君の描く透視図

ハジメユキノ

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可愛いあの子

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いつの間にか季節は移り変わり、街路樹は葉を黄色に染めていた。街中にある新しい校舎の専門学校で、僕は今日から講師を務めることになっていた。
教室に入ると、若いインテリアコーディネーターの卵たちが僕のことを待っていた。期待のこもった目で見つめられて、すっと背筋が伸びた。

「さあ、始めましょうか」

私の一声でざわざわしていた教室がしんとなった。

「初めまして。私は建築士の隆秀人(りゅうひでと)といいます。よろしくお願いします」

名乗るまでもなく、この教室にいる生徒たちは隆秀人先生を知っていた。雑誌やメディアでも見かける名の知れた建築家だからだ。
すっと背筋が伸びた、細身だが綺麗に筋肉がついた長身に、仕立ての良いスーツがよく似合っていた。眼鏡もよく似合う長身のイケメン先生に、女子学生たちは熱い視線を送っていた。

「私はあなた方のように本格的にインテリアについて学んだことがないので、そもそもここに立つ資格があるのか。正直自信はありません。ですが、今までの経験の中で、少しでも役に立てる事があるならと、今回講師をお受けすることにしました。むしろあなた方に教わることの方が多いかもしれません。どうか半年の短い期間ですが、よろしくお願いします」

丁寧にお辞儀をした先生に、学生達から拍手が送られた。

「では、挨拶はこの辺にさせて頂いて、昨年完成したK市にあるA邸を紹介します。」

スクリーンに映し出されたA邸は、取り壊される古民家から材料を調達して建てられた、味のある梁がむき出しの温かみのある家だった。
先生は施主のAさんと数え切れないほど話し合い、それこそ趣味や生活スタイルまで掘り起こし、箱としての建物だけでなく、生活全般までデザインしていった。

「これは、一緒にインテリアの軸になる絵画を探しに行ったときの写真です。」

モダンアート作品が沢山並ぶギャラリーに行き、一緒に格好いい作品を見つけてインテリアのコアにした。そこから派生させて部屋をデザインしていった。

「これ、実は僕も欲しかったです」

あはははと学生達から笑いが起きた。

「ちょうど同年代で、好みがバッチリ合った方だったので、僕も自分の好み全開で家具選びまで楽しんでしまいました」

すごく格好いいインテリアに、学生達からため息がもれた。
沢山の質問や意見などを交換しているうちにあっと言う間に時間になってしまった。

「では、この辺で今日の講義は終わりにしたいと思います。次はあなた方の自宅のインテリアを聞いていこうと思います」

えー!どうしよう!とわいわい生徒達がざわつき始めた。

「今度は一週間後なので、それまでに写真、イラスト、何でもいいです。締め切りは…、27日の午後4時でどうでしょうか」

あと5日かぁ。何とかなるかなぁ、いろんな声が聞こえてくる中、僕は資料をまとめて帰り支度をしていた。

生徒達に背中を向けていたので、背後に誰かが立っていることに気づかずにいた。

「えっと…先生」

遠慮がちに声を掛けてきたのは、僕より5センチほど低い、明るい髪の男の子だった。僕を見る瞳がキラキラしている。

「俺、先生の建築が好きで、雑誌に載ったの全部見てます!」

綺麗な瞳だなぁ。

「施主さんのインテリアの相談にものってらっしゃるんですね」

「うん、まぁ…。僕が出来る範囲でね。でも君たちみたいに専門で勉強している訳じゃないから、逆にこれから皆さんに教えてもらいたいと思ってます」

すると、彼は
「俺、一生懸命勉強して、先生が知りたいこと全部答えられるようになります!」

まぶしすぎる…。このまっすぐさ、可愛いなぁ。
軽い感じの男の子なのに、僕の役に立ちたいなんて可愛いこと言っちゃって。
僕はまじまじと彼を見つめてしまった。

「先生…。見すぎですって」

見つめすぎていたことに気付いてハッとした。

「あぁ、ごめんなさい。あっ!ところで君、名前は?」

「智也です。長谷智也(はせともや)」

智也くんね。しかしまぶしい…。

「よろしくね、智也くん」

講師として準備室を一部屋もらえたので、次の講義のテキストとして、資料用に撮っておいた自宅のリビングの写真をパースに起こし始めた。
昔からパースを描くのが大好きで、学生のための資料作りなんて普通なら面倒くさいと思うところだろうけど、逆にウキウキと楽しみながら描いていた。
その内に、持ち込んだコーヒーメーカーから香ばしいいい匂いがしてきた。部屋中に気に入っている近所のコーヒー屋のオリジナルブレンドが香る。アラビアのマグカップにたっぷりと注ぎ、香りを鼻の奥まで吸い込んだ。

「は~、いい匂い…」

『俺、一生懸命勉強して、先生の知りたいこと全部答えられるようになります!』…か。あの子、いいコーディネーターになるといいな…。秀人はさっき会ったばかりの智也に心を奪われていた。

………………………………………………………

~一念発起!~


「ともや…。ともや!」

智也は頭を抱えていた。俺、さっき思わず口走った言葉で自分の首締めたわ…。あぁ…!

「おい!ともやってば!」

全然反応しない智也に、だめだこりゃと周りの友だちはさじを投げてしまった。

「よし!とにかく勉強だ!」

憧れの隆先生の役に立てる奴にならなければ!時にはアドバイスを求められるくらいの…。

「智也が勉強ねえ…」

隣で弘樹が呟くのにも気づかず、智也は「俺、帰って勉強する!」と、カバンを手に取ると、さっさと帰ってしまった。

お金はないし、家だとすぐゲームしちゃうよな…。あっそうだ!図書館があるじゃないか!あそこなら資料もあるし、静かで、なんせ無料(タダ)!

図書館に着くと、うきうきと教科書とノートを広げ、さぼってしまった授業の多さにうんざりしながらノートのコピーをもらった分から片付け始めた。机に向かって集中していたせいで、横に誰か立っていることに気づかずにいた。

「ともやくん?」

周りの迷惑にならないようにだろうけど、至近距離で耳元に自分の名前を囁かれて驚かないはずがない。

「うわっ!」

俺は大きな声を出してしまった。誰だ?と見ると憧れの隆先生ではないか!

「りゅ!」

うぐっと口を大きな手でふさがれた。人差し指を口許に付けた先生が笑っていた。

「ごめん。静かにね」

にこっと眼鏡の奥の切れ長の目が垂れた。
黙ってコクコクとうなずくと、ようやくふさいだ手を放してくれた。

「さっそく勉強ですか?」

先生、いい匂い…。
智也がぽーっとしていると、

「ともやくん?」

不思議そうな顔で見つめている隆先生が…。

「は、はい!」

笑った目がますます垂れて、優しい顔で俺を見つめていた。

「えらいね。君はきっといいコーディネーターになれるよ。楽しみだ」

じゃあ邪魔しちゃ悪いからと、先生は「僕も資料探しに来たんだよ」と書棚の方へ消えていった。

「はぁ~~~」

俺は机に突っ伏して伸びた。
あーびっくりした!また会えるなんてうれしすぎる!
腕まくりをして小さく「よしっ」とつぶやき、再び机に向かった。

インテリアコーディネーターの仕事は、単に家具や雑貨、壁紙などで部屋を格好よくするだけではない。
建物の構造、電気の配線、給排水、現場での内部造作の納まりなど豊富な知識が必要で、なおかつセンス、クライアントに伝える為の図面やパースを描く力、クライアントの要望を叶えるために相手が何を求めているのかを聴き取る為のヒアリング力など、必要なスキルは多岐にわたる。

はぁ…。俺に出来るかなぁ。

智也は格好いいインテリアが好きで、昔から雑誌を集めたり、家具をDIYしてきた。

「まだまだ憧れの人に頼られる存在にはほど遠いな…」

まずとにかく勉強するのみ。センスは今まで以上にいろんな雑誌だけでなく、自分の足で気になる作品を見に行ったりして身に付けていくしか…。先生におすすめの本とか聞いちゃおうかな。

「よしっ、あともう少し頑張ろう!」


隆が事務所に戻ると、所員の高橋くんのメモが残っていた。

~k様との打ち合わせに行ってきます~

事務所にはあと一人スタッフがいるが、今日は朝から現場に行っているので僕一人だ。今は2件の住宅を請け負っていて、それぞれ担当してもらっている。僕は相談役に徹して、もう巣立ち間近の二人を補佐している。

「僕も20代の頃、あんなキラキラしてたんだろうかね…」

自分を慕ってくれているあの瞳を思い出し、誰かに似てるなとふと思う。頭の中で思い浮かぶ顔と重ねながら、一人の忘れられない人に似ていることに気付いた。

「あぁ、あの子か…」

高校のクラスメートで、親友で、初めて好きになった人。
ただ見つめているだけで幸せという恋ではなく、触れたい、キスしたい、相手の全てを知りたい、全てが欲しい…。そんな恋をした初めての相手だった。
想いは伝えられず、距離も詰められないままで…。何も出来なかった。

「僕は本当に臆病なんだな」
独りごちた。

あの時以上の熱い気持ちを誰にも持てず、その情熱は仕事に注いだ。そして、事務所を立ち上げスタッフを雇うまでに成長させてきた。
これまで恋人はいたが、誰とも長続きしなかった。

「ずっと忘れられなかったな」

付き合った相手の中に、僕はあの子の影を追い求めていた。

「思ったより執念深いな」

自分の情けなさに苦笑いした。


智也はその頃、図書館で居眠りをしていて職員に声をかけられていた。

「すみません。ここで寝られると他の利用者の方の妨げになりますので…」

ハッと気付いて顔を上げた。

「あっ!ごめんなさい…!」

周りを見渡すと、櫛の歯が欠けたように空席が目立ち、外は暗くなりかけていた。慌てて借りる予定だった本を抱えて帰る準備をした。

「俺ってほんと長続きしないな…。気を引き締めてやり直しだ!」

帰ってからやることを頭の中で整理しながら家路についた。


家に着くと、いきなり勉強して知識を詰め込みすぎたのか、ぐちゃぐちゃの頭を整理しようと、夕飯を作ることにした。昔から智也は悩んだり心配事があると料理をする変な癖がある。

「鶏肉あるし…。照り焼き丼にするか!」

この前居酒屋で食べた照り焼きって焼きネギが添えてあったなーと思い、なめこ汁用に買っておいたネギを3センチくらいのぶつ切りにして、一口大の鶏肉と一緒にフライパンに入れて焼き始めた。

「俺、いい嫁になれるな」

一人つぶやいていると、隆先生の顔が浮かんだ。眼鏡の奥の瞳が優しかったな…。

「って俺、ゲイじゃないし」

自分の気持ちが分からん!とそれ以上考えるのをやめて料理に専念した。
焼き目がついたネギをいったん取り出し、皮目がカリカリになった鶏肉を裏返して酒蒸し。その間にタレを作って、鶏肉にふんわり火が入ったらタレを流し込み。ネギを戻し入れてタレが照り照りになったら完成!

「そうだ!明日のお弁当にしよ!」

ごはんあるし、卵焼きでも添えればバッチリ。ほんとヨメにしたらお買い得だな。学校でチンすりゃOKだと、夕ごはんと明日の弁当を一緒に仕上げた。

「さっさと食べて、また勉強だ!俺は生まれ変わるぞ!」

出来るコーディネーターを目指し、先生のそばに行くんだー!心の中で誓った。


机に向かって、さぼった授業の多さに自分がイヤになりながらもコツコツ勉強していると、スマホが鳴った。

「おーい、ともや!」

聞き慣れた弘樹の声がスマホから…。

「おう!ヒロキいいところに!わかんねえとこあんだけど…」

「おいおい!まじで勉強してんのか?」

このやろ。すげー失礼だな。

「ったりめえだろ。俺が高校ん時から憧れてた建築家が目の前にいんだぞ。こっちのエンジン全開だろーが」

するとヒロキがのたまった。

「お前はホントに隆先生命だな」

は?命~?そんなに舞い上がってたかな?俺。

「前から隆先生の話になると止まんなかったじゃん。才能あって、なおかつめちゃ格好いい。眼鏡取ったらもっとかっこいいんだろうなーって」

そして、俺にとどめの一言。

「なんつーか、作品も好きだけど、先生本人も好きって言ってただろ?」

「え、そうか…?口から出ちゃっただけなんだけど」

「それ、もう無意識じゃんか」

「へ?

智也は言葉が出なかった。
ヒロキは喋りたいだけしゃべって、「じゃあ頑張れよ」と電話を切ってしまった。

勉強分かんないとこ聞こうと思ったのにな。先生の話でおわっちまった。
それにしても無意識に隆先生命って俺。大好きじゃん!

「いやいや、憧れてるだけだって」

何だかそれ以上考えると本当に好きなのかもってなりそうだったから、怖くなって考えるのをやめた。

「べんきょうべんきょう!」

どっちにしたって近くに行くためには、まず自分が追いつかないとな。
知識を詰め込めるだけ詰め込んでやろうと、再び机に向かった。


机で寝落ちすることが続いた毎日が過ぎ、待ちに待った隆先生の講義の日。締め切り間際にスレスレ提出したパースを思いだし、先生見てくれたかなぁとうきうきしていた。
今朝はチーズトーストとコーヒー。牛乳は別に温めて、目玉焼きとソーセージも作った。いつもならペロッと食べてしまう量だが、今日は半分残してしまった。
んー、ちょっと寒いかな?一枚セーターを多く着込み、気付くと出かける時間が迫っていたので慌てて支度して家を出た。


隆先生の講義は、さすが人気のある建築家だけあって結構混んでいた。まぁ、先生目当ての女子も多かったけど。
俺は知った顔を探して席を確保した。

「おまえ顔赤くね?」

「そおかぁ?大丈夫だよ。クスリ飲んできたし」

無理すんなよ~と言われたけど、今までさぼった分取り返すのにムリしないと間に合わねえよ!とノートを開いた。
先生の講義が進むに従って、智也はどんどん具合が悪くなってきたが、帰るのはイヤだとがんばって机に張り付いていた。
俺の提出したパースも紹介されていて、心の中でよっしゃーとこぶしを握り締めた。

「あーだめだ。俺もう帰るわ」

講義が終わった所でヒロキに言うと、ヒロキは野良犬を追い払うようにシッシッと手をヒラヒラさせた。

「何だよもう!」

智也はもう大分頭がクラクラしていたので、それ以上言い返すことも出来ずフラフラと教室を出ようとしていた。

「あーともやくん!」

この声は…。振り返ると隆先生が目の前に。あれ?先生がだんだんかすんで遠くの方から聞こえてくる…。

「おい!大丈夫か!ともやくん!おい…」


なんかふかふかした所で目をあけると、真っ白いカーテンの引かれた白いパイプベッドに寝かされていた。ふと横を見ると隆先生がパイプ椅子に座り、こくりこくりと舟をこいでいた。
智也はようやく状況をつかんで、バっと上半身を起こした。瞬間またクラッと目の前の景色がぐるりと回転…。

「あっ!こら、寝てなさい」

智也が起きたときの物音で目を覚ました隆先生に肩をつかまれ、ベッドにまた寝かされた。

「ともやくん?ちゃんと寝てるの?」

隆先生の眼鏡の奥の目が、少し怒っているように見える。

「あ、あの…すみません。俺、今までさぼってた分取り返したくてよく机で寝落ちしちゃって…それで」

隆先生の眉間にしわが寄った。目が三角になって、さっきより怒ってる??

「ともやくん。この前俺に言ってくれたことはすごい嬉しかったよ。その、俺を目標に頑張るっていうのは」

先生は俺の肩をつかんで…。あれ?俺抱き締められてる???

「だけどね、目の前で倒れるのはやりすぎだ!」

智也は憧れの先生に抱き締められてる事を徐々に実感してきて顔が赤くなった。心配してくれてることがうれしいなんてどうかしてる。

「君をまた失うのかと思った…」

また?隆先生?またとはどういうイミですか?

「自分を大事にしてくれ」

耳元で囁くように言われた隆先生の言葉は、智也の胸にストンと落ちた。


智也は隆先生に車で家まで送ってもらうことになり、車の中でまた叱られた。
必ず11時には寝ること。時間を区切って勉強したほうが効率が良いこと、週末は僕の家に来ること。君の勉強見てあげるからと約束させられた。
させられたとはいえ、智也にとっては憧れの先生が直に教えてくれることがうれしかった。

「え!そこまでして頂けるなんて…俺うれしいです!」

「君は目を離すとまたムリをしそうだからね」

先生の綺麗なウインクを浴びて胸がドキッと高鳴った。
あれ?なんだ?このドキドキ感。
何にしても近づけることか純粋に嬉しかった。

……………………………………………………

~プライベートレッスン~


あいにくの雨の日曜日。智也は隆先生の家に勉強を教えてもらいにいくことになり、手ぶらで行くのも失礼かなぁと考えた末、得意なグラタンを作っていくことにした。
今流行りの料理男子、ではなく智也は元々料理が好きだ。おまけに結構腕が良いと、友だちからの評判も上々だ。

ホワイトとミートのダブルソースのマカロニポテトグラタン。彩りにパセリを散らし、大判のバンダナで包んだ。あとは、勉強が終わったら一緒に飲んでみたいなと、安いけど気に入っている近所の酒屋でかった白ワインを持っていった。

先生は思いの外喜んでくれた。
智也は作っていった料理を見て、ぱあっと目を輝かせた先生がちょっと可愛く見えて俺は少し戸惑ってしまった。

「じゃあ、まずこんな感じの住宅だったらどんな提案をする?」

先生が手がけた格好いい住宅の写真パネルを見て、先生と二人で意見を交わした。
実際の設計図で電気の配線、使われている壁材、先生と施主さんとのやり取りの内容を聞かせてもらい、先生はこの時提案した案を教えてくれた。
温かい雰囲気でくつろげる空間が作りたい奥さん。レゴが趣味でカラフルな元気の出る部屋を作りたいご主人。真逆のことを言ってきてくれたけど、何とかどっちも叶えてあげたいと試行錯誤した内容を、先生は目を輝かせて智也に話してくれた。

「家は家族が仲良く過ごせる空間だよね。僕はそんな空間がどうしたら実現出来るかいつも考えてる。全然苦じゃないんだ。この仕事をしてきてよかったなっていつも思ってるんだよ」

智也は先生が自分の思っていたより情熱的だと感じた。雑誌の中のクールで格好いいイメージの裏にこんな姿があるなんて。勇気出して最初に話しかけてよかったなと思っていた。

「先生はもっとクールなのかと思ってました」

「僕がクール?建築以外まるで駄目なんですよ」

ふと気付けば、机の上には書類の山が崩れる寸前で奇跡的にバランスを保って積み重なり、本棚の中では本たちが斜めだったり、横積みになっていたり…。

智也の視線に気付いたのか、「あまり見ないで下さい…」と、真っ赤になってしおれていた。

「お礼に片付けさせて下さい!」

「イヤ…。じゃあお願い出来るかな…」

机を片付け、本棚は先生と分類しながら並び直すと、部屋は見違えたようにクールな空間になった。

「俺、うれしくて舞い上がってたから、最初気付きませんでした」

「そんなにうれしかったの?」

眼鏡の奥の目がやさしく笑っていた。次の瞬間、気付いたら智也は先生の胸の中にいた。

「僕は君が来てくれてうれしい」

「せ、せんせい…」

頭から湯気が出そうなくらい恥ずかしかったが、男に抱き締められても気持ち悪いとは思わなかった。
何故かとても心地よくて、このままずっと抱き締めていてほしいと思っていた。


あー、このままベッドに連れて行きたい…。いやしかし、仮にも先生と生徒てそれはまずいよね…。
僕が心の中で葛藤しているとは思ってないだろうな。
そっと智也の顔を見ると、ニコニコとうれしそうだ。僕はちょっと欲を出し、軽くキスをして様子を伺った。ここで手を出したらパワハラっぽいもんな…。

「ごめん。つい可愛くてキスしちゃいました…って男にキスされてもイヤだよね」

ごめんごめんと手を合わせ、びっくりして真っ赤になって固まっている智也に謝った。

「先生は、その…ゲイなんですか?」

「僕は…その、どっちでも」

え!予想を空高く超えた答えに智也は大人ってすげえと思った。

「ごめん。でもだからといって軽い気持ちでキスしたわけじゃないんだよ」

先生の眼鏡の奥の目がやさしく垂れた。

「ともやくんが昔とても好きだった子に印象が似ていてね。どんどん惹かれてしまったんだ」

あっそれで…。この前抱き締められた時、またって言ってたのは…。

「その人とはどうなったんですか?」

智也は言ってしまってからハッとして、

「失礼ですよね…。すみません、俺気になってしまって…」

しょんぼりと下を向いて小さくなっていると、先生の胸に抱きすくめられた。

「そんなことない。その子は出会った時にはもう恋人がいて、そのまま結ばれたから。僕にはまるで入る余地がなかったんだよ」

先生は抱き締める力を弱めることなく、智也はそのまま体を預けていた。

「僕は君が好きなんだ。ともやくん。でも君のは恋ではないよね」

恋。まともに恋をしたことがないからな、俺…。智也は素直に先生に自分の気持ちを伝えようと思った。

「俺、先生の作品が大好きで、先生もかっこよくて会ってみたいなとずっと思ってました。そして会ったら、もっと近くに行きたいと思って、俺がもっと力をつければそばに居られるって勝手に宣言して頑張ってきたんです」

智也は続けて言った。

「俺はちゃんと恋をしたことがないんです。中学高校は一緒に遊びに行ったりする子はいたけど、友だちと彼女の境目があんまなくて…。よく分かんないんです」

「じゃあ僕が君を好きだと言っても、僕の気持ちがどういうものか分からないってこと?」

先生はちょっと困ったように見えた。智也は困らせるつもりはなく、ただキスされても抱き締められてもイヤじゃなかったことを伝えた。

「そっか…」

眼鏡の奥の瞳が光った。

「ともやくんを今すぐどうこうしようとは思わないよ。でも僕のことをそれで気持ち悪いと思われなきゃそれでいいよ」

智也は自分がはっきりしないせいで先生を振り回してるんじゃないかと心配になった。

「あの、恋かどうか分かんないんですが、俺はそばにいれて幸せです」

先生は急に大きなため息をついた。

「君は…僕を転がすねぇ」

隆先生は仕切り直すように両手でパンっと手を打った。

「よし、じゃあ一緒にディナーといきますか(笑)」

綺麗に磨かれたテーブルには、智也の持ってきたグラタンが熱い湯気を立て、香ばしい匂いをさせていた。
先生はワイングラスを用意し、作っておいてくれたコブサラダ、から揚げ、カットされたチーズの盛り合わせを並べ、冷えた白ワインを注いだ。
向かい合ってグラスをかかげると、先生はグラスを持っているだけなのにすごく格好よかった。

「僕、から揚げが大好きで、昨日から僕の秘伝のタレに漬け込んでお昼の内に揚げておいたんだよ。ワインに合うかどうか…」

庶民的なところが可愛いなんてと智也は思っていた。サラダとかチーズの盛り合わせとか、格好いいのにから揚げって…。

「俺もから揚げ好きです!先生のから揚げ食べてもいいですか?」

衣がカリッと音を立て、中のお肉はじゅわっと肉汁が溢れてくる。

「うわっ!おいしい!味付けも最高です!!お醤油とニンニク…生姜?」

「うん、あとはね、酒、鶏ガラスープの素、マヨネーズも少し入れてるんだよ。片栗粉小麦粉半々でまぶしたら、最後卵液でコーティングして揚げるんだ」

「衣もすごくおいしいです!すごいですね~。先生料理うまいですね」

「でしょ?」

先生はうれしそうにもっと食べてとどんどん勧めてくれた。

「ともやくんのグラタン食べてもいい?」

「ぜひぜひ!先生に食べてもらいたくて、昨日からミートソース作ってたんです!」

先生は取り皿に少し盛って、ずーっとフウフウ冷ましていた。やっと口に入れると、口をハフハフしてあちちと水を思いっきり飲んでいた。

「先生って…猫舌?」

先生の顔が途端に赤くなった。

「恥ずかしいんだけど、冷めるの待ってたんだ」

隆先生は、頭をポリポリかいていた。

「先生可愛いとこあるんですね~」

智也がちょっとからかうと、先生は一寸だけムッとした。

「そんなこと言うと、またキスするよ」

今度は智也が真っ赤になってしまった。
先生は席を立ち俺を立たせると、さっきより深いキスをした。
智也は気持ち良くて夢中で応えてしまった。ふと、ヒロキに言われた言葉を思い出した。

「俺、この前友だちから『お前先生命だな』って言われたんです」

「もう僕でいいじゃないですか」

先生は智也を軽々と抱き上げると、寝室に連れて行った。

「どうしてもイヤだったら、僕のこと殴って止めて」

先生の言葉に智也はこう答えた。

「先生、俺そんなに嫌じゃないのが不思議です…」

先生は智也にやさしくキスをし、Tシャツの下から手を入れ乳首を愛撫すると智也の体がぴくんとはねた。
Tシャツをめくりあげ、先生の舌が体を愛撫していく。

どうしよう、俺。気持ち良くて何も考えられないや。

俺のズボンを下げると、先生も一緒に服を脱ぎ、自分のと一緒に智也のを合わせて一緒に擦りあげる…。

「うわっ」

智也は恥ずかしくて顔を隠した。
先生は空いている方の手で智也の髪を撫でると、
「大丈夫?」と聞いた。

「あの、俺恥ずかしくて…」

先生はニッと笑って眼鏡を外した。

「じゃあ嫌じゃないんだね」

「あっ!そんなにしたら駄目ですって!気持ちい…!」

先生の手はもっと強くなって、智也はたまらずイってしまった。
先生は智也に軽くキスをすると、ベッドに寝かせて「ちょっと待ってて」と、ドアを開けたまま寝室から出て行った。
智也は気が抜けたようにベッドに大の字になって伸びた。
先生は俺なんかのどこがいいんだろ。俺、別に頭良くないし、人より余計に頑張らないと授業にもついて行けないような奴なんだけどな。

釣り合わない自分と有名な建築家。

「はぁ…。落ち込んできた…」

「ともやくん?」

開いたままのドアから、ひょっこり先生が顔を出した。何かを手に持っているようで後ろに何か隠している。

「はい!どうしたんですか?」

後ろ手のまま、先生は俺の寝ているベッドまでやって来た。

「ともやくん、目つむってくれる?」

「ん、はい」

智也は目をつぶった。

「手を出して」

「はい」

手の平に細くて長いものがのせられている。

「目あけていいよ」

目をあけると、ステッドラーのシャープペンシルがあった。だいぶ使い込んでいるようで、メーカーの印字が少し薄くなっていた。

「?」

智也は頭の上にクエスチョンマークがついた顔で先生を見た。

「こんなものでごめんね。これ、僕が一番最初に買って、今でもずっと大切に使ってる愛用のシャーペンなんだ」

「!」

智也はこの使い込まれたシャープペンシルが急にずっしりとした重さを持ったような気がした。

先生の愛用品!まじで!?これって…。

「これでずっと図面描いてたんですか?」

「そうだよ。ずーっと使ってきたから僕の体の一部みたいなものだよ」

うわぁ!と智也は感動してしみじみ眺めていた。

「ともやくんにあげるよ」

「!」

智也は感激しすぎて口をパクパクさせて…言葉にならない!
目を見開いて口をパクパクさせている智也を見て先生は言った。

「僕は本当に君のことが大切なんだよ」

先生はポツリとつぶやいた。
智也は自分から先生に抱きついてキスをしようと…ガチッと歯が当たってしまった。

「イテテ…」

お互いに口を押さえて下を向いて耐えていた。

「ごめんなさい先生!下手くそで…」

「上手じゃイヤだからいい」

先生は上手なキスを智也にしてくれた。うまくて気持ち良すぎて智也はクラクラしてしまった。


今日は泊まっていきなよと先生はパジャマやら歯ブラシやらお泊まりワンセット全部出してくれた。

「よく誰か泊まりにくるんですか?」

智也が聞くと、先生が何を言ってるんだろう?と不思議そうな顔をした。

「だってこんなに至れり尽くせりで準備すごいから…」

先生はふっと笑うと、
「これは君が僕のうちに来てくれる…というか来させたんだけど。君がいつか泊まってくれるかなって…準備してました」

「えっ!俺のため?」

智也は先生が本当に大事にしてくれてるのを感じて、顔が熱くなってしまった。

「言ったでしょ。僕は君のことが大切なんですよって。泊まってくれなくても、ここに来て一緒に勉強したり、ごはん食べたりしてくれるだけでもうれしいなって思ってたんだから」

智也はそうやって先生が想ってくれてるのが不思議で仕方なかった。

「俺、別にフツーの人間だし、頭もあんまり良くないし…。俺のどこがそんなにいいのか分からないんです…」

先生はソファにストンと腰を下ろすと、智也に横に座るように促した。そして、俺の肩を抱いて頭をコツンとくっつけた。

「誰でも最初から何でも出来る訳じゃないでしょう?何かになりたい、誰かの役に立ちたいって思い立ってそこに向かって一心に頑張って一人前になるんだよ」

先生は智也を正面に向かせて両肩をしっかりつかんだ。

「ともやくんは僕に宣言したよね。インテリアコーディネーターとして何でも答えられるようになります!って。そして、まだ1ヶ月しか経ってないけどよく勉強してる。君のパースを見たけど、お世辞抜きですごく素敵だった。君の部屋は君が思い描いたようにデザインしているんでしょう?僕はとても良いと思ったから授業で紹介したんだよ」

智也は先生の言葉に胸がぐっときた。自分の今までが独りよがりでないことを認めてもらって、目から涙がこぼれそうになった。

「俺、今まで格好よければいいって。授業だって適当に受けてて、卒業したらおしゃれな家具屋さんで好きなものに囲まれていたいななんてフワフワした気持ちで学校に通ってたんです」

先生は俺の話を真剣に聞いてくれた。

「でも憧れてた隆先生が目の前に現れた時、絶対一緒に仕事がしたいって強く思ったんです。一人前になって肩を並べて仕事ができるかっこいい大人になりたいって…。だから」

智也は先生の胸の中にいた。強く強く抱き締められて息が苦しいくらいに。

「ごめん、僕ガマンきかないかも」

先生は智也の手を引いて寝室に行った。


部屋に入るなり深く深く口づけされ、智也の舌を絡め捕った。

「いきなり挿れたりしないから。怖がらないで」

先生は智也を後ろから抱き締め、硬くなった智也のを優しく撫でた。空いた右手で智也の乳首をつまんだ。
智也は、俺、女の子じゃないのに胸でこんな感じるなんて、と気持ち良すぎて訳が分からなくなっていた。

「足閉じて」

四つん這いで言われるままに足を閉じると、先生の硬くなったのがまたの間を抜けて、智也の裏を撫でた。

「!先生…」

強く出し入れされて、なんとも言えない快感が智也のを刺激して、痺れるような快感が走る…。

「せんせ!俺出ちゃう!」

「いいよ。いっちゃいな」

「あっイク!」

隆先生も智也を抱きしめながら、一緒に果てた。


「ともやくん。嫌じゃなかった?」

先生はベッドで一緒に横になりながら、心配そうな顔で智也を気遣った。

「恥ずかしかっただけで…。俺、先生が好きです」

へなへなと先生は枕に顔をうずめた。

「はあ…よかった。やっぱり気持ち悪いとか思われるかもって怖かったよ」

智也はそんな思いまでして自分の事を考えてくれてるのを知って、ベッドの上に正座した。

「先生。俺、どんな可愛い女の子に告白されたとしても、こんなに幸せな気持ちにはならないと思います」

先生は、
「やばい。好きが止まんないでしょ!」
と智也を腕の中に抱き締めた。
………………………………………………………
~幸せな関係~

隆先生が講師になって早2ヶ月。智也は変わらず熱心に勉強し、週末は先生の家での勉強を続けていた。変わったのは、土曜の夜から泊まって日曜日一日一緒に過ごすようになったところ。そして名前で呼ぶようになったとこ…。

「先生~!」

智也にそう呼ばれるたびに、
「秀人ですよ。そろそろ先生は卒業したい…」
と不満そう。

智也は全然慣れなくて、「ひ、ひでとさん…」と蚊の鳴くような声で言うものだから、「小さくて聞こえやしないよ…」秀人はそのたびに肩を落とした。

「今度から家で先生って言ったら、そのたびに僕にキスするように!」

智也は不満げに「えー!」と儚い抵抗をした。

「だって学校で間違って呼んじゃったら困るじゃないですか!」

智也が少し怒って言うと、

「僕は平気ですよ」

片方の口角だけ上げて、意地悪そうに笑った。

「先生ずるい!」

あっ!智也は口を押さえたが、もう遅かった。

「はい、また言った。おいでともや」

これもまた慣れない。恋人を呼ぶんだから呼び捨てでいいよね?と秀人はともやくんではなく、ともやと呼ぶようにしたのだ。
名前で呼ばないとイヤだとか、罰としてキスするようにとか、秀人は案外甘えてくる。でも、智也も秀人にキスするのは嫌いじゃない。

「ん、んん~…」

でもそのたびに困るのは、それだけで終わらないということ。
あっという間に骨抜きにされるキスの上手さにいつも勝てない。そのままベッドに連れて行かれて、結局最後までされてしまう…。

秀人は智也をベッドまで連れて行くと、唇から首筋、胸…手の先から足の先までくまなくキスして、まるで僕のものだとマーキングするように愛撫する。そしておしりに滴った愛液を馴染ませ、優しく指を挿れていく。
くちゅくちゅと音を立てて弄られると、恥ずかしさがこみ上げて、余計に濡れてぐちゅぐちゅとやらしい音を立ててしまう。
指も最初は1本入るか入らないかくらいで、違和感でしかなかった感覚が回を重ねるたびに上書きされ、どんどん柔らかく秀人を迎え入れるようになっていった。
秀人は手先が器用で、智也は指だけでもイカされてしまうようになっていた。

「ともや。もう挿れていい?」

「あっやだ。またへんになる…」

秀人はもうたまらず、「やだ。挿れたいよ…」とだだを捏ねる。

「んん!」

硬くて熱い秀人のが入ってくる感覚だけで智也はイッてしまった。
息を切らしてハアハア言う智也に秀人はにっこりと微笑む。

「挿れただけで…。可愛いな」

「待って、あっ!」

ズッズッと硬い秀人のが深く差し込まれるたびに、腰から頭の先に電気が走るようなビリビリざわざわした感覚が這い上がってくる。

「ひでとさん…あっひでと!」

落ちていくような感覚が怖くて、秀人にしがみつく。

「可愛いな、ともや…。ともや好きだよ、ともや!」

「俺も好き!あっせんせ」

「ともや、もう…だめだって言ったろ!」

激しく智也に差し込むと、智也がビクンと震えた。

「も、ガマンできない!イ、イッちゃう…」

「いいよ、僕も…」

智也の中に熱いものが流れ込んでくる感覚と、自分のおなかに飛んだ自分のが熱くて、智也は意識が飛びそうで怖くてまた秀人にしがみついた。
ぬぽっと音を立てて秀人のが抜かれると、智也のお尻からコポコポと熱いものが溢れてきた。
優しく髪を撫でる手の感触に、智也は甘えたくなって秀人の胸に顔をうずめた。

「ん?どうした智也」

秀人が俺のが頭を撫でるのが気持ちいい。

「なんか、幸せ過ぎてこわいなって」

秀人は智也をきつく抱き締める。

「僕はもっと君を幸せにしてあげたいよ」
とやさしいキスをした。

秀人はも一回…する?と聞く。

「駄目です!ちゃんと勉強教えて下さい!!」

俺の返事に秀人は不満げだ。

「えー!午後からきっちりやるから、午前中はいちゃいちゃしよ」

秀人は智也を捕まえて、また骨抜きにするキスをして愛した。さっきより激しい愛され方に、午前中いっぱい腰が立たなくて困ってしまった。
…………………………………………………

~永遠に君を愛す~

秀人が講師を務めるのもあとわずか。智也は秀人の仕事にも自分の将来にも、どうしたら秀人の片腕になれるのか考え込むことが多くなった。

「ともや。あちこち手を出さなくても僕の手伝いしながら身についていくものは多いよ」

秀人は現場にも智也を連れて行くことが増えた。もちろん授業がない時や、勉強の合間で行けそうな時だけだが。
現場で見る隆秀人は、職人さんに出す指示も具体的で的確だ。親方たちも隆自身をとても信頼しているようで、建築家として尊敬を集めていた。
智也は自分がそばに居て秀人の邪魔になっていないか心配していた。まだ学生で、自立出来ていないからだ。

自信が持てないのは智也自身の問題だ。智也はこのままそばで仕事をするよりも、一度外で就職した方がいいんじゃないかと悩んでいた。あえて厳しい環境に身を置いて、甘えることなく一人前になれるように。

悩む智也の様子を秀人は黙って見守ることにした。僕がここで手を差し伸べたら、きっと智也は自分に自信を持てなくなってしまうだろう。智也から言い出すのを秀人は辛抱強く待っていた。

だんだん元気がなくなっていく智也に、心配だけれど秀人は我慢して何も言わなかった。智也も秀人が心配しているのを肌で感じていて、自分の考えを打ち明けてみることを決意した。


キッチンで話があると、テーブルについてもらった。

「今から大事な話するから、今だけ先生ってよんでもいい?」

秀人はやさしい目で智也を見た。

「いいよ。どうしたの?」

智也は深く息を吸い込むと、意を決したように静かに話し始めた。

「俺、先生の現場に連れて行ってもらって思ったんだ。このまま先生の元で助手として働いていたら、勉強にはもちろんなるけど、どこかできっと甘えてしまうと思う。先生の右腕になるなら、俺、別の環境で働いてみることが必要なんじゃないかと思った。でもこんなこと言ったら先生が嫌な気持ちになるんじゃないかなって心配で…。どうしても言えなかったんだ」

秀人の表情は優しいままで、智也は秀人がどう思っているのか分からなかった。

「智也、いい?」

秀人が口を開いた。

「智也が悩んでいるのは分かっていたよ。何に悩んでいるのかも大体思ってたのと一緒だった。僕がそんなことで智也のことを嫌ったりするわけないよ」

テーブルの上の智也の手に、秀人が自分の手を重ねた。

「僕がどれほど君を大切にしてるか、本当分かってないね」

秀人はフーッと息を長くはくと、
「智也、自分の思うようにやってごらんよ。僕はいつもここにいるから」

秀人のやさしさに智也は声を上げて泣いてしまった。秀人は席を立って、座ったままの智也を抱きしめた。

「僕は君を愛してるから、好きなように生きても僕はちゃんとそばにいるから…」

「おれ、恥ずかしい。こんな泣いて…」

智也が涙を乱暴に拭う。

「いいよ。恥ずかしくなんかないよ。それだけ真剣にかんがえてたんだろ?」

眼鏡の奥の瞳はやっぱり優しかった。
智也の頭を自分の胸にすっぽり抱きしめて、髪を優しく梳いていた。

「もう先生は終わりね」

秀人は智也に綺麗なウインクをして、頬に軽くキスをした。
…………………………………………………

~旅立ち~

智也は無事にインテリアコーディネーターの資格を取った。そして新たに住宅メーカーでの就職を決めた。

「やったね!頑張った!ってこれからだけどね」

秀人は意地悪そうなウインクをして智也を脅かした。

「分かってます!やっとスタート地点に立てたってことですもん」

秀人は智也を抱きしめて、大げさなため息をついた。

「はぁ…やっぱりダメって言えばよかったかも…。僕のとこで働けば24時間一緒にいられたのに…」

理解のある大人なんてやめればよかったよ!とぎゅうっと強く抱きしめて、「やっぱりやめたら?」なんて子供みたいな事を言う。

「い、や、だ!俺、ホントに修行してくるんだから!」

「分かってるよ」

拗ねてる!俺の憧れの隆秀人先生が!!

「休みの日は手伝いさせてね!」

「ダメだよ!体休ませないと!自分を大事にしなさいって言ったでしょ!」

秀人は急に保護者みたいなこと言い出した。

「違うの!俺が一緒にいたいから…お願い!」

智也の肩に置いた秀人の両手がプルプル震えた。

「もう!」

急に智也を肩に担いで、ベッドに急行した。

「覚悟してね!」


「もうこんなに柔らかい…」

秀人は智也にキスしながら後ろを弄っていた。

智也は、「秀人が上手だから…でしょ!」と顔が真っ赤だ。

「後ろ向いて…」

智也の腿をつかむとグッと差し込んだ。
智也は激しく出し入れされる秀人の堅さに、今まで感じたことのない快感に高く啼いた。

「智也!ごめん!痛いかも」

そう言いながらも、秀人も智也が愛おしくて止めることが出来なくなっていた。

「あっ、ひでと!やっ」

快感は奥へ奥へとつながり、もうおかしくなりそうだった。

「もっと…あ、奥すごい!」

「智也…愛してるよ」

「ひでと!愛してる…もぉ…」

気持ち良さが秀人の理性を吹っ飛ばして、強く強く愛し続けた。

「やばい!止まんない!智也良すぎるよ…」

「も、だめ」

智也は失神してしまった。

気付くと智也は一人ベッドに寝かされていた。
寝室にあるライティングビューローにぼんやりと明かりが付いて、秀人が静かにスケッチブックに向かっていた。

智也が起きたことに気付くと、「体大丈夫か?」と優しく撫でる。
実際起き上がるのがやっとだったけど、智也は仕事してる秀人の背中が大好きだったから、シーツを体に巻き付けて秀人の背中に抱きついた。

「おいで」

秀人の膝にのせられ、スケッチブックを一緒に見た。静かに眠っている智也の姿がそこにあった。

「これ…俺?」

「なんか可愛くてね」

智也は秀人の首に腕を回してかじりついた。

「ずっと俺と一緒にいて下さい」

「それは僕の台詞だよ」

秀人は、智也の頬を包んで優しいキスをした。

~fin~
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