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「金吾って……銀次の兄さん、だっけ?」
『そうそう。高校のクラスメイトな。実家戻って来てるんだってよ』
加賀からそんな電話が入ったのは翌日のことだった。昼休みを狙って掛けてきたその電話の向こうには、学校の中らしいざわめきが聞こえてくる。
『俺もさっき偶然挨拶に来てるトコに出くわしてさ。お前もこっちで仕事してるって話したらみんなで会おうってことになって……夜、空いてる?』
「うん。今日は空いてる」
深琴が答えると、加賀の声を掻き消すように、せんせー誰と電話? 彼女? 彼氏? という若い声が飛び込んできた。加賀が、うるせー向こう行け、ここは俺の部屋だ、勝手に入ってくるな、と答える。そのやりとりに深琴は思わず笑ってしまった。
『深琴、笑ってんじゃねえよ』
「ごめん、聞こえてた? いや、なんかちゃんと先生だなと思って」
『まあな……んじゃあ、今日の八時、いつもの店な。金吾にも伝えとく』
「うん、了解」
じゃあ、と切ろうとして、また加賀の背後から声が響く。誰? デート? と聞く生徒らしい声に、ものすごい美人とデートだから邪魔すんな、と加賀が答え、そこで通話は途切れた。
「銀次も、あそこに居たんだよな……」
一年だけだけど、同じ場所に通っていた。もし、あの頃に出会えていたら、自分は何か変わっていただろうか……恋をしただろうか。ちゃんと好きと言える人間になっていたのかな、と思うと、今の自分が少し情けなくて深琴は小さくため息を零した。
「久しぶりだな、澤島」
午後八時、いつもの店に行くと、そこには既に加賀と金吾が待っていて、座敷から大きく手を振られて深琴はすぐにそちらに近づいた。
「深琴、おつかれ」
加賀に言われ深琴は頷きながら加賀の隣に座った。向かいに居る金吾に軽く頭を下げてからつと、加賀に視線を向ける。すると、その視線を受け取った加賀が口を開く。
「卒業以来?」
「だな。澤島、親父さんの跡、継いだんだな。すごいな」
「うん。なんとなく、ね」
加賀が頼んでくれていたビールに口をつけ、深琴が頷く。偉いな、と笑う顔は、どこか銀次に似ていた。
「つーか、金吾はどうなんだよ? トライアスロンやるって大学行って、その後なにしてんの?」
加賀が、ビールのグラスを傾けながら聞く。金吾は深琴から視線を移してから、うーん、と一度考える仕草をした。
「大学では競技続けてたよ。でも結局強化選手止まりでさ……今は母校でコーチやってる」
「へえ、まあ強化選手でも充分だろ。後進の指導も大変だろう。言ってみりゃ俺と同じ先生だ」
加賀が同情するような目を向ける。金吾はそれに、確かに苦労はあるよ、と小さくため息をついた。
「でも、好きなことだからな――澤島は、仕事、楽しい?」
二人の様子を見ていた深琴に金吾が視線を向ける。深琴はそれに、クリニックでいつも貼り付ける笑みを作って、そうだね、と答えた。
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