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翌日の昼休み、昨日は楽しかったですか? ところであの人どなたですか? 友達? と加奈に質問責めにされてしまい、深琴は逃げるようにクリニックを飛び出した。とりあえず自転車に乗り、この町唯一のファミレスで昼食をとれば、休み時間いっぱいで戻ってこれると思ったのだ。
商店街をつっきり、国道へと抜ける踏切の手前で、深琴はふと自転車を漕ぐ足を止めた。
商店街の端、白地に自転車の絵と共に大きく、宮田サイクルと書かれた看板が目に留まる。その店先には自転車が並べられていて、その真ん中で銀次が小学生に囲まれて笑っていた。どうやらパンクの修理をしているらしい。
頭にはタオルを巻いて、青いつなぎを着て笑う姿は、どこか男らしくてドキリとする。自分とは正反対の魅力的な姿に憧れてしまうのは仕方ないことだと自分の心臓の高鳴りに自分なりの理由を探して、深琴はしばらく銀次を遠くから見つめていた。
パンクを直す間にも通りかかった人に話しかけられ、愛想よく笑いかける銀次を自転車の持ち主であろう小学生が、早く直して、とせかす。それに銀次は、生意気なやつめ、とじゃれるように小学生の頭を小突く。そんな微笑ましい姿を見ていた深琴は、ふと我に返り、ゆっくりと自転車を漕ぎ始めた。
「……僕とは違うな……」
どうして自分なんか構うのか、やっぱり理解できない。あんなにもたくさんの人と仲良くできるのだから、自分なんかじゃなくてもいいのではないだろうか――そう考えていると、上着のポケットからスマホの着信音が響き出した。メッセージの受信音だったが、加奈からかもしれないと、すぐに画面を見やる。
そこには友人からの『今日飲みに行かない?』という言葉が絵文字と共に並んでいた。
それに深琴は、いいよ、と返事をしてから自転車を漕ぎ直した。
「へえ、宮田サイクルって、金吾の弟だな」
その日の夜七時すぎ、友人の加賀は、テーブルの向こうで煙草の煙をくゆらせながらそう呟いた。
いつも加賀と飲む時に使う焼き鳥屋の看板メニューである手羽先に齧り付きながら、深琴は、え、と言葉を返した。
「え、じゃなくて。覚えてないか? 高三の時のクラスメイト、宮田金吾」
加賀に言われ、深琴は首を傾げる。そんな深琴を見て、加賀は更に、トライアスロンやってたヤツ、と言葉を繋ぐ。それでようやく深琴も頭の奥に、もやっとではあるが人影を浮かべることが出来た。
「金吾から一年に弟いるって聞いてたなって、思い出したよ。やたら頭いいって、金吾が自慢してたけど、アイツが相当バカだったからな」
「そうなんだ。僕、宮田とあんまり話したことなかったから」
「そうだったか?」
加賀は、幼稚園の時からの幼馴染というやつで高校三年間はクラスメイトだった。進路を違えても連絡を取り合って時々会っていた唯一の友人だ。お互いの性格も癖も知っている仲なので、深琴もこうやって本音で話せる。言葉が足りなくても本当に言いたいことを察してくれるのでとても楽なのだ。
加賀は今は、自分たちがいた母校で社会科の教師をしていて、お互い地元に残っているので、こうやって時々飲みに出るのが随分前からの習慣になっている。
「うん……で、僕やっぱりからかわれてるのかな?」
「んなことはないだろ。可愛いって言うのも本心じゃねえの? 好かれてるんだと思うけど?」
加賀が目の前の皿に並んだ焼き鳥に手を伸ばす。そんな加賀を見ながら深琴は眉根を寄せた。
「ないでしょ……絶対」
「また、僕には関係ない、とか言うんだろ。あのな、お前はモテる割にまともな恋愛してないって、自覚しろよ」
加賀が面倒そうに、だから隙だらけなんだよ、とため息を吐く。確かに恋愛は深琴のトラウマだった。小さい頃から口下手で、目立たない性格なのは理解していた。その割に母親譲りの女顔は、華やかに見えるらしく、好きだと言われることも多かった。けれど、実際自分の近くに来ると大抵は、つまらない、と言われてしまうのだ。結局深琴の見た目だけで、中身がそれに伴っていないことにがっかりされてしまう。結果、現在恋人もいないし、友人としても深琴の傍に居てくれるのは加賀だけだ。つまらないなんて、自分でもそう思う。その通りだと、深琴自身思っているから、人を好きになるなんて怖くてできないのだ。
「けど……もう嫌なんだ、がっかりされるの……」
「そうとも限らないだろ。深琴は不器用なだけで、ちゃんと付き合えばがっかりなんてしない。俺はお前と居ると楽しいよ」
加賀はそう言いながらグラスを傾ける。深琴は同じようにグラスに手を伸ばしてから、ありがと、と頷いた。
「だからさ、俺の他にもそう思う人が居ると思うんだよ。クリニックと自宅の往復ばっかりしてないで、もっと外に出ろよ」
「……でも、僕は今のままでいいよ」
外に出て、誰かと知り合ったとしても、きっとつまらないと言われて離れてしまう。そんな思いをするのなら、自分でもできる仕事があって、自分を理解してくれる同僚がいて、何でも話せる友達がいる、今のままで十分だと思える。
「……まあ、あんまり深く考えないで、相手に任せるのもいいと思うよ」
そう言う加賀に深琴は曖昧に頷いた。
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