水と鏡と夢の世界

柿澤 陽花

文字の大きさ
上 下
2 / 20
第一章 一つの小さく、大きな偽り

第1話 朝のお説教

しおりを挟む
「ふあぁー。よく寝たー。今何時ごろだろ?」
 彼女は、ユリーファ・アイディーニ。

 そしてここは、トヌールという貴族たちが集まった小都市……の端にあるリユル湖の辺りのアイディーニ家である。代々この都市の長を務め、人々の信頼を受けていた。しかし、最近はどうやらそういう訳ではないらしい。

「あ、おはよう…ござい、ます。皆さん、ご機嫌…いかがです…しょうか、で合ってたよね?」
「お嬢様、『合ってた』とは、仰らないでください。せめて、『合っていたかしら』と仰ってください」
と、侍女の一人が訂正した。

「そ、そうね、ありがとう。そういえば、私のペンダントは?」
「こちらに、ございます」

 そういうと、ペンダントを渡した。ユリーファはそれを首に掛け、懐にしまった。
このペンダントは、ユリーファが小さい頃に彼女の両親からもらったもので、異国の花の形らしく、花びらの部分が窪みになっていると両親が教えてくれた。

 「あ、今は何時?…かしら?……ん、え?もうこんな時間?…………遅刻ーー!!」


「はぁ…」
アイリーは、またかと溜め息を漏らしていた。彼女は、ユリーファの叔母できっちりとした性格のせいなのか、実年齢より年上に見られてしまう。最近は、青い薔薇の世話が日課になっていて、やっと花が咲いたらしい。
 
「ユリーファは、どこかしら?」
「お急ぎでしたので、玄関の方かと…呼んで参りましょうか?」
「いいえ、自分で行きますから。ありがとう、仕事に戻って頂戴」
 侍女は「はい」と答え、自分の仕事に戻った。


「ユリーファ、お待ちなさい。先ほどの足音は何です?どのような歩き方をしたら、あのような音がするのですか?あなたは、森の獣ですか?」
アイリーは淡々と、冷ややかに言った。

「アイリー叔母様、お、おはよう…ございますっ!」
ユリーファは、驚いて語尾がひっくり返ってしまった。

「その言葉遣いもですよ。いつも言っているでしょう?貴婦人となる女性というのは、いかなる時も気持ちを乱さず、品のある淑やかな行動をなさる、と。なのにいつも、こうなのです?」
「うっっ、も、申し訳ありません。以後気をつけます」
アイリーは溜め息を漏らして、今度はゆっくりと言った。

「気を引き締めて、行動なさい」
「…はい」
ユリーファは、俯いたまま答えた。

「学校は、大丈夫ですか?」
「え?あ!いってき…参ります!!」 
「いってらっしゃい。先ほどの言葉を忘れないよう」
その言葉を背中で受け止めて、家を飛び出し車に乗った。
しおりを挟む

処理中です...