上 下
12 / 50

最弱の魔法戦闘師、試験を受ける

しおりを挟む
「そういえば、お前さんに言っておかなければならないことがあった」
「ん?なんだ?」
「我はお前さんを鍛えることにした。故に、最終試験を合格できるまで、この空間からは出れない」
「……………」

本当になんでそんなことを勝手に決めてんだ?

普通、俺にも一言ぐらい掛けろよな。まあ、二つ返事で返すとは思うけどな。

そういえば……本能?ずっと黙ってどうしたんだ?

『……………いや、何でもない』
「おかしな奴」

まぁ、こいつが居ると思うときっと、頼っちまうし、この方が俺のためにもなるだろうな。

「第一試験は……一度も攻撃を受けずに二段階の人形を倒すことだ」
「………!!!」

一段階もきつそうだってのに……二段階を倒すだと?それも無傷で?

そんなの不可能じゃねぇかよ。俺じゃ無理だ。

『……グダグダ抜かしてねぇでさっさとやれ』
「お、おう……」

なんか冷てぇ反応だな。まぁ、どんな対応されようが俺には関係なんざねぇけどな。

ようはあの人形を倒せば良いんだろ?

「一発で決めてやるよ」
「さて、そう上手くいくかな?」
「……俺は何でもアリだろ?」
「ん?勿論だ。しかし、本能の力の行使は一切認めない」
「その方がやりやすいぜ」

俺自身が強くならなければならない。本能の力にばかり頼っては俺自身が強くなるなんて不可能だ。

それに、この体は俺のもんだからな。俺が使わねぇと。

「では、第一段階を解放する……」
「…………」

これはまだ、試験ですら無い。
つまり、現段階でこいつに勝てる保証があるも同然だ。

こんなところで負けてたまるかよ。

「おっと、言い忘れていたが、この一段階でもお前さんは一撃ももらってはいけんぞ?」
「はっ?」

本気で言ってんのか?
………いや、怖じ気つくな!
相手は天恵すら使えねぇんだろ?

「では、はじめ!」
「………!!!」

くっ……!初撃は確実に避けねぇと……。攻撃後の後隙を狙うカウンター……これも立派な見切りだ!

「!!!」

来る!

「…!!くっそ!」

何が百分の一だよ!拳で俺の神武を破壊しやがった。

あの時、回避していなければ確実にやられていた。

「神武発現」

右手を横に出した。そのまま神武を手に取り、人形との距離を一気に詰めた。

カウンターを狙おうと思っていたが、あの速さに対してのカウンターは不可能だと感じた。

故に攻撃を自ら仕掛けるのが、俺にできる唯一の勝利法だ!

「魔眼、発動!」

時々練習していた。しかし、魔眼を使う機会がなかった。

何故ならば、どちらも狙う対象が必要だったからだ。

「刹那眼『刹那の先手』」

この魔眼はとても限定的な能力だ。

この魔眼は初撃のみ、刹那の速さで攻撃を仕掛けることができる。

しかし、初撃以降はこの魔眼は使い物にならない。

今回は、俺の攻撃があの人形に当たってないため、発動が可能なたのだ。

「見切り抜刀『瞬鋭の陣』」

瞬鋭の陣を簡単に言えば、五月雨袈裟という技の事だ。

あんな長い名前は戦闘中には言いづらいし、少し恥ずかしいからな。

俺は一瞬にして人形の居合に入った。そのまま瞬鋭の陣により、一気に畳み掛けた。

「………どうだ?」

人形からは魔力を感じなかった。多分、魔力の倒したと言うことだろう。

「第一段階は合格か?」

今回の反省点を挙げるとするならば、自分の力ではなく、魔眼と技に頼っての勝利だった、ということぐらいか。

欲を言えばこう言うのは使わずに勝ちたいのだがな……。

俺の実力ではそれを可能にはできない。

「まぁ、良いだろう。しかし……」

まぁ、何を言わんとしてるのかはだいたい分かる。

「魔眼の使用を禁ずる」
「………それだけか?」

てっきり、技の使用も禁止にされるのかと……。

「なぁに、焦らなくとも、三段階目以降は純粋な技術のみだ」
「は、はは………」

そりゃそうか。相手が強くなるだけで試験の難易度が変動するわけ無いか……。

どんどん俺が不利になっていくわけか。

「そう落ち込まんでも良い。これから本当の第一試験をやるのだからな」
「…………がんばるよ」

賢者が人形に魔力を込めている。
さっき、人形を動かしていた魔力よりも濃く、量も大幅に増えていた。

魔力が充分に人形の体を占めたとき、先程の人形よりも強いと言うことが肌で感じられた。

「この人形は既に本来の力の十分の一の力を持っている。まぁ、今回も天恵の使用は封じておるがな」
「…………」

さっきの十倍を強いってことだろ?普通にヤバイな。

勝てる未来が全く見えないぞ。

あんな化け物に対してどう対処すれば良いんだ……。

「神武発現」

考えたところで無意味だな。考えただけでは戦況は変わらない。

その考えを確実に実行できる実力がなければどんな策も意味をなさないからな。

「俺はいつでも良いぜ」
「そうか?では、はじめ!」

さっきもだが、始まった瞬間、あいつは全く動かない。

睨み合っていても俺が不利になるだけだ。

何事も先手だ。

「魔力放出」

自分の中の魔力を外部へと流す。
これにより、強い魔力反応や地形などを理解することができる。

そして、これは転移や相手の位置を探るのにもってこいの技だ。

強い反応は一度捉えれば位置は常に分かる。

他にも自分の魔力が捉えた場所に対して、任意に転移が可能になる。

「見切り『絶対捕獲』」

空気中に自分の魔力があるため、相手の魔法は効果が薄れる。その逆に、自分の魔法は効果が上昇する。

「『転移』」

俺は人形の背後に転移した。

「『逆撃』」

攻撃した方向を逆転させる技。

「………………やっぱ無理か」

俺は転移で人形から距離を取った。

「確実に入ったと思ったんだけどな」

無傷だ。能力値もさっきよりも十倍になってるんじゃねぇか?

「さて、どうしたものか………」

はっきりと言って、勝てる見込みがなくなってきたな。
しおりを挟む

処理中です...