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【後日談】不器用でもきみと手を繋いで1
慣れた玄関ドアの鍵を開けると、そこには既に一足の靴が並んでいた。銀次が先に帰っていると知ると、やはり少し嬉しい。
深琴は急いで靴を脱いで、リビングへと向かった。
「おかえり、深琴さん」
「ただいま、銀次」
ソファに座り、膝にノートパソコンを置いている銀次に近づくと、銀次の手がこちらに伸びる。それを合図に深琴が近づくと、そのまま肩を引き寄せられ、キスをする。
銀次と付き合い始めて二年、同棲を始めて一年半が経っていたが、自分たちは相変わらず蜜月の中にいた。
「そういえば、加賀さんから手紙が来てたよ」
「手紙?」
銀次に言われ、深琴がダイニングテーブルに近づく。いつもそこに郵便物を置くくせのある銀次は、やはり今日もそこにポストに入っていたものをまとめて置いていた。
「ホントだ……って、これ……」
手紙を手に取った深琴が、えー、と叫ぶ。それに驚いたのか、銀次が、どうしたの? と傍に寄った。
「これ、結婚式の招待状だろ」
「そうだね」
「しかも、相手……加奈さん?」
「あれ? 深琴さん知らなかったの?」
「知らなかった……って、銀次知ってたの?」
深琴が聞くと銀次が頷く。そんな銀次に深琴が眇めた目を向けた。
「てっきり深琴さんは知ってるかと……付き合い出したのは、俺たちがこっちに引っ越してきてからみたいだけど、きっかけは、深琴さんの転職だよ。加賀さんも色々手伝ってくれただろ? その時に加奈さんに会って、好きになったって言ってた」
確かに、『さわじま歯科』を休業にするにあたって、加賀にも協力して貰った。加奈が駅向こうの歯科へ再就職できるようにお願いした時も、そういえば加賀が車を出してくれたりした気がする。
「ええ……どうして言ってくれなかったんだよ……」
「二人とも恥ずかしかったんじゃない? まさか、深琴さんをキューピッドにするとは思ってなかっただろうから。俺も、実は兄ちゃんから聞いたんだよね」
銀次の兄の金吾は今、実家の自転車屋を継いでいる。それもあって銀次はこうして以前と同じデザインの仕事が出来ている。金吾と加賀は深琴と同じように元同級生だし、同じ町にいるから、親しくしているのだろう。話さなくても、実際に加賀と加奈が一緒に居るところを見ていてもおかしくはない。
「いや、急に結婚とか言われる方が何倍も驚くんだけど」
「だよね。でも、行くでしょ?」
「そりゃね。よく知る二人の門出だし、行かない理由がないよ」
深琴が笑顔で銀次を見上げる。銀次はそれに頷いて、一緒に行こう、と微笑んだ。
その日はよく晴れて、二人の祝いの日としてはとてもいい日だった。
初めて見る加賀の緊張した顔も、加奈の幸せそうな顔も、深琴にとってとても幸せなものだった。
式は小さく、限られた人たちで行われ、披露宴はせずに、普段着に着替えた二人を中心にパーティーが行われた。そして今は、二次会と称して、加賀と加奈、そして深琴と銀次の四人で、以前よく飲みに来ていた焼き鳥屋で今日何度目かの乾杯をしていた。
「ていうかさ、どうして結婚するまで教えてくれなかったわけ?」
テーブルを挟んだ向こうに並んで座る加賀と加奈の指に光るリングを見て、深琴が少し拗ねた顔で問う。加賀はそれに眉を下げ、ごめんって、と苦く笑った。
「何かのタイミングで言おうとは思ってたんだけど……色々タイミング逃してるうちに、子どもが出来て、じゃあもう、結婚するってサプライズで言っちゃえ、みたいな?」
加賀の言葉に、深琴が、子ども、とぽつりと呟く。更にサプライズをされて、今度は加奈に視線を向けた。
「おめでとう、加奈さん」
「ありがとうございます、先生」
少し照れたように笑う加奈に、深琴は優しく頷く。それを見ていた銀次が、デキ婚か、とにやにやとして加賀に視線を向けた。
「別に……そうならなくても結婚するつもりで付き合ってたよ」
「いや、いいんじゃない? 子はかすがいって言うし、きっと幸せな家族になるよ」
銀次が、おめでとう、と微笑む。加賀も加奈もそれに、ありがとう、と笑っていたが、深琴だけは、上手く笑顔になれなかった。
『子はかすがい』、なんてよく聞く言葉だし、今の加賀と加奈にとっては、まさにそうだと思う。けれど、深琴には重い言葉だった。自分は、どんなに銀次を愛しても、愛されても、子どもを宿すことはできない。自分と銀次を繋ぎ止めてくれる『かすがい』はどんなに待っても生まれてこない。
銀次もやっぱり子どもが欲しいのだろうか――そう考えると深琴の気分はどんどん落ち込んでしまう。
「深琴? どうかした?」
急に黙り込んでしまったからだろう。向かいに居た加賀が心配そうな顔をする。深琴はそれに精一杯の笑顔を向けて、なんでもない、と手元のグラスを取り、口を付けた。
「今日はお祝いだから、飲もう、加賀!」
「それは有難いけど……深琴弱いんだから、ほどほどにな」
眉を下げる加賀に、平気だよ、と笑って、深琴はグラスの中に入っていたハイボールを一気に呷った。
深琴は急いで靴を脱いで、リビングへと向かった。
「おかえり、深琴さん」
「ただいま、銀次」
ソファに座り、膝にノートパソコンを置いている銀次に近づくと、銀次の手がこちらに伸びる。それを合図に深琴が近づくと、そのまま肩を引き寄せられ、キスをする。
銀次と付き合い始めて二年、同棲を始めて一年半が経っていたが、自分たちは相変わらず蜜月の中にいた。
「そういえば、加賀さんから手紙が来てたよ」
「手紙?」
銀次に言われ、深琴がダイニングテーブルに近づく。いつもそこに郵便物を置くくせのある銀次は、やはり今日もそこにポストに入っていたものをまとめて置いていた。
「ホントだ……って、これ……」
手紙を手に取った深琴が、えー、と叫ぶ。それに驚いたのか、銀次が、どうしたの? と傍に寄った。
「これ、結婚式の招待状だろ」
「そうだね」
「しかも、相手……加奈さん?」
「あれ? 深琴さん知らなかったの?」
「知らなかった……って、銀次知ってたの?」
深琴が聞くと銀次が頷く。そんな銀次に深琴が眇めた目を向けた。
「てっきり深琴さんは知ってるかと……付き合い出したのは、俺たちがこっちに引っ越してきてからみたいだけど、きっかけは、深琴さんの転職だよ。加賀さんも色々手伝ってくれただろ? その時に加奈さんに会って、好きになったって言ってた」
確かに、『さわじま歯科』を休業にするにあたって、加賀にも協力して貰った。加奈が駅向こうの歯科へ再就職できるようにお願いした時も、そういえば加賀が車を出してくれたりした気がする。
「ええ……どうして言ってくれなかったんだよ……」
「二人とも恥ずかしかったんじゃない? まさか、深琴さんをキューピッドにするとは思ってなかっただろうから。俺も、実は兄ちゃんから聞いたんだよね」
銀次の兄の金吾は今、実家の自転車屋を継いでいる。それもあって銀次はこうして以前と同じデザインの仕事が出来ている。金吾と加賀は深琴と同じように元同級生だし、同じ町にいるから、親しくしているのだろう。話さなくても、実際に加賀と加奈が一緒に居るところを見ていてもおかしくはない。
「いや、急に結婚とか言われる方が何倍も驚くんだけど」
「だよね。でも、行くでしょ?」
「そりゃね。よく知る二人の門出だし、行かない理由がないよ」
深琴が笑顔で銀次を見上げる。銀次はそれに頷いて、一緒に行こう、と微笑んだ。
その日はよく晴れて、二人の祝いの日としてはとてもいい日だった。
初めて見る加賀の緊張した顔も、加奈の幸せそうな顔も、深琴にとってとても幸せなものだった。
式は小さく、限られた人たちで行われ、披露宴はせずに、普段着に着替えた二人を中心にパーティーが行われた。そして今は、二次会と称して、加賀と加奈、そして深琴と銀次の四人で、以前よく飲みに来ていた焼き鳥屋で今日何度目かの乾杯をしていた。
「ていうかさ、どうして結婚するまで教えてくれなかったわけ?」
テーブルを挟んだ向こうに並んで座る加賀と加奈の指に光るリングを見て、深琴が少し拗ねた顔で問う。加賀はそれに眉を下げ、ごめんって、と苦く笑った。
「何かのタイミングで言おうとは思ってたんだけど……色々タイミング逃してるうちに、子どもが出来て、じゃあもう、結婚するってサプライズで言っちゃえ、みたいな?」
加賀の言葉に、深琴が、子ども、とぽつりと呟く。更にサプライズをされて、今度は加奈に視線を向けた。
「おめでとう、加奈さん」
「ありがとうございます、先生」
少し照れたように笑う加奈に、深琴は優しく頷く。それを見ていた銀次が、デキ婚か、とにやにやとして加賀に視線を向けた。
「別に……そうならなくても結婚するつもりで付き合ってたよ」
「いや、いいんじゃない? 子はかすがいって言うし、きっと幸せな家族になるよ」
銀次が、おめでとう、と微笑む。加賀も加奈もそれに、ありがとう、と笑っていたが、深琴だけは、上手く笑顔になれなかった。
『子はかすがい』、なんてよく聞く言葉だし、今の加賀と加奈にとっては、まさにそうだと思う。けれど、深琴には重い言葉だった。自分は、どんなに銀次を愛しても、愛されても、子どもを宿すことはできない。自分と銀次を繋ぎ止めてくれる『かすがい』はどんなに待っても生まれてこない。
銀次もやっぱり子どもが欲しいのだろうか――そう考えると深琴の気分はどんどん落ち込んでしまう。
「深琴? どうかした?」
急に黙り込んでしまったからだろう。向かいに居た加賀が心配そうな顔をする。深琴はそれに精一杯の笑顔を向けて、なんでもない、と手元のグラスを取り、口を付けた。
「今日はお祝いだから、飲もう、加賀!」
「それは有難いけど……深琴弱いんだから、ほどほどにな」
眉を下げる加賀に、平気だよ、と笑って、深琴はグラスの中に入っていたハイボールを一気に呷った。
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