イケメンに育った甥っ子がおれと結婚するとか言ってるんだがどこまでが夢ですか?

藤吉めぐみ

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「巽さん、ただいま。先に帰ってたんだね」
 今ご飯作るよ、とソファにカバンと上着を置いた灯希は、そのまますぐにキッチンへと
向かった。
「……おれも手伝うよ」
 巽がスマホを置いて立ち上がり、灯希の隣へ並ぶ。灯希はそんな巽を見て、少し驚いた顔をしてから、怪我しないでね、と笑った。
「いつもなら、先に飲んでるのにどうしたの?」
「ん……おれもそろそろちゃんと料理くらいできないと、と思って」
 いい歳だしな、とシンクで手を洗っていると、その手を灯希が掴んだ。熱い手の感覚に驚いて巽が灯希を見上げる。その表情はどこか焦りを帯びていて、いつもよりも険しかった。
「どういうこと? 俺がいるんだから、巽さんは料理なんか覚えなくてもいいよね?」
「そういうわけにはいかないだろう? やっぱりこのままじゃだめだと思うんだ」
 灯希はずっと傍にいると言っていたが、それが本当に灯希のためか分からない。さっき見かけた自然な灯希の笑顔は、巽と離れて自由なところで生まれるものなのだとしたら、自分は足枷でしかない。だって今まさに、灯希の表情は曇っている。
「だめじゃないよ。俺は巽さんが好きなんだから、これでいいんだよ」
「よくないよ。さっき……駅前で灯希を見かけた。すごく楽しそうで、おれといる時なんかよりずっと自然な感じで……やっぱり灯希には同年代と過ごす時間だって必要なんだよ。毎日律儀にここに帰ってくる必要なんかないんだ」
 巽が灯希の目を見つめると、灯希は、そんなの要らない、と巽を眇めた目で見つめ返した。それから小さくため息を吐いて、巽の手を握り直す。
「やっぱり近くにいたんだ、巽さん……あのね、もし巽さんが友達といる俺を見て『自然』に見えたなら、それは本当に何も気を遣ってないからだよ。巽さんだって、どうでもいい相手には気を遣ったりしないでしょ」
「そりゃまあ……でも、そういう相手こそ、長く一緒に居れる人なんじゃないか? だから、そっちを大事にした方がいい」
 巽が灯希を見上げ、小さく微笑む。未だに強張った表情の灯希は、更に巽の手を強く握った。離したくない、という気持ちがその行動から伝わってくる。
 灯希の気持ちがそうだとしても、自分のようなおじさんと居ても灯希の為にはならない。短い青春と呼ばれる時期はやっぱり同じ年代の人たちと居る方がいい。
「俺は、俺が大事にしたい人を大事にしてる。それは、巽さんに言われることじゃないよ」
 巽に言われることじゃない――それはその通りなのだが、灯希に初めて反抗されたようで、巽の胸がぎゅっと痛みを覚える。まるで灯希のスペースから放り出されたような、そんな寂しさも覚える。
「そりゃ、灯希の人生だから、灯希が決めていいことだけど……」
「だいたい、大学の友達とは大学で会ってるし、時々は今日みたいに遊んだりしてる。友達とはその距離でいいんだよ。巽さんとの時間の方がずっと大事だ」
 大事、と言われればそれは当然嬉しい。けれど、同時に無意識に灯希を縛っているのではないかと不安にもなる。
「おれは、灯希とは家族なんだから、そんなに大事にされなくても、離れることはないよ。もっと、灯希のしたいことをしていい……今日、女の子と歩いてる灯希を見て、灯希の隣はおれじゃないなって思ったんだ」
 巽が見てもお似合いだと思った。そこにある光景が『普通』なのだと再確認したのだ。灯希の気持ちは嬉しいが、それは『普通』ではない。
「灯希、おれ思ったんだよ。やっぱりおれと灯希はもう少し距離を置くべきだって。きっとそうすれば見えてくるものもあると思うんだ」
 今は巽の近くに居すぎて、巽しか見えてないから、灯希の気持ちも動かないのだろう。巽と離れて、友達との距離を見直せば、もしかしたら夢から覚めるように巽への気持ちもなくなるかもしれない――そんなことを思いながら、巽がなるべく優しくゆっくりと話す。けれど灯希は、嫌だ、と泣きそうな顔をして首を振った。
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