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81.正面から敵軍を追い払う
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軍議は簡単なものだった。帝都守備隊を中心に、各王国や領主の駐留兵を集め、正面から敵軍を追い払う、というものだった。後ろに海があって、船でいつでも逃げだせる敵だから、大軍で脅して逃げ帰えせばよい、と言うのが彼らの意見だった。何も戦うことはない、と言う意見に、アーヘルゼッヘも大賛成だった。
その大軍の中に、銀の髪の北の方がいれば、脅しの役くらいには立つだろう、という意見があり、アーヘルゼッヘも参加することになる。皇帝の庭で話していた通りになった。彼らも北の方を歓迎しているようだった。
とはいえ、彼らが喜んだのは、アーヘルゼッヘという北の方を真似する若者が現れたということではなかった。彼らは、皇帝がこんな事をしてまで、敵軍を追い散らしたいと言う意思表明をした、ということを喜んでいたのだった。
これで、各国の代表たちに兵を出せと強気で交渉できるようになった、と言って喜んでいた。そして、商人達に敵兵へ物資を回すなと止められるようになったのだった。止めなければ流れていたかもしれない、と言うのがこの帝都の危ういところだが、ともあれ、彼らは兵をあげる準備に取り掛かって行った。アーヘルゼッヘは、彼らに、
「あちらにはテンネがいます」
と伝えた。誰もがいまさら何を、という顔をした。アーヘルゼッヘはさらに、
「テンネはこちらの全てが見れます」
と伝えた。北の者だとは言えないが、能力を言って警告をしなければ、何か危うい気がしたのだ。神官が、
「あのテンネ殿なら、帝都の動きは手に取るようにわかるでしょう」
とうなずいた。
「もしも、テンネが本当にこちらを責める気になれば、正面からくるとわかり戦えなくなるのではないでしょうか?」
と彼らに聞いた。すると、剣の男がうなずいて、
「あなたが帝都のことをよくわかっていないと言うことがわかりましたよ」
と言った。
「海からは絶壁で守られていて、崖近くの家々では、侵入を阻む準備をはじめているでしょう。そして、草原からの侵入は、地下から来るなら焼けた鉄が流されて彼らは中には入れなくなり、地上から来れば遠くから矢で射落とされて近づけません」
と言うと、神官が、苦い顔で、
「正面からしか方法がないから、東部の人間を操って、騒動を起こさせたのです。そのくらい、この地は万全に守られているのです」
と言った。
アーヘルゼッヘは不安だった。彼らはテンネの能力をよく知らない。もちろん、アーヘルゼッヘもよく知らない。成人として数千万年以上も生きている者達の知恵も能力も心の動きも、アーヘルゼッヘには計り知れないものがあった。それが、不安をあおっていた。約定は守られるから大丈夫、と思うと、少し不安が遠のいた。人間を傷つけることができないのだから戦争には手を貸さないはず、と思うとさらに、不安が小さくなった。
しかし、なぜ、今ここで戦争なのか、と思うと不安は無性に大きくなった。弟を帝都の地下から救いだすためなのだろうか。あれほど迷っていたのに。帝都を瓦礫の山にするために、戦を起こすのではないだろうか。また、弟を帝都の下で安らいで眠っていられるようにするためだろうか。平穏な都にするためならば、戦いの間に宮殿の主が変わっているのではないだろうか。
アーヘルゼッヘは、それならそれで構わない、と思っている自分が嫌だった。人間の命に、好き嫌いを思っている自分が、まるで北の者でなくなってしまったかのような気持ちになって嫌だった。
トローネは、正義と秩序が大きな組織には必要なのです、と言っていた。その為に、好きでもないことを受け入れて、安定した社会のために闘っている、と言っている。反乱では、その多くが壊れることになるだろう。人の社会がどう壊れるのか、アーヘルゼッヘには想像もつかなかった。おかげで、どこか恐いと感じる。
生まれて初めて戦争に係わることになったアーヘルゼッヘは、彼らとともに戦の準備を始めた。バテレスト家がアーヘルゼッヘを嫌ったせいで、トローネが宮殿の中に部屋を用意し、鎧や服を用意した。アーヘルゼッヘは久しぶりに体を拭って、清潔な服を着て、柔らかいベットで眠ることができた。
鎧や剣が、部屋の中央に運び込まれるその瞬間まで、アーヘルゼッヘは暖かい夢を見ていた。
北の館で、飛び起きると、朝の雑事のために飛び出していく。小さな窓の外には渓谷や深い朝霧が見え、飛び出す廊下はひんやりとして、冬が近いと教えてくれる。
その大軍の中に、銀の髪の北の方がいれば、脅しの役くらいには立つだろう、という意見があり、アーヘルゼッヘも参加することになる。皇帝の庭で話していた通りになった。彼らも北の方を歓迎しているようだった。
とはいえ、彼らが喜んだのは、アーヘルゼッヘという北の方を真似する若者が現れたということではなかった。彼らは、皇帝がこんな事をしてまで、敵軍を追い散らしたいと言う意思表明をした、ということを喜んでいたのだった。
これで、各国の代表たちに兵を出せと強気で交渉できるようになった、と言って喜んでいた。そして、商人達に敵兵へ物資を回すなと止められるようになったのだった。止めなければ流れていたかもしれない、と言うのがこの帝都の危ういところだが、ともあれ、彼らは兵をあげる準備に取り掛かって行った。アーヘルゼッヘは、彼らに、
「あちらにはテンネがいます」
と伝えた。誰もがいまさら何を、という顔をした。アーヘルゼッヘはさらに、
「テンネはこちらの全てが見れます」
と伝えた。北の者だとは言えないが、能力を言って警告をしなければ、何か危うい気がしたのだ。神官が、
「あのテンネ殿なら、帝都の動きは手に取るようにわかるでしょう」
とうなずいた。
「もしも、テンネが本当にこちらを責める気になれば、正面からくるとわかり戦えなくなるのではないでしょうか?」
と彼らに聞いた。すると、剣の男がうなずいて、
「あなたが帝都のことをよくわかっていないと言うことがわかりましたよ」
と言った。
「海からは絶壁で守られていて、崖近くの家々では、侵入を阻む準備をはじめているでしょう。そして、草原からの侵入は、地下から来るなら焼けた鉄が流されて彼らは中には入れなくなり、地上から来れば遠くから矢で射落とされて近づけません」
と言うと、神官が、苦い顔で、
「正面からしか方法がないから、東部の人間を操って、騒動を起こさせたのです。そのくらい、この地は万全に守られているのです」
と言った。
アーヘルゼッヘは不安だった。彼らはテンネの能力をよく知らない。もちろん、アーヘルゼッヘもよく知らない。成人として数千万年以上も生きている者達の知恵も能力も心の動きも、アーヘルゼッヘには計り知れないものがあった。それが、不安をあおっていた。約定は守られるから大丈夫、と思うと、少し不安が遠のいた。人間を傷つけることができないのだから戦争には手を貸さないはず、と思うとさらに、不安が小さくなった。
しかし、なぜ、今ここで戦争なのか、と思うと不安は無性に大きくなった。弟を帝都の地下から救いだすためなのだろうか。あれほど迷っていたのに。帝都を瓦礫の山にするために、戦を起こすのではないだろうか。また、弟を帝都の下で安らいで眠っていられるようにするためだろうか。平穏な都にするためならば、戦いの間に宮殿の主が変わっているのではないだろうか。
アーヘルゼッヘは、それならそれで構わない、と思っている自分が嫌だった。人間の命に、好き嫌いを思っている自分が、まるで北の者でなくなってしまったかのような気持ちになって嫌だった。
トローネは、正義と秩序が大きな組織には必要なのです、と言っていた。その為に、好きでもないことを受け入れて、安定した社会のために闘っている、と言っている。反乱では、その多くが壊れることになるだろう。人の社会がどう壊れるのか、アーヘルゼッヘには想像もつかなかった。おかげで、どこか恐いと感じる。
生まれて初めて戦争に係わることになったアーヘルゼッヘは、彼らとともに戦の準備を始めた。バテレスト家がアーヘルゼッヘを嫌ったせいで、トローネが宮殿の中に部屋を用意し、鎧や服を用意した。アーヘルゼッヘは久しぶりに体を拭って、清潔な服を着て、柔らかいベットで眠ることができた。
鎧や剣が、部屋の中央に運び込まれるその瞬間まで、アーヘルゼッヘは暖かい夢を見ていた。
北の館で、飛び起きると、朝の雑事のために飛び出していく。小さな窓の外には渓谷や深い朝霧が見え、飛び出す廊下はひんやりとして、冬が近いと教えてくれる。
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