幼馴染の少女に触れたくても触れられない私は代わりに彼女を求めた……キスをしたのもそんな目で私を見上げるあんたのせいなんだよ

tataku

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第2章

第30話

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 門を潜り、我が家の敷地を踏みつけた。

 玄関までの道の途中、派手な赤いバイクが置かれている。正直、邪魔だ。

 中に入り、赤い靴の横に自分のを脱ぎ捨てる。

 縁側の廊下を歩き、一番手前にある障子戸を開けた。
 茶の間が視界に映る。
 畳の上に寝転がり、赤いジャージに身を包んだ人間が一人。
 私は軽く彼女のお尻を蹴った。

「……何よ、もう帰ってきたの?」

 静姉はお尻をさすると、のそのそと起き上がる。瞼をこすり、欠伸をした。

「もうすぐ、7時なんだけど。もしかして、ずっと寝てた?」
「そんなことないわよー」

 気だるげな声。彼女は部屋の真ん中にあるちゃぶ台の方へ倒れこみ、机に頬をこすりつける。
 これでも一応、私の保護者だ。

「ご飯は?」

 平日は私の担当だが、土日は静姉の番だ。

「何よー、食べてこなかったの?」
「夜はいるって言ったじゃん」
「覚えてないわねー」

 私はため息を吐く。

 まぁ、よくあることだ。

「で、どうするつもり?」

 私は腰に手をやり、だらだらとした女を見下ろす。
 
「さー」
「つまり静姉は今日、何も食べないってことでいいの?」
「はい? 何いってんのー。食べるに決まってるんですけどー。何せ、今日は私、何も食べていないんだから。っていうかありえなくない? 簡単に食べられるものが何も置いてないし、お菓子もないんだから」

 顔を上げ、文句を言ってきた。さらには唇を尖らせてくる。

 本当、うざい顔だ。

 私は思う。

 ありえないのは、あんたの頭の方だと。

「いいから、さっさと何か作ってよ。お腹、減ってるんだよね?」
「嫌な奴ねー。私が何も作れないと知ってるくせにさー」
「そんなの、やる気の問題だから。今どき、ネットで調べれば直ぐに分かることじゃん。いい加減、加工食品ばかりでなく自分で作ったら? 無駄にお金がかかるんだし」
「うわー、これだから嫌なのよー。何でもそつなくこなせる奴は、できない人間の気持ちってものが分からない。そう、優しさってものがない。君はその、一番大切なものが欠けているのよ。私を敬う心遣いと言うものが」
「御託はいいから、さっさと何か作れよ」
「うわーこわー。何よその目は、私を犯す気?」

 そう言って、静姉は自分の体を抱きしめた。

 一体、どんな目だよ。

「自慢のバイクで買い出しに行く気は?」
「ないわねー。だって私、疲れてるんですけど? だから、優しくしてよー」

 私も疲れているのだが?

 静姉は全く動く気配がない。

 この状態の彼女を動かすのは、かなりの手間だ。

 再びため息を吐くと、隣の台所へ向かうことにした。

「流石、奈々。愛しているわー。私の分もお願いね」
「静姉の分は作る気ないから」

 そう言って、私は部屋を出ていった。



 ありあわせで作ったものを机の上に並べる。

「私の箸と食器は?」
「知らない」

 私の言葉に文句を言いながらも、静姉は隣から箸と食器を持ってくる。

 特に見たいものはないが、何となくテレビをつけた。
 真面目くさったキャスターが、真面目な振りをして、遠い世界の話をしている。
 正直、私には関係のない話だ。

 静姉は私に断りもなく、大皿の料理を自分の食器に移し、それを口にする。

「静姉の分、作ったつもりないんだけど?」
「本当に、奈々は素直じゃないわねー。これだけの量、どう見たって一人分じゃなさそうだけど?」
「だからって、それが静姉の分と決まったわけじゃないんだけど」
「そんなことより私、ハンバーグが良かったんだけどなー」

 本当に遠慮がない。

 だけどそれが、静姉だ。



 体力を回復させてやったので、後片付けを任せることにした。私は彼女の仕事ぶりを確認した後、自分の部屋へ帰ることにした。

 長い縁側の廊下を歩く。

 部屋に入る前、空を見上げる。

 時刻は8時過ぎ。

 ちび助が言ったように、星空が見える。

 しかし、私には見つけられなかった。

 私と違って――二人は、見つけられたのだろうか? 双子座の星を。
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