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リゲルの執務室の半分は『保健室』という場所になっていて、使用人たちが自由に出入り出来るようになっている。以前は、マリアもここに居たらしいのだが、結婚を機に異動となったらしい。今は別の女性が居るが、今日は心都が来るため、リゲルが気を利かせて席を外してもらったようだ。確かに今日は、どうしたら元の世界に戻れるのかを相談したかったので、あまり多くの人には聞かせたくなかったから有り難い配慮だ。
ただ、今日はおまけが付いている。
「おや、これは可愛らしい騎士様を付けましたね、心都様」
リゲルの執務室へ行くと、心都の隣で胸を張って立っているティムにすぐに気づかれた。この子がマリアの子であることもリゲルは知っているらしい。
「はい。とてもいい子なので少しだけ、この子もお邪魔していいでしょうか?」
「私は構いませんよ」
「良かった。ティム、さっき書庫から借りた絵本を読んで待っててね。先生はリゲルさんとお話があるんだ」
「ぼくは、ことせんせいのきしだよ。できるにきまってる」
ティムは心都の傍を離れ、執務室の奥にある応接セットへと向かった。椅子によじ登り、早速絵本を開いている。
「ここへは何度か来たことがあるので、勝手を知っているのでしょう。我々はこちらで話しましょうか」
保健室のスペースにある椅子を心都に勧めながらリゲルが微笑む。本当なら応接セットの方で話そうと思っていたようだが、リゲルはティムを咎めなかった。心都も気にせず、勧められた椅子に座る。
「いいのですか……? 幼くても、あいつは今心都様の使用人です。主人を硬い椅子に座らせて、自分はソファに座るなど……」
唯一気にしたのはアイゼルだった。
今日はティムも僕の護衛だよ、と伝えてからとても不機嫌な顔になったのだが、今は益々怪訝な顔になっている。
「本当に騎士になったわけじゃないんだから、そんなに目くじら立てなくても大丈夫だよ。ティムが機嫌よく僕と居て貰うために言ったことに過ぎないんだから」
「……分かりました。差し出がましいことを言って申し訳ありません」
アイゼルが恭しく頭を下げ、心都から少し距離を取る。あんな小さな子に対して機嫌を損ねるくせに自分から距離を取っていってしまうんだと思ったら、そっちのほうが心都には問題のように思う。
「アイゼルは、あの子くらいの歳から騎士として育てられてきてますから、釈然としないのでしょう? でも、心都様の言う通りですよ。心都様をお守りできるのはアイゼルしかいないのです」
心都とアイゼルの間に妙な空気を感じたのだろう。リゲルがそっと言葉を呈する。その言葉を聞いて、アイゼルは納得したように頷いた。
「それで……心都様、お話というのは?」
アイゼルの様子に微笑んだリゲルが立ち上がり、傍にある戸棚に手を掛けた。中にはポットやティーカップが入っている。リゲルはそれを取り出し、お茶を淹れる準備をしていた。その様子を見ながら心都が口を開く。
「多分、予想はされていると思いますが……どうしてもあちらに帰ることはできないのでしょうか……?」
「……現段階では、難しいでしょうね。まず、今は泉の調整が必要なことで、近づくことも禁止しています」
リゲルが淹れるお茶からいい香りが漂ってくる。その香りをまといながら振り返ったリゲルに、心都が首を傾げた。
「調整、ですか?」
「ええ。あの泉が呼ぶ方を間違えたのは初めてで……私の代になってからは一度も力を注いでいないので、おそらくそろそろその頃なのだと」
悠隆をこちらに連れてきてしまったことは、どうやらこちらでも前代未聞だったようだ。原動力が魔法という得体のしれないものでも、バグやエラーは起こるらしい。
「だったら、明日にでも、というわけにはいかないのですか?」
「そうですね……それは少し難しい相談です」
心都にティーカップを手渡しながらリゲルが眉を下げて寂しそうに微笑む。
ただ、今日はおまけが付いている。
「おや、これは可愛らしい騎士様を付けましたね、心都様」
リゲルの執務室へ行くと、心都の隣で胸を張って立っているティムにすぐに気づかれた。この子がマリアの子であることもリゲルは知っているらしい。
「はい。とてもいい子なので少しだけ、この子もお邪魔していいでしょうか?」
「私は構いませんよ」
「良かった。ティム、さっき書庫から借りた絵本を読んで待っててね。先生はリゲルさんとお話があるんだ」
「ぼくは、ことせんせいのきしだよ。できるにきまってる」
ティムは心都の傍を離れ、執務室の奥にある応接セットへと向かった。椅子によじ登り、早速絵本を開いている。
「ここへは何度か来たことがあるので、勝手を知っているのでしょう。我々はこちらで話しましょうか」
保健室のスペースにある椅子を心都に勧めながらリゲルが微笑む。本当なら応接セットの方で話そうと思っていたようだが、リゲルはティムを咎めなかった。心都も気にせず、勧められた椅子に座る。
「いいのですか……? 幼くても、あいつは今心都様の使用人です。主人を硬い椅子に座らせて、自分はソファに座るなど……」
唯一気にしたのはアイゼルだった。
今日はティムも僕の護衛だよ、と伝えてからとても不機嫌な顔になったのだが、今は益々怪訝な顔になっている。
「本当に騎士になったわけじゃないんだから、そんなに目くじら立てなくても大丈夫だよ。ティムが機嫌よく僕と居て貰うために言ったことに過ぎないんだから」
「……分かりました。差し出がましいことを言って申し訳ありません」
アイゼルが恭しく頭を下げ、心都から少し距離を取る。あんな小さな子に対して機嫌を損ねるくせに自分から距離を取っていってしまうんだと思ったら、そっちのほうが心都には問題のように思う。
「アイゼルは、あの子くらいの歳から騎士として育てられてきてますから、釈然としないのでしょう? でも、心都様の言う通りですよ。心都様をお守りできるのはアイゼルしかいないのです」
心都とアイゼルの間に妙な空気を感じたのだろう。リゲルがそっと言葉を呈する。その言葉を聞いて、アイゼルは納得したように頷いた。
「それで……心都様、お話というのは?」
アイゼルの様子に微笑んだリゲルが立ち上がり、傍にある戸棚に手を掛けた。中にはポットやティーカップが入っている。リゲルはそれを取り出し、お茶を淹れる準備をしていた。その様子を見ながら心都が口を開く。
「多分、予想はされていると思いますが……どうしてもあちらに帰ることはできないのでしょうか……?」
「……現段階では、難しいでしょうね。まず、今は泉の調整が必要なことで、近づくことも禁止しています」
リゲルが淹れるお茶からいい香りが漂ってくる。その香りをまといながら振り返ったリゲルに、心都が首を傾げた。
「調整、ですか?」
「ええ。あの泉が呼ぶ方を間違えたのは初めてで……私の代になってからは一度も力を注いでいないので、おそらくそろそろその頃なのだと」
悠隆をこちらに連れてきてしまったことは、どうやらこちらでも前代未聞だったようだ。原動力が魔法という得体のしれないものでも、バグやエラーは起こるらしい。
「だったら、明日にでも、というわけにはいかないのですか?」
「そうですね……それは少し難しい相談です」
心都にティーカップを手渡しながらリゲルが眉を下げて寂しそうに微笑む。
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