金木犀の薫る恋

雪水

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金木犀

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俺の名前は佐野 斗真さの とうま
今日は2年になるための始業式だったんだが、どうやら俺は一目惚れしちまったらしい。
しかも男子に。名前も知らないし声すら聞いたことがない。
でもそいつが友達に向けている笑顔があまりに眩しくて、気づけば堕ちていた。
同年代にしては低めな身長、頼りない肩幅、ふわふわしてそうな猫っ毛。
胸が張り裂けそうだ、呼吸も荒い。誰にもバレないうちにさっさと移動しちまねぇと
そんな俺を見かねてか同級生が話しかけてきた。
顔を見る。
例の男子だった。
「ねぇ君、大丈夫?顔赤いし息も荒くなってる。保健室、行ったほうが良くない?」
聞かれて俺は少し動揺しながら答える。
「あ、りがてぇけど大丈夫だ。」
「そ、ならいいけど。...君、名前はなんていうの?」
俺は少し落ち着いた。
「俺か?俺は佐野 斗真さの とうまっていうんだ。あんたの名前も教えてくれよ。」
「僕の名前?僕は神薙 大和かんなぎ やまと、よろしくね斗真くん。」
「あぁ、こちらこそよろしくな大和。」
大和が多少こちらを気にしながら自分の席に戻っていった。
期せずして好きな人の名前を聞けた挙げ句、声も知れた。しかも俺のことを心配してくれている。
こんなに嬉しいことがあるだろうか。
程なくして始業式が始まり、厳かな雰囲気の中粛々と式が進行していった。
そんなときだった、俺が異変に気づいたのは。
明らかにさっきよりも大和の顔色が悪いのだ。
俺は大和の後ろに立っていたからすぐに気付けた。
考えるより先に体が動いた。
「大和、あんた体調悪いの我慢してんだろ。」
囁くように告げる

...体調はいいよ、大丈夫。」
一拍の間をおいて返ってきた言葉はあまりに弱々しく、また内容もすんなりと信じられるものではなかった。
「嘘つけ、あんた顔真っ青だぞ。保健室に連れて行く、いいな?」
有無を言わさぬよう力強く問うと大和は肩に掴まってきた。
「先生、神薙が調子悪いみたいなんで保健室連れていきます。」
「おぉ、佐野が行かなくても先生が連れて行くから戻りなさい。」
「先、生。僕は佐野くん、に連れてってもらいたいで、す。」
「俺去年保健委員だったんで大丈夫ですよ、先生。」
流れるように俺は嘘をついた。
「そうか、神薙がそう言うなら仕方ない。他の先生には俺から伝えておく。」
運が良いやら悪いやら、保健室の先生は今日は学校に来てないらしい。
「大和、大丈夫か?ベッド寝かすぞ。」
俺はできるだけ大和の身体に響かないようにベッドに身を横たえた。
「あり、がと。」
大和が喋ろうとするので俺は慌てて止めた。
「あんた体調悪いんだろ?無理に喋んなくていーよ。俺もう式に戻るから安静にしとけy」
言いつつ立ち上がろうとした俺のシャツに大和の指が絡みついていた。

...俺、ここいた方がいい?」
「っ...」
大和は黙ってうなずく。
「そうか、わかった。ベッド座ってもいいか?」
「喋るなって言いながら質問ばっかりするのどうかと思う。」
静かに大和が笑った。
「あー...それもそうだな、すまん。」
いいよ、と言いながら大和は身を少し奥に滑らせた。
俺がベッドに腰掛けるやいなや大和が喋り始めた。
「ねぇ斗真くん。」
「んー?」
あくび混じりに俺は返す。
「僕の過去の話、聞いてくれる?」
「あ?あぁいいぜ、いくらでも聞いてやるよ。」
「あれはね、僕が小学5年生の時の話。」
✦ここからは一人称が斗真から大和に変わります✦
僕は昔っから背が低くて、体つきも男っぽくなかった。だからみんなは僕にこういうんだ。
「出来損ないのオトコンナ」
誰から言い出したのかなんて覚えてないけどその言葉ははっきり覚えてる。
言われ始めたのがちょうど5年生最初の始業式の辺りだった。
その日僕は少し体調が悪くて貧血で倒れちゃったんだ。
その時先生がこう言った。
「なんだ神薙、貧血なんかで倒れるって女子みたいだな。」
きっと先生は悪気なんてなかったんだと思う。
だって笑ってなかったから、目も、口も。
その後僕は保健室で休んでから早退した。
次の日からは壮絶だった。
朝学校に着くと僕の机が赤とピンクのリボンでぐるぐるにされてたんだ。
みんなが言うには女の子みたいな僕のため、だってさ。今の僕なら余計なお世話だ、なんて言えたかも知れ
ないけど当時の僕は喧嘩なんか怖くてできないってタイプの子供だったから何も言えなかった。
ただ溢れそうになる涙をこらえてた。
机は女の子らしい可愛いリボンが付いてるのに体操服に着替えるのはもちろんだけど男の子と一緒だった。
それがクラスメートにはちぐはぐに写ったんだろうね、その時から僕のあだ名は
「出来損ないのオトコンナ」
だったんだ。
わかってる、今も男の子らしい顔つきも体つきもしてないし背だって低い。
僕は小学校に僕をおいてきちゃったんだと思う。
中学校に入ってから好きな人ができたこともないし、本当に親しい友人すらできない。
そういうところが出来損ないなんだろうね。
僕の口から自虐的に薄く息が漏れた。
不意に斗真くんがこっちを見た。
口を開く。
「今日、先生より俺が良いって言ったのってその話が関係してるのか?」
「うん、そうだよ。その日から僕保健室がトラウマなんだ。」
一人でいるときもしんどいけど一人でいるより先生といるほうがもっとしんどい。
勝手に口からこぼれ落ちた。
「俺と二人ならすこしは安心するか?」
「そうだね、ちょっとだけね?」
指で「ちょっと」を作りながらおどけたように僕は言う。
「大和?」
名前が呼ばれる。
「何?」
斗真くんが微笑んだような気がした。
「今、すごい優しい笑顔してるぞ。」
そういう斗真くんこそ優しい顔してるじゃん、なんて恥ずかし紛れに返す。
「へっ...」
みるみるうちに顔が赤く染まっていく。
...なんだか胸が一瞬だけどきどきしたような気がする。
気のせいだと自分に言い聞かせてみる。
胸の奥が緩く締められたような感覚に陥る。
まぁいいか。
「斗真くん、どうしたの?」
なんでもねぇよ...
顔をそらしながら絞り出すようにそう言ったっきり動かなくなった。
今度こそ胸がどきどきした、ような気がする。
「斗真くん、あのね」
ありがとう
お礼の声が小さすぎたのか、斗真くんはん...としか返してくれなかった。
胸の奥が痛い、また優しく締め付けられてるような感覚になる。
これってやっぱり
「好きなんだぁ...」
声に出たと気づくまで少しのタイムラグがあった。
「今、なにか言った?」
斗真くんの問いかけでやっとさっきの心の声が漏れていたことに気がつく。
「へっ!?な、なにも?!」
あははっ、大和慌てすぎと一つ笑ってから斗真くんは
じゃあそろそろ行くわ、大和はゆっくり休んでから来いよ?先生には俺から言っとくからさ。
なんて言いながら保健室を出ていった。
改めて僕は口に出してみることにした。
「と、斗真くん...好き。」
...
自分の発言に自分で悶えてしまった。
でも、いくらぼくが好きだからって、いくら男の子らしくなくたって
きっと僕は斗真くんの眼中に入ることすらできないのだろう。
そう思うと自然に涙が溢れてきた。
✦ここからは一人称が斗真に戻ります✦
大和、さっき好きだッつってたよな...
誰のことなんだろう。もやもやする。
ガラガラガラ
「佐野、おかえり。神薙は大丈夫そうなのか?」
「もうちょっと休んでから戻ってくるらしいです。」
「そうなのか。...佐野、悪いんだけど神薙にしんどかったら早退しても良いって伝えてきてくれないか?今か
ら俺ホームルームだから行けないんだ。」
「あぁいいですよ、わかりました。」
ガラガラガラ
俺は大和のことが好きだ。でも大和が他の人のことを好いているなら俺はそれを邪魔することはできない。
でもあの口から紡がれる「好き」の一言を俺以外に向けられるのは嫌だ。
ノックをして一拍おいてからドアを開ける。
「大和ー居るか?」
「斗真くん?どうしたの」
「先生からの伝言伝えに来たんだよ。しんどかったら早退していいってさ。」
「そうなんだ、ありがとね。」
沈黙が訪れる。
先に口を開いたのは大和だった。
「あの、さ」
「ん?」
「斗真くんは好きな人、とか居たりするの?」
脈絡なくそんなことを聞かれたものだから遠慮会釈なく声が飛び出た。

...へ?」
途端に大和が慌てだす。
「ほ、ほら!さっき僕言ってたじゃん、中学生になってから好きな人出来たことないって!だ、だから斗真く
んは居たりするのかなってね?」
「あーまぁそういうことなら答えてやるけど...好きな人は居るんだが」
そこで言葉に詰まってしまった。好きな人に好きな人の話をするのはなかなかしんどいものがある。
大和が弾けたように明るい声を出した。
「居るんだ!誰?同じクラスだった?」
「誰かっていうのは答えられないけど、クラスは一緒だったぜ。」
「!! 良かったじゃん!」
「あぁ、って俺ばっかり話させられてるじゃん。大和は気になる人居ないのか?」
「僕は、僕も好きな人、出来たかも知れない。」

...へぇ、良かったじゃん。」
声が震えないように努めて声を出す。
「ねぇ僕には聞かないの?」
「何を?」
焦れたように大和が言う。
「誰なのか、とか同じクラスなのか、とか。」
「その好きな人ってのは誰なんだ?」
「へへっ、秘密だよー!」
「聞けって言ったの大和なのに答えてくんねーのかよぉ...」
だって恥ずかしいんだもん。
大和が呟いた。
俺は聞かなかったふりをしてもう一つ質問を重ねた。
「じゃあクラスは一緒なのか?」
「一緒だよ?」
「良かったじゃねえか、お互い頑張ろうな。」
大和に気づかれない程度に唇を噛む。
自分がいたたまれなくなり、そろそろ行くわと大和に告げ出口に向かって歩き出した。
「あっ!」
焦ったように大和が声をあげた。
驚いて俺は歩みを止める。
「どうしたんだ?」

...」
「? なにもないならもう行くぞ?」

...もうちょっと僕と喋らない?」
「そういうこと、別にいいぜ?」
俺は大和が寝転んでいるベッドに寄っていく。
傍らに立って大和の方を向いていたら大和が
こっち、座りなよ。と言ってきたので俺はベッドに腰掛けた。
「ねぇ斗真くん。ちょっと聞いても良い?」
「いいぜ。」
「男の子が男の子好きになるってそんなに変なことかな。」
想像よりも切り込んだ内容の質問だったから俺は少したじろいだ。
少し考え俺は質問で返した。
「答えたくなかったら答えなくても良い。大和が好きなのは男子なのか?」
「そうだよ、僕多分女の子より男の子の方が好きなんだと思う。」
「そうか、俺は好きなら誰も何を言う権利なんてないと思うぜ。変じゃないよ。」
「斗真くんは自分が男の子に告白されたらどう思う?」
「嬉しいな、間違いなく。」
即答した。
「じゃあ、さ。」
俺の背中側で大和が身体を起こした気配がする。
「こっち向いてよ、斗真くん。」
上履きを脱いでベッドの上に足を置く。
ちゃんと目を見て大和が告げた。
「僕にもチャンス、あるのかな?」
いたずらっぽく笑う。
ドキッとした。
「大和、本気か?」
「どうだろうね。」
大和が少し傷ついた顔をした。
「さっきの発言、後悔すんなよ。」
大和が俺の目を覗き込んでくる。
「何が?」
「大和にチャンスが有るなら俺にもチャンスあるよな?」
「えっ?」
「大和が好きなやつ教えてくれよ。俺そいつより良いやつになって大和に告白するから。」

...」
大和の顔がみるみるうちに赤くなっていく。
「俺そんな変なこと言ったか?」

...斗真くんそれ、もう告白してる。」
言われて自分の発言を思い返した。
俺そいつより良いやつになって大和に告白するから。
大和に告白するから。
告白するから。
告白、してる。
「っっっ~!!? ちょ、ちょっ今のなし!なし!」
「無しなの?僕嬉しかったのに。」
「え?」
「僕は斗真くんのこと好きなんだけど、斗真くんは僕のこと好きじゃないの?」
強烈なストレートを連続で叩き込まれてる。
息も絶え絶えになりながら俺は言の葉を育て上げていく。
「好き、だよ。大和のことが。」
「僕たち今日知り合ったばっかりなのに、ちょっと変だね?」
ころころ笑いながら大和が言う。
「そうだな、名前も今日知ったばっかりだしな。」
自然に俺も笑顔になる。
と、急に大和が訪ねてきた。
「で、斗真くんはいつ僕に告白するの?」
笑顔が固まった。
「えー...っと、いつにしようかなぁ...」
大和が俺の両頬を両手で挟んで俺の逸らした顔を大和の方に持っていく。
「今じゃ、だめ?」
自分より少し低い目線が上目遣いで聞いてきた。
それ反則だろ...
喉元までせり上がってきた言葉を飲み込み言葉を紡ぐ。
「大和。」
「はい。」
「一目惚れしました、付き合ってください。」
「喜んで!」
俺は、
俺たちは
多分とてつもないことをしたんだろう。
大和になんで俺のこと好きになったのかってことを聞いたら
「昔話のときに自分のことみたいに辛そうな顔してたのに、その後の笑顔とのギャップが凄くて あぁ僕こ
の人のこと好きだなって思っちゃった。」
なんて最高の返事が返ってきた。
斗真くんは?と聞かれて俺は恥ずかしさのあまり何も喋ることが出来なかった。
喋るかわりに大和を抱きしめると最初ビックリしたあと大和の腕が俺の背中に絡みついてきた。
「答えはこれでも良い?」
大和が笑いながら答える。
「一番うれしい返事だよ。」
俺が大和に告白してから早くも半年が経とうとしている。
その間に俺たちは映画を見に行ったり公園で時間を過ごしたり、遊園地に行ったり...数えきれないほどの思
い出を作った。
ここだけの話、キスはまだしてない。俺としては早くキスしたいんだけど大和が
「ま、まだ恥ずかしい、から」
って顔真っ赤にして首を振るもんだから手が出せない。
そんなある日のこと、クラスで体育祭の話しがポツポツと出始めた。
「そういえばあと二週間くらいで体育祭だな」
「ほんとじゃん、宵待よいまちは出る種目決めたの?」
「あーいや、まだ何にするか決めれてないんだよね。なーんかめんどくさそうなのが多いんだもん。」
「そうだよなぁ。」
そっか、出る種目早く決めて自己申告しなきゃだめなんだった。
大和の席に近づいていく。
「大和~」
「どうしたの?斗真くん。」
「いや、体育祭の種目はもう決めたのかなっておもってさ。」
「うん、僕障害物競走にしたよ。」
「障害物競走か!なんか意外だな、大和が競争系選ぶなんて。」
「あはは...クラスメートに僕は小柄だから障害物抜けやすそうって言われて、じゃあやるねって言っちゃった
んだよね。」
苦笑しながら大和は言う。
「それ、嫌じゃなかったのか?」
「うーん、最初はちょっと嫌だったかな。でも今はこの身体にしか出来ないことなんじゃないかって思えてる
から結構楽しみなんだよね。」
「そっか、大和が楽しめるならなんでも良いけど...」
「そんな顔しないで~」
あの時みたいに大和が俺の頬を両手で挟んで揉んでくる。
こそばゆくて身体をよじると離してくれた。
「斗真くんは何にするの?」
「んーまだ決めてないけど借り物競争にしようかな。面白そうじゃない?」
「良いね借り物競争!ぼくが持ってるものだったら何でも貸せるからね!」
「頼もしいな、っとそろそろ授業が始まるな。」
「うん、また後で。」
「じゃあこれで六時間目の授業を終わるぞー、この後は終礼で体育祭の種目の最終確認をするから自分の席で
待機しておけー。」
今日で体育祭の種目が決まるのか。まぁ借り物競争でいいかな?あんまり順位とか関係なさそうだし。俺身
体動かしたりすんの苦手なんだよなぁ。走るのとか無理だし...
そんなことを考えていたら先生が入ってきた。
「はーい終礼始めるぞ、体育祭の種目決めてないのはあと佐野と宵待だけだぞ。もう決めたか?」
「うぇ、二人なんすか。」
「宵待は何したい?」
「ていうか後何が残ってるんですか?」
「借り物競争と玉入れだな。」
「あ、じゃあ俺借り物競争でも良い?宵待。」
「佐野は玉入れ嫌いか?俺は好きだから全然いいけど。」
「いや、別に嫌いなわけではないんだけどな。」
「二人共、もう決まったか?」
「はーい」
「大丈夫です。」
「じゃあ今日の連絡を---------」
「大和~一緒に帰ろうぜ」
「いいよー、あとちょっとで片付け終わるから待っててね。」
「おっけー」
俺は図書室で借りた本を読んできた。

...これでよし、と。誰もいなくなっちゃったし帰ろっか、斗真くん。」
「ほんとに誰も居ないじゃん、みんな早いね」
「帰らないの?」
「あぁごめん、帰るけど、その前に...」
その前に? 聞いた大和の言葉を無視して俺は大和に抱きついた。
「!!/// どうしたの?斗真くん、こんなところ誰かにみられt...」
そこで大和の言葉が途切れた。
俺は大和を抱きしめていた腕を引いて大和が向いている方を見た。
そこには赤面している女子生徒が居た。
「あー...なんかごめん、ね?お邪魔しちゃったかな...?」
言いつつ下がっていく女子生徒に大和が声をかける。
「こっちこそごめん、忘れ物かなにかでしょ?取らないの?」
そういう大和の顔もとても赤い。
「いやぁ、なんかもうすごいもの見ちゃったから帰るね。」
その言葉に俺は引っかかりを感じた。
「それどういう意味だ?」
「え?」
「男同士のハグがそんなに物珍しいか?」
「だって普通そんなことしないじゃん!」
「俺たちの普通に口出すんじゃねぇよ!」
「でも...」
まだ何か言い募ろうとしていた女子を無視して俺は教室を出た。
今は大和とすら喋りたくない。
それを察してか、はたまた剣幕に呆気にとられたのか大和は俺のことを追ってこなかった。
...あとで大和に詫びのメッセージ送らないと、と思いながら夕飯を食べた。
食器を運んだ足でそのまま二階の自室へ入りメッセージアプリを立ち上げる。
目を刺すような緑色の背景はもう見慣れたものだ。
「放課後はごめん、なんか俺たちの気持ちがおかしいって言われてるみたいでイライラして先に帰った。嫌じ
ゃなかったら明日からまた一緒に帰ろう?」
文字に起こすとなんとも幼稚な理由であるが仕方がない。
スマホをベッドの上に放り投げ宿題を進めていると通知がなった。
見れば大和からのメッセージの通知だった。
「別に僕は怒ってないから安心して?実際僕もあの女の子が言ってることに対してイラついたし...でもあの女
の子が謝りたいって言ってたからもしかしたら明日以降話しかけに来るかも知れない、そのときは拒絶せず
に話を聞いてあげて。」
「明日は一緒に帰ろうね!」
猫がバンザイをしているスタンプとともに送られてきた。
「ごめん、ありがとう。多分女子も悪い子じゃなさそうだもんね。」
そう送信し俺はゲームのキャラクターが腕で大きく丸を作っているスタンプを送った。
あの後結局俺たちとあの女子は和解した。
聞けばあの女子は大和のことが好きだったらしく、大和とハグをしていた俺に嫌なことを言ってやろうと思
ったらしい。
なんというか
「いかにも女の子らしい理由だよね~」
つまらなさそうに大和が言う
「まぁそう言うなって。大和がモテてるのは事実なんだし。」
「ど、どういうこと?」
泡を食ったように大和が聞いてくる。
「いや大和結構女子人気高いからな?」
「僕は女子百人に好かれるより斗真くん一人に好かれる方が嬉しい。」
そんなことを言われて俺は机に顔を突伏する。
ねぇねぇ~、と大和が肩を揺すってくるが俺は熱くなった顔をあげる勇気はなかった。
そんなこんなしているうちに気がつけば体育祭前日になっていた。
「はいじゃあ終礼を始めます。明日は待ちに待った体育祭ですね。体操服で登校してください。秋なのでもし
寒い人がいる場合は長袖、長ズボンのジャージを半袖、半ズボンの体操服の上から着用し、登校してきてく
ださい。水分は多めに持ってきてくださいね。また、明日は給食が来ないので各自お弁当を持ってきてくだ
さい。8:20登校完了、15:30閉会予定です。以上で明日の連絡を終わります。さようなら。」
「大和!明日だぜ明日!」
「斗真くんってそんなに身体動かすイベント好きだったっけ?」
「嫌いだ。」
「でもすごい楽しみにしてない?」
「そりゃあ、大和と同じイベントに参加するってだけで俺にとっては最高の思い出になるからな。」
「あーそういうこと。てっきりここでかっこよく一位取って女子の視線かっさらおうとしてるのかと思った。」
からかうように大和がそんなことを言ってくるので俺も言い返す。
「へー、大和は俺が大和以外のやつに取られるかも知れないってのにそれでも良いんだ?」
慌てて首を横に振りながら大和が泣きそうな顔で言う。
「やだ!冗談だから!」
俺は わかってるよ、と大和の頭を撫でて落ち着かせることに尽力した。
帰宅後、俺は母さんに弁当の用意を頼んだ。
「斗真、明日のお弁当は一緒に食べる友達は居るのかい?」
しまった、大和と一緒に食べる約束してない...
まぁここで居るって言って最悪明日大和が他の人と食べるってなったら一人で食べればいいか。
「うん、居るよ。」
「どんな子?」
「それは性格の話?見た目の話?」
「どっちも教えてくれたりしない?」
「別にいいけど...そいつは小柄で髪の毛はちょっと栗色の猫っ毛、性格はなんだろう、優しいのかな?」
「あら、いい友達が出来たようね。斗真がこんなに友達の特徴言えるほど親しくなった子って初めてじゃない
かしら。」
「あーたしかにそうかも。まぁそういうことだから明日お弁当よろしくね。」
「とびきり美味しいの作ったげるから楽しみにしてなさい!」
歌うように軽やかに告げられた母親の言葉を聞ききってから自室へと向かった。
大和からメッセージか来ている。
「いきなりごめん!明日のお弁当、一緒に食べない?」
...願ったり叶ったりだ。
「もちろんいいぜ、他の人も誘いたかったら誘ってもいいしそこは大和に任せるよ」
俺は少し勇気を出してハートマークのスタンプを送った。
アプリタブを消すより早く大和からメッセージが来た。
「ほんとに!?やったー!一緒に食べよう!僕二人きりで食べたいな!」
大和からは 月が綺麗ですね と書かれたスタンプが送られてきた。なんだこれ?
俺がメッセージを返すとすぐにまた大和から返ってくる。
「オッケー二人で食べよう、ところで月が綺麗ですねってどういうこと?確かに今日は晴れてて月がよく見え
るけど。」
「違うんだ、斗真くん。月が綺麗ですねってあなたを愛してますって意味にもなるんだよ?」
「あ、そういうこと。月が綺麗ですねって言われたときはなんて返せば良いんだ?きっとこの月は隠れること
はないでしょうとかか?」
「諸説あるみたいだけど ずっと前から月はきれいですよ って返すのが一般的らしいね。斗真くんのそれも
なかなかよさそうだけどね。この恋心はきっと濁りません、みたいなさ?」
「そういうの考える人っておしゃれだよな。」
「僕は斗真くんの きっとこの月は隠れることはないでしょう もすごくおしゃれだと思うし好きだけどな。」
「ありがと、大和も何か月で告白みたいなの考えてみてよ。」
「えぇ!急な無茶振りだねぇ...」
「いいからいいから」
「君の周りの闇を全て光に変えることが出来なくとも、僕は君の周りの闇を照らす月にはなれる。 とかどう
かな?」
「なんかずりぃ、それかっこよすぎる。」
「あ~、いま斗真くん僕にキュンってしたでしょ!」
「してませーん」
「嘘だぁ!絶対キュンってしてくれたはずだもん!」
怒ってるようなスタンプが送られてくる。
「正直に言うと...」
「言うと?」
「ちょっとした。」
「ほらぁやっぱり~」
ドヤ顔のスタンプが送られてくる。
大和のやつ一体何個スタンプ持ってんだよ。
「キュンってしましたーあまりに大和がかっこよすぎたからキュンってしましたー」
ダメ押しでこう送ってみると大和からは照れたようなスタンプが送られてきた。
続けて
「明日体育祭だから早めに寝るね、おやすみ斗真くん。」
「おやすみ、大和。」
俺もそろそろ風呂はいろ...
風呂から上がって歯磨きをしていると母親に話しかけられた。
「ちょうどいいとこにきたわ斗真、あんた体育祭なんの種目に出んの?」
「俺は借り物競争だよ、あんまり順位とか見られないから気楽だなって。」
「そ、なら良いけど。やるからには精一杯頑張んなさいよ?」
「うん、ありがと」
ここで父親が話しかけてきた。
「借り物競争っつったら俺らの時代は 恋人! とかのお題が鉄板だったが斗真はそのお題が出たらどうする
んだ?」
多分俺は明日の体育祭が楽しみで浮かれてたんだと思う。つい口が滑った。
「どうするって、普通に恋人連れて行くけど...?」
母親と父親が開いた口が塞がらないとでもいった様子でこちらを見ている。
先に口を開いたのは母親だった。
「斗真、あんたいつの間に恋人が...?」
続けて父親も口を開く。
「女の子?男の子?どっちなんだ?」
「ちょ、父さんも母さんも落ち着いて。」
「おち、落ち着いてられるもんですか...」
「いつの間にって言われてもだいたい半年くらい前かなぁ、その子は男の子だよ。」
父親は そうかそうか と言わんばかりに満足そうにうなずいている。
母親は付き合ってるのが男だと聞いて更にびっくりしたようだ。
「斗真、あんた男と付き合ったの?信じられない。」
母さんまでそんな事言うのか。
頭がふわっとした刹那、以外にも父親が口を開いた。
「母ちゃん、斗真が誰と付き合おうが斗真の自由だろ。たかだか男の子同士で付き合ったくらいで何が信じら
れないんだ?今の発言は斗真の気持ちも、斗真の恋人の気持ちも踏みにじることになることがなんでわから
ない!」
親父がこんなに声を荒らげたのは初めて見た。更に親父は続ける。
「当人たちの幸せに親が介入するのは親子愛の形じゃないぞ、母ちゃん。本当に親が子を愛してるならするべ
き行動は一つ。息子が心から幸せに生きれるよう、たとえそれが人に迷惑をかけない形の幸せである限り全
力でサポートをすることだ。」
「父さん...」
「それから斗真にも一つ言っておこう。父さんは斗真が誰と付き合おうが構わない。男の子同士で付き合うの
はきっと周囲の好奇に満ちた目で後ろ指を指される茨の道になることはほぼ間違いないだろう。だけど父さ
んは、いや、俺たちは斗真の味方だからな。」
気がつくと俺は涙を流していた。
「父さん...ありがと。」
「いいんだよ、じゃあ斗真はもう寝なさい。明日体育祭なんだろ?」
「うん、おやすみ父さん。」
「あぁ、おやすみ。」
体育祭当日、朝起きると母親が謝ってきた。
「昨日の夜は本当にごめんなさい、親としてあるまじき発言をしたわ。」
「良いよ別に、言ってなかった俺も悪いと思うし。」
母親は少しホッとした様子でお弁当、そこにおいてるからね、頑張ってね。と激励の言葉をかけてくれた。
俺は顔を洗って歯を磨いて体操服に着替えた。
「一応持っていくだけ持っていくか。」
いいつつ長ジャージをカバンに詰める。
いってきまーす! 軽やかに言い残し俺は学校へと向かう。
「おはよう、佐野。」
「あ、先生。おはようございまーす!」
「なんだ?いつにも増して元気じゃないか、そんなに体育祭が楽しみだったのか?」
「そーですね、まぁ体育祭が楽しみってよりは借り物競争が楽しみなだけなんですけどね。」
「そこは嘘でも体育祭が楽しみって言っとけよー」
笑いながら先生が言う。
「おはよう、斗真くん」
「ん、おはよう、大和。元気か?」
「体調は良好、気分は最高、乗るぜ今の流行、俺が導くチームの健闘、相手の負けは残当 Yeah!!」
「テンション高くねーか?」
「楽しんだもん勝ちなんだよ、こういうイベントごとって。」
それもそうか、と答えたところで開会式が始まる。
選手宣誓が終わり、第一種目の合同体操が始まった。
「いーちにーさーんしー」
大きな声がこだまする。
大和は一際大きく体を動かして準備運動に励んでいる。
そんな大和に目が釘付けになっていると不意に大和が振り向いて目が合った。
大和は少し怒ったように
「体操しなよ」
と口パクで伝えてきた。
俺は苦笑し前に立っている体育教師の真似をして前後屈の体操をした。
体操が終わり各学年ごとに建てられたキャンプに戻り第二、第三種目に出る選手以外は水分補給をしたり応
援をしたり楽しく喋っていたり、三者三様の楽しみ方をしていた。
「大和が出る障害物競走って何個目の種目だっけ?」
「確か第五種目だったはずだよ?斗真くんがでる借り物競争は最後の最後だったよね?」
「あぁそうだけど…なんで覚えてんの。」
「大好きな僕の彼氏が頑張る様子って目に焼き付けたいじゃん。だからいつなのかなって覚えたんだ~!」
「そうかそうか、じゃあ俺も大和が障害物競走で頑張って障害物に引っかかってる様子を目に焼き付けおこう
かな~」
「僕は小柄だから障害物に引っかからないでするする走っちゃうもんね!」
けらけら笑いながら返された。
「お、じゃあ1位取れるんじゃないか?」
「1位取ったらどうする?」
「どうするって?」
「もし僕が1位取ったらご褒美ちょうだい!」
「ご褒美ちょうだいって…いいけど、何が欲しい?」
「それは秘密!1位取った後におねだりするから楽しみにしててね?」
小悪魔みたいにニッと笑いながら大和がそういうので俺は何も言えなかった。
大和は他の友達のところで喋っていたので俺は競技の応援に専念することにした。
第二種目の100m走、第三種目の100mリレーはどちらと俺のクラスは3位でまずまずの出だしだった。
次の第四種目は宵待がでる玉入れだ。
第四種目の選手が入場すると同時に第五種目の出場選手の召集がかかった。
「じゃあ行ってくるね、1位になったらご褒美絶対だよ?」
「おう、頑張って1位取ってこい。大和が欲しいご褒美と別にとびきりのご褒美あげるから。」
「絶対だよ!?約束だからね!」
「ほらみんな行ってんぞ、大和も行ってこい」
「行ってきます!」
さて俺は玉入れをしている宵待の様子でも観察してようかな…と。
やっぱり玉入れは身長が高い方が有利なんだろうか。俺が身長166cmに対して宵待は173cmもあるから俺
が出るよりよっぽど良かった気がする。
宵待の働きが大きかったのかは分からないが玉入れでは俺らのクラスが1位で突破した。
テントに戻ってきた宵待に俺は声をかける。
「玉入れ勝ったじゃん、やっぱり身長高いのって有利なのか?」
「まぁ佐野が玉入れするより俺がした方が玉ははいったかもしれないな。」
「はぁぁぁ!?すぐにお前の身長くらい抜かすし!見とけよ!?」
「はいはい」
ぐぬぬ…笑っていなされた。
「ところで佐野に聞きたいことがあるんだけど聞いてもいいか?」
「珍しいな、別にいいけど?」
「答えづらかったら答えなくていいんだけどさ、佐野と神薙って付き合ってんの?」
飲みかけていた麦茶が気管に入り盛大にむせた。
「ゲホッゴホッゴッ…ど、な、え?なん、えなんで??」
「いやさっき2人の会話聞いちゃったんだよね。」
「さっきのって、ご褒美云々の?」
「いや、神薙が 僕の彼氏が頑張ってるところを~っていう話。」
「あぁ聞かれてんのかちゃんと…まぁ隠してるつもりもないしいいけど。」
「てことは付き合ってんの?!」
「声デケェよお前!」
「ご、ごめんごめん…で、どうなの?」
「いやまぁ付き合ってるけど…?」
「え、いつからいつから??」
「あーもーいいじゃん!次大和が出る番だから応援しなきゃだから!」
「大好きな彼氏のかっこいいとこちゃんと見とかないとだもんね~」
俺は うるせー!と言いながら軽く鎖骨の辺りをグーで殴っておいた。
グラウンドの方を見るとちょうど大和の番の前の番のグループがゴールする辺りだった。
大和たちがスタートラインに立ち、しばらくするとパァンという乾いた音が秋の空に響いた。
障害物競走の障害物は計4つの400mトラック一周である。
1つ目の障害物はハードル。大和は運動が苦手だと言っていたがそこそこスムーズに飛べていた。
しかし他のメンバーは運動が得意なのか大和より早く飛んで次の障害物に向かっていた。
少し遅れた大和も2つ目の障害物にたどり着いた。
2つ目の障害物は吊り下げられた一口サイズのパンをジャンプし、口で取るというものだった。
いわゆるパン食い競走のあれと同じものだ。
やはり少し小柄な体型の大和は周りよりも遅れてパンを咥えた。
他のメンバーとどんどん差が広がって行き、大和との差が激しくなっていく。
3つ目の障害物はフラフープを3つ続けてくぐり抜けるものだった。
その3つのフラフープはどんどん輪が小さくなり、中学二年生の男子の肩幅では少ししんどいような幅であ
った。
しかしここで大和の小柄さが牙を剥いた。
3つのフラフープをスイスイとくぐり抜け前の走者との距離をグッと縮めることに成功した。
「よし、いける!」
俺は無意識のうちに声が出ていたようで後ろから宵待の笑った声が聞こえたが無視した。
4つ目、最後の障害物は地面に置かれたネットの下をくぐって進むものだった。
大和は周りの男子より体つきが華奢だ、裏を返せば一般の男子中学生を想定して作られた障害物の幅なら難
なく通れてしまう。
大和はネットの下をまるで何も無いかのようにスムーズに進んで行った。
ネットから出た時、大和の前には誰にも居なかった。ゴールテープは切られていない。
大和はそのまま1番でゴールテープを切った。
実況をしている放送部の部長も大興奮で
「まさかの全抜き1位!!」
と、何度も繰り返していた。
大和はあまり目立つのが得意では無いようで少し居心地悪そうに身じろぎしていたが顔はいつになく満足気
だった。
「お疲れ、大和やるじゃん」
「じゃあ今度約束通りご褒美ちょうだいね?」
「何が欲しいんだ?」
「今は言えない!」
そう言い残し大和はどこかに行ってしまった。
すると宵待が話しかけてきた

…佐野?」
「どした」
「神薙ってさ」
「うん」
「めっちゃ可愛くね?」
「狙うなよ?」
「わ、わかってるよそんな怖い顔しなくても…」
「ならいいんだけどよ」
「でもやっぱ可愛いよな?」
「めちゃめちゃ可愛い。」
「てかいつから付き合ってんの?」
「えっと、始業式の日」
「え、それお前ら初対面じゃね?」
「出会って初日のスピード告白」
「だよな」
「好きになったものは仕方ない!」
それはそうだな、といい宵待も友達のところに歩みを進めた。
それからしばらく経ち、お昼ごはんの時間になった。
「おつかれ、大和!」
「斗真くんもお疲れ様。」
「俺まだ何も出てないけどな。」
「僕の応援してくれたでしょ?でも。」
「それはしたな、もちろん。」
「お昼ごはん食べてしばらくしたらやっと斗真くんの出番だね。」
「借り物競争のアンカーだからほんとに最後の最後なんだよな、緊張してきた...」
「どんなお題来るか楽しみだね?」
「他人事だから楽しみにできるんだよ、どーすんだよ四つ葉のクローバーとかになったら。時間内に見つけれ
る自信ないぜ?俺。」
「そこはまあ、持ち前の強運で?」
「そこで疑問形にしちゃったらもっと自信なくなるだろ...」
「まぁまぁ、大丈夫だって。」
そんな話をしているうちに昼休憩が終わり、応援団のパフォーマンスが始まった。
その後はついに借り物競争なので俺は入場門の辺りで待機しておくことにした。
「じゃ、行ってくるわ。」
「うん、頑張ってね!」

...そーだ、俺もなんかご褒美欲しいな~」
「じゃ、斗真くんが1番でゴールしたらご褒美あげるね?」
それを聞いて俄然やる気が湧いてきた。
「よっしゃ、いっちょかましてくるわ。」
「行ってらっしゃい!」
「さぁ盛り上がりの盛り上がった体育祭も次の種目でラストになりました!その競技とは、借り物競争だ!普
段あまり関わることのない人とも関われるチャンスが生まれるかも知れないこの種目。やはりラストを飾る
のにはぴったりだぁ!!」
熱がこもりすぎている実況もこの場では渦巻く炎を更に大きくする燃料になりうる。
俺らの学校の借り物競争ではお題が放送で読み上げられるので見ている人もスピード感あふれる競争を見る
ことができるのが特色になっている。
ついに俺が走る番になった。
「位置について、用意。 ドン!」
聞き慣れた合図を聞きお題の紙を開く。
同時に実況席から更に盛り上がった声が聞こえてきた。
「さぁやはり借り物競争といえばのお題ですね、ではお題を発表します。そのお題とは...!」
実況を聞きながら俺たち走者は誰一人として動かなかった。
そのお題とは...
「全員一律!恋人または好きな人だあああ!!!」
観客席からうおおおおだとかきゃああああだとかの悲鳴が混じったような歓声が上がる。
仕方ない。
俺は走った。クラスのテントへ。
大和は目を合わそうとしない。
俺は腕を精一杯伸ばして大和の腕を掴んだ。
「大和、行くぞ?」
「え?」
大和ではない誰かの声が確かにそういったのを俺は聞き逃さなかったが今は競争に集中だ。
大和が靴を履いたのを見てから俺は、俺らは走り出した。
俺は、いやきっと俺達はこの瞬間だけ、ほんの数十秒だけだけど世界で一番体育祭を楽しんでいた。
世界が色づいて見える。
すべてが輝いて、俺達を祝福しているような気さえした。
例えばそう、真夜中に空を見上げたときに星がそこら一帯にばらまかれていたような。
そんな透き通った気持ちで俺と大和はゴールテープを切った。
そこで先生が俺達に声をかけてきた。
「佐野、今回のお題はなにかわかってるのか?」
「わかってますよ?」
「じゃあ何で神薙を連れてきた?」
「彼氏だからですけど」
「先生もあまり体育祭で説教はしたくないんだが...」
「説教する必要なんてどこにあるんですか?」
「みんなで作り上げる学校行事でふざけただろ?」
「俺は真面目に神薙と付き合ってるつもりなんですけど」
「え?」
「いや、え?って言われても。本当にふざけてると思ってたんですか?」
「いや、だって本当に付き合ってるとは思わないだろ」
「先生がどう思ってるかなんてそんなの知らないですよ」
「ちなみに神薙も同じ気持ちなのか?」
「当たり前のこと聞かないでくださいよ、僕も好きで付き合ってるんですから」
「そ、そうか。俺はそういう恋愛に疎いから多分失礼な対応をしたかもしれん、ゴメンな」
「ぜんっぜん大丈夫ですよ~、ね?斗真くん」
「うん、まぁアブノーマルな恋愛してる自覚はありますし仕方ないっちゃ仕方ないのであんまり気にしないで
ください」
「俺もこの年齢になってまだ学べることがあるってのは嬉しいことだな、ありがとう、佐野に神薙」
「いえいえ~」
まぁこれで一件落着、かな?
このあとの問題といえば...
「おかえり、佐野クン」
「ただいま、宵待クン」
この男の存在と...
「佐野くんと神薙くんって付き合ってたの!?」
クラスメイトの存在かな。
好奇心丸出しのこの質問に俺は歯切れ悪く答えるしか出来ない。
「あ~、まぁ、うん」
「あはは...」
大和も苦笑いすることしかできなくなっている。
このあとの打ち上げがちょっと憂鬱になってきた。
まぁ少なくとも否定的な反応をする人は居なくて安心した。
学校生活がしにくくなるようなことにはならなくて安心した、けどきっとしばらくはこの話題で持ち切りに
なるだろうなぁ...
まぁ紆余曲折ありながらも無事に体育祭が終わった。
俺達はやや致命傷を負ったが。
打ち上げまでにはまだ結構な時間があるから一回帰って着替えて...なんて考えていると大和が話しかけてき
た。
「斗真くんってこのあとの打ち上げ行くよね?」
「行くよ?」
「それまで時間あるし遊ばない?」
「別にいいけど...どっか行く宛でもある?」
「ない!」
「だろうな」
「どうしようかなぁ」
「俺は打ち上げの前に着替えようと思ってんだけど...あ、俺の家来る?」
「え、行く」
「おっけー、親に聞くわ、って言っても多分帰ってるから俺の家行こうか」
「はーい」
まぁ学校と家が近いからそんなに歩く時間もかからずすぐに家に着いた。
「ただいま~、彼氏連れてきたんだけど家で遊んでもいい?」
「いいけど...あんた自分の部屋片付いてるの?」
「やべ、絶対片付いてないわ。ごめん大和、部屋片付けるからちょっと待ってて」
「えちょ、斗真くん!?」
大和がなにか言っていた気がするけど俺は早く部屋を片付けないと、と必死だった。
机の上の教科書に漫画を全部本棚に戻して床に散乱しているカバンとかを全部クローゼットに入れて...
俺は片付けることに必死過ぎて俺の親のところに残してきた大和がどんな目に合っているかなんて考えも及
ばなかった。
その頃大和はというと...
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「大和くん、って言ったかしら。はじめまして、斗真の母です」
「あ、はじめまして。神薙大和です」
「話は聞いていたよ、にしても借り物競争でいきなり大和くんを連れ出さなくたってなぁ...」
「あはは...」
「昨日に斗真から彼氏がいるってこと聞いてどんな子かなって気になってたのよ~、こんなに早く会えるとは
思わなかったわ」
「まぁ斗真は家に恋人を連れ込むような子じゃないからな」
「そうなんですか?」
「そうよ~、今までも何人か彼女が居たことも合ったみたいだけど誰も見てないわよねぇ」
「そうだな、斗真の恋人と会うのはこれが初めてだ。」

...」
「どうしたの、大和くん。黙り込んじゃって」
「いやぁ...あの」
そこまで言って僕は涙が溢れてきてしまった。
「僕、こんなにすんなり斗真くんの恋人って認めてもらえると思わなくてっ」
「まぁ、同性だし色々言われることは多いと思う。だけどな、大和くん、我が子が好きになった子が男の子だ
ろうが女の子だろうが、そのどっちでもなくてもその相手は親にとってきっとその子のことも我が子のよう
に思えるはずなんだ。少なくとも俺はそう思う」
「私はまだ男の子同士で付き合ったりすることとかはよくわかんないし、多分今すぐ理解するのは無理だと思
う。だけど斗真が好きになったなら相手は誰でもいい、それが斗真の選ぶ斗真が一番幸せになれる道だと思
うから」
僕はまるで小学生かのように声を上げて泣いてしまった。
そんな僕のことを斗真くんのお母さんとお父さんは優しく慰めてくれた。
そんな中で掃除を終えた斗真くんが階段を降りてきた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
掃除の終わりかけにふと思い出した。
大和を親と3人で置いてきてしまったことを。
俺は急いで掃除を終わらせて1階に降りた。
するとそこには号泣している大和とそれを囲む俺の両親。
俺は状況が飲み込めずにいた。
呆然と立ち尽くしていると母親が話しかけてきた。
「大和くん、いい子だね」
「あぁ、うん」
続けて父親も話しかけてくる。
「斗真とよく似合ってる」
なんとも照れくさくて俺は黙り込んでしまう。
「今日は仕方ないけど、明日からは大和くんを泣かせるなよ」
「うん、それは大丈夫」
「部屋、片付いたのか?」
「うん、行こうか、大和」
「うん!」
なんとか片付いたように見えるようにした部屋に大和と2人。
付き合って初めて2人だけの空間。
なんとなく恥ずかしくて特に何も会話出来ない。
ふと大和が口を開いた。
ねぇ、
声と認識するにはやや頼りなく、か細い声だった。
「ん?」
「僕、障害物競走で1位だったよ」
「うん、見てた。かっこよかったよ」
まっすぐにそう伝えると大和は顔を赤くして俯いてしまった。
かわいい。
「てか違う!僕はそういうことを言いたかったんじゃなくて!」
「何が言いたかったの」
「ほらぁ、僕が1位取ったらさ...ね?」
「あぁご褒美ほしいって言ってたね、何が欲しいの?」
「えー、いわないとだめ?」
「言わなくてもいいけど俺何もあげられなくなるよ?」
「えーーーーーー!それは困る」
「俺は困らない」
「僕は困る」
「そっか」

...」
「で、何が欲しいの?」
「目、閉じて欲しい」
「ん、」
次に目を開いたとき、大和はまた顔を真っ赤にして俯いていた。
「大和、こっち向いて?」
「やだぁ...」
「こっち向いて?」
「うぅ...」

「斗真くんの馬鹿。」
「てへ」
「てへじゃないよぉぉぉ!!」
「ごめんってば~」
「別に、斗真くんだからいいけどさぁ...」
「でしょ?まず最初にしたの大和だから」
「う~...」
「てか着替えていい?」
「うん、いいよ」

...」

...」
「え、そんな着替えまじまじと見ることある?」
「ある」
「なんで?」
「まぁまぁ気にせず着替えてください」
「気にしかならないよ?」
「まぁまぁいいから」
見られながら着替えるのってめちゃくちゃやりにく過ぎる。
「斗真くんって何部だっけ?」
「ん?サッカー部だよ」
「鍛えてる?」
「いや?」
「かっこいい体だね」
俺はもう限界だと思った。
ベッドの上に敷いたままだった掛け布団を大和にぶん投げて視界を奪ってからさっさと着替えることにした。
「うわぁっ、ちょ、斗真くん!」
大和のこもった声が聞こえてくるけど無視して俺は服を着替え終わった。
「もぉ!何すんの...って斗真くん着替え終わってるじゃん!」
「そりゃあまぁ大和が見れないようにしてから一気に着替えたしね」
「もぉ~!もっと見てたかったのに!」
「はいはい、また今度ね」
「絶対だよ?」
「約束ね~」
俺は適当に大和のことをあしらってこのあとの打ち上げの準備を始めた。
「そういえば大和は着替えないの?」
「あー、まぁいいかな」
「打ち上げ終わりは寒くなるぞ?」
「えーそっかぁ...」
「どうする?上着貸そうか?」
「え、いいの?」
「多分だいぶでかいけどそれでもいいなら」
「むしろ嬉しい」
「じゃあそろそろ出ようか」
「うん!」
親に行ってきますを伝えてから打ち上げ先に向かった。
茜色に照らされた大和の頬がまだ赤く染まっていく。
手が重なった長い2つの影が伸びていく。
「おーおー、佐野クンに神薙クン、おてて繋いで仲良しですね」
「うるせーんだけど、宵待クン」
「ごめんってば、みんなもう集まってるぞ」
「マジ?遅刻した?」
「みんなが早すぎるだけ、まだあと十分くらいあるよ」
「だよな?」
「おう」
宵待と話しながら打ち上げ会場に向かう...着いた。
そこで俺達は気づかないうちに大きなミスをしてしまっていた。
「んと、佐野くんと神薙くん...」
「ん?」
「仲いいんだね...?」
「え?」
未だによくわかってない俺と違って大和はもう何を言われてるかわかったみたいで、
「あの、斗真くん...手」
「あ」
慌てて手を離した俺達を見て宵待含めクラスメイトの数人が笑っていた。
本当に恥ずかしい、穴があったら入りたい。
お店の予約時間になって宴会席に通された。
あれよあれよと言う間に俺と大和は真ん中の辺りの席に座らされてみんなに囲まれるような形になった。
「えっとぉ...なんで僕と斗真くんがこの席なの?」
クラスメイトが答える。
「そりゃほら、今日のハイライトでしょ。あの借り物競争のシーン」
「あー...ごめんな大和」
「別にそれはいいんだけど...」
「え、もしかして今から質問大会とか始まっちゃう感じ?」
宵待がにやにやしてるのが腹立つ。
もういいや、どうせならこのまま突っ走ってやれ。
「よし、もう1回謝るわ。ごめん大和」
「え?」
「気になること全部聞け!」
「いつからなの?」
「どっちが告白した?」
「神薙は佐野のどこが好きなの?」
「逆に佐野は?」
「デートはした?」
「キスは?」
打ち上げが終わるまでずっとこんな調子だった。
でも誰も俺達のことを気持ち悪いだとか、おかしいとか言わなかった。
とても、優しく受け入れてくれた。
温かいクラス。
俺も、大和も泣いてしまった。
慰めてくれたのが宵待なのが腹立つけど!
打ち上げが終わったその帰り、俺は少し袖を余らせている大和と手を繋ぎながら歩いていた。
「やっぱり斗真くんのジャージは大きいね」
そう言って照れたようにはにかむ大和。
「身長、俺の方が高いからな」
「そうだね…」
沈黙が流れる。
「斗真くんのジャージ、斗真くんの匂いする」
「やめろよ!」
恥ずかしくてつい大和の肩を掴んでしまう。
目と目が合った。
少し鼓動が早くなる。
月が放つ寂光が伸ばす俺達の薄い影がゆっくりと重なっていく。
金木犀の甘い匂いが俺達を包み込む。
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