怖がりSubにやさしい命令(コマンド)を

藤吉めぐみ

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「そうやって無防備に笑うの、おれの前だけにしてくださいね」
「そんな……違いなんて分からない」
「それでもです。なんならもう、会社では仮面でも付けてて欲しいくらいです」
「それは……怪しすぎるな」
「央樹さんの可愛い笑顔をみんなに見られるよりマシです。大体、榎波さんだって、あんなこと言って、本当は央樹さんに気があるんだと思うんですよ。じゃなきゃ、Subだって知ったくらいで、同性の同期に馬乗りになんかなります? 裸にしようなんて思いつかないですよ」
 要は狙われてたんですよ、と暁翔が少し不機嫌に言う。央樹はそれを聞いて、そんなはずないだろ、と笑った。
「榎波は……今でこそあんな態度だが、少し前までは仲のいい友達みたいな感じだったんだ。互いの家に行って飲んだりもしてたくらいで……」
 そういう気持ちがあるならもっと前にどうにかなってるかもしれない、と央樹が返すと、それは、と暁翔が口を開く。それから少し躊躇って、それでも言葉を繋いだ。
「……央樹さんに恋人がいたから、じゃないんですか?」
「いや、榎波にはそういうことは話してない」
「話さなくても、そういうのって分かると思うんです。休日出勤を避けたり、遊びの誘いに乗らないことが増えたり、そういう細かいことで、恋人の有無って分かると思うんです。特にそれが好きな相手なら」
「……そういうものか?」
「そういうものです。確信はなくても、おれも央樹さんに恋人はいないって思ってましたから。恋人のいる人は、あんなに残業しないし、休日出勤もしないですしね」
 確かに涼成と別れてから、仕事が恋人だった。治療で休暇を使い果たし、仕事の遅れも取り戻したかったのもあるのだが、なにより仕事に打ち込んでいると何も考えなくて楽だった。仕事中は、自分の性癖なんか関係なく、ただの柏葉央樹として扱ってもらえる。そのことが嬉しかったのだと思う。
「そう、だな」
「だから、おれは央樹さんに近づこうって必死でした。仕事が出来ないことで央樹さんに構ってもらえる後輩たちが羨ましかった。でも、自分もそれと同じにはなりたくなかったから……今こうして居られるのは、おれにとって奇跡です」
 暁翔は笑顔で言うと、央樹に再びキスをした。お湯の中で暁翔の手が動いて、央樹の肌を撫でていく。
「ちょっ、結城……」
 暁翔の手が胸に触れる。焦ってその手を掴むと、暁翔が、嫌ですか? と聞いた。
「嫌ならやめます。プレイじゃないので、嫌ならそう言ってください」
 嫌なら言って、と言いながら、暁翔の指先は震えている。拒まれるのが怖いと思っているのだろう。プレイではなく暁翔に体を委ねていいものかと央樹は迷った。
 このまま暁翔と関係を進めてしまったら、自分が戻れない気がする。もう二度と、暁翔を離してあげられないかもしれない。
 暁翔に恋人の関係はなかったことに、なんて言われても、嫌だと縋ってしまうかもしれない。
「……本当に僕でいいのか? 僕は、プレイ以外で、軽い気持ちでこんなことはしない。もし、結城が僕とのプレイを魅力的に感じていて、その延長なのだとしたら離して欲しい」
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