25 / 30
9-2
結局、電話もメッセージもなんだか言葉が出なくてできなかった。クリニックを閉めた後、ただ銀次に会いたくて、深琴は彼の家まで自転車を走らせていた。
商店街を抜ける直前にある古い造りの店先に、目的の人はいた。
紺色のつなぎを着て、頭にはタオルを巻いて、店先に並べていた自転車を店の中に仕舞っている。今日はもう閉店なのだろう。銀次の表情は少し暗く見えた。一日忙しかったのか――自分とのことを考えてくれているのか。
深琴は自転車を降りて、ゆっくりと銀次に近づいた。ふと、顔を上げた彼がこちらに気づく。
「……み、こと、さん……」
銀次が驚いた顔で呟くように言いながら、持ち上げようとしていた自転車を手から滑らせ、ガタン、と大きな音を立てる。
「あ、ごめん、驚かせて……」
「いや、いいけど……てか、え……俺、振られたんじゃ……?」
「やっぱり誤解してる。僕は……ていうか、その前に……心にもないこと言って、ごめんな、銀次。僕……ちゃんと銀次の話聞くし、もう会わないとも思ってない、から……」
そう言うと、銀次は深琴に駆け寄り、その体をぎゅっと抱きしめた。今度は深琴が自転車から手を離してしまい、そのまま地面に倒れて派手な音を立てた。
でも、そんなのはどうでも良かった。
「ごめん、深琴さん、ごめん! 俺、怖くて……話したら、深琴さんが離れていくと思って……でも話さなくても振られたと思って、めちゃくちゃ後悔してた」
ゆっくりと深琴の体を離し、目を合わせる。少しだけ潤んだ目がいつものように、へにゃりと垂れて笑う。
「だから、ちゃんと話すね」
深琴がそれに頷いた時だった。
何してんだよ銀次、と店の奥から声が響いた。その声に銀次が深琴から手を離す。
「さっきからガシャンガシャンって売り物なんだからもっと慎重に扱えって……澤島?」
文句を言いながら店先に顔を出したのは金吾だった。銀次の奥にいる深琴を見つけ、驚いた顔をする。
「……こんばんは」
深琴がどうしたらいいか分からず、とりあえず頭を下げる。
「お、おう……ちょうど、よかった。これから澤島のところに行こうと思ってて」
金吾の言葉に深琴は、僕? と首を傾げる。
「ああ。おれ、明日一度向こう戻るから……その、この間の理由、ちゃんともう一度聞きたくて……ホントに、おれに望みはない?」
金吾に言われ、深琴はしばらく記憶を辿った。それからそういえば金吾に告白されていたことを思い出した。そのことよりも、銀次の前職を辞めた理由と、この町を離れるかもしれないことの方が衝撃で忘れていたが、まだちゃんとどうしてダメなのか告げていない。
じっとこちらを見つめる金吾から視線を外し、銀次を見やる。銀次は堪えるように唇を噛み、俯いていた。
――ホントにいざという時、ダメな奴だな、と深琴は小さくため息を吐いた。深琴は俺のものだ、と連れ去ってくれればいいのに、それをせず、ただ自分の言葉を待っている。ここで、金吾と付き合う、なんて言ったら、銀次はどういう反応をするのだろう。少し苛めてみたい気持ちもあった。けれど――
「……悪いけど、僕は宮田とは付き合えない。僕が好きなのは、銀次なんだ。僕は、銀次を信じるよ」
深琴がはっきりと告げると銀次は弾かれたように顔を上げた。何か言いたそうに口を開いたが、先に言葉を発したのは金吾の方だった。
「……そっか。あれを聞いても銀次を選ぶって言うなら、仕方ないよな……ちゃんと、答えくれてありがとな、澤島」
金吾がそう言い、爽やかな笑顔をくれる。深琴はそれに静かに頷いた。すると金吾は、銀次に向かって、おい、と低く呼んだ。
「澤島泣かせたら、力ずくでもおれのものにするからな」
金吾の言葉に、銀次が深く頷く。
「泣かさない。もう、絶対……大事にする」
そう言うと銀次は倒れていた深琴の自転車を起こしてから深琴に手を差し伸べた。
「送るよ、深琴さん」
深琴はそれに頷いてから、ゆっくりと銀次の手を取った。
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
その首輪は、弟の牙でしか外せない。
ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。
第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。
初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。
「今すぐ部屋から出ろ!」
独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。
翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。
「俺以外に触らせるな」
そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。
弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。
本当にこのままでもいいのか。
ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。
その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。
どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。
リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24)
※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。