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本編1
その瞳は魔法のように、あるいは罠のように
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「うんうん、それでそれで?」
「はい!?なんでそんなことになるの!?」
「ふふ、そこで見捨てないあたり、君って感じがする」
「バカになんかしてないってば、ほんとに」
「そーゆうとこ、すごく良いと思う」
「他には他には?」
「あははは!さいっこう!」
「もっと聞かせて」
「もっと教えて」
便利屋バイトの体験談を、ゆう莉は楽しそうに聴いた。
造のなんてことない話から、体験した本人すら気づかなかった刺激とユーモアを、ゆう莉はいとも簡単に見つけだす。
「おっかしいね」
彼女はよく笑った。常に微笑みをたずさえていた。ときに手を叩いて、お腹を抱えて、大きな声で笑った。
「楽しいね」
彼女と話していると、造は自分がとても楽しい人間になれた気がした。もちろんただの錯覚だと自覚している。その自覚をうっかり忘れてしまうこともままある。
ゆう莉のもたらす錯覚は、魔法のようによく効いた。
「ねえ、造くん」
そして笑っていても、いなくても、
「そのときさ」
キラキラした好奇心の輝きと、まっ暗な情熱を帯びた彼女の瞳は、
「どんな気持ちだった?」
造の目を捉えて、けっして離さなかった。
人の目を見てはなすことが得意でない造だが、なぜか彼女と話すときは自分から目を逸らすことができなかった。
ひととおり話し終えると、ゆう莉は満足げに頷いた。
「便利屋稼業ってネタの宝庫だよね!いいなー、私もバイトしよっかなー」
「ねえどうかな?私にも務まると思う?」
身を乗りだして造に尋ねるゆう莉。彼は廊下に続くドア付近に、大量にまとめてあるゴミ袋をチラリと見やった。
「そろそろ片付けますね」
「話逸らすの下手か?」
造が中腰でテーブルの食器をまとめていると、ゆう莉の両手が彼の口元に伸びてきた。
「ふぁにふるんでふか?」
彼女の人差し指と中指が、造の口角をググッと押しあげ、喋るのもままならなくさせた。その顔を、ゆう莉はマジマジと見つめ、憎らしくも愛らしいイタズラっ子の笑みを浮かべた。
「近ごろ君の笑った顔を見てないなーと思ってさ」
「ほんとに表情筋死んでるよね、最後に笑ったのいつ?」
「さっきエレベーターで会社員風の男性に笑いました」造は彼女の手首を掴んで離し、答えた。
「ちょっと待って、私は通りすがりの会社員よりも親密度が低いってこと?」
「営業です。未来のお客さんになるかもしれないんで」
「私は現在進行形で客なんだが?それもなかなかの常連なんだが?」
そう言われれると、返す言葉がない造だった。ゆう莉は椅子にに踏ん反りかえり、手を叩いて煽る。
「はいそれじゃあ、営業スマイルでいいからやってみよーか!」
「サンサン、ニイニイ、イチイチ、キュウ!アクト!」
微妙にタイミングが掴みづらい合図にあわせて、造はニコッと笑った。
「いつもありがとうございます、卯月ゆう莉さま」
「ブッ!」
「理不尽です」
営業スマイルが思いの外完璧だったのが、かえってツボにはいったようで、ゆう莉はふきだした。
「あははははは!こ、こ、こわっwふだんがふだんだから…よwよけいにw…あははは!」
笑いこけるゆう莉を放置し、造は積み上がった食器を持って席を立った。
シンクの中に食器をおき、まだ彼女の指の感触が残る口元に、そっと手をあてた。流しのレバーをあげ、ジャーという水の音に紛れ込ませるように、造は呟いた。
「そういうところですよ」
「はい!?なんでそんなことになるの!?」
「ふふ、そこで見捨てないあたり、君って感じがする」
「バカになんかしてないってば、ほんとに」
「そーゆうとこ、すごく良いと思う」
「他には他には?」
「あははは!さいっこう!」
「もっと聞かせて」
「もっと教えて」
便利屋バイトの体験談を、ゆう莉は楽しそうに聴いた。
造のなんてことない話から、体験した本人すら気づかなかった刺激とユーモアを、ゆう莉はいとも簡単に見つけだす。
「おっかしいね」
彼女はよく笑った。常に微笑みをたずさえていた。ときに手を叩いて、お腹を抱えて、大きな声で笑った。
「楽しいね」
彼女と話していると、造は自分がとても楽しい人間になれた気がした。もちろんただの錯覚だと自覚している。その自覚をうっかり忘れてしまうこともままある。
ゆう莉のもたらす錯覚は、魔法のようによく効いた。
「ねえ、造くん」
そして笑っていても、いなくても、
「そのときさ」
キラキラした好奇心の輝きと、まっ暗な情熱を帯びた彼女の瞳は、
「どんな気持ちだった?」
造の目を捉えて、けっして離さなかった。
人の目を見てはなすことが得意でない造だが、なぜか彼女と話すときは自分から目を逸らすことができなかった。
ひととおり話し終えると、ゆう莉は満足げに頷いた。
「便利屋稼業ってネタの宝庫だよね!いいなー、私もバイトしよっかなー」
「ねえどうかな?私にも務まると思う?」
身を乗りだして造に尋ねるゆう莉。彼は廊下に続くドア付近に、大量にまとめてあるゴミ袋をチラリと見やった。
「そろそろ片付けますね」
「話逸らすの下手か?」
造が中腰でテーブルの食器をまとめていると、ゆう莉の両手が彼の口元に伸びてきた。
「ふぁにふるんでふか?」
彼女の人差し指と中指が、造の口角をググッと押しあげ、喋るのもままならなくさせた。その顔を、ゆう莉はマジマジと見つめ、憎らしくも愛らしいイタズラっ子の笑みを浮かべた。
「近ごろ君の笑った顔を見てないなーと思ってさ」
「ほんとに表情筋死んでるよね、最後に笑ったのいつ?」
「さっきエレベーターで会社員風の男性に笑いました」造は彼女の手首を掴んで離し、答えた。
「ちょっと待って、私は通りすがりの会社員よりも親密度が低いってこと?」
「営業です。未来のお客さんになるかもしれないんで」
「私は現在進行形で客なんだが?それもなかなかの常連なんだが?」
そう言われれると、返す言葉がない造だった。ゆう莉は椅子にに踏ん反りかえり、手を叩いて煽る。
「はいそれじゃあ、営業スマイルでいいからやってみよーか!」
「サンサン、ニイニイ、イチイチ、キュウ!アクト!」
微妙にタイミングが掴みづらい合図にあわせて、造はニコッと笑った。
「いつもありがとうございます、卯月ゆう莉さま」
「ブッ!」
「理不尽です」
営業スマイルが思いの外完璧だったのが、かえってツボにはいったようで、ゆう莉はふきだした。
「あははははは!こ、こ、こわっwふだんがふだんだから…よwよけいにw…あははは!」
笑いこけるゆう莉を放置し、造は積み上がった食器を持って席を立った。
シンクの中に食器をおき、まだ彼女の指の感触が残る口元に、そっと手をあてた。流しのレバーをあげ、ジャーという水の音に紛れ込ませるように、造は呟いた。
「そういうところですよ」
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