卯月ゆう莉は罪つくり

Hatton

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本編1

魔女のメアリは走馬灯を廻る 0章

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ユクシーはひとりぼっちな女の子でした。

家にはお父さんとお母さんがいて、兄が3人もいます。

毎日ワイワイがやがやと、いつも賑やかです。

でも、ユクシーはひとりぼっちでした。

お父さんは仕事で忙しく、あんまり家にいません。

たまにいてもお母さんと喧嘩ばかりしていて、ユクシーと話す暇はないようでした。

そんなお母さんは、兄たちばかりを可愛いがります。

長男のカベルには

「力があってすごいねえ、おかげたくさんの荷物が運べるよ」

と言いました。


次男のアインには

「お前は頭が良いから、たくさん勉強をし、そして偉い学者さんになって母さんを楽させておくれ」

と言いました。

三男のライオネルは、力もよわく、頭も良くないし、運動もできず、おまけにえらく太っちょです。

なのにお母さんは

「ライオネルは私の天使だよ。なにもしなくていいよ、そのまま可愛いままでいておくれ」

と言います。

ユクシーはただの一度もお母さんに褒められたことはありません。

話しかけてくることも少なく、たまに話しかけてきたかと思えば

「洗濯しといてくれ」とか「お兄ちゃんたちのスープお代わりって言ってるじゃないか!なにボサっとしてるんだ!」みたいなことばかり。

そんな中、ユクシーはメアリと出会ったのです。

メアリはユクシーにしか姿が見えず、声も聞こえないまま、一緒に生活するようになりました。

魔女は人間とぜんぜん違いました。

メアリは眠りません。眠らなくてもずっと元気でいられるのです。

メアリはほとんど何も食べず、何も飲みません。月に一度くらい、少しのパンとコップ一杯の水を口にするくらいでした。

これからさらに年を重ねれば、いっさい飲まず食わずで生きれるようになるそうです。

ユクシーは、そんなメアリと過ごす毎日がとても気にいりました。

メアリもまた、ユクシーを大事に思い、守るようになったのです。

長男のカベルはユクシーをいないものとして扱います。

メアリはカベルにむけて、杖をヒョイっとふって呪いをかけました。

カベルはユクシーを無視するたび、お腹を壊し、トイレに駆け込むハメになったのです。

アインはいつもユクシーをいじめてます。

ある日、アインはユクシーの服を無理矢理脱がそうとしました。

メアリはまた杖を振ります。

するとどこからともなく小さな竜巻があらわれ、アインを渦のなかに閉じ込めたのです。

竜巻が去ると、アインの方がスッポンポンになっていて、ワンワン泣いて家の中に逃げたのでした。

ライオネルはユクシーを家政婦みたいに扱います。

彼が「ミルクをとって来い」と言えば

メアリは「お前の乳から搾ればいいじゃないか」と言います。

彼が「お前のスープのジャガイモをよこせ」と言えば。

メアリは「芋みたいな顔して、芋が好きなのかい。これじゃ共食いだね」と言います。

もちろんメアリの声はライオネルには聞こえません。

でも声が聞こえているユクシーは、いつも笑いをこらえるのに必死でした。

やがてライオネルが命令するたび、メアリが何を言うのか楽しみで、つい愉快になってしまうのでした。

お母さんに対しては、ユクシーを見つけられなくなる呪いをかけたのです。

用事がない時は姿も見えるし声も聞こえますが、いざユクシーに話しかけようとすると、とたんに見失ってしまう呪いです。

このせいで、お母さんはユクシーをコキ使えなくなりました。

いつもいないことを怒ろうにも、絶対に見つけられないので、怒りようがありません。

こうして、ユクシーは前以上に家族から構われなくなりました。

でもユクシーは平気です。メアリがいつもそばにいるからです。

メアリは自由でした。いつもユクシーの側にいても自由でした。

日がな一日雲や星を眺め、ときに街を眺め、ときに壁をつたう虫なんかも、何が楽しいのかずっと眺めています。

ユクシーと一緒に森に入れば、なんてことない雑草や、美味しくない木の実を見つけては

「あれ!集めておくれ!」

とユクシーに拾わせるのです。

それらを集め、混ぜて、杖をひょいひょい振っては、魔法の薬にしたりします。

そして、それ以外の時間ぜんぶ本を読んで過ごしていました。

「なんでそんなにたくさん読むの?メアリ姉様はもう十分物知りなのに」

何十冊もの本を宙に浮かべ、杖を使ってパラパラとページをめくるメアリに、ユクシーは聴きました。

「物知りなんかじゃないさ。何も知らないから読むんだ」

メアリはユクシーの頭を撫でながら続けます。

「覚えておき、自分を物知りだと言うやつは、知らないことを知らないだけのアホウなんだよ」

メアリの言葉は、たまにユクシーには難しいときがありました。
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