天使の行きつく場所を幸せになった彼女は知らない。

ぷり

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おふざけ有りのエレナやりなおしルート

【04】幸せになった天使は行方を知らせない。(終)

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 数年後。

 私は、その街にある事務会社に住み込みで働いていた。
 5階建てのビルの会社で、空いている部屋を格安で貸してくれるというし、周囲を見渡せば治安が良さそうだった。

 また職場と家が同じ場所なので、子育てしながら、なんとか仕事をこなした。
 なにせ、私は、文字も読めれば計算もできる。
 つまり識字率低めの平民社会では重宝された。

 生まれた娘はやはり、オレンジの瞳だった。
 私に似て可愛らしいので、天使ちゃんと呼ばれて職場の人間に可愛がられた。
 旦那は冒険者で行方知れずになったと職場には、説明した。



「ままー、はやくはやく」

 娘に手を引っ張られて歩く。
 空には真昼なのに花火が上がっている。

 今日はお祭りで、娘とデートだ。

 空を眺めながら、ふと男爵家を思い出した。
 ちょっと前に、結局、ハミルトン夫妻が爵位を失った記事を読んだ。

 私の故郷は爵位ごと売られたらしい。 

 なんでも、お母様の浪費癖が結局祟って、借金が膨れ上がったらしかった。
 多分バートンさまからも何かしら要求されたと思うけど、彼らが逮捕されたとは書かれていなかったから、貧乏ながらもどっかできっと、元気にやってると思いたい。

 あの時は逃げるのに必死だったけど、クズとはいえ、私のことは愛してかわいがってくれた両親を置いてでてきたのは胸が痛んでいた。

「もうちょっと前から巻き戻ってればなぁ……」

 私はポツリと呟いた。そうすれば、きっともっと良い結果にもっていけたのに。

「ママ、何か言った?」

 キョトン、として見上げてくる娘。可愛い。
 あの男の子どもなんて愛せるか不安だったけど、全然可愛い。

「ううん」

 あのタイミングで巻き戻ったのはこの子が生まれてくるためだったのかもしれない、と思うと、自然と笑顔になった。

 娘と人混みを歩いていると、向こうからオレンジ色の頭の男性が歩いてくるのが見えた。

 ――うわ!?

 私は、ギクリ、とした。

「(しまった、ここ数年、知り合いに会うことなんて全くなかったから、油断してた――)」

「まま、どうしたの!?」

 娘の手を取って慌てて人混みに紛れようとしたが、腕を取られた。

 振り返ると、やっぱりアイツだった。

「よお! エレナお嬢様じゃん!」

 ああああああ!!!

「逃げる時は頼れっていったのに勝手に出ていったもんだから心配してたんだぞ。元気そうでなによりだ」
「ああ、うん元気、元気だからまたねーばいばいー」

 とっさに娘を後ろに隠して、手を振ってバイバイしようとしたが、

「ママ、だれ??」

 娘が私の後ろからひょこっと顔を出す。

 あああああ!!
 お、お前たち目を合わせるんじゃない!!

「なんだ、娘までいるのか? 結婚したのかー? こんにちは、おじょうちゃ……」
「こんにちはー。わ、おじさんの瞳、私とおそろいだ! 初めて見たー!!」
「お……。お? ホント、だな。めったにいないぞ?」

 ……と言いながら、娘から視線を私に移し、顔からヘラヘラ顔が消えた。

「……?」

 私とあいつが無言になったので、首をかしげる娘。

「なあ、エレナお嬢様。ちょっとそこのカフェで、真面目な話をしたいんだが?」

 私は大きなため息をついた。



 それからと言うもの。
 ヤツは、私と娘の家にちょくちょくやって来た。

「わーい、きれーい!! セベロおじさんありがとう!!」
「え、こんないい服貰っても着せていく場所がないわよ!」
「家の中で着ればいいだろ。お前だって屋敷の中でドレスくらい着てただろ」
「ちょっと、やめてよ、この子の前で!!」

 そして、娘へのプレゼントが半端ない。

 王都の一等地で買ってきたような服飾品、絵本、ぬいぐるみ……etc。

 報奨金をたくさん貰って王都にも屋敷があるくらい金があるくせに、格好は相変わらず冒険者だ。
 変なヤツ。

 この状況は好ましくはない。しかし、娘を愛でる権利は、ヤツにもある。
 下手なことを言ったら、財力あるアイツに娘を連れて行かれるかもしれないので、私はこの状況には何も言わなかった。



 ある日、娘が寝た後、「ほら、娘寝たし帰れ帰れ」といつものように急かして追い出そうとしていると、いきなり抱きしめられた。

「おまえに本気になっていいか?」

「え……」

「実はおまえが忘れられなくなって、ずっと探してた。まさか子どもまで生まれてるとは思わなかったが」

「……」

「いやなら、もう二度と言わないがここに来ることは許してくれ。娘には会いたい」
 
 私はしばらく考えて言った。

「す、好きにすれば。でも、調子狂うから、もうこんな話しないでよね」

 そういうとヤツはいつものヘラヘラ顔に戻って、私の頭を小突いた。

「顔赤いんでやんの」

 痛い。何をするんだ。まったく。

「ふん……。籍はいれないからね」

 そこだけは、釘を刺す。

 今、私は戸籍は偽装してる。

 こいつと正式に籍を入れたりすれば、ミューラや勇者に、まず私の存在が知れる可能性が高い。さらには他の会いたくない人たち――例えば芋づる式に両親などにバレるかもしれない。

 私は以前の私を知る人たちにとって行方知れずの人間でありたかった。



 その後、ヤツが我が家に入り浸る率は増え、ほぼ住んでる状態になり、気がつけば私の腹には2人目がいた。
 
 セベロは軽薄で女好きなのだと思っていたし、本人いわく、その通りだと言っていたが、私達と会ってから、きっぱりやめた……というか、自然と女遊びをやめてしまったらしい。

 最近ではすっかり娘と仲良し父娘(おやこ)だ。



 ――ある温かい日の窓際で。

 私は、二人目天使のための編み物をしながら、ふと以前の自分を思い出す。
 あの私が、今の状況を見たらどう思うだろう。発狂するかもしれない。

 ふと、鳥が飛び立つ音がして、窓から白い羽が1枚入ってきて、床に舞い落ちた。


 ――ね。とりあえず、幸せだよ?


                          【FIN】
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