親友のお願いを聞いたら異世界から来た騎士様に求婚されました

藤吉めぐみ

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 電車とバスを乗り継いで出掛けた先はショッピングモールだった。ここまでで交通機関の使い方を教えられたし、買い物の仕方も教えれば、一人で買い物をして帰るくらいは出来るようになるだろうと思って選んだ場所だ。
「……街の大通りが建物の中に入ってるようだな……」
 両脇に店が並ぶ通路のど真ん中に立ち、呆然とするアイゼルがぽつりと呟く。確かにこのショッピングモールは何でも揃っていて、少し移動が面倒だなと思うくらいには広さもある。
「アイゼルの国は、路面店が多いのかな?」
「大通りに面している店はほとんど高級店だ。俺たち庶民は裏通りにある市場や古物商から買うことが多い。ただ、この景色はその大通りに似ている」
「そうなんだ。じゃあ、今日は貴族気分で色んな店に入ってみよう。気に入ったものがあれば買っていいよ」
 心都がカバンから小さな財布を取り出し、アイゼルに差し出した。アイゼルが首を傾げたままそれを受け取る。
「少ないけど中に現金が入ってる。僕も教えるから、買い物が出来るようになろう」
 心都がアイゼルを見上げ微笑むが、その言葉をきいた途端、アイゼルの表情は曇ってしまった。その様子に今度は心都が首を傾げた。
「嫌、なの?」
「そうではなくて……結局心都は、今をデートだとは思ってないのだなと、分かっただけで……この世界で生きるための訓練なのだろう?」
 沈んだ表情でこちらを見やるアイゼルに、心都の心は少し痛んだ。アイゼルを自立させるつもりでここまで連れてきたのは確かだが、心都だってそこまで割り切ってここまで来ているわけではない。
「そうだけど……僕は、アイゼルと一緒に居て楽しいよ。デートの中には、ショッピングデートっていうのもあるから、これもデートだと思えばデートだと思うけど」
 ものは言いようか、と自分でも思ったが、アイゼルと一緒に居て楽しいという気持ちに嘘はない。それに、アイゼルの表情が華やいだので、この言葉は正解だったのだろう。
「そうか……だったら行こう、心都」
 アイゼルは破顔して、こちらに肘を突き出した。おそらく、そこに腕を絡めろと言っているのだと思うが、さすがに休日のショッピングモールという人ごみの中でそんな大胆な事はできるわけがない。
「アイゼル、エスコートのつもりかもしれないけど、僕にそれは不要だし、この国ではまだ同性で手を繋いだり腕を組むことは珍しいんだ。今日は気持ちだけ貰っておく」
 心都はできるだけ分かりやすく、角のない言葉を選んでアイゼルに伝えた。アイゼルがしばらく心都の言ったことを咀嚼するように黙り込んでから、そっと腕を下ろした。
「悠隆から、こっちは異性と恋愛するのがスタンダードだと聞いた。ここに居たいなら、そういうことも受け入れていかなきゃいけないんだな」
 少し肩を落としたアイゼルがぽつりと呟いて歩き出す。心都はその隣を歩きながら、そうだね、と頷いた。
「ただ、ダメというわけではないんだ。人によっては、堂々としているし……ごめんな、僕が恥ずかしいだけなんだよ」
「……心都は奥ゆかしいんだな。そういうことなら、俺はいくらでも心都に寄り添う。またひとつ、心都のことを知れて嬉しい」
 アイゼルが嬉しそうに相好を崩す。その笑顔を見て、心都はきゅっと胸が締め付けられるような不思議な気持ちになった。
 アイゼルが本当に心都を好きなら、もしかしたらこんな一言で心都もアイゼルを好きになっていたかもしれないと思う。
「ねえ、アイゼルの『憧れの人』も、そんな性格?」
「いや、あの方は何をしても堂々としていて、奥ゆかしさはほとんどない方だ。いつも何をするでも迷いがなくて……例えて言うなら、真昼の太陽のようだよ」
 アイゼルが少し眩しそうに目を細める。きっとその人を思い出しているのだろう。全部を照らすような太陽は、きっと誰にとってもキラキラして見えるのだろう。明るくて朗らかな人だと想像できた。
「自分に自信のある、素敵な人なんだな」
「そうだな……心都とは違う」
 アイゼルが満面の笑みでとても鋭い言葉をこちらに放った。直接心臓に刺されたその言葉で、心都は息を詰めた。
 心都は自分に自信がある方ではないし、素敵という言葉とは程遠いと思う。ただ、はっきりと違うと言われるのはやっぱり傷つくものだ。そんなにはっきり言えるのなら、どうしてこんなところまで来たのだろう。叶わない恋を捨てて顔だけ似ている心都に会って、やっぱり違うと感じているのなら、さっさと離れればいいのにと思う。どうしてこんなにこちらが傷つかなきゃいけないのか、どうして傷ついているのかすら、心都には分からなかった。
 ただ、その言葉が痛いと思うくらいには、アイゼルのことを気に入っていたらしい。
「そ……か。うん、じゃあ、とにかく早く一人で生活できるようになろうか。それと同時に向こうに戻る手段がないか、悠隆も交えて考えてみよう」
 心都は少し震える声でまくし立てながら、アイゼルより先に歩いた。アイゼルがそれに慌てて歩調を早める。
「心都……? 俺、また何か間違った言葉使った?」
「いや、何も間違ってないよ。大丈夫」
 振り返ることなく答えると、アイゼルが心都の腕を掴んだ。驚いて心都が顔を上げる。
「大丈夫っていう顔してない。そのくらい、俺にも分かる」
 アイゼルがまっすぐにこちらを見つめる。その透き通った瞳に嘘はつけなくて、心都はため息を吐いた。
「ごめんね、アイゼル。確かに少し悲しくなったけど、これはアイゼルのせいじゃなくて、僕の問題だから。だから、大丈夫」
 何も間違ってないよ、と優しく伝えると、初めは不満そうに心都を見つめていたが、やがて、そうか、と呟いて心都の腕を離した。彼の中で何か納得したのだろう。
「次からは、そういう『心都の問題』でも、きっかけが俺なら、ちゃんと伝えて欲しい。俺は、心都が好きになる男になりたい」
 なんて優しくてまっすぐな言葉なのだろう。でもその言葉を掛けられていいのは本当に自分なのだろうか――そんな疑問を抱きながらも心都は、分かったよ、とアイゼルに微笑んだ。
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