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儀式というよりはお披露目に近いそれは、一時間もすると、すっかり宴会の体になっていた。
明の隣で、累から明の小さい頃の話を聞いていた優は、突然叩かれた肩に驚いて振り返った。
「少し、時間貰えるか」
疑問形の言葉ではあるが有無を言わせないその言葉を掛けたのは櫂だった。優がそれに頷き立ち上がる。
「優さん……櫂兄……」
当然隣にいた明もそれに気づき、二人の顔を交互に見つめ不安そうに名前を呼ぶ。優はそれに頷いて、大丈夫、と微笑みかけてから櫂を見やった。
「話をするだけだ。明はここで累と父さんの無限にループする話を聞いてなさい」
確かに先ほどから明の幼少期がどれだけ可愛かったかというエピソードを何度も聞かされている。櫂の言葉に明は安心したのか緩く笑んでから頷いた。
それを見てから櫂と連れ立ち、優はリビングを出た。先に歩いている櫂に続いて廊下を歩き、二階へと上がる。小さなホールになっているそこで立ち止った櫂は、優と対峙するようにこちらを振り返った。
「あんたから連絡が来た時は、正気かと疑ったよ……認めないと言ったのに、結婚式をしたいから家を貸してくれ、なんて」
「……確かに無礼だとは思いました。櫂さんではなく、明くんのお父様かお母様に先に話を通した方がスムーズだったとも思います。でも、どうしてもあなたに認めてもらいたかったんです。それが明くんの憂いだったから」
明の体が変化して、きちんと番わなければと思った時、優がまず相談したのは櫂だった。当然、初めは『お断りします』の一点張りで相手にもしてもらえなかったのだが、明の様子を話し、明の支えになりたいと何度も交渉して、ようやくこの小さな結婚式が実現したのだ。
「……明は我が家の末っ子で、その上体も小さくて、性格も内気な子だったんだ。あの子を守らなきゃ、とおれも累も思ったよ。そして、今日まで全力で守って来た」
優に兄弟はいない。けれど明のような可愛らしい弟がいたとしたら、確かに全力で守りたくもなるだろう。その気持ちは理解できる。
優が小さく頷くと、櫂はゆっくりと言葉を続けた。
「明も、守られることを当然と思って、素直に従順に育ってた。でも……あんたと会ってから変わったんだ」
そう言うと、櫂は優の顔を鋭く見つめた。その迫力に優が居住まいを正す。
「櫂兄、櫂兄って、何でも頼ってた明が、あんたの傍に居たいからって自分で何でも解決しようとするようになった……おれに頼らなくなった! この責任は重い!」
そう言われ、優は一瞬驚いて、それから小さく笑った。櫂は自分たちを認めたくないわけじゃなく、明が兄離れしていったことが寂しいのだ。明を可愛いと思うからこそ、その手を離されたことが辛いのだろう。
「何がおかしい」
再び鋭く睨まれ、優は、いえ、と表情を硬く戻した。
「きっと、明くんは櫂さんのことを頼らなくなったわけではないと思うんです。ただ、今は必死に大人になろうとしてるだけで……心の中ではご両親もお兄さんたちも、まだまだ頼りにしているはずです。きっと、僕なんか足元にも及ばない信頼だと思います……家族なんですから」
優が言うと、しばらく黙っていた櫂が、そうだな、とぽつりと呟いた。
「……月に一回は実家に帰せ。家族に会わせろ――明を……明を一生、愛してやってくれ」
櫂はそう言うと、優に大きく頭を下げた。優はそれに驚き、慌てて櫂の肩に手を伸ばす。
「頭、あげてください。俺は、明くんと出会った頃、孤独と重圧に押しつぶされそうでした。明くんはそんな俺を救ってくれた――だから、明くんから貰ったたくさんの幸せとか温もりをこれから一生かけて返したいんです。明くんのことは、責任をもって幸せにします。櫂さんも、それを見ていてください」
顔を上げた櫂に視線を合わせ、はっきりと言うと、櫂は深く頷いた。それから大きな息を吐く。
「……今、明を呼んでくる。この部屋を用意したから、明をちゃんと番にしてやって欲しい」
櫂はそう言うと、目の前にあるドアを開けた。中には布団が一組敷かれている。なんだか準備万端すぎるその部屋に躊躇していると、櫂が優の背中を押し、部屋へと入らせた。
後ろで扉が閉まる。
儀式というよりはお披露目に近いそれは、一時間もすると、すっかり宴会の体になっていた。
明の隣で、累から明の小さい頃の話を聞いていた優は、突然叩かれた肩に驚いて振り返った。
「少し、時間貰えるか」
疑問形の言葉ではあるが有無を言わせないその言葉を掛けたのは櫂だった。優がそれに頷き立ち上がる。
「優さん……櫂兄……」
当然隣にいた明もそれに気づき、二人の顔を交互に見つめ不安そうに名前を呼ぶ。優はそれに頷いて、大丈夫、と微笑みかけてから櫂を見やった。
「話をするだけだ。明はここで累と父さんの無限にループする話を聞いてなさい」
確かに先ほどから明の幼少期がどれだけ可愛かったかというエピソードを何度も聞かされている。櫂の言葉に明は安心したのか緩く笑んでから頷いた。
それを見てから櫂と連れ立ち、優はリビングを出た。先に歩いている櫂に続いて廊下を歩き、二階へと上がる。小さなホールになっているそこで立ち止った櫂は、優と対峙するようにこちらを振り返った。
「あんたから連絡が来た時は、正気かと疑ったよ……認めないと言ったのに、結婚式をしたいから家を貸してくれ、なんて」
「……確かに無礼だとは思いました。櫂さんではなく、明くんのお父様かお母様に先に話を通した方がスムーズだったとも思います。でも、どうしてもあなたに認めてもらいたかったんです。それが明くんの憂いだったから」
明の体が変化して、きちんと番わなければと思った時、優がまず相談したのは櫂だった。当然、初めは『お断りします』の一点張りで相手にもしてもらえなかったのだが、明の様子を話し、明の支えになりたいと何度も交渉して、ようやくこの小さな結婚式が実現したのだ。
「……明は我が家の末っ子で、その上体も小さくて、性格も内気な子だったんだ。あの子を守らなきゃ、とおれも累も思ったよ。そして、今日まで全力で守って来た」
優に兄弟はいない。けれど明のような可愛らしい弟がいたとしたら、確かに全力で守りたくもなるだろう。その気持ちは理解できる。
優が小さく頷くと、櫂はゆっくりと言葉を続けた。
「明も、守られることを当然と思って、素直に従順に育ってた。でも……あんたと会ってから変わったんだ」
そう言うと、櫂は優の顔を鋭く見つめた。その迫力に優が居住まいを正す。
「櫂兄、櫂兄って、何でも頼ってた明が、あんたの傍に居たいからって自分で何でも解決しようとするようになった……おれに頼らなくなった! この責任は重い!」
そう言われ、優は一瞬驚いて、それから小さく笑った。櫂は自分たちを認めたくないわけじゃなく、明が兄離れしていったことが寂しいのだ。明を可愛いと思うからこそ、その手を離されたことが辛いのだろう。
「何がおかしい」
再び鋭く睨まれ、優は、いえ、と表情を硬く戻した。
「きっと、明くんは櫂さんのことを頼らなくなったわけではないと思うんです。ただ、今は必死に大人になろうとしてるだけで……心の中ではご両親もお兄さんたちも、まだまだ頼りにしているはずです。きっと、僕なんか足元にも及ばない信頼だと思います……家族なんですから」
優が言うと、しばらく黙っていた櫂が、そうだな、とぽつりと呟いた。
「……月に一回は実家に帰せ。家族に会わせろ――明を……明を一生、愛してやってくれ」
櫂はそう言うと、優に大きく頭を下げた。優はそれに驚き、慌てて櫂の肩に手を伸ばす。
「頭、あげてください。俺は、明くんと出会った頃、孤独と重圧に押しつぶされそうでした。明くんはそんな俺を救ってくれた――だから、明くんから貰ったたくさんの幸せとか温もりをこれから一生かけて返したいんです。明くんのことは、責任をもって幸せにします。櫂さんも、それを見ていてください」
顔を上げた櫂に視線を合わせ、はっきりと言うと、櫂は深く頷いた。それから大きな息を吐く。
「……今、明を呼んでくる。この部屋を用意したから、明をちゃんと番にしてやって欲しい」
櫂はそう言うと、目の前にあるドアを開けた。中には布団が一組敷かれている。なんだか準備万端すぎるその部屋に躊躇していると、櫂が優の背中を押し、部屋へと入らせた。
後ろで扉が閉まる。
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