イケメンに育った甥っ子がおれと結婚するとか言ってるんだがどこまでが夢ですか?

藤吉めぐみ

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   その日は思ったよりも早く仕事が終わり、他の部署から仕事を振られないうちに帰ろうと、同僚たちと連れ立ってオフィスを出た。
「まだ外が明るい......」
「その感想、社畜っぽいですよ、麻岡さん」
   会社の外に出た瞬間の感想をそのまま口にすると、隣を歩いていた男性同僚が笑った。そんな同僚の表情も幾分晴れやかだ。
「システム変わってから残業の日が増えましたし、主任の気持ちちょっと分かります」
   一緒に出てきた女性同僚が大きく息を吐く。今日の巽のように対応に追われているのは、巽だけではない。余計に仕事が増えていると感じながらも、会社の方針である以上逆らえず順応していくしかないのだが、やっぱりみんなそれなりに不満とストレスを溜めているらしい。すると、男性同僚が、だったら、と笑顔で巽を見やった。
「たまには、経理担当だけで飲みに行きませんか?」
   その提案に周りにいた数名の同僚が、いいね、と賛同する。けれど巽は、灯希のことを思い出していた。早く帰ると約束したし、やっぱり昨日のことを思うと、もっと灯希の話を聞かなくてはいけないと思うのだ。早く帰れそうなら尚更灯希に時間を使いたいが、同僚の誘いを無下に断るのもどうかと思う。
「主任、どうですか?   たまには行きましょうよ」
   確かに総務課として飲み会をすることは多いが、この限られたメンバーで飲みに行くことはほとんどない。ちょっと迷っていると、巽のスマホがメッセージの着信を告げた。相手が灯希だったので、すぐに巽がその画面を開く。
『鶏肉安かった!』という文字と、買ったのだろう鶏肉のパックの写真が送られていた。夕飯の買い物を既にしているということだろう。
「......悪い。今日はちょっと早く帰らなきゃいけなくて」
   巽が眉を下げて謝ると、同僚が、彼女ですか?   と少し楽しそうな顔でこちらを見つめる。
「違うよ。甥っ子と一緒に暮らしてて......今日は夕飯に好物を作ってくれるらしいから」
   巽が素直に理由を話すと、女性同僚が、いいなあ、と口を開いた。
「家でご飯作って待っててくれる人がいるって羨ましいです。甥っ子さんって学生さんですか?」
「うん、今二十歳で大学生なんだ。イケメンで家事もできて、おれの自慢の子」
「主任の甥っ子さんなら確かにイケメンだって分かりますね」
   主任もイケメンだし、と言われ、いやいや、と首を振る。
「おれを持ち上げても何も出ないよ」
 そう言いつつ、巽は自身の上着のポケットから財布を取り出し、一万円札を数枚取り出した。
「今日の飲み会の足しにして」
 同僚に手渡そうとすると、彼が慌てて、そんなつもりじゃないです、とかぶりを振る。それでも、いいから、と巽は彼に札を渡した。
「一緒に行けないお詫びに。全額出してあげられないけど、楽しんで来て」
 それじゃ、と巽が微笑むと、そこにいた同僚たちが、ごちそう様です、と巽に頭を下げる。巽はそれに手を振ってから、駅に向かって歩き出した。
『今会社出たよ』
 そんな返信をすると、巽の歩調は少しでも早く帰ろうと心なしか速足になる。灯希が待っていると思うと、やっぱりたくさんは待たせたくないと思った。これ以上灯希を悲しませたくない。きっと昨日のことだって、巽に原因があるのだろう。灯希は優しいから何かずっと溜め込んでいたものがあって、それが爆発しただけなのだと思う。その原因を知るためにもやっぱりちゃんと灯希と話をしなくてはいけないのだ。

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