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いつも加賀と会う時に使う焼き鳥屋のカウンターで、深琴はにわかに緊張しながら、加賀に向かって口を開いた。
「銀次と……今、付き合ってる」
加賀に、銀次くんとその後どう? と聞かれたので、素直に答えたのだがよく考えたら驚くことだったかもしれない。いくら加賀でもそうだろうと思って深琴が加賀を見やるが、その表情は意外にも穏やかだった。
「そっか。いい事だと思うよ」
「そう、かな?」
加賀に聞き返すと、その顔が頷く。
「深琴はもっと、外の世界に触れた方がいいと思うよ。あの高校出て、家から通える大学行って、家業継いで……深琴の中心は常にこの町だろ? 環境もだけど、人間関係も。悪い事ではないけど、いい事でもないと俺は思うんだよね」
加賀は大学の四年間、地元を離れている。ここに戻ってきても実家ではなく一人で暮らしていて、同じ地元で働いていると言っても、深琴よりは確かに世界は広いのかもしれない。
「でも、僕は、今までと同じでいいよ」
深琴が言うと加賀が不満そうな顔をする。それでも深琴は加賀の言うように外に出たいとは思わなかった。こんな小さい世界でも上手く生きられない自分が、外に出ていける自信なんかない。
「深琴は顔に似合わず頑固だからな。まあ、宮田弟と付き合おうって思っただけでも進歩だと思うか」
加賀がため息を吐いてビールジョッキを手に取る。その様子を隣で見ながら深琴も同じように手元のグラスに口を付けた。
「でも、好きかどうかは、よく分からないんだ……大事ではあるんだけど」
「まあ、深琴の過去を思えば、簡単に好きになるとは思ってないけどな」
好きだと言われ付き合って、自分もまた相手に思いを寄せた頃、あっさりと捨てられる。そんなことを繰り返されては、深琴の心は簡単に開かなくなっていた。加賀はずっとそれを見てきているので深琴の言葉にも納得したようだ。加賀は、それでも、と言葉を繋ぐ。
「あいつなら、開かなくなった深琴のココ、こじ開けてくれそうな気はしてるんだよね」
加賀が自身の胸をトン、と指さして微笑む。深琴はそれに苦く笑って、だといいけど、と答えた。
「そうなることを祈ってるよ」
加賀の言葉に深琴は大きく頷いた。
「じゃあ、宮田弟によろしくな」
店を出て、少し酔った加賀がそんなことを言う。よろしくって会ったこともないじゃないか、と思ったが、今の加賀に言っても仕方なさそうだったので、深琴はそれに頷いた。すると、加賀が深琴に近づく。
「今度は、ちゃんと幸せにしてもらえよ」
加賀はそう言うと深琴をぎゅっと抱きしめた。高校からずっと深琴の恋愛を傍で見てきている加賀にとって、深琴の新しい恋人は気になるのだろう。これまで幸せな恋愛をしてこなかったからこそ、加賀はそう言葉にしてくれていると分かれば、やっぱり嬉しい。
「……ありがと。今度、紹介するから」
深琴はそう答えると、加賀の背中に緩く腕を廻した。それからゆっくりと離れる。
「じゃあな。また飲もう」
連絡するよ、と加賀が手を振る。深琴はなんだか温かい気持ちのまま、それに頷いて答えた。
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