11 / 13
3-3
しおりを挟む平日ど真ん中の夕方のカフェは割と客が多い。多分、店の周りにオフィスが多いからだろう。このカフェの定休日が日曜日なのも、そんな理由からだ。
「白浜さん入ってくれるとめっちゃ楽ですね。さすが、金曜日の夕方捌いてるだけあります」
カウンターの奥で備品を揃えていると、バイト仲間で大学の後輩の女の子・湯楽が笑顔で近づいてきた。彼女とは土曜の昼のシフトが被っているのでよく話をする仲だ。
「水曜もなかなかだね。でも湯楽ちゃんと一緒だと安心する」
「えー、私全然戦力じゃないですよ。まだラテアート出来ないし」
「積極的に接客してくれるだけで有り難いよ」
一人だとどんな仕事もやるけれど、人数が揃うと楽がしたくて裏方に徹してしまう人もいる。そんな中で『私レジ入ります』と面倒な注文業務に入ってくれる人はとても貴重だ。
心都が素直に伝えると、湯楽の頬が赤くなり、ありがとうございます、と呟いて目を伏せた。
「と、ところで、どうして水曜入ってるんですか? 確かに水曜一人辞めちゃって大変だけど、前に白浜さん、店長からの打診断ってた記憶があって」
湯楽は、手伝います、と備品の袋を開け、棚に紙カップをしまいながら聞いた。
「水曜は用事があって断ってたんだけど、状況聞いたらね。でも新しい人が入るまでだよ」
本当は用事なんてなくて、ただこの曜日に入りたくないだけだったのだが、その理由は人には言えなくて心都は『用事』と曖昧な理由を付けて、水曜のシフトを断っていた。
「心都、水曜出勤珍しいね。教えてくれたら、オレも同じ時間に入ったのに」
心都の姿を見つけ、こちらに速足で近づいてきたのは、バイト仲間の嶺崎だ。年齢は一緒だが大学は別で、半年前までは同じ火曜日のシフトに入って一緒に働いていた。
「あー、うん。まあね」
素っ気ない心都の返答に付け足すように湯楽が、応援だそうです、と笑って言葉を足した。
「そうなんだ。だったら、今日夕飯行こうよ。奢るから」
「いや、今日は閉店前に上がるし、悠隆と会う約束してるんだ」
本当は今日はもう会う予定はないのだが、そう言わないと断り切れない気がして心都が話すと、嶺崎の表情が怪訝に変わった。少しつり上がった眉を見て、心都が視線を逸らす。嶺崎を見ていると指先から体温が消えていく感覚がする。
「悠隆って、いつも心都といたヤツだよな? 行方不明になったって」
「戻ってきたって、大学でも話題になってました! よかったですよね」
「死んでなくて良かったとは思うけど、オレはあまりあいつ好きじゃないな」
「えー、小日向さん明るくていい方ですよ」
ねえ、と湯楽がこちらに同意を求めるように視線を向ける。心都は、そうだね、と湯楽に微笑んだ。
「そうか? 普段ニコニコしてる奴ほど怖いだろ」
「あ、嶺崎さん、小日向さんがイケメンだから嫉妬ですか?」
湯楽がにやにやと笑いながら嶺崎を見やる。怖いものなしの湯楽は時々こんなふうに人の核心をつくようなことを言うが、それが大体合っているので大抵ぐうの音も出ない。
「そ、そんなわけないだろ。ていうか、仕事しろ、お前ら」
この時の嶺崎も返す言葉がなくて、話題を変えることで逃げた。二人のやり取りを見ていた心都が小さく笑ってから、悠隆も僕も大丈夫だから、と口を開いた。
「嶺崎も構わなくていいから」
「アイツはどうでもいいけど、心都のことは『友達』として助けたいと思ってるよ。こうして近くに居るわけだし、なんでも気軽に相談してよ」
嶺崎が心都に手を伸ばし、髪を撫でる。心都は全身に鳥肌がたったのを感じながら、ありがとう、と微笑んで、フロア見てくるね、とその場を逃げるように離れた。
心都は嶺崎が苦手だ。半年前までは、嶺崎の言う通りバイトを通して知り合った友達だったのだが、バイトの後に酒も含めて食事をした帰り、嶺崎の部屋に連れ込まれて襲われたのだ。とにかく必死で抵抗したので行為について言うなら未遂なのだが、未だに肌を舌が辿る感覚や後ろに指が入り込む音も覚えていて、それと同時にあの時の恐怖もよみがえってきてしまう。
そんなことをしたくせに嶺崎は『酔ってたから覚えてないな』で済ませ、未だに心都に絡んでくるのだから、こちらから距離を取るべきだと思ってシフトの曜日を変えた。嶺崎が追ってくることもなかったのでほっとしていたのだが、まだ機会があれば心都とあの日の続きをしようと思っているのかもしれない。
そう考えると、やっぱり少し怖い。本当はバイト自体を変えるべきなのかもしれないが、バイト先なんてなかなか変えられるものでもない。
とにかく気を付けて過ごそう、と改めて思う心都だった。
3
あなたにおすすめの小説
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
花屋の息子
きの
BL
ひょんなことから異世界転移してしまった、至って普通の男子高校生、橘伊織。
森の中を一人彷徨っていると運良く優しい夫婦に出会い、ひとまずその世界で過ごしていくことにするが___?
瞳を見て相手の感情がわかる能力を持つ、普段は冷静沈着無愛想だけど受けにだけ甘くて溺愛な攻め×至って普通の男子高校生な受け
の、お話です。
不定期更新。大体一週間間隔のつもりです。
攻めが出てくるまでちょっとかかります。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました
雪
BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」
え?勇者って誰のこと?
突如勇者として召喚された俺。
いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう?
俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?
猫を追いかけて異世界に来たら、拾ってくれたのは優しい貴族様でした
水無瀬 蒼
BL
清石拓也はある日飼い猫の黒猫・ルナを追って古びた神社に紛れ込んだ。
そこで、御神木の根に足をひっかけて転んでしまう。
倒れる瞬間、大きな光に飲み込まれる。
そして目を覚ましたのは、遺跡の中だった。
体調の悪い拓也を助けてくれたのは貴族のレオニス・アーゼンハイツだった。
2026.1.5〜
異世界転移をした俺は文通相手の家にお世話になることになりました
陽花紫
BL
異世界転移をしたハルトには、週に一度の楽しみがあった。
それは、文通であった。ハルトの身を受け入れてくれた老人ハンスが、文字の練習のためにと勧めたのだ。
文通相手は、年上のセラ。
手紙の上では”ハル”と名乗り、多くのやりとりを重ねていた。
ある日、ハンスが亡くなってしまう。見知らぬ世界で一人となったハルトの唯一の心の支えは、セラだけであった。
シリアスほのぼの、最終的にはハッピーエンドになる予定です。
ハルトとセラ、視点が交互に変わって話が進んでいきます。
小説家になろうにも掲載中です。
触手生物に溺愛されていたら、氷の騎士様(天然)の心を掴んでしまいました?
雪 いつき
BL
仕事帰りにマンホールに落ちた森川 碧葉(もりかわ あおば)は、気付けばヌメヌメの触手生物に宙吊りにされていた。
「ちょっとそこのお兄さん! 助けて!」
通りすがりの銀髪美青年に助けを求めたことから、回らなくてもいい運命の歯車が回り始めてしまう。
異世界からきた聖女……ではなく聖者として、神聖力を目覚めさせるためにドラゴン討伐へと向かうことに。王様は胡散臭い。討伐仲間の騎士様たちはいい奴。そして触手生物には、愛されすぎて喘がされる日々。
どうしてこんなに触手生物に愛されるのか。ピィピィ鳴いて懐く触手が、ちょっと可愛い……?
更には国家的に深刻な問題まで起こってしまって……。異世界に来たなら悠々自適に過ごしたかったのに!
異色の触手と氷の(天然)騎士様に溺愛されすぎる生活が、今、始まる―――
※昔書いていたものを加筆修正して、小説家になろうサイト様にも上げているお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる