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最弱の魔法戦闘師、グロスと合流する 2

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「危なかったな……グロス」

危機一髪ってやつだな。それにしても、王女の魔法の狙いの精度はホントに凄いな。

的確に相手の視界を奪ってやがる。

勿論、攻撃としては全くと言って機能していないだろうがな。

『お前は魔法一つ一つの精度が良くないもんな。神武発現しか能がねぇしな』

言ってろ。それで案外通用してんだろ?

文句は言わせねぇよ。

「立てるか、グロス?」

まぁ、俺の手を取るかはわかねぇんが、こう言うのは形が大事だからな。

「あぁ……助かった」
「休んだ方が良いんじゃねぇか?」

案の定、俺の手は空を切ったみたいだ。

悲しくなんかねぇぞ?

『はいはい。それよりも、あの化け物に集中しろ』

わかってる。こいつは、さっきのワンちゃんとは格が違うからな。

『お前流で言うならば、こいつは何て呼ぶんだ?』
「………木偶の坊、とか?」
『木偶の坊って………それはやべぇわ』

おい、笑うなよ!名前のセンスがねぇのは今に始まった事じゃねぇだろ。

「さてと……俺が相手だぜ、木偶の坊」
「………わたくしがやりますわ」
「王女?」

大丈夫なのか?まぁ、俺よりも強いのはわかるが……攻撃が通るとは思えねぇんだよな。

『強化系の魔法戦闘師ならば、そこら辺は気にしなくても良いんじゃねぇか?』

そう言うもんか……?

『取り敢えず任せてみようぜ。危なくなったら助太刀するまでだ』

そうだな。

「わかった。くれぐれも気を付けてくれよ」
「その心配は、王女だから?それとも……」
「ん?」
「なんでもないわ。心配は要らないわ。わたくしも、攻撃の手順は知ってますもの」

しっかりと王女の戦闘を見るのは初めてだな。

『まぁ、魔力の質がお前とは全然違うな』

あぁ。さすがは聖女と呼ばれただけあるな。

「『月光領域』」

王女の魔力を周囲に散漫してる魔素が最大限までに威力を高める。

逆に、相手の魔力がその魔素に干渉しにくくなるから、魔力の威力が下がる。

『へぇ。俺様が初めて見た時の改とは魔法が違うんだな』

あぁ。王女の魔法は月明かりが強い程威力が上がる。

たしか、辺りを暗くすることで光の強さを高めてるらしいんだが、俺にはさっぱりだ。

「『月影』」

初っぱなから飛ばすな。

『どう言うことだ?』

見てればわかる。

『ん?ほう………』
「腕を切り落とした……。俺でも無理だったのに……」

グロスにも精神的な被害があったみたいだな。

「にしても、あの数の攻撃で腕を一本か」

数多の斬撃で十ヶ所を手際よく処理していたから、いけたと思ったが、こいつは相当厄介だな。

「なっ!」
『どうした?』

あいつ……あの木偶の坊。魔力に底がねぇ。それに、腕が回復してる。

『……本当じゃねぇかよ。これ、結構ヤバイんじゃねぇか?』

カインドに来てもらうしかねぇかもな。

『んで、そのカインドは?』

すでにこの近くまで来てる。

『ホントかよ?すげぇな。と言うか、もうひとつの鍵は?』

残ってる。多分、危険だと悟って援軍に来たんだと思う。

この場所に中央の部屋に行くための道があるからな。

『だからこんなにここの魔物は強いのか』
「王女、助けに来たよ」
「カインド様……ありがとうございます」

形勢逆転だな。俺は鍵を取りに行く。

「カインド、俺は残りの鍵を取りに行く」
「わかった。ここは任せて」

さぁ、ちゃちゃっと行くぞ。

~~~~

急いで来たから死にそうだ。

『なぁ……もし、こっちの魔物があいつよりも強かったらどうする?』
「決まってんだろ……どんな野郎でも潰す。弟………賢者の後始末は俺が付けねぇとな」
『ん?そうだな』

なぁ。あれ、あると思うか?

『あると思うぞ。まぁ、俺様には影響がないしな』

卑怯だな。本体が痛みに苦しめられてるのに、見て見ぬふりをするつもりか?

『はぁ……急ぐぞ?カインドたちが待ってるからな』

カインドが居た方も行ったほうが良いかな?

『もし、今回もあるならば行っても良いと思うぞ。お前が強くなるならば俺様も嬉しいしな』

そうかよ。お前は良いご身分だな……。

不貞腐れてても埒が明かないし、行くか。

あぁ、やだやだ。もうホントに止めてほしいわ。出来れば何も無しでよろしく……。

「………っ!!!!かはっ!」
『お、おい!大丈夫か?!』

……………。

「……吐血するとは思わなっ……!!!あぐっ……!あががぁぁぁああ!!」
『お、おい!まさかこんなショボい死に方しねぇよな!?おい!本当に大丈夫かよ?!』
「…………はぁ、はぁ、はぁ……」

や、やばぇ。今回はホントに死を覚悟したぞ……。こんな経験、もう懲り懲りだ。

『段々酷くなってるな。行くの止めるか?』 
「いや……ここの鍵を取ったらもう一ヶ所も行くぞ」 
『な、なぁ……これ以上は本当にヤバイぞ?』
「だとしてもだ……」

『何がお前をそこまで突き動かすんだよ?』
「魔法だ……」
『はっ?』
「魔法が使えるようになってる……」
『……冗談はよせ。魔法戦闘師は魔法を使えない』
「だとしてもだ。今見せてやる」

見切りで魔物の位置を察知。
攻撃魔法はどうせ効かないならば、拘束する。

「『時の支配タイマー·ジャック』」
『なっ!?本当に魔法を……』

この魔法は対象の時を完全に支配する魔法。

条件は厳しいが、警戒していない状態ならば確実に発動できる。

「『転移テレポート』」

~~~~

『ほ、ホントに魔法を……俄には信じられねぇ……』

俺にもさっぱりだ。

「じゃあ、ささっと倒しますかね」

回復するかどうかも関係ねぇな。時が止まってるんだからな。

「じゃあな」

楽だな。手順に沿ってやるだけだし。

『お前が強すぎるんだよ』
「そうなんだよ……」

ここまで来ると俺もある一つの考えが浮かぶんだよな。

「俺、もしかしてさ……カムイの血縁者かもしれねぇ」
『はっ?』

俺さ。本当の親を知らねぇんだよ。村が魔物の襲撃にあってな。

この神殿は、俺みたいなカムイの子孫に残された物なんじゃねぇか?

『仮にそうだとしてもだ。カインドは一回も頭痛を起こしてないだろ?』

いいや。なんでカインドは一人で行動したと思う?

王女の護衛ならば、俺よりも強いカインドが適任だと思わないか?

『確かにな……でも、信頼と言う点を重視したと考えれば?』

それならば、グロスでも良かった筈だ。実際にグロスの実力に関しては信頼してたろ?

グロスは俺みたいに試験をしていないからな。

グロスが言うように、カインドの影響をグロスも受けているならば、カインドと同じく頭痛を、起こす筈……。

その可能性が皆無だと俺は判断されたんじゃねぇかと思う。

『なるほど……』

それに、カインドの強さを考えると、到着に時間が掛かりすぎてるんだよ。

俺たちが魔物を倒す前には倒しきっていてもおかしくないだろ?

『魔物にもよるが……確かに、俺様たちが戦った程度ならば、余裕だろうな』

あぁ。それに、たとえさっきの魔物と同等の強さだとしても、カインドは勝ってるんだ。

魔力の消耗や体力の低下はみられなかった。

つまり、余裕だったんだ。

『と言うことは……』

あぁ。多分、他の場所も回っていたのだろう。

俺も早くしなくては。鍵がなければみんな入れないからな。

転移テレポートして行けば良いだろ?』

俺は魔法初心者だ。あんな精密な魔法はそんなに連発して出来ないんだよ。

『はぁ……使えねぇな。俺様がやる』

そうか?やってみろよ。本能ならば、集中力も凄いんだろ?

~~~~

「魔法なんて初めてだからな……よし、じゃあ『転移テレポート』」
(…………はっ?)

あれ?魔力はしっかりと通ってるんだがな………。魔素との干渉の仕方が精密過ぎて俺様には無理かもしれん……。

こんなの、練習無しで出来るわけなくねぇか?

(やっぱり、俺には出来るんだな)

こればかりは認めるしかねぇな。このまま行くと俺様がその頭痛を受ける羽目になりそうだ。代われ。

(おうよ)

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