勇者パーティに途中で参加した魔法使いの少女。魔王討伐後にパーティ解散したら、いつも喧嘩ばかりの天才少女から何故かプロポーズされたんだが?

tataku

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第24話

 当主様は何度目かの咳払いを行った。

「冗談はともかく――」
「えー? 本気っぽかったけど?」

 と、リオン様。

「う、うるさい!」

 と、当主様。

「と、とにかく、結婚は駄目だ」
「……わけを言えよ」

 フローラから殺気のようなものが漏れ出し、彼女の右手に杖が取り出された。

「フローラ!」

 私は慌てて、彼女の右腕を掴んだ。

 パニックになりかけた私と違い、当主様は落ち着いた感じでフローラを見下ろしている。

 先程までとは、気配が全然違う。

 まるで、スイッチが切り替わったようだ。

「お前は特別な子だ。その右手には女神の石が刻まれている」
「これは俺だけのもんだ。俺が死んだら、俺とともに消えてなくなる。血で引き継げるもんじゃねぇよ」
「だとしても、それを女神様から与えられたお前の血は特別だ。それを絶やすわけにはいかん」
「つまり、俺とレーネでは子供を作れないから駄目だってことか?」
「そうだ」

 と、当主様が言った。

 そりゃー、そうだろうなぁ――と、私も思う。

 フローラも納得したのか、彼女は杖を消した。

 だから、私は――フローラから手を離す。

 分かってた。

 こうなることぐらい、始めから分かっていた。

 だから、悲しむ必要なんてない。

 だけど、思いのほか――傷ついている私がいる。

 泣きたくて、ここから逃げ出したい私がいる。

 私は――フローラから、一歩あとずさろうとした。

 だけど、彼女は私の手をつかんだ。

 振り返ることなく、私の手を強く握った。

「つまり――子供ができれば、いいってことか?」
「有り体に言ってしまえば、そう言うことだが――いずれお前には、特別な爵位が与えられる。だから、それに見合う相手でなければならない」
「なるほど」
「だからお前は、この国に尽くさなければならない。何度も言うが、お前は特別だ。特別な人間にはそれ相応の義務が発生する」
「そこそこには、尽くしてやるよ。ただし、それはレーネと結婚したら、の話だけどな」
「だからそれは――」
「子供ができればいいんだろ? レーネと俺との間に」

 当主様は眉を寄せた。

「そう言われるだろうとは思っていたから、俺はずっと探していたんだ。女同士で子供ができる魔法のありかをな」

 ……なに、それ?
 
「へー、そんなもんがあるんだねぇ」

 と、リオン様。

「ああ、あるんだよ。東の方に、それがある」
「それは、ダンジョンに?」
「ああ、そうだ」
「魔導書なら、もう誰かが持ち去ったあとかもよ?」
「それはないな」
「なんでそう言い切れるわけ?」
「そこは、神代のダンジョンだ」
「なるほど。そこは、フローラにしか入れないわけか」
「そういうことだ。たから親父、俺とレーネがそこから帰ってきたら、すぐに派手な結婚式を挙げろ。いいな」
「私は、相手にもよる――と言ったはずだ。例え、勇者パーティーの一員であったとしても、途中で参加しただけの、どこの馬とも知れぬ相手など――」
「おい」

 と、フローラが口にした瞬間――この場の空気はピンと張りつめた。

「俺は別にどうだって、いいんだぜ? ゼクスみたいに、この国を捨て、レーネとともにどこか遠くの場所で静かに暮らすって未来でもな」

 誰ひとり、口を開こうとはしない。

 フローラ以外は。

「だが、レーネがそれを望まない。レーネは祝福された俺の姿を見たいんだ。だから、こいつに感謝しろ。俺の力を利用したいってんなら、レーネとの結婚を認めろ、今すぐにだ」

 フローラは本気でキレてる。

 だから、彼女から漏れ出る魔力の圧で身体が押しつぶされるような感覚。

 だから、口を開きたくても開けない。

 それは私だけでなく、他のふたりもそうだ。

「もしも認めないってんなら、この家から出ていくだけだけどな」

 駄目。

 そんなの、駄目だ。

 私は自分を奮い立たせる。

「だ、め」

 声が、震える。

 情けない。

 情けなくて、イライラする。

「駄目、だから」

 そう言って、私はフローラの手を強く、強く握った。

 フローラは、驚いた顔で私を見た。

 その瞬間、圧が弱まった。

「フローラ、駄目だよ」
「……なんでだよ」

 と、少し不満げな顔。

「そんな簡単に、認められるわけないんだから」
「じゃあ、どうすんだよ。さっさと諦めて、ふたりでどこか別のところにでも行くか?」
「だから、それが駄目なんだって」

 フローラは、ムムム――と、口角を下げた。

「フローラは、何があっても私と結婚したい――と、そう思ってくれてるの?」
「あ? んなの、当然だろ。何を犠牲にしようとも、俺はお前と一緒になりたいし、俺はお前を絶対幸せにする。だからお前は、何ひとつ心配する必要なんてねぇよ」
「じゃあ、私も頑張る」

 そう言って、私はもう片方の手でフローラの手を包んだ。
 
「認めて貰えるよう、私――頑張るから」
「レーネ、お前が頑張る必要は――」
「フローラが私を幸せにしたいって、そう思ってくれるように――私だって、フローラを幸せにしたい」

 それは、とても当たり前の話だ。

 だけど、フローラはとても驚いた顔をした。

「全部、ひとりで背負おうとしないでよ。私はフローラの後ろを歩きたいわけじゃなくて、私はあんたの隣に立ち、あんたと共に歩きたいんだから」
「……レーネ」

 そう――呟くと、フローラも空いた片方の手で私の手を包みこむ。

「今すぐ、キス――しても、いいか?」
「駄目に決まってるから!」
「あ? なんでだよ」
「そんなの、当たり前だから!」

 こんな――人の見てる前で、できるわけがない。
 
「お前の当たり前が、理解できねぇよ」
「それは、こっちも同じだからね!」

 わーわー騒ぎ出す私たちを見て、まずリオン様が笑い出した。

「なんなん? フローラ、めっちゃ面白い子になってんじゃん」
「あ? ふざけろよ。面白いのはレーネだけだ」
「なんでよ!」
「だけどまぁ、昔と比べて変わった自覚はあるけどな」
「いいじゃん。俺は今のフローラの方が好きだぜ?」
「気持ちわりぃな。反吐が出るから、さっさとこの部屋から出ていけよ」
「きっついねぇ」

 と、言いながら、リオン様は嬉しそうだ。

 正直、意味が分からない。

 マゾなのか?

「父さん、いいんじゃねぇの? 認めてやってもさ」

 そう言って、リオン様は当主様の方に顔を向けた。

 当主様は難しい顔で押し黙っている。

 フローラの眉間に皺が寄り、苛つき出したのが分かった。
 
「当主様!」

 と、私は声高に叫ぶ。

「確かに、私はフローラに相応しくないのかもしれません。それでも私は、彼女の隣を歩けるよう努力したい。そして、彼女の隣を同じ歩幅で歩き続けることができる人間なんて――私しかいないと思ってます!」

 そんな、偉そうなことを言った私を――当主様は無言で眺める。

 私は逃げずに、見つめ返した。

 そしたら、急に当主様はふっ――と、笑った。

 それはほんの一瞬で、すぐに気難しい顔に戻ってしまったけれど。

「まずはその魔法とやらを身につけてみせよ。話は、それからだ」

 と、当主様は言った。

「じゃあ、レーネ。今すぐ行こうぜ」
「もう!?」

 と、私は驚いた。

 だけど、それは私だけではなく――

「フローラ、それは流石に早すぎるのではないか!?」

 と、当主様は叫んだ。

 どうやら、私と同じことを思ったらしい。
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