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【後日談】不器用でもきみと手を繋いで2
何杯目かのハイボールを頼み、それを呷ったところまでは覚えているのだが、その後の記憶がぷつりと途絶えた深琴が、次に意識を取り戻したのは、静かな部屋のベッドの上だった。
「……もう、飲めないな……」
「飲まなくていいよ」
深琴の呟きに返事が返り、深琴はゆっくりと体を起こした。隣のベッドには銀次が腰掛けている。
「起きた? 喉乾いてるでしょ。水持って来るよ」
立ち上がった銀次を追うように視線を動かすと、ここがホテルの一室だとわかる。深琴のマンションは当然解約してしまっているし、クリニックは物置と化している。二人で銀次の実家に泊まることもできないので、今日は少し離れた駅前のホテルを取っていた。
「ごめん……ここまで運ばせたね」
「平気。深琴さんは相変わらず軽いから」
タクシーだったしね、と言いながら銀次がペットボトルの蓋を開け、ストローをさしてから深琴にそれを差し出す。深琴は素直に受け取り、中身を少し飲んでから、更に、ごめん、と謝った。
「今度は何?」
銀次はそんな深琴の背後に座り、後ろから包むように深琴を抱きしめる。
「僕が、男で……」
深琴が小さく言うと、後ろから吹き出すような笑い声が聞こえる。それから、どういうこと? と優しい問いが返った。
「僕じゃ、子ども、産んであげられないし……結婚もできない、から……」
今日の加賀と加奈は幸せそうだった。みんなに祝福され、永遠の愛を誓って、その証のリングをすることが許されるのは、この国では異性同士だけだ。自分と銀次にはできない。まして、家族を増やすなんてことも不可能なのだ。
「まあ、深琴さんなら子ども出来たって言われても不思議じゃないけど……別に子どもなんて要らないよ? 深琴さんがどうしても世話をする相手が欲しいって言うなら、犬でも飼う?」
「犬? ……犬でもかすがいに、なる?」
深琴が聞き返すと、銀次は、そういうことか、と強く深琴を抱きしめた。
「俺の言ったことのせいで、深琴さんのこと悩ませちゃったんだね。ごめん。俺は、別に深琴さんとの間に『かすがい』なんて要らないと思ってるよ。そんなものなくても、俺は一生深琴さんから離れないし」
「でも……」
銀次の言葉が信じられないわけじゃない。ただ、その存在や、法律で相手を縛ることができるのが少し羨ましいのだ。
「俺は、深琴さんをずっと愛してるよ」
銀次が深琴の頬に手を掛け、軽く振り向かせると、そのままキスをする。
「でも、深琴さんが不安だって言うなら、結婚しようか」
「……え?」
驚いて銀次を見上げると、その顔が優しく笑む。
「家族になるっていう意味なら、養子縁組でもいいし、引っ越ししてパートナーシップ制度使ってもいいし……いっそ海外で式挙げる? それもいいよね」
銀次はそう言いながら、深琴の左手を取り、さっき開けただろう、ストローの袋を深琴の薬指に結び付けた。それからそこに軽くキスをする。
「まさか深琴さんに結婚願望があると思ってなくて、こういうの全然用意してないんだけど……帰ったらちゃんと買いに行こう? 指輪ならいつでも用意してあげる」
銀次が微笑んで深琴の手を握る。深琴はそんな銀次の手を握り返した。
「銀次……ありがとう!」
深琴は体ごと振り返り、銀次の首に腕を廻して抱きついた。深琴の手から慌ててペットボトルを外し、傍に置いた銀次が、しっかりと深琴の体を受け止める。
「俺たちは、証がなくても一生一緒って、確信持って言えるけど、証があるに越したことはないよね」
銀次の言葉に深琴が頷く。深琴は銀次の背中に廻していた腕を伸ばし、自らの左手を広げた。薬指に巻かれたビニールのリボンを見て微笑む。
「何? それ気に入った?」
深琴の様子を見ていた銀次がくすくすと笑う。それに深琴が頷いた。
「うん。銀次がくれたものだからね」
「ちゃんとホンモノもあげるよ」
「それでも……これが嬉しい」
他人にとっては、ただのゴミだが、深琴にとっては銀次の優しい気持ちそのものだ。だからこれが嬉しい。
「じゃあ、ホンモノあげるまで大事にして?」
深琴の体を少し離し、顔を合わせた銀次が優しく笑む。深琴はそれに頷いた。そんな深琴に銀次がキスをする。
「ずっと、愛してるよ。深琴さん」
「……僕も」
誓うようにもう一度キスをする。
いつか、ホンモノを銀次がくれる時は、きっともっと幸せで、もっと離れられないと思うのだろう。そう思うと、自分たちにはそれで十分な気がした。
「ずっと、一緒に居よう」
銀次の言葉が嬉しくて、深琴はまた、銀次の胸に飛び込んだ。
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