17 / 46
【16】門前払い
しおりを挟む
ミューラが孤児院を発って数ヶ月。
エドガーは、黙々と冒険者ギルドに通い、大人の冒険者についてダンジョンに潜る日々を続けた。
約束通り、度々ミューラに手紙を送っているが、一向に返事が返ってこない。
「そりゃ、お前、返事なんて返ってこないだろう。お貴族様になっちまったんならさあ」
「だな。そりゃもう生活が段違いさ。きらびやかな生活になって、お前のことなんて忘れっちまってるさ」
冒険者の先輩に、話したらそう言われた。
「ミューラはそんなヤツじゃない……」
「まあ、そう思ってな。信じるのはお前の自由だ。だが手紙が返ってこないのが現実だろ」
「……っ」
――今頃どうしているのか知りたい。
来月にはハミルトン男爵家にまでいける旅費がたまる。
そのために、頑張って金を貯めた。
それを先輩に話すとやはり否定される。
「お前バカか? コネがない平民なんて門前払いさ。行くだけ無駄。金の無駄だ。やめとけ」
「けど、会いに行く約束をしたんだ……!!」
「お前は若いから知らんだろうが、大人になるまでにゃ、そりゃぁ、お貴族の令嬢と平民男子のロマンチックな逢瀬話しはいくつか聞くもんよ。だが……うまくいった試しは聞いたことねえよ」
他の先輩も反対してくる。
「なあ、お貴族のお嬢さんってのは小せぇ頃からそれは贅沢な暮らしをしてる。家来に物を運ばせて、食事も用意してもらって、風呂もメイドに入れてもらうのさ。それこそペンやティーカップより重たいものなんて自分で持った事がない生活をしてるんだ。そんな生活を知っちまったら、その娘もお前なんて相手にしないさ」
「悪いこと言わねえ。おまえ、なかなかのハンサムなんだからよ。町娘でそこそこ裕福なお嬢さん捕まえたほうがいいぞ。適度な逆玉に乗れっぞ」
「……もう、いいです」
「おーい、スネちまったぞー」
「一途な坊主だなぁ」
誰になんと言われようと。
エドガーはミューラを諦めることはできなかった。
少なくともミューラ自身に拒否されない限りは。
「(ミューラを忘れることなんてできない。何年かかっても絶対取り戻す)」
そして旅費を貯めたエドガーは数カ月後、ハミルトン男爵家の領地へと旅立った。
しかし、先輩たちの言った通り、ミューラに会うことはできなかった。
金の許す限り、近くの宿に滞在し、毎日門番とやり合い、そして――。
「ええい! 子供だからと優しくしていたが、これ以上しつこくするなら、通報するぞ! 帰れ帰れ!!」
最終的には通報寸前、犯罪者扱いされ、滞在費用もなくなって仕方なく帰途についた。
「……ミューラ。姿すら見ることができなかった……」
帰りの馬車に揺られながら、持ってきていたミューラの人形を眺めていた。
「まあ、わかってた結果だよな」
隣に座る冒険者仲間のセベロがそう言った。
彼は派手なオレンジの髪と瞳をしている。
セベロは付き合いの良い奴で、エドガーがハミルトン男爵家を訪ねに行く、といったら付いてきた。
女の子のナンパが多く軽薄な感じのする彼と、真面目なエドガーだったが、何故か馬があって、一緒に冒険するようになった。
実際は心配してくれていたのだろう。
ただ、本当に付いて来ただけで、エドガーがハミルトン家の門番とやり合ってる間、彼は街でナンパを繰り返していただけだったが。
それでもエドガーが宿に返って来る頃には宿で待ち構えていて、どうだった? とエドの話を聞いてくれるのだった。
「エドガー。お前さ。貴族目指したら? 今でもまだ引取先希望来るんだろ?」
「は?」
「いや、だって。貴族になれば会えるだろう、その子」
「それは俺も少し思ったが。少し貴族のことを調べたけど――そんなことしたら、逆にミューラと結婚できなさそうだからな。引き取られた先で望まない結婚を決められる可能性が高い」
「ふうん? やっぱ結婚したいんだ」
エドガーが、アッという顔をして赤面した。
「……悪いか」
「顔が真っ赤だぞ。ウブだな。で、これからどうするんだ?」
「……冒険者は続ける。けど、貴族相手の仕事を取って、何かしらコネを作れないか考えてみる」
「なるほどな。真面目なお前らしい手段だ。まあ思いつくこと出来ること。やりたいだけやるといいさ。俺は適当にお前に付き合うし」
しかし、この貴族相手にコネを作るという考えが、数年後にエドガーに大きな功をもたらすのであった。
エドガーは、黙々と冒険者ギルドに通い、大人の冒険者についてダンジョンに潜る日々を続けた。
約束通り、度々ミューラに手紙を送っているが、一向に返事が返ってこない。
「そりゃ、お前、返事なんて返ってこないだろう。お貴族様になっちまったんならさあ」
「だな。そりゃもう生活が段違いさ。きらびやかな生活になって、お前のことなんて忘れっちまってるさ」
冒険者の先輩に、話したらそう言われた。
「ミューラはそんなヤツじゃない……」
「まあ、そう思ってな。信じるのはお前の自由だ。だが手紙が返ってこないのが現実だろ」
「……っ」
――今頃どうしているのか知りたい。
来月にはハミルトン男爵家にまでいける旅費がたまる。
そのために、頑張って金を貯めた。
それを先輩に話すとやはり否定される。
「お前バカか? コネがない平民なんて門前払いさ。行くだけ無駄。金の無駄だ。やめとけ」
「けど、会いに行く約束をしたんだ……!!」
「お前は若いから知らんだろうが、大人になるまでにゃ、そりゃぁ、お貴族の令嬢と平民男子のロマンチックな逢瀬話しはいくつか聞くもんよ。だが……うまくいった試しは聞いたことねえよ」
他の先輩も反対してくる。
「なあ、お貴族のお嬢さんってのは小せぇ頃からそれは贅沢な暮らしをしてる。家来に物を運ばせて、食事も用意してもらって、風呂もメイドに入れてもらうのさ。それこそペンやティーカップより重たいものなんて自分で持った事がない生活をしてるんだ。そんな生活を知っちまったら、その娘もお前なんて相手にしないさ」
「悪いこと言わねえ。おまえ、なかなかのハンサムなんだからよ。町娘でそこそこ裕福なお嬢さん捕まえたほうがいいぞ。適度な逆玉に乗れっぞ」
「……もう、いいです」
「おーい、スネちまったぞー」
「一途な坊主だなぁ」
誰になんと言われようと。
エドガーはミューラを諦めることはできなかった。
少なくともミューラ自身に拒否されない限りは。
「(ミューラを忘れることなんてできない。何年かかっても絶対取り戻す)」
そして旅費を貯めたエドガーは数カ月後、ハミルトン男爵家の領地へと旅立った。
しかし、先輩たちの言った通り、ミューラに会うことはできなかった。
金の許す限り、近くの宿に滞在し、毎日門番とやり合い、そして――。
「ええい! 子供だからと優しくしていたが、これ以上しつこくするなら、通報するぞ! 帰れ帰れ!!」
最終的には通報寸前、犯罪者扱いされ、滞在費用もなくなって仕方なく帰途についた。
「……ミューラ。姿すら見ることができなかった……」
帰りの馬車に揺られながら、持ってきていたミューラの人形を眺めていた。
「まあ、わかってた結果だよな」
隣に座る冒険者仲間のセベロがそう言った。
彼は派手なオレンジの髪と瞳をしている。
セベロは付き合いの良い奴で、エドガーがハミルトン男爵家を訪ねに行く、といったら付いてきた。
女の子のナンパが多く軽薄な感じのする彼と、真面目なエドガーだったが、何故か馬があって、一緒に冒険するようになった。
実際は心配してくれていたのだろう。
ただ、本当に付いて来ただけで、エドガーがハミルトン家の門番とやり合ってる間、彼は街でナンパを繰り返していただけだったが。
それでもエドガーが宿に返って来る頃には宿で待ち構えていて、どうだった? とエドの話を聞いてくれるのだった。
「エドガー。お前さ。貴族目指したら? 今でもまだ引取先希望来るんだろ?」
「は?」
「いや、だって。貴族になれば会えるだろう、その子」
「それは俺も少し思ったが。少し貴族のことを調べたけど――そんなことしたら、逆にミューラと結婚できなさそうだからな。引き取られた先で望まない結婚を決められる可能性が高い」
「ふうん? やっぱ結婚したいんだ」
エドガーが、アッという顔をして赤面した。
「……悪いか」
「顔が真っ赤だぞ。ウブだな。で、これからどうするんだ?」
「……冒険者は続ける。けど、貴族相手の仕事を取って、何かしらコネを作れないか考えてみる」
「なるほどな。真面目なお前らしい手段だ。まあ思いつくこと出来ること。やりたいだけやるといいさ。俺は適当にお前に付き合うし」
しかし、この貴族相手にコネを作るという考えが、数年後にエドガーに大きな功をもたらすのであった。
34
あなたにおすすめの小説
【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し
有栖多于佳
恋愛
近代ヨーロッパの、ようなある大陸のある帝国王女の物語。
30才で断頭台にかけられた王妃が、次の瞬間3才の自分に戻った。
1度目の世界では盲目的に母を立派な女帝だと思っていたが、よくよく思い起こせば、兄妹間で格差をつけて、お気に入りの子だけ依怙贔屓する毒親だと気づいた。
だいたい帝国は男子継承と決まっていたのをねじ曲げて強欲にも女帝になり、初恋の父との恋も成就させた結果、継承戦争起こし帝国は二つに割ってしまう。王配になった父は人の良いだけで頼りなく、全く人を見る目のないので軍の幹部に登用した者は役に立たない。
そんな両親と早い段階で決別し今度こそ幸せな人生を過ごすのだと、決意を胸に生き直すマリアンナ。
史実に良く似た出来事もあるかもしれませんが、この物語はフィクションです。
世界史の人物と同名が出てきますが、別人です。
全くのフィクションですので、歴史考察はありません。
*あくまでも異世界ヒューマンドラマであり、恋愛あり、残業ありの娯楽小説です。
ある公爵令嬢の死に様
鈴木 桜
恋愛
彼女は生まれた時から死ぬことが決まっていた。
まもなく迎える18歳の誕生日、国を守るために神にささげられる生贄となる。
だが、彼女は言った。
「私は、死にたくないの。
──悪いけど、付き合ってもらうわよ」
かくして始まった、強引で無茶な逃亡劇。
生真面目な騎士と、死にたくない令嬢が、少しずつ心を通わせながら
自分たちの運命と世界の秘密に向き合っていく──。
転生令嬢と王子の恋人
ねーさん
恋愛
ある朝、目覚めたら、侯爵令嬢になっていた件
って、どこのラノベのタイトルなの!?
第二王子の婚約者であるリザは、ある日突然自分の前世が17歳で亡くなった日本人「リサコ」である事を思い出す。
麗しい王太子に端整な第二王子。ここはラノベ?乙女ゲーム?
もしかして、第二王子の婚約者である私は「悪役令嬢」なんでしょうか!?
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
出稼ぎ公女の就活事情。
黒田悠月
恋愛
貧乏公国の第三公女リディアは可愛い弟二人の学費を稼ぐために出稼ぎ生活に勤しむ日々を送っていた。
けれど人見知りでおっちょこちょいのリディアはお金を稼ぐどころか次々とバイトをクビになりいよいよ出稼ぎ生活は大ピンチ!
そんな時、街で見つけたのはある求人広告で……。
他サイトで投稿しています。
完結済みのため、8/23から毎日数話ずつラストまで更新です。
英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない
百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。
幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。
笑い方を忘れた令嬢
Blue
恋愛
お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる