卯月ゆう莉は罪つくり

Hatton

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覆面調査(後編)

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「せんぱーい、こっちの無制限の方にしましょ~よ~」

「う、うん、そうしよっか」

覆面調査の二件目。スイーツパーラーにて、ゆう莉はまたしても暴挙に出ていた。

「では無制限コースを2名さま分でよろしいでしょうか?」

「はーい、それでお願いしまーす」

「かしこまりまりました。お皿とフォークはあちらにございますのでご利用ください」

店員が離れたのを確認してから、造は小声で抗議する。

「先輩後輩逆転の設定はさっき却下しましたよね?」

「了承した覚えはないよーだ。どうする?今からでも元に戻す?」

店員の前でやってしまった以上、このままいくしかないのは分かりきった上での提案である。

造は嘆息し、諦めるしかなかった。

「せんぱあい、早くとりにいきましょ」

「お、俺は待ってるから先に…」

「ダメですよ~、一緒にいくんです!」

ゆう莉は渋る造の肘に手をかけ強引に立たせ、そのまま引っ張って歩きはじめた。

どうやらかなりキャピキャピのキャラ設定でいく気のようである。

バイキング形式のスイーツ専門店は、やはり女性を中心に賑わっていた。

大きなテーブルに色とりどりのケーキがあり、プチシューや生のフルーツまで用意されていて、タワーのような形のチョコフォンデュがそびえ立っている。

「ほら見てください!めっちゃ美味しそー!」と言いつつカメラを構えるゆう莉。

他の客も同じようにパシャパシャ撮っているため、悪目立ちすることもない。

スイーツが並ぶテーブルを引で撮るフリをして、さりげなくカメラをズームし、汚れの目立つ箇所や空なのに長時間放置されている皿などを、ゆう莉は抜け目なく収めている。

悪ふざけしつつも、しっかりと仕事をこなすゆう莉にホッと胸をなでおろした造は、写真を彼女にまかせ、店員の様子を伺うことに。

ホール内にいるスタッフの数が少ない。

やたらと歩くのが早いスタッフがいる。

レジでずっと待たされている客が目立つ。

さっきの店よりスタッフの質が落ちるようで、造はついキョロキョロと見回してしまっていた。

「お客様?なにかお探しですか?」

スイーツもとらずに佇んでいる造に、若い女性店員が話しかけた。

「や、えっと…」

 咄嗟のことで言葉に詰まる造。

「あ、せんぱあい、プリンなら向こうにありましたよ~」

どこからともなく現れたゆう莉に、手を引っ張られ救済された。

「すいま…ごめんな」

ゆう莉は手伝いであくまでサポートのはずなのに、逆になってしまっていることが、造にはいたたまれなかった。

ゆう莉は造の胸元を人差し指でトンと押した。

「造先輩は、私がいないとダメダメですね」

そうかもしれないと、一瞬だけ、本気で思ってしまった造だった。

そんなこんなで二件目を終えた二人。

歩道のベンチで並んで座り、造は今日のレポートをスマホでまとめた。

ゆう莉は邪魔することなく、彼女もまたスマホでポチポチと何かを打っている。

一通りまとめ終えたところで、大きく息をついた造に、ゆう莉が問いかける。

「ねえねえ、私もレポート書いたんだ、聞きたい?」

「いつの間に?ええ、もちろんです」

ゆう莉の優秀な調査員っぷりを見ていた造は、大いに関心を持った。

ゆう莉は自分のスマホを持ち、「こほん」と咳払いをして文面を読みあげた。

「まず、しっかりと依頼をこなそうという熱意が感じられます」

「え?」

「また、依頼主の意図を汲み取り、その上で自身の感性を活かそうとする柔軟性があり、観察眼も非常に鋭く、幅広い視野で物事を見ることにも長けています」

「ちよ、先輩!?」

「ふふん、実は君の仕事ぶりを密かに覆面調査してたんだあ」

造は顔に熱が集まるのを感じ、それを見たゆう莉は容赦なく続ける。

「レポートも詳細でかつ読みやすく、文章能力も非常に優れています。ただし…」

ゆう莉はスマホをしまい、隣にいる造の口元に両手を伸ばし、口角を無理やり上げた。

「表情がやや硬いのが少し気になります。でも、それは何事にも真摯に向き合う姿勢の表れでもあるので、やはり長所と言えるでしょう」

造の顔に集まる熱はどんどん温度を上げていく。

ついには後ろにのけぞり手で顔を隠した。

「も、もう勘弁してください」

「また、ストレートな褒め言葉に弱いところがありますが、そこも大変可愛らしいです」

言い終えたゆう莉は、造の癖毛を優しく撫でた。

「今日はとってもよく頑張りました。君の仕事ぶりが見れて、すごく嬉しかったよ」

今日も今日とて、卯月ゆう莉は罪つくりである。
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