5 / 77
第1章
第5話
しおりを挟む
登校の待ち合わせ場所に行くと、ちび助と深雪が何かを話している。
まだ、距離があるせいか、こちらには気づいていない。
ちび助は夢中で話しており、深雪はそれに対して相槌で対応しているが、どこかいつもと違う。
その顔色を見て、私は慌てて走り出す。
「深雪!」
二人が私の方を見る。
深雪は顔が少し赤く、トロンとした目。
私は直ぐに彼女のおでこに手を当てた。
予想通り、熱い。
最近、落ち着いていたのに。
困ったように笑う彼女を見て、私は――。
「何で直ぐにそうやって無理をすんのよ! 辛いなら辛いって言えばいい。そうやって、我慢して――前みたいに倒れられるほうがいい迷惑だから!」
悲しげに――目を伏せる彼女を見て、私は――我に返る。
「ご、ごめん。言い過ぎた」
深雪は首を横に振った。
「私の方こそ――ごめんね。いつも迷惑をかけて。だから、私は――」
一言もなく彼女の手を取る。
「歩ける? 無理そうなら肩を貸すけど」
「――大丈夫」
私は無言で彼女の手を引っ張り、歩き出す。
深雪は特に抵抗することなく、私の後に続いた。
私は腹を立てている。しかし、ちゃんと速度を落とし――彼女の顔色を伺うぐらいの冷静さはあるつもりだ。
* * *
深雪が家の鍵を取り出そうとしたため、私はそれを止め、呼び鈴を鳴らした。
中から深雪のお母さんが出てくる。
私は深雪の手を離した。
私と深雪を見て、彼女は直ぐに察すると――娘のおでこに手を当てた。
「あなた、また――」
母親は何かを言いかけ、口をつぐんだ。
「……ごめんなさい。弘子さん」
弘子さんは――深雪の母親だ。でも、深雪は名前で呼ぶ。
「いいのよ。気づかなかった私が悪いんだから」
「そんなことは――」
何かを言いかけた娘の肩に手を置いた。
「いいのよ、気にしないで。取り敢えず今は――体を休めることだけを考えて」
その言葉に、深雪は大人しく頷いた。
「いつも本当に有難うね、奈々ちゃん」
弘子さんは私を見て、感謝の言葉を吐いた。
「いえ、別に――大したことじゃないので」
「ごめんね」
深雪は申し訳なさそうに、謝罪した。
そんな彼女を見て、私はいら立ちが募る。
謝って欲しくなんてないし、そんな顔――見たくもない。
私は、もっと――寄りかかって、頼ってほしいのだから。
「深雪、お願いだから。無理はしないでよ」
その言葉に、彼女は頷いてくれた。
* * *
家を出て、扉を閉める。
敷地に入らず、道路で不安そうにしているちび助の姿を見て、すっかり存在を忘れていた。
「深雪先輩――大丈夫ですか?」
「さあ、私は神様じゃないから」
私は投げやりに言うと、彼女の横を通り過ぎて学校への道を歩く。
言葉通り、私はただの人間なのだから、分かるはずもない。
深雪はそれほど体が強くない。
そのため、学校を休むことは特に珍しいことでもない。だから――気にする必要なんてない。
「深雪がいないんだし、自転車で向かったら? 坂道ぐらい、あんたなら余裕なんじゃないの? なんせ、元運動部なんだから」
無言で私の後を歩くちび助の存在がうざいため、私はそんなことを言った。
「奈々先輩って、元々いじわるですけど、本当――深雪先輩がいなくなると私に対する冷たさが半端ないんですけど?」
「別に、そんなの――あんただけじゃないから」
深雪がいる前では、私は基本的に愛想笑いをするし、多少は丁寧に対応するよう心掛けている。
しかし、彼女がいないときには無表情だし、態度が冷たくなり、言葉が悪くなるらしい。
だから、ちび助も私と初めて二人っきりになったときには驚かれた。
正直、そこまで変化しているつもりはない。
「私は――深雪先輩と話すことに夢中で、深雪先輩の体調に全く気づきませんでした。私は先輩に笑って欲しくて、喜んで欲しかった――けれどそれは、先輩のためなんかじゃなくて、自分のためでした。こんなんじゃ、恋に恋するだけの――ただの間抜けな馬鹿です」
分かってた。分かってたことだけど、本人の口から"恋"と言う単語を聞いてしまうと、内心――動揺した。
「……恋ではなかったと、さっさと気づけて良かったんじゃないの?」
そして、さっさと深雪と会わないようにして欲しい。
「でも、私はやっぱり深雪先輩が好きです。だから、この思いをちゃんと育てて――そして、今度は私が先輩を助けます」
本当に苛立たしい。
――私は彼女の存在を無視することにした。
まだ、距離があるせいか、こちらには気づいていない。
ちび助は夢中で話しており、深雪はそれに対して相槌で対応しているが、どこかいつもと違う。
その顔色を見て、私は慌てて走り出す。
「深雪!」
二人が私の方を見る。
深雪は顔が少し赤く、トロンとした目。
私は直ぐに彼女のおでこに手を当てた。
予想通り、熱い。
最近、落ち着いていたのに。
困ったように笑う彼女を見て、私は――。
「何で直ぐにそうやって無理をすんのよ! 辛いなら辛いって言えばいい。そうやって、我慢して――前みたいに倒れられるほうがいい迷惑だから!」
悲しげに――目を伏せる彼女を見て、私は――我に返る。
「ご、ごめん。言い過ぎた」
深雪は首を横に振った。
「私の方こそ――ごめんね。いつも迷惑をかけて。だから、私は――」
一言もなく彼女の手を取る。
「歩ける? 無理そうなら肩を貸すけど」
「――大丈夫」
私は無言で彼女の手を引っ張り、歩き出す。
深雪は特に抵抗することなく、私の後に続いた。
私は腹を立てている。しかし、ちゃんと速度を落とし――彼女の顔色を伺うぐらいの冷静さはあるつもりだ。
* * *
深雪が家の鍵を取り出そうとしたため、私はそれを止め、呼び鈴を鳴らした。
中から深雪のお母さんが出てくる。
私は深雪の手を離した。
私と深雪を見て、彼女は直ぐに察すると――娘のおでこに手を当てた。
「あなた、また――」
母親は何かを言いかけ、口をつぐんだ。
「……ごめんなさい。弘子さん」
弘子さんは――深雪の母親だ。でも、深雪は名前で呼ぶ。
「いいのよ。気づかなかった私が悪いんだから」
「そんなことは――」
何かを言いかけた娘の肩に手を置いた。
「いいのよ、気にしないで。取り敢えず今は――体を休めることだけを考えて」
その言葉に、深雪は大人しく頷いた。
「いつも本当に有難うね、奈々ちゃん」
弘子さんは私を見て、感謝の言葉を吐いた。
「いえ、別に――大したことじゃないので」
「ごめんね」
深雪は申し訳なさそうに、謝罪した。
そんな彼女を見て、私はいら立ちが募る。
謝って欲しくなんてないし、そんな顔――見たくもない。
私は、もっと――寄りかかって、頼ってほしいのだから。
「深雪、お願いだから。無理はしないでよ」
その言葉に、彼女は頷いてくれた。
* * *
家を出て、扉を閉める。
敷地に入らず、道路で不安そうにしているちび助の姿を見て、すっかり存在を忘れていた。
「深雪先輩――大丈夫ですか?」
「さあ、私は神様じゃないから」
私は投げやりに言うと、彼女の横を通り過ぎて学校への道を歩く。
言葉通り、私はただの人間なのだから、分かるはずもない。
深雪はそれほど体が強くない。
そのため、学校を休むことは特に珍しいことでもない。だから――気にする必要なんてない。
「深雪がいないんだし、自転車で向かったら? 坂道ぐらい、あんたなら余裕なんじゃないの? なんせ、元運動部なんだから」
無言で私の後を歩くちび助の存在がうざいため、私はそんなことを言った。
「奈々先輩って、元々いじわるですけど、本当――深雪先輩がいなくなると私に対する冷たさが半端ないんですけど?」
「別に、そんなの――あんただけじゃないから」
深雪がいる前では、私は基本的に愛想笑いをするし、多少は丁寧に対応するよう心掛けている。
しかし、彼女がいないときには無表情だし、態度が冷たくなり、言葉が悪くなるらしい。
だから、ちび助も私と初めて二人っきりになったときには驚かれた。
正直、そこまで変化しているつもりはない。
「私は――深雪先輩と話すことに夢中で、深雪先輩の体調に全く気づきませんでした。私は先輩に笑って欲しくて、喜んで欲しかった――けれどそれは、先輩のためなんかじゃなくて、自分のためでした。こんなんじゃ、恋に恋するだけの――ただの間抜けな馬鹿です」
分かってた。分かってたことだけど、本人の口から"恋"と言う単語を聞いてしまうと、内心――動揺した。
「……恋ではなかったと、さっさと気づけて良かったんじゃないの?」
そして、さっさと深雪と会わないようにして欲しい。
「でも、私はやっぱり深雪先輩が好きです。だから、この思いをちゃんと育てて――そして、今度は私が先輩を助けます」
本当に苛立たしい。
――私は彼女の存在を無視することにした。
10
あなたにおすすめの小説
学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった
白藍まこと
恋愛
主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。
クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。
明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。
しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。
そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。
三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。
※他サイトでも掲載中です。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
負けヒロインに花束を!
遊馬友仁
キャラ文芸
クラス内で空気的存在を自負する立花宗重(たちばなむねしげ)は、行きつけの喫茶店で、クラス委員の上坂部葉月(かみさかべはづき)が、同じくクラス委員ので彼女の幼なじみでもある久々知大成(くくちたいせい)にフラれている場面を目撃する。
葉月の打ち明け話を聞いた宗重は、後日、彼女と大成、その交際相手である名和立夏(めいわりっか)とのカラオケに参加することになってしまう。
その場で、立夏の思惑を知ってしまった宗重は、葉月に彼女の想いを諦めるな、と助言して、大成との仲を取りもとうと行動しはじめるが・・・。
【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。
東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」
──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。
購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。
それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、
いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!?
否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。
気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。
ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ!
最後は笑って、ちょっと泣ける。
#誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる