不器用なきみの手をひいて

藤吉めぐみ

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10-1★


 もう何度も銀次に抱かれているのに、今日はいつもよりドキドキした。随分前から恋人としてこうしてきたのに、なんだか体までおかしい。いつもより、ずっと熱くて、銀次の指先が素肌に軽く触れただけで感じてしまう。
「なに、深琴さん……もう溶けそうな顔してる」
 可愛いなあ、と言いながら銀次は深琴をベッドへと組み敷いた。深琴はそんな銀次を拗ねたような目で見上げる。すると銀次は、口の端を引き上げて、責めてないよ、とそっとキスを落とした。
「むしろ嬉しいって話だから、怒らないでよ」
 キスの隙間から囁くように言われ、深琴は返事の代わりに目を閉じる。視界を遮ると、銀次のぬくもりや唇から漏れる吐息を更に強く感じて、なんだか恥ずかしくなって深琴は目を開けた。するとすぐそこに銀次の顔があって、深琴は驚いて固まってしまう。
「深琴さんは可愛いよ」
「……そんなこと、なんで……」
 今言うのだ、と首を傾げると、銀次は深琴の頬をそっと手のひらで包み込んだ。
「かっこいいし、優しいし、一緒にいて楽しいよ」
「銀次?」
「俺さ、深琴さんと初めて会った時、もちろんキレイな人だなって思って惹かれたよ。でもさ、好きになったきっかけはそこじゃないんだ」
 そう言うと、銀次はそっと深琴の手を取って、指を絡めた。
「雨の日、傘くれようとしたでしょ? 俺もうコンビニの前なのに、そこで買えば済むのに、深琴さん自分が濡れちゃうのに傘差し出してくれて……その時の一生懸命な顔と、少し震える手が、すごく愛しく見えたんだ」
「……あれは、忘れてくれないか……」
 自分でも訳のわからない行動だったと思う。しかも上手く言葉も出なくて、銀次にとって恐怖体験だったと言われても文句は言えない。
「どうして? ああこの人、俺のためにここまで走ってくれたんだなって、俺に傘あげて濡れて帰るつもりなんだって、すごく感動したんだよ。忘れるわけないよ。一瞬で恋に落ちたんだから」
 そう言いながら銀次は微笑み、柔らかなキスを落す。深琴はそれを受け入れながら、それでも眉を下げた。
 思えば、銀次と出会ってから、自分は恥ずかしい行動ばかりとっている。年上だというのに銀次よりもいつも落ち着きも余裕もなかった。
「……銀次は僕のどこがいいんだ……?」
 銀次の顔を見上げ聞くと、その顔が一瞬驚いて、それからふっと笑みを含んだ。
「今更聞くかな、そんなこと。全部って今なら言うけど……一番初めに好きになったのは表情、かな」
 銀次の言葉に深琴は首を傾げる。表情とはどういうことだろう? 自分はそんなに豊かな方ではないはずだ――そう思っていると銀次が、ほらね、と鼻先をくっつけてきた。
 間近でみる銀次の表情が本当に優しく笑む。
「今、どういうことだろうって、考えたでしょ? 口には出さないけど、深琴さんは表情に出てるんだよ。それがものすごく可愛い」
 ちゅっ、と音を立ててキスをすると、銀次はゆっくりと深琴の裸の胸に手のひらを滑らせた。それだけで深琴の肌は粟立ち、背中がぞくりと快感を走らせる。
「ほら、今も……銀次もっとって、顔してる」
「し、してない……!」
 嘘だ。本当はそう思った。もっと触って欲しい、もっと銀次とくっつきたい、と。
「してたよ……まあ、してなくても俺が触りたいから触るけどね」
 銀次はそう言って微笑むと深琴の胸の先を指先で優しく転がした。深琴の喉から甘い声が漏れ、深琴は恥ずかしくなって銀次から視線を逸らす。
 何度抱かれてもこれだけは慣れない。これから深く繋がるという高揚感とそれに興奮している自分の体への羞恥と、まだ表に出ている理性がぐちゃぐちゃになって頭の中がおかしくなる感覚――怖い、とも表現できるようなその感覚に深琴は今でも慣れなかった。
「大丈夫だよ……俺がいるでしょ」
 その言葉に、深琴は金吾から聞いたもうひとつの事実を思い出す。
「……でも、銀次は傍からいなくなるんだろ……?」
「え? ……あ、兄ちゃんが言ってたことか。確かにそういう話はあるけど、俺は深琴さんの傍に居る。深琴さんを一人になんて絶対しない」
 硬くなった体を解すように、銀次が深琴の耳元で囁きながら胸の突起を愛撫する。次第に上がる息の隙間から深琴は銀次を呼ぼうとするが、出るのは嬌声ばかりで銀次を呼べない。もどかしさに手を伸ばすと、それを銀次がしっかりと捕らえてくれた。
「うん……深琴さん、怖くないよ。どんな深琴さんも可愛いし、キレイだよ――愛してる」
 愛してる――その言葉に深琴が目を開く。興奮で潤んだ視界に銀次の笑顔が映った。
「僕、も……」
 銀次の手がするりと深琴の中心へと伸びる。そのまま手の中に包まれ、深琴はその快感に背中をしならせた。
「あ、や、ぎん、じ……まって……」
 愛してる、と言わせて欲しい。ちゃんと答えさせて欲しいから、手を止めて欲しいのに、銀次は手を止めるどころか、深琴が吐き出す先走りを使って後ろにも指を潜ませた。
「あっ、や……っ!」
 銀次の長い指が深琴の中を探るようにうごめく。銀次の指は慣れたように深琴の一番好きなところを何度も往復していくので、深琴の理性はその度に削られ吹き飛んでいった。もう言葉で愛してる、なんて言えなかった。深琴は短い呼吸を繰り返しながら、その指がくれる甘い痺れを受け止めることで、体全部で愛してることを伝えようと銀次を見つめた。
 すると、銀次は深琴の顔に今まで一番優しい笑顔を向け頷いた。
「知ってる。言葉じゃなくても分かってるよ……俺もすごく愛してるから」
 ホントにひとつになれたらいいのにね、と銀次が囁く。深琴はそれに頷いて口を開いた。
「なろう、銀次……」
 今だけでもひとつに――深琴が両腕を伸ばして銀次を包み込むように抱きしめると、銀次は深琴の首筋に赤い痕をつけて頷いた。
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