好きなものは一つとは限らない

ハジメユキノ

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気がかり

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モテるなぁ…。
慎と木田のサッカー部の試合を佐藤と一緒に見に行った。応援してるのがほぼ女子…。男は僕たちと…父兄?

「きゃー!石原く~ん!」

そして黄色い声がひときわ高くなるのは…慎がボールを持ってるとき…。

「なぁ…。真。やきもち妬くなよ」
「うん…」

佐藤が僕の顔を覗き込む。

「何とも言えない顔、してるな」

だってさ…。慎が格好いいのは僕にも分かるし。なにしろ僕は男だし…。慎が女の子を好きになっても…仕方ないか、な…。イヤだけど。

「でも…。木田も結構いい線いってんのにな~」

慎が一際光ってるから目立たないけれど、木田はクールでゴールのアシストが上手い。女の子は見る目無いなぁ。

「俺が女だったら、木田の方がいいけどな(笑)」
「佐藤は木田の事、好きなの?」

真は佐藤に聞いてみた。真があんまりにも真剣に聞くので、佐藤は思わず吹き出してしまった。

「ぷはっ!ないない!俺、好きな子いるもん」
「えっ!誰?僕も知ってる子?」
「内緒♡」
「えぇー!教えてよ!」
「真。顔はお前の方が可愛いぞ(笑)」
「なんだよそれ!」

佐藤は僕の耳にものすごい小っさい声で囁いた。

「か!」

意外な名前で思わず口から出そうになり、佐藤が慌てて口を塞いだ。

「ばか!危ねえな!」

可愛いタイプじゃなくて、綺麗なタイプ♡
佐藤はそういうのが好きなのね。

「面喰い~(笑)」
「すんません(笑)」
「でも、綺麗だよね?」
「だね(笑)」

でもさ、佐藤。そこに居るんだけど…。

「言うな。分かってるんだ。慎のこと…好きっぽいな」
「そのようですね…」

僕も佐藤もやきもきするのは同じ相手だった。その子は熱い目で慎を見つめていた。
………………………………………………………
試合は中々の接戦だったが、惜しいかな…。PKで負けてしまった。
慎と木田は先輩たちをあと一歩で県大会に連れて行けなかったことに、悔しそうな顔をしていた。女の子たちもそんな慎には話しかけられずに、遠巻きに見ていた。

「あっ!真!佐藤!見に来てたんだ(笑)」

慎と木田が僕たちに気付いた。ぱあっと明るくなった慎の様子に、女の子たちはたちまち僕らを見た。そして、何とも言えない顔をした。

「なぁ、真。視線が痛くないか?」
「うん…。佐藤もそう思う?」

慎はそんな女の子の視線をものともせず、真と佐藤の所に走ってきた。木田はさすがに走っては来なかったが、僕らの方に歩いてくるのが見えた。

「真。サッカー分かんないってあんまり見てくんないのに、今日はどうしたの?」
「いや…。決勝だし、3年生は最後でしょ?きっといい試合になると思ってさ(笑)」

真が見に来てくれた!相変わらず可愛いなぁ…。

「ねぇ、慎。みんな応援してくれてたよ?手ぐらい振ったら?」

さっきから女子の目が怖いんだけど…。

「えっ?だって。サッカーって俺一人でやってるわけじゃないんだよ?何で俺が手ぇ振らなきゃなんないんだ?」

木田…。この人まじで真しか見てないんですけど…。
佐藤が木田に助けを求めるように視線を送ると、目だけで『諦めろ』と言った…。
…………………………………………………………
「なぁ…。慎のこと凄い見てた女の子でさ。すんごい綺麗な子いたの見なかったの?」

佐藤が慎のあまりのぶれなさに呆れたように言った。

「あっ!」
「やっと分かったか!」
「違う!」
「何が違う?」

木田が慎と佐藤のやり取りをニヤニヤしながら見ていた。

「木田?何笑ってんの?」

真が不思議そうに聞いた。

「佐藤が分かりやすくて(笑)」
「何だよ」
「言われたい?」

佐藤がハッとした顔になり、木田をぎろっと睨んだ。

「言うなよ!」

すると慎がしみじみ呟いた。

「佐藤が好きなのはああいうタイプか…」
「真!」
「僕、何にも言ってない!」
「じゃあ何で慎も木田も…。」

佐藤がムッとしていると、木田が佐藤の肩を抱いて頭をくっつけた。

「キモいから離れろ!」
「そんな言葉使っちゃダメだろ?」
「うっ…」
「俺はお前が大好きだよ(笑)」
「何なんだよ!みんなして!!」

真っ赤な顔で怒りだした佐藤に、さすがに慎と僕は宥め始めた。でも、木田は単純明快な佐藤が可愛すぎて、そのくりくりの坊主頭を胸に抱えて撫で続けていた。
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