幼馴染の少女に触れたくても触れられない私は代わりに彼女を求めた……キスをしたのもそんな目で私を見上げるあんたのせいなんだよ

tataku

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第3章

第48話

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 私が近づいても、藤宮は顔を上げる気配がないし、隣に座っても、本から視線を外さない。

「さっきは言わなかったけど、2試合とも応援に来てくれて、ありがとうね」
「――別に、応援なんてしていないわ。たまたま通りかかっただけ」

 予想通りの言葉が返ってきた。

「だとしても、私は嬉しかったけどね」
「……そう」
「小倉の試合は観に行かないの? 昼一から彼女の試合だけど」

 藤宮は不思議そうな顔をした。

「小倉の試合? 私が観に行く理由なんてないと思うのだけれど、どうしてそんなことを聞くのかしら?」

 照れ隠しのようには見えない。
 小倉には興味がないようだ。

「次の試合は間違いなく小倉たちが勝つ。そしたら、次は私たちとあたることになる」
「ち、近いのだけれど」

 言われて気付く。無意識に身を乗り出していたため、思いのほか、藤宮との距離が近くなっている。
 近いと――文句を言いながらも、特に離れようとはしていない。
 だから、無視することにした。

「そしたら、藤宮はどっちを応援する?」
「……どっちも、応援なんてしない」
「でも、見には来てくれる?」
「来て欲しいの?」

 本に落としていた視線を、私に向ける。

「そうだね、来て欲しい」

 自分でも驚くぐらい、素直な言葉がでた。

「……じゃあ、応援はしないけど――見には行ってあげる」

 藤宮の視線は、よく動く。

「たまたまじゃなくて?」
「そうね――わざわざ、行ってあげる」

 なんだこれは?

 なんだこの感情は?

 私はその答えを知りたくないはずなのに、自分を抑えられそうにない。

「小倉ってさ――凄い強いじゃん」
「そうかもね」
「だから、普通に考えたら私たちが勝てるわけないんだよね」
「なんか……情けないことを言うわね」
「だからさ、もしも私たちが勝ったら、藤宮は私にキスでもしてよ」
「は、はぁ!?」

 藤宮は慌てて、私から距離をとった。

「なんで、そんな話になるのよ!」
「それは、ご褒美が欲しいからだね」
「そんなものが、欲しいって言うの? あなたは」
「そうだね、凄く欲しい」

 自分で自分を突っ込みたくなる。――何言ってんだ、こいつは、と。

「約束してくれたら、勝てるはずのない試合でも、頑張れると思う」

 完全に顔を背けられた。

 流石に、引かれたか?

 自分自身にすら、引かれているのだから――まぁ、仕方がないと思う。
 しかも、この話を深雪にだけは絶対に聞かれたくないと思っている自分は最低だと思う。

「絶対に――勝てないのよね?」
「そうだね、まず勝てないと思う」
「……勝率は、どれぐらいなの?」
「1%ぐらいかな」
「……そう」

 沈黙。

「――じゃあ、約束してあげる」
「え?」

 流石に、その言葉は予想外だった。

「……何よ、その反応は」

 藤宮は私に顔を向けてきた。

 真っ赤かの顔に、少しだけ潤んだ目で睨まれる。

「――そんなんじゃない。藤宮、ありがとう。凄く、嬉しいよ」

 再び、顔を背けられた。

「私、頑張るから」

 間。

「……好きにすれば」

 そんな、つれないお言葉をいただいた。



 体育館についた頃には、すでに試合が始まっていた。

 九条だけが私の方に寄ってきた。
 手下共は元いた場所で、食い入るように試合を観察している。

「大遅刻よ」

 九条は不満げに言う。

 別に数分遅れただけだ。

 点数を確認する。

 やはり、小倉たちのチームが圧倒していた。

「ちゃんと頭の中に入っているかしら?」
「それは大丈夫だけど、本当にあの作戦で行くき?」
「そうね、そのつもりよ」
「ほぼ、ぶっつけ本番だけど」
「普通にやったって、どーせ勝てないだろうから」

 そう言って、九条はコートの方に目を向けた。

「勝てると思う?」
「……勝つのよ、私たちは」

 自分に言い聞かせるよう、九条は呟いた。

 私はしばらく、彼女を眺める。

「九条って、小倉のこと――好きなの?」

 そして、そんな馬鹿なことを聞いた。

 ちび助のせいで、私の頭は少しおかしくなっているのかもしれない。女が女を好きになる――それを、夢物語だとは思えなくなってきている。

「……それは、一体どう言う意味で聞いてるの?」

 九条はコートに視線を向けたまま、私に尋ねる。

「好きに受け取って貰っていいから」
「月城さんは、水瀬さんと藤宮さん――どちらが好きなの?」

 深雪は何となく分かるが、まさか藤宮の名前が出るとは思わなかった。

「なんでそこで藤宮の名前が出るわけ?」
「さぁ、何でかしらね」
「もしかして、小倉絡み?」

 私がそう言うと、九条は少しだけ笑った。

「そうね、そうかもしれない」
「心配しなくても、藤宮は小倉に全く興味はなさそうだから」
「おかしなものね。だって、それはそれで気に食わないと思ってしまうのだから」

 あい変わらず、九条はコート内を走る小倉を見ながら呟いた。

「試合に勝てば、何か変わりそうなの?」
「さぁ、どうかしらね」

 試合が流れる。

「――きっと何も変わらない」
「それでも、そこまで必死になって勝ちたいの?」
「理屈じゃない。きっと、言葉にできるものではないのよ」

 その言葉を最後に、試合が終わるまで私たちは口を開くことはなかった。
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