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【01】主人に辛辣な護衛
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私の名前はミルティア。
アシュリード伯爵家の次女で、社交界デビューを間近に控えた14歳。
派手すぎないオレンジゴールドの髪に、瞳はサファイヤのように青く、パッチリとした二重に睫毛も豊か。嫉妬されるような美人ではないけれど、それなりに悪くない容姿ではある。
それなりに努力して学業成績も平均よりは上をキープしているし、運動神経は、ちょうど平均くらい。
お稽古ごとも、それなりに嗜み、友人関係にも気を配り、伯爵令嬢として、そつ無く生きていると思う。
4つ上の私のテレジアお姉様をお手本としているから、当然とも言える。
テレジアお姉様はまっすぐなプラチナブロンドに空色の瞳をした、とても美しい方だ。
アシュリード伯爵家の跡取り娘として、立ち振舞も教養も完璧といって良い。
私はとても尊敬している。
しかし、私はドレッサーで自分の顔を見ながら小さく溜息をついた。
「……お姉様のようにはなれないなあ」
先ほどいった通り、私の容姿も、悪いものではない。
けれど、テレジアお姉様に比べたら……。
「違う人間なのだから当たり前なのでは?」
「!?」
1人だと思っていた自室に、感情のこもらない淡々とした声が響いた。
「……ジョエル、いたの!?」
部屋の中に目を走らせると、ドアの入口付近に私の護衛であるジョエル=ラングレイが立っていた。
「いましたが、なにか」
「いつの間に入ってきたの!? また闇テレポートを使ってノックなしで入ってきたわね!?」
ジョエル=ラングレイ。彼は私の護衛騎士だ。
この世には様々な属性を持つ魔力、そしてそこから生まれる魔法がある。
彼はその中で、闇属性の魔力を持っている。
各属性とも、昔から研究され編み出された魔法がある。
闇属性の闇を利用したテレポートは、そんな魔法の一つだ。
闇を作り出し、その中に入り、思う場所へとテレポートできる。
便利でちょっと羨ましい。
「しましたよ。聞こえない程度のノックを」
「それしてないのと同じ!! 着替え中だったらどうするの!」
「侍女の気配を感じなかったので、問題ないかと思いました」
「開いた口が塞がらないわ!」
「……。ピアノの先生がお待ちですよ、お嬢様」
「スルーした!! って、やだ! もうそんな時間!?」
私は、ガタッと椅子から立ち上がった。
勢いあまって椅子が倒れる。
「時間に遅れるだけでも、どうかと思うのに、まさか慌てて椅子を倒すなんてはしたない……はあ……」
「た、溜息まで!! あなたね!? あのね、その通りだけど、ジョエルが言うことではないわよね!? ねえ、不敬罪って知ってる!?」
「本当のことを言ってもらえるって有り難いことなんですよ、お嬢様。不敬罪だなんてとんでもない。オレはお嬢様のためを思って辛辣に発言しているだけです」
「いま辛辣って言った!? ちゃんと聞こえたわよ! やっぱり他意あっての発言じゃないのよ!? なんでいっつもそんなに口が悪いの!」
主を罵(ののし)っているようだけれども、お小言の内容は間違ってはいないのよね……。悔しい。
「護衛の仕事は、リップサービスではなく、主君をお守りすることですので……」
「いや、リップサービスは求めてないよ!? 普通に主(あるじ)に対する言葉づかいを求めているだけよ!?」
「周囲にイエスマンだけでは、人は成長できないのですよ……」
「真っ直ぐすぎる正論だけでも人は生きていけないのよ! それにイエスマンは求めてないわよ!? 普通の主従関係を求めてるだけよ! って、ああ、もう。おまえと話していると本当に遅刻しちゃう!」
「そうですね。オレが迎えに来たというのに遅刻させるわけには参りません。では、お手をどうぞ」
「ああもう、屋敷の中でエスコートはいらないって言ってるでしょ!?」
「エスコート……というか、テレポートです」
「ちょっと、やめて!?」
ズズ……。
ジョエルが空間に出した、真っ暗な空間がこちらへ迫ってきて、飲み込まれる。
「怖いのよ、これ……! 嫌い! 普通に歩きたい! 便利だけど!」
「失礼ですね。貴重な闇属性にそんな物言い。はい、では行ってらっしゃいませ」
気がつけばレッスン室の前で、ジョエルが扉を指差す。
いや、ここまで連れてきたなら護衛が扉開けなさいよ!?
しかし、だ。
どうしてこんな不敬のカタマリみたいな護衛が罰せられないのかと言うと、ジョエルは、『私と2人の時』だけ口が悪いのだ。
一度お父さまに、ジョエルのことで訴えたことがあるが、
「え、ジョエルが? そんなまさか。おまえが何かそそっかしいことして、ジョエルが教えてくれただけじゃないのかな?」
――と。
私より信頼が厚いーーーーー!!
お母様もお姉様もそう。
え? ジョエルが? そんな、まさかあ、と。
信じてくれない!
ほんっと、悔しい……!!
しかし、フラストレーションがたまりつつも、私は結局、彼を護衛として傍においている。……というか、そうせざるを得ない。
私は少々、男性恐怖症なところがある。
完全に平気なのは、お父さまと幼馴染のレイブンお兄様と彼のお父上、そしてこのジョエル含む屋敷内に住む使用人の男性たち。
学院の同級の令息たちも、出会った頃は少し苦手だった。
今は平気というか『慣れた』だけなんだけど。
――ジョエルは、平気な男性たちのなかでも、特別だ。
男性恐怖症の原因となった、あの日。
貧民街に住む孤児だったのを、彼の必要性に駆られた私が無理やり連れてきて護衛にしてしまったのだ。
『渋々』、私の護衛になった彼はきっと私に不満があるのだと思う。
本音では、なりたくなさそうだったもの。
でもあの時、あの瞬間に。
私は彼が周囲にいないと安心できないという『トラウマスイッチ』が生まれてしまったのだ。
アシュリード伯爵家の次女で、社交界デビューを間近に控えた14歳。
派手すぎないオレンジゴールドの髪に、瞳はサファイヤのように青く、パッチリとした二重に睫毛も豊か。嫉妬されるような美人ではないけれど、それなりに悪くない容姿ではある。
それなりに努力して学業成績も平均よりは上をキープしているし、運動神経は、ちょうど平均くらい。
お稽古ごとも、それなりに嗜み、友人関係にも気を配り、伯爵令嬢として、そつ無く生きていると思う。
4つ上の私のテレジアお姉様をお手本としているから、当然とも言える。
テレジアお姉様はまっすぐなプラチナブロンドに空色の瞳をした、とても美しい方だ。
アシュリード伯爵家の跡取り娘として、立ち振舞も教養も完璧といって良い。
私はとても尊敬している。
しかし、私はドレッサーで自分の顔を見ながら小さく溜息をついた。
「……お姉様のようにはなれないなあ」
先ほどいった通り、私の容姿も、悪いものではない。
けれど、テレジアお姉様に比べたら……。
「違う人間なのだから当たり前なのでは?」
「!?」
1人だと思っていた自室に、感情のこもらない淡々とした声が響いた。
「……ジョエル、いたの!?」
部屋の中に目を走らせると、ドアの入口付近に私の護衛であるジョエル=ラングレイが立っていた。
「いましたが、なにか」
「いつの間に入ってきたの!? また闇テレポートを使ってノックなしで入ってきたわね!?」
ジョエル=ラングレイ。彼は私の護衛騎士だ。
この世には様々な属性を持つ魔力、そしてそこから生まれる魔法がある。
彼はその中で、闇属性の魔力を持っている。
各属性とも、昔から研究され編み出された魔法がある。
闇属性の闇を利用したテレポートは、そんな魔法の一つだ。
闇を作り出し、その中に入り、思う場所へとテレポートできる。
便利でちょっと羨ましい。
「しましたよ。聞こえない程度のノックを」
「それしてないのと同じ!! 着替え中だったらどうするの!」
「侍女の気配を感じなかったので、問題ないかと思いました」
「開いた口が塞がらないわ!」
「……。ピアノの先生がお待ちですよ、お嬢様」
「スルーした!! って、やだ! もうそんな時間!?」
私は、ガタッと椅子から立ち上がった。
勢いあまって椅子が倒れる。
「時間に遅れるだけでも、どうかと思うのに、まさか慌てて椅子を倒すなんてはしたない……はあ……」
「た、溜息まで!! あなたね!? あのね、その通りだけど、ジョエルが言うことではないわよね!? ねえ、不敬罪って知ってる!?」
「本当のことを言ってもらえるって有り難いことなんですよ、お嬢様。不敬罪だなんてとんでもない。オレはお嬢様のためを思って辛辣に発言しているだけです」
「いま辛辣って言った!? ちゃんと聞こえたわよ! やっぱり他意あっての発言じゃないのよ!? なんでいっつもそんなに口が悪いの!」
主を罵(ののし)っているようだけれども、お小言の内容は間違ってはいないのよね……。悔しい。
「護衛の仕事は、リップサービスではなく、主君をお守りすることですので……」
「いや、リップサービスは求めてないよ!? 普通に主(あるじ)に対する言葉づかいを求めているだけよ!?」
「周囲にイエスマンだけでは、人は成長できないのですよ……」
「真っ直ぐすぎる正論だけでも人は生きていけないのよ! それにイエスマンは求めてないわよ!? 普通の主従関係を求めてるだけよ! って、ああ、もう。おまえと話していると本当に遅刻しちゃう!」
「そうですね。オレが迎えに来たというのに遅刻させるわけには参りません。では、お手をどうぞ」
「ああもう、屋敷の中でエスコートはいらないって言ってるでしょ!?」
「エスコート……というか、テレポートです」
「ちょっと、やめて!?」
ズズ……。
ジョエルが空間に出した、真っ暗な空間がこちらへ迫ってきて、飲み込まれる。
「怖いのよ、これ……! 嫌い! 普通に歩きたい! 便利だけど!」
「失礼ですね。貴重な闇属性にそんな物言い。はい、では行ってらっしゃいませ」
気がつけばレッスン室の前で、ジョエルが扉を指差す。
いや、ここまで連れてきたなら護衛が扉開けなさいよ!?
しかし、だ。
どうしてこんな不敬のカタマリみたいな護衛が罰せられないのかと言うと、ジョエルは、『私と2人の時』だけ口が悪いのだ。
一度お父さまに、ジョエルのことで訴えたことがあるが、
「え、ジョエルが? そんなまさか。おまえが何かそそっかしいことして、ジョエルが教えてくれただけじゃないのかな?」
――と。
私より信頼が厚いーーーーー!!
お母様もお姉様もそう。
え? ジョエルが? そんな、まさかあ、と。
信じてくれない!
ほんっと、悔しい……!!
しかし、フラストレーションがたまりつつも、私は結局、彼を護衛として傍においている。……というか、そうせざるを得ない。
私は少々、男性恐怖症なところがある。
完全に平気なのは、お父さまと幼馴染のレイブンお兄様と彼のお父上、そしてこのジョエル含む屋敷内に住む使用人の男性たち。
学院の同級の令息たちも、出会った頃は少し苦手だった。
今は平気というか『慣れた』だけなんだけど。
――ジョエルは、平気な男性たちのなかでも、特別だ。
男性恐怖症の原因となった、あの日。
貧民街に住む孤児だったのを、彼の必要性に駆られた私が無理やり連れてきて護衛にしてしまったのだ。
『渋々』、私の護衛になった彼はきっと私に不満があるのだと思う。
本音では、なりたくなさそうだったもの。
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