幼馴染の少女に触れたくても触れられない私は代わりに彼女を求めた……キスをしたのもそんな目で私を見上げるあんたのせいなんだよ

tataku

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第4章

第69話

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 文化祭まで、あと1週間。

 今から準備期間として、授業はない。

 大した準備など必要ないのに、九条は力を入れている。

 彼女は言う。

 この教室を、完璧な上映会場にするのだと。

 私が何も関わらなくていいのであれば、好きにしてもらえばいいのだが……。



 ***



 表面上は、何も変わらない。

 ちび助とも、深雪とも、私は何も変わらず付き合っている。

 でも、それぞれ――ふたりの時間が増えていた。

 私は、藤宮との時間。

 深雪は、ちび助との時間。

 藤宮と一緒にいて、私は幸せだ。楽しいと思うし、心が安らかになる。

 なのに、深雪のことを考えると――心がもやもやとした。

「――今、何を考えていたの?」

 唐突に、藤宮はそう尋ねてきた。

 意識を、空から地上へ戻した。

 今は昼休み。

 昼ごはんを食べ終え、藤宮と二人ベンチに座り、まったりとしていた。

 お互い、おしゃべり好きというわけでもないため、二人でいてもとくに会話のない時間の方が多い気がする。

 藤宮は本から視線を外し、こちらを見ている。

「別に、何も考えてなかったけど?」
「本当に?」

 何故か、疑いの眼差しを向けてくる。

「本当だって、藤宮は分かってないなぁ。何も考えず、ただぼーっとする時間がいかに幸福か」
「全くもって、理解できないのだけど」

 その言葉に、私はつい、苦笑してしまった。

「そんなことよりさ、藤宮のクラスの出し物は何なの?」

 藤宮の眉が寄る。

「なぜ今更、そんなことを聞くのかしら?」
「そう? いま気になったんだから、仕方がないじゃん」
「……本当に、私のことに興味ないのね」
「そんなことないって」
「嘘よ」
「嘘じゃないって」
「あなたは言動がいちいち軽いのよ」
「そんなの、藤宮の前だけだから」
「どういう意味?」
「私が、藤宮に甘えているからだよ。そんな相手、あんたしかいないから」
「……馬鹿」

 私を罵倒すると、本に視線を戻した。

 二人の間には少しだけ、空間が空いている。

 だから距離をつめた。

 お互いの、腕が当たる。

 藤宮は、何も言わない。

 付き合って何が変わったわけでもないけど、私が隣にいることを――当たり前のように受け止めてくれる。それは、大きな変化だと言えるのかもしれない。

「――で、藤宮のクラスの出し物ってなんなの?」
「それ――本当に、興味あるの?」
「興味ある」

 藤宮は溜め息を吐くと、本を閉じ――それを、自分の膝の上に置いた。

「……メイド喫茶」

 私の顔を見ずに、ぼそっと呟いた。

「いいじゃん。それ、絶対に遊びに行くから」
「……来なくていい。私、裏方に回るつもりだから」
「勿体ない」
「勿体なくなんてないわ」
「勿体ないよ、藤宮だったら何を着たって、誰よりも魅力的に見えるんだから」
「……そんなの、あなただけよ」
「じゃあ、それは――私が藤宮に興味を持っている証明となるね」
「……馬鹿」
「でも、本当に残念だなぁ。藤宮のメイド姿――まじで見たかったんだけど」
「……本気で、言ってるの?」

 藤宮は、私の顔をじっと見た。
 
「当たり前じゃん」
「そう――」

 小さく呟くと、藤宮は私から視線を外した。

「――じゃあ、今度、着て上げる。あなただけなら……我慢できるから」

 その――照れたような仕草は、私をムラッとさせた。それも、かなり。

「ねぇ、藤宮」
「……何よ」
「キスしていい?」
「ば、馬鹿なんじゃないの。こんなところでは駄目よ」

 こんな所でなければ、キス、できたのか?
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