なパイロットが搭乗する機体が次々と消えていくのだ。
それは、日本の戦闘機によるものとは考えられなかった。
旧式の「ゼロ」(零戦)、あるいはごく稀に見かける「ジャック」(雷電)や
「ジョージ」(紫電)では、圧倒的な性能差を持つ米軍機を、
交戦記録すら残させずに撃墜するなど、到底不可能だったからだ。
米軍航空隊の間に、静かな、しかし確実な恐怖が広がり始めていた。
そして、1月26日。ついにその原因が白日の下に晒される。
レイテ島の基地に、一機の*F4U「コルセア」が
信じられないほどのダメージを負いながら舞い戻ってきた。
機体の胴体には無数の被弾痕があり、主翼のエルロンは半分吹き飛ばされ、
着陸脚も片方しか降りていない。辛うじて着陸に成功した機体から、
フラフラと這い出てきたパイロット、フランク・アレン中尉は、
顔面蒼白のまま、酸素マスクを外して叫んだ。
「ジャップだ! ジャップの新型機だ!」
彼の周囲に集まった整備兵や将校たちが静まり返る中、アレン中尉は震える声で証言した。
「あれはゼロでもない、ジャックでも、ジョージでもない。
見たこともない、異様な形だった。まるで日本の連中が作った最高傑作だ!
奴らは信じられないほどの速さで現れ、俺たちに一瞬の隙も与えなかった。
俺の周りのコルセアは、まるでカミソリで切り裂かれるよう
次々と火を噴いて落ちていったんだ……。
奴らの機動は、俺たちが知っている日本の飛行機じゃない。あれは…あれは悪魔だ!」
彼は、その新型機が四角い大きな主翼を持ち
零戦よりも遥かに洗練された機体であったこと
そして何よりもその驚異的な上昇力と速力について、鬼気迫る表情で語り続けた。
米軍は、この情報に衝撃を受けた。日本がこの大戦末期に
P-51DやF4Uと互角以上に戦える新型戦闘機を実戦投入したというのか?
その「悪魔」と形容された新型戦闘機。
その正体こそ、日本海軍が川西航空機に開発させた局地戦闘機「試製 陣風」*であった。
「陣風」は、日本軍が渇望した高高度性能と高速力を両立させた
最後の切り札となるべく設計された機体だ。その設計は空力の極致を目指し
2,000馬力級の強力なエンジンを搭載し
米軍の新型機と対等に渡り合えるポテンシャルを秘めていた。
そして、その「陣風」を擁する部隊こそ、日本海軍第382海軍航空隊だった。
「382空」は、零戦のベテランパイロットと
航空機搭乗員養成課程を極めて優秀な成績で卒業した若き俊英たちを集めて編成された
ルソン島制空権奪取という、無謀とも言える任務を課された精鋭戦闘機部隊である。
隊長は、冷静沈着な指揮官でありながら
その内には烈火の如き闘志を秘めた横尾 一飛曹長
そして、彼を支えるのは、戦闘の鬼と恐れられる孤高のエース
神崎 猛ら、選りすぐりのパイロットたち。
彼らは、ルソン島陥落までの数ヶ月間
圧倒的優位に立つ米軍に対し、その「陣風」と共に挑み続けた。
「試製陣風戦闘機隊」が創り出した、空の軌跡をいざ御照覧あれ。
「我々は、空を諦めない。この陣風は、我々の魂だ。ルソンの空は、まだ死んではいない。」
— 横尾一飛曹長、出撃前の訓示より
フィリピン・ルソン島上空は、強大な火力と
圧倒的な物量を誇る米軍の制空権下にあり、
アメリカ陸軍の「空の支配者」P-51Dマスタング戦闘機隊は、
その力を誇示するように悠々と哨戒飛行を続けていた。
その日、晴れ渡った青空のもと、第352戦闘機群に属する
P-51D「マスタング」 8機の編隊が、定時哨戒のためルソン島北部を飛び立った。
編隊長は、2度の撃墜王(エース・オブ・エース)たる名誉を持つ
ベテラン、ロバート・L・ジョンソン大尉。
彼は無線で軽快に仲間に話しかけていた。敵の航空戦力は壊滅し、もはや危険はない。
彼らに与えられた任務は、地上部隊への協力を妨げる残存勢力の掃討、
そして、何よりも米軍の絶対的な支配を日本軍に見せつけることだった。
しかし、この編隊が基地へ帰投することはなかった。
当初、米軍司令部は気象条件の急変や
エンジン故障による事故を疑った。だが、その後も同様の事態が続発する。
1月15日:B-25爆撃機を護衛していたP-38「ライトニング」2機が
護衛対象への合流直前に通信を絶ち、消息不明。
1月20日:偵察任務に出ていたF-6F「ヘルキャット」単機が
帰投予定時刻を過ぎても基地に戻らず。
1月24日:哨戒中のP-40「ウォーホーク」の編隊が
突如として激しい戦闘音を最後に沈黙。
これらは単なる事故ではなかった。米軍はルソン島上空に
「ゴースト・ファイター」の存在を疑い始める。
敵の戦闘機が現れ、交戦の報告もないまま
経験豊富なパイロットが搭乗する機体が次々と消えていくのだ。
それは、日本の戦闘機によるものとは考えられなかった。
旧式の「ゼロ」(零戦)、あるいはごく稀に見かける「ジャック」(雷電)や
「ジョージ」(紫電)では、圧倒的な性能差を持つ米軍機を、
交戦記録すら残させずに撃墜するなど、到底不可能だったからだ。
米軍航空隊の間に、静かな、しかし確実な恐怖が広がり始めていた。
そして、1月26日。ついにその原因が白日の下に晒される。
レイテ島の基地に、一機の*F4U「コルセア」が
信じられないほどのダメージを負いながら舞い戻ってきた。
機体の胴体には無数の被弾痕があり、主翼のエルロンは半分吹き飛ばされ、
着陸脚も片方しか降りていない。辛うじて着陸に成功した機体から、
フラフラと這い出てきたパイロット、フランク・アレン中尉は、
顔面蒼白のまま、酸素マスクを外して叫んだ。
「ジャップだ! ジャップの新型機だ!」
彼の周囲に集まった整備兵や将校たちが静まり返る中、アレン中尉は震える声で証言した。
「あれはゼロでもない、ジャックでも、ジョージでもない。
見たこともない、異様な形だった。まるで日本の連中が作った最高傑作だ!
奴らは信じられないほどの速さで現れ、俺たちに一瞬の隙も与えなかった。
俺の周りのコルセアは、まるでカミソリで切り裂かれるよう
次々と火を噴いて落ちていったんだ……。
奴らの機動は、俺たちが知っている日本の飛行機じゃない。あれは…あれは悪魔だ!」
彼は、その新型機が四角い大きな主翼を持ち
零戦よりも遥かに洗練された機体であったこと
そして何よりもその驚異的な上昇力と速力について、鬼気迫る表情で語り続けた。
米軍は、この情報に衝撃を受けた。日本がこの大戦末期に
P-51DやF4Uと互角以上に戦える新型戦闘機を実戦投入したというのか?
その「悪魔」と形容された新型戦闘機。
その正体こそ、日本海軍が川西航空機に開発させた局地戦闘機「試製 陣風」*であった。
「陣風」は、日本軍が渇望した高高度性能と高速力を両立させた
最後の切り札となるべく設計された機体だ。その設計は空力の極致を目指し
2,000馬力級の強力なエンジンを搭載し
米軍の新型機と対等に渡り合えるポテンシャルを秘めていた。
そして、その「陣風」を擁する部隊こそ、日本海軍第382海軍航空隊だった。
「382空」は、零戦のベテランパイロットと
航空機搭乗員養成課程を極めて優秀な成績で卒業した若き俊英たちを集めて編成された
ルソン島制空権奪取という、無謀とも言える任務を課された精鋭戦闘機部隊である。
隊長は、冷静沈着な指揮官でありながら
その内には烈火の如き闘志を秘めた横尾 一飛曹長
そして、彼を支えるのは、戦闘の鬼と恐れられる孤高のエース
神崎 猛ら、選りすぐりのパイロットたち。
彼らは、ルソン島陥落までの数ヶ月間
圧倒的優位に立つ米軍に対し、その「陣風」と共に挑み続けた。
「試製陣風戦闘機隊」が創り出した、空の軌跡をいざ御照覧あれ。
「我々は、空を諦めない。この陣風は、我々の魂だ。ルソンの空は、まだ死んではいない。」
— 横尾一飛曹長、出撃前の訓示より
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