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94 ■ I Loved You 02 ■
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私のその様子を見て、アカシアが言う。
「――ああ、だめだよ。もう……思い出さなくていい。思い出したらいけない。
ごめんね、最後まで憎まれたままでいようと思ってもいたかったんだけど……少しだけ君に許されたいと思ってしまったんだ。……これはいけないね、話題を変えよう」
これも大事な話しだからするんだけどね、といつもの口癖を挟んでからアカシアはこう続けた。
「えっと、今話したブラウニーがルーカスから奪った神性なんだけど。フリージアがリンデンにやっていたように、君がこれを壊すんだよ」
「どうして?」
「壊さないと、地母神にブラウニーを盗られるよ」
「はい?」
「人間としてブラウニーと生きていくなら絶対にブラウニーから神の資格を消さないとだめだ。君が選んだ相手で、今や奪い取ったものではあるけれど神の資格がある。もしもブラウニーがただの人間の身体で耐えきれば、それは天空神になる。それは地母神の夫だ」
「え、じゃあ私はどうなるの」
「地母神に還るか、そのまま人として生きていくかは多分自由だと思う。選ばせてくれると思うよ。地母神に還るなら……ブラウニーと結ばれるハッピーエンドだけれど、そこに君たちの意志はなくなる」
「そんなのバッドエンドだよ!?」
「やっぱりそう思うと思ったよ……。だから言ったんだけどね。まあ……それは人間だからこその感覚だから、なったらなったで幸せと納得は得られると思う。それは神としての……幸せだね。だから、人間として幸せになるならば、神の資格をブラウニーから失くすんだよ」
ええ……。そんな想像できない神の気持ちとか願い下げだよ!
「ブラウニーは『絶対圏』に接続したまま奪ってしまったから、その『神性』が身体に根をおろして成長し始めてしまっている。彼は今、『絶対圏』の接続による負担と『神性』の成長による負担を抱えて、さらに『絶対圏』による回復のマッチポンプで生きてる危うい状態だ」
「ちょ!? ねえ、アカシアはいろいろ全部知ってるんでしょ! 今ブラウニーどこにいるの!?早く壊さなきゃ!!」
「近くにいるよ。さっきこの時間帯に来たのは確認した」
「ほんとに!?」
「うん、でもちょっと落ち着こうね。……恐らくブラウニーはまずアドルフの所へ行くと思う」
「え……アドルフさん?」
「うん、そう。彼らだけの大事な話をするんだと思うよ。これは君も立ち入ってはいけない」
……わかる。
そうだ、ブラウニーとアドルフさんには話すべき事があるだろう。
私にも何を話したかは後で教えてくれるかもしれないけれど、話し合いの場に私がいると、思い切った会話ができないかもしれない。
「……ねえ、アカシアは、アドルフさんがブラウニーのコピーだって知ってたの?」
「ううん。アドルフに関しては僕はとくにその運命の道筋を追ったりしなかったからね。ただ、魂の状態がおかしいから、割りとすぐに死ぬかな、とは思ってた」
「……だから、里親にしたのね」
私はじと眼になった。
「あはは。その通り。そして彼が死んだらそれを理由に貴族の家の子にでもするつもりだったよ。
でもほんとにね。彼の魂はブラウニーの魂と個性が違うから、まさか、ほぼ同じ人間とは全く思わなかったよ。多分元になったドッペルが抱えていた欲求が影響したんだろうね」
「欲求?」
「……ドッペルは、寂しかったんだよ」
「寂しい……?」
「……何があったか、見せてあげよう。目を閉じて」
そういうとアカシアは私にブラウニーとアドルフさん、もといドッペルに何があったのか一部始終を見せてくれた。
「……こういうことだったんだ」
「そう。ブラウニーになってみたものの、すぐにはぐれて。更に、はぐれた先で受け入れてもらったものの、そこも失って。寂しいからブラウニーになったのに、結局独りを好むハメになってる。
でもね、彼は父や母というものを知っているブラウニーだ。その両親も故郷も失って、それでもずっと愛している。ある意味、その執着とも言える愛は、まさにブラウニーとも、今だから言えるね。だから、プラム。アドルフにお父さん孝行す」
「可愛い…こんな表情、ブラウニーでは、なかなかみられない貴重な…」
映像で見せてもらった11歳のアドルフさんが可愛くて現場にいなかったのが悔やまれる。
「……今、いい話の途中で余計なこと考えてるよね……?」
「何故わかった!?」
「今呟いてたよ!? まったく君ときたらブラウニーマニアなんだから……。いいかい? 勘違いしちゃだめだよ? アドルフはブラウニーから分かれた存在だけど、ブラウニーじゃないからね?」
呆れられた…。
「わかってるよ! それはわかってるけど、可愛いものは仕方ないじゃないの!! ちなみに11歳のアドルフさん限定だから!! 今のアドルフさんにそんな事は思わないから!!」
そうだよ! わかってるよ! そこは自分でもちゃんと区切ってるよ!
でも顔が同じで表情が違うとか、ほら、なんか!
ブラウニーからは得られない栄養が!!
というか、そうか。アドルフさんの事かっこいいなーとか度々思ってたけど、なるほど、ブラウニーのコピーだったからだ。
そりゃ思うよね。
「だめだこの娘、ブラウニーのことしか考えてない……生まれる前もうちょっと賢かったはずなんだけど……」
「Σ」
「フフ。……で、その二人だけど。安心しなさい。身体と魂はあの二人でなんとかするようだ。
詳細はあとで二人に聞きなさい。ただ、さっきも言ったけど、ルーカスの神性だけはプラムが壊すんだよ」
「どうして私?」
「もう君にしか壊せない。聖女のままなら、フリージアでも壊せたけど。
所詮ブラウニーはまだ人間だ。人間に神性――神の恩寵を壊すことなどできない。これは格の違いってやつだね。神の愛娘の代理である君、もしくはその力を降ろせる聖女のみが壊すことができる。『絶対圏』は神の力の源でその力は無限大はあるが、正統な神格なき者にその恩寵を破壊することはできない……えっと大丈夫?」
「……私にもわかるように」
「えっとね、細かい理屈はともかくとりあえず君になら壊せるから……。引きずり出して千切ってバラバラにして蒸発させてしまうといいよ」
「……わかった」
アカシアはクスっと笑った。
「ねえ、ついでといっては何だけど、アカシア一つお願いがあるんだけど、この服なんとか……」
「プッ……」
ああ!?この反応は!!!
「いや、失礼。実は頭の片隅でその服のこと考えないようにいままで喋ってたのに、急に言い出すもんだから…」
クスクス笑う。
「これは最後の意地悪だから言うんだけどね。真面目な話ずっとしてたのに、その格好だから正直ちょっと萎えてたよ……」
クスクス笑うアカシアを私はポカポカ叩いた。
「しょうがないでしょ!?」
「あはは。うん、今、色々教えて堕落方面に運命が偏ったらいけないから、その服はそのままでいようね、うん」
「そんなことで、運命って偏るの!?」
「さあね」
教えてくれない……!
わかる、顔が意地悪する時の顔だこれ!!
「……ここまでだ、プラム。見つかった」
「えっ」
「――魔王が来る」
「いいかい、魔王は倒しちゃ駄目だよ。特にブラウニーには倒せる術(神性)があるけれど、倒させちゃだめだ。倒したら天空神になる試練が完了してしまう。そして死ぬか、主神になることに成功しても地母神の相手となって現世からはいなくなる――だから、さっきから言ってるように、ちゃんと壊すんだよ、アレを」
アレって言った!
さては言いたかったな!
「でも、倒しちゃいけないってどうするのよ。取引でもするの?」
アカシアは樹の根を呼び起こし、部屋の床に大きな穴を開けた。
「それはね。――君の人間のお父さんを信じなさい。さて、『絶対圏』に接続して」
「……え?」
「……最後に。ねえ、プラム。……たとえね、昔の僕に対する君の気持ちが、失われていたとしても。
君という存在からそれが生まれたことだけは、確かなんだよ。プラム……今までごめんね、ありがとう」
その穴にトン、と私を突き飛ばす。
「君の幸せを祈る。……とても愛していたよ、プラム」
そう言ったアカシアの赤い瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「アカシア……っ!?」
――私は、アカシアのほうに手を伸ばしながら落下していった。
「――ああ、だめだよ。もう……思い出さなくていい。思い出したらいけない。
ごめんね、最後まで憎まれたままでいようと思ってもいたかったんだけど……少しだけ君に許されたいと思ってしまったんだ。……これはいけないね、話題を変えよう」
これも大事な話しだからするんだけどね、といつもの口癖を挟んでからアカシアはこう続けた。
「えっと、今話したブラウニーがルーカスから奪った神性なんだけど。フリージアがリンデンにやっていたように、君がこれを壊すんだよ」
「どうして?」
「壊さないと、地母神にブラウニーを盗られるよ」
「はい?」
「人間としてブラウニーと生きていくなら絶対にブラウニーから神の資格を消さないとだめだ。君が選んだ相手で、今や奪い取ったものではあるけれど神の資格がある。もしもブラウニーがただの人間の身体で耐えきれば、それは天空神になる。それは地母神の夫だ」
「え、じゃあ私はどうなるの」
「地母神に還るか、そのまま人として生きていくかは多分自由だと思う。選ばせてくれると思うよ。地母神に還るなら……ブラウニーと結ばれるハッピーエンドだけれど、そこに君たちの意志はなくなる」
「そんなのバッドエンドだよ!?」
「やっぱりそう思うと思ったよ……。だから言ったんだけどね。まあ……それは人間だからこその感覚だから、なったらなったで幸せと納得は得られると思う。それは神としての……幸せだね。だから、人間として幸せになるならば、神の資格をブラウニーから失くすんだよ」
ええ……。そんな想像できない神の気持ちとか願い下げだよ!
「ブラウニーは『絶対圏』に接続したまま奪ってしまったから、その『神性』が身体に根をおろして成長し始めてしまっている。彼は今、『絶対圏』の接続による負担と『神性』の成長による負担を抱えて、さらに『絶対圏』による回復のマッチポンプで生きてる危うい状態だ」
「ちょ!? ねえ、アカシアはいろいろ全部知ってるんでしょ! 今ブラウニーどこにいるの!?早く壊さなきゃ!!」
「近くにいるよ。さっきこの時間帯に来たのは確認した」
「ほんとに!?」
「うん、でもちょっと落ち着こうね。……恐らくブラウニーはまずアドルフの所へ行くと思う」
「え……アドルフさん?」
「うん、そう。彼らだけの大事な話をするんだと思うよ。これは君も立ち入ってはいけない」
……わかる。
そうだ、ブラウニーとアドルフさんには話すべき事があるだろう。
私にも何を話したかは後で教えてくれるかもしれないけれど、話し合いの場に私がいると、思い切った会話ができないかもしれない。
「……ねえ、アカシアは、アドルフさんがブラウニーのコピーだって知ってたの?」
「ううん。アドルフに関しては僕はとくにその運命の道筋を追ったりしなかったからね。ただ、魂の状態がおかしいから、割りとすぐに死ぬかな、とは思ってた」
「……だから、里親にしたのね」
私はじと眼になった。
「あはは。その通り。そして彼が死んだらそれを理由に貴族の家の子にでもするつもりだったよ。
でもほんとにね。彼の魂はブラウニーの魂と個性が違うから、まさか、ほぼ同じ人間とは全く思わなかったよ。多分元になったドッペルが抱えていた欲求が影響したんだろうね」
「欲求?」
「……ドッペルは、寂しかったんだよ」
「寂しい……?」
「……何があったか、見せてあげよう。目を閉じて」
そういうとアカシアは私にブラウニーとアドルフさん、もといドッペルに何があったのか一部始終を見せてくれた。
「……こういうことだったんだ」
「そう。ブラウニーになってみたものの、すぐにはぐれて。更に、はぐれた先で受け入れてもらったものの、そこも失って。寂しいからブラウニーになったのに、結局独りを好むハメになってる。
でもね、彼は父や母というものを知っているブラウニーだ。その両親も故郷も失って、それでもずっと愛している。ある意味、その執着とも言える愛は、まさにブラウニーとも、今だから言えるね。だから、プラム。アドルフにお父さん孝行す」
「可愛い…こんな表情、ブラウニーでは、なかなかみられない貴重な…」
映像で見せてもらった11歳のアドルフさんが可愛くて現場にいなかったのが悔やまれる。
「……今、いい話の途中で余計なこと考えてるよね……?」
「何故わかった!?」
「今呟いてたよ!? まったく君ときたらブラウニーマニアなんだから……。いいかい? 勘違いしちゃだめだよ? アドルフはブラウニーから分かれた存在だけど、ブラウニーじゃないからね?」
呆れられた…。
「わかってるよ! それはわかってるけど、可愛いものは仕方ないじゃないの!! ちなみに11歳のアドルフさん限定だから!! 今のアドルフさんにそんな事は思わないから!!」
そうだよ! わかってるよ! そこは自分でもちゃんと区切ってるよ!
でも顔が同じで表情が違うとか、ほら、なんか!
ブラウニーからは得られない栄養が!!
というか、そうか。アドルフさんの事かっこいいなーとか度々思ってたけど、なるほど、ブラウニーのコピーだったからだ。
そりゃ思うよね。
「だめだこの娘、ブラウニーのことしか考えてない……生まれる前もうちょっと賢かったはずなんだけど……」
「Σ」
「フフ。……で、その二人だけど。安心しなさい。身体と魂はあの二人でなんとかするようだ。
詳細はあとで二人に聞きなさい。ただ、さっきも言ったけど、ルーカスの神性だけはプラムが壊すんだよ」
「どうして私?」
「もう君にしか壊せない。聖女のままなら、フリージアでも壊せたけど。
所詮ブラウニーはまだ人間だ。人間に神性――神の恩寵を壊すことなどできない。これは格の違いってやつだね。神の愛娘の代理である君、もしくはその力を降ろせる聖女のみが壊すことができる。『絶対圏』は神の力の源でその力は無限大はあるが、正統な神格なき者にその恩寵を破壊することはできない……えっと大丈夫?」
「……私にもわかるように」
「えっとね、細かい理屈はともかくとりあえず君になら壊せるから……。引きずり出して千切ってバラバラにして蒸発させてしまうといいよ」
「……わかった」
アカシアはクスっと笑った。
「ねえ、ついでといっては何だけど、アカシア一つお願いがあるんだけど、この服なんとか……」
「プッ……」
ああ!?この反応は!!!
「いや、失礼。実は頭の片隅でその服のこと考えないようにいままで喋ってたのに、急に言い出すもんだから…」
クスクス笑う。
「これは最後の意地悪だから言うんだけどね。真面目な話ずっとしてたのに、その格好だから正直ちょっと萎えてたよ……」
クスクス笑うアカシアを私はポカポカ叩いた。
「しょうがないでしょ!?」
「あはは。うん、今、色々教えて堕落方面に運命が偏ったらいけないから、その服はそのままでいようね、うん」
「そんなことで、運命って偏るの!?」
「さあね」
教えてくれない……!
わかる、顔が意地悪する時の顔だこれ!!
「……ここまでだ、プラム。見つかった」
「えっ」
「――魔王が来る」
「いいかい、魔王は倒しちゃ駄目だよ。特にブラウニーには倒せる術(神性)があるけれど、倒させちゃだめだ。倒したら天空神になる試練が完了してしまう。そして死ぬか、主神になることに成功しても地母神の相手となって現世からはいなくなる――だから、さっきから言ってるように、ちゃんと壊すんだよ、アレを」
アレって言った!
さては言いたかったな!
「でも、倒しちゃいけないってどうするのよ。取引でもするの?」
アカシアは樹の根を呼び起こし、部屋の床に大きな穴を開けた。
「それはね。――君の人間のお父さんを信じなさい。さて、『絶対圏』に接続して」
「……え?」
「……最後に。ねえ、プラム。……たとえね、昔の僕に対する君の気持ちが、失われていたとしても。
君という存在からそれが生まれたことだけは、確かなんだよ。プラム……今までごめんね、ありがとう」
その穴にトン、と私を突き飛ばす。
「君の幸せを祈る。……とても愛していたよ、プラム」
そう言ったアカシアの赤い瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「アカシア……っ!?」
――私は、アカシアのほうに手を伸ばしながら落下していった。
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