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明を家へと送ってから、優は会社へと向かった。狐高に任せたきりの仕事があり、その確認をしなくてはいけないためだ。
メールやリモートでの確認でもよかったが、今日は優のワガママで動いているので、それも謝りたかった。
社長室へ辿り着きドアを開けると、自分のデスクでパソコンに向かう狐高が、顔を上げた。
「おかえりなさいませ、社長」
狐高がそう言って立ち上がる。優はそれに頷いて狐高に近づいた。
「色々任せきりにしてすまない。進捗は?」
「企画資料などは、指示通り決裁して戻しています。明日の会議資料は要点をまとめてメールしておいたので、ご一読を」
「ありがとう、助かったよ」
優はそう言うと、自分のデスクに着き、パソコン画面を立ち上げた。そんな優に狐高が近づく。
「あの子……社長のところを出ていくことになったんですか?」
「明くん? いや、もう少しうちに居るよ。あの子が出ていきたいと言うまでは置いておくつもりだ」
明が望むのであればいくら居てもいいと思っていた。優自身も彼との生活を楽しんでいるところもあるし、明自身が自分と居たいと望んでくれていることが何より嬉しかった。
こんな気持ちになったのは、久しぶりかもしれない。
「……差し出がましいかもしれませんが、社長は本当にそれでいいのですか? 私は反対です」
狐高は少し不機嫌な顔をしてそう言い切る。優はそれに笑って、そんな大袈裟な話じゃないよ、と返した。
「住み込みのハウスキーパーが居るみたいなものだよ。かえって助かってる」
「けど……あの子がいたのでは、未来の社長夫人を呼べないじゃないですか。私は、社長にはもう誰も太刀打ちできない、完璧な方と結ばれて欲しいのです」
「完璧って……まだ、俺にはそんな人は必要ないよ」
今は傍に明が居ればいい、とその笑顔を思い出すと、それだけでなんだか胸の奥が温かくなる。今は、とにかく明を大事にしたいと思っていた。それ以外のことは考えられない。
「そうでなくては、私が困るのです。第一、社長は、あの子のことをちゃんと知ってるのですか?」
狐高の言葉に、優は首を傾げた。ちゃんと、とはどういうことなのか、そもそも狐高がどうしてそんなことを言うのかが分からなかった。
それを見た狐高が小さく息を吐く。それから、見ててください、と言うと、その頭から茶色の三角の耳を出した。
明で見慣れているとはいえ、予想もしていない展開に、優は驚いたまま狐高を見つめた。
「私はきつねの獣人なんです。あの子は、うさぎ、でしたね」
狐高が自分の背後に隠れている茶色の大きな尻尾に触れ、こちらを見つめる。優はそれから視線を外せないまま、言葉も発することが出来なかった。
「あの子も私も、人間社会に適応して仕事をし、番を見つけるのが目的でここに居ます。種類が違っても、同じです。未来に繋ぐための強い遺伝子が欲しいんです」
狐高はそう言うと、デスクに手を付き、優に近づいた。
「あなたのような、です」
それまで驚きで動けなかった優が、狐高から距離を取るように椅子ごと後退る。そんな優に狐高は笑いかけた。
「……まあ、私程度のケモノがあなたのような人を番になど、そんな恐れ多いこと、出来るはずがない。でも、欲しいのは事実です。ですから、そんな私が黙ってしまうような完璧な方を選んでいただきたいのです」
そう言い終わると、狐高はするりと耳と尻尾を引っ込めた。明には出来ないみたいだが、どうやら狐高は自由に出し入れできるらしい。
「私はまだあなたの元で仕事をしたいと思っているのですが、このことを公表しますか?」
狐高はそっと体勢を戻すと、じっと優を見つめた。優は大きく息を吐いてから首を振る。
「……見なかったことにする」
優はそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。
明を家へと送ってから、優は会社へと向かった。狐高に任せたきりの仕事があり、その確認をしなくてはいけないためだ。
メールやリモートでの確認でもよかったが、今日は優のワガママで動いているので、それも謝りたかった。
社長室へ辿り着きドアを開けると、自分のデスクでパソコンに向かう狐高が、顔を上げた。
「おかえりなさいませ、社長」
狐高がそう言って立ち上がる。優はそれに頷いて狐高に近づいた。
「色々任せきりにしてすまない。進捗は?」
「企画資料などは、指示通り決裁して戻しています。明日の会議資料は要点をまとめてメールしておいたので、ご一読を」
「ありがとう、助かったよ」
優はそう言うと、自分のデスクに着き、パソコン画面を立ち上げた。そんな優に狐高が近づく。
「あの子……社長のところを出ていくことになったんですか?」
「明くん? いや、もう少しうちに居るよ。あの子が出ていきたいと言うまでは置いておくつもりだ」
明が望むのであればいくら居てもいいと思っていた。優自身も彼との生活を楽しんでいるところもあるし、明自身が自分と居たいと望んでくれていることが何より嬉しかった。
こんな気持ちになったのは、久しぶりかもしれない。
「……差し出がましいかもしれませんが、社長は本当にそれでいいのですか? 私は反対です」
狐高は少し不機嫌な顔をしてそう言い切る。優はそれに笑って、そんな大袈裟な話じゃないよ、と返した。
「住み込みのハウスキーパーが居るみたいなものだよ。かえって助かってる」
「けど……あの子がいたのでは、未来の社長夫人を呼べないじゃないですか。私は、社長にはもう誰も太刀打ちできない、完璧な方と結ばれて欲しいのです」
「完璧って……まだ、俺にはそんな人は必要ないよ」
今は傍に明が居ればいい、とその笑顔を思い出すと、それだけでなんだか胸の奥が温かくなる。今は、とにかく明を大事にしたいと思っていた。それ以外のことは考えられない。
「そうでなくては、私が困るのです。第一、社長は、あの子のことをちゃんと知ってるのですか?」
狐高の言葉に、優は首を傾げた。ちゃんと、とはどういうことなのか、そもそも狐高がどうしてそんなことを言うのかが分からなかった。
それを見た狐高が小さく息を吐く。それから、見ててください、と言うと、その頭から茶色の三角の耳を出した。
明で見慣れているとはいえ、予想もしていない展開に、優は驚いたまま狐高を見つめた。
「私はきつねの獣人なんです。あの子は、うさぎ、でしたね」
狐高が自分の背後に隠れている茶色の大きな尻尾に触れ、こちらを見つめる。優はそれから視線を外せないまま、言葉も発することが出来なかった。
「あの子も私も、人間社会に適応して仕事をし、番を見つけるのが目的でここに居ます。種類が違っても、同じです。未来に繋ぐための強い遺伝子が欲しいんです」
狐高はそう言うと、デスクに手を付き、優に近づいた。
「あなたのような、です」
それまで驚きで動けなかった優が、狐高から距離を取るように椅子ごと後退る。そんな優に狐高は笑いかけた。
「……まあ、私程度のケモノがあなたのような人を番になど、そんな恐れ多いこと、出来るはずがない。でも、欲しいのは事実です。ですから、そんな私が黙ってしまうような完璧な方を選んでいただきたいのです」
そう言い終わると、狐高はするりと耳と尻尾を引っ込めた。明には出来ないみたいだが、どうやら狐高は自由に出し入れできるらしい。
「私はまだあなたの元で仕事をしたいと思っているのですが、このことを公表しますか?」
狐高はそっと体勢を戻すと、じっと優を見つめた。優は大きく息を吐いてから首を振る。
「……見なかったことにする」
優はそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。
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