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太平洋の嵐(Pacific storm)
太平洋の嵐(Pacific storm) 3
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【北太平洋上 オアフBM周辺】
戸張の烈風小隊がオアフBMを目視で捕らえたのは、発艦から30分後のことだった。ワイバーン迎撃戦と異なり、今度は一番乗りというわけにはならなかった。
彼等に限らず、三航艦の航空隊全機が先を越されていた。
彼等が目にしたのは、直径30キロはあると思われる巨大な黒い球体、それを悠然と取り巻く数百機の艦載機だった。複数の機種で構成さていたが、どれもが白星の紋章を背負っていた。
合衆国海軍の攻撃部隊だった。
数十機単位の編隊を組み、オアフBMへ波状攻撃を仕掛けていた。
圧巻と言うほか無かった。
一種の憧憬すら戸張は覚えた。
=====================
【北太平洋上 USS第5艦隊 戦艦<ニュージャージー>】
このときオアフBMへ強襲をかけたのは、ウィリアム・ハルゼー中将麾下の第5艦隊より発艦した300機の攻撃隊だった。内訳は艦上戦闘機120機に、艦上攻撃機80機、艦上爆撃機100機だった。第5艦隊が保有する航空戦力の全力が投入されていた。
艦隊司令部に攻撃隊第一波の攻撃開始の報告が入ったのは、戸張が到着する10分ほど前のことだった。まさに間一髪の差だった。
「ジャップに先を越されずに済んだか」
戦艦ミズーリのCICでハルゼ―は満足げな笑みを浮かべた。
「提督、彼等は同盟国です。それに、その呼び名は止めるようにニミッツ長官から……」
参謀の一人が恐る恐る、彼に諌言する。ハルゼ―の顔から笑みが消え、眉間に深い皺が刻まれた。まさに猛牛のあだ名に相応しい、鬼気迫る面相だった。
「ジャップはジャップだ。知っているだろう。奴らが真珠湾に何を仕掛けようとしていたのか」
「それは――」
5年前、真珠湾攻撃が未遂に終わった後で、日本は大規模な演習を北太平洋で行ったと発表した。もちろん、それは真実ではなかった。日本と合衆国は対魔獣同盟締結のために、日米開戦の事実を歴史の闇へ葬り去ることにしたのだった。
一部の高官は、日本が何を企んでいたのか真実を知っていた。ハルゼ―はその中の一人だった。
彼は、真珠湾の日以来、日本に対してぬぐえぬ疑念を抱いたまま艦隊の指揮を執っていた。今だって、いつ裏切って攻撃してくるかわからないと本気で思っている。
オアフBMが日本の艦隊へ向っていると聞いたとき、彼は放っておけとすら言っていた。いっそのこと好都合だった。どうせ魔獣との戦争が終われば、次は奴らとの戦いになるのだ。BMによって沈められるか、オレ達の手で沈めてやるか二択でしか無い。
彼が自分の意思を変えたのは、良心によるものではなかった。彼の性格を知り尽くしていた太平洋艦隊司令長官チェスター・ニミッツが一本の電文を送りつけたからだ。
"汝は合衆国の仇を日本にとらせるや?"
『お前は、日本に功を譲る気なのか』と問うたのである。ハルゼ―は遠回しに臆病者と言われているように受け取った。まさにニミッツの思惑通りだった。
電文は抜群の効果を発揮し、猛牛ハルゼ―の闘志に火を点けた。いささか効果を発揮しすぎたきらいがあった。彼は航空攻撃のみならず、戦艦による砲撃でBMを仕留めようとしていた。母艦戦力を少数の護衛と共に切り離し、最新鋭の戦艦アイオワ級二隻を率いてオアフBMの元へ急行していた。
=====================
待機命令が編隊長より、戸張の小隊へ発せられた。どうやら合衆国軍の攻撃が終わるまで、待ちぼうけを食わされるらしい。
「ったく、早くしてくれよ。日が暮れちまう」
ぼやきながら、遠巻きにオアフBMを伺う。
正直なところ、戸張達の出番があるのかすら怪しいと思い始めていた。
合衆国軍の攻撃隊は、もちうる全ての手段をもって、徹底した攻撃をオアフBMへ加えていた。
機銃掃射、急降下爆撃、水平爆撃、ロケット弾による制圧射撃。
あらゆる火器によって、黒い月は毒々しいオレンジ色の火炎に包まれていた。オアフBMのあちこちで小規模な爆発が生じていた。
――派手にやりやがる。
そう思いながら、しっくりと来ないものがあった。腑に落ちないというべきだろう。
オアフBMは合衆国軍機の攻撃をただひたすら受け続けていた。全く効果が無いようには思えない。事実、BMの進行は止まっている。だからこそ、戸張は違和感を覚えた。
――なんで、アイツやられっぱなしなんだ?
彼の経験上、そろそろ反撃が来てもおかしくはない。ヤツから一定の距離を取るべきだろう。
そう思ったときだった。
オアフBMが鈍い光を放ち始めた。
全機散開の命令が日米双方の編隊長から発せられた。
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次回1/8投稿予定
戸張の烈風小隊がオアフBMを目視で捕らえたのは、発艦から30分後のことだった。ワイバーン迎撃戦と異なり、今度は一番乗りというわけにはならなかった。
彼等に限らず、三航艦の航空隊全機が先を越されていた。
彼等が目にしたのは、直径30キロはあると思われる巨大な黒い球体、それを悠然と取り巻く数百機の艦載機だった。複数の機種で構成さていたが、どれもが白星の紋章を背負っていた。
合衆国海軍の攻撃部隊だった。
数十機単位の編隊を組み、オアフBMへ波状攻撃を仕掛けていた。
圧巻と言うほか無かった。
一種の憧憬すら戸張は覚えた。
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【北太平洋上 USS第5艦隊 戦艦<ニュージャージー>】
このときオアフBMへ強襲をかけたのは、ウィリアム・ハルゼー中将麾下の第5艦隊より発艦した300機の攻撃隊だった。内訳は艦上戦闘機120機に、艦上攻撃機80機、艦上爆撃機100機だった。第5艦隊が保有する航空戦力の全力が投入されていた。
艦隊司令部に攻撃隊第一波の攻撃開始の報告が入ったのは、戸張が到着する10分ほど前のことだった。まさに間一髪の差だった。
「ジャップに先を越されずに済んだか」
戦艦ミズーリのCICでハルゼ―は満足げな笑みを浮かべた。
「提督、彼等は同盟国です。それに、その呼び名は止めるようにニミッツ長官から……」
参謀の一人が恐る恐る、彼に諌言する。ハルゼ―の顔から笑みが消え、眉間に深い皺が刻まれた。まさに猛牛のあだ名に相応しい、鬼気迫る面相だった。
「ジャップはジャップだ。知っているだろう。奴らが真珠湾に何を仕掛けようとしていたのか」
「それは――」
5年前、真珠湾攻撃が未遂に終わった後で、日本は大規模な演習を北太平洋で行ったと発表した。もちろん、それは真実ではなかった。日本と合衆国は対魔獣同盟締結のために、日米開戦の事実を歴史の闇へ葬り去ることにしたのだった。
一部の高官は、日本が何を企んでいたのか真実を知っていた。ハルゼ―はその中の一人だった。
彼は、真珠湾の日以来、日本に対してぬぐえぬ疑念を抱いたまま艦隊の指揮を執っていた。今だって、いつ裏切って攻撃してくるかわからないと本気で思っている。
オアフBMが日本の艦隊へ向っていると聞いたとき、彼は放っておけとすら言っていた。いっそのこと好都合だった。どうせ魔獣との戦争が終われば、次は奴らとの戦いになるのだ。BMによって沈められるか、オレ達の手で沈めてやるか二択でしか無い。
彼が自分の意思を変えたのは、良心によるものではなかった。彼の性格を知り尽くしていた太平洋艦隊司令長官チェスター・ニミッツが一本の電文を送りつけたからだ。
"汝は合衆国の仇を日本にとらせるや?"
『お前は、日本に功を譲る気なのか』と問うたのである。ハルゼ―は遠回しに臆病者と言われているように受け取った。まさにニミッツの思惑通りだった。
電文は抜群の効果を発揮し、猛牛ハルゼ―の闘志に火を点けた。いささか効果を発揮しすぎたきらいがあった。彼は航空攻撃のみならず、戦艦による砲撃でBMを仕留めようとしていた。母艦戦力を少数の護衛と共に切り離し、最新鋭の戦艦アイオワ級二隻を率いてオアフBMの元へ急行していた。
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待機命令が編隊長より、戸張の小隊へ発せられた。どうやら合衆国軍の攻撃が終わるまで、待ちぼうけを食わされるらしい。
「ったく、早くしてくれよ。日が暮れちまう」
ぼやきながら、遠巻きにオアフBMを伺う。
正直なところ、戸張達の出番があるのかすら怪しいと思い始めていた。
合衆国軍の攻撃隊は、もちうる全ての手段をもって、徹底した攻撃をオアフBMへ加えていた。
機銃掃射、急降下爆撃、水平爆撃、ロケット弾による制圧射撃。
あらゆる火器によって、黒い月は毒々しいオレンジ色の火炎に包まれていた。オアフBMのあちこちで小規模な爆発が生じていた。
――派手にやりやがる。
そう思いながら、しっくりと来ないものがあった。腑に落ちないというべきだろう。
オアフBMは合衆国軍機の攻撃をただひたすら受け続けていた。全く効果が無いようには思えない。事実、BMの進行は止まっている。だからこそ、戸張は違和感を覚えた。
――なんで、アイツやられっぱなしなんだ?
彼の経験上、そろそろ反撃が来てもおかしくはない。ヤツから一定の距離を取るべきだろう。
そう思ったときだった。
オアフBMが鈍い光を放ち始めた。
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