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遠すぎた月(A Moon Too Far)
発動(zero hour):2
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【北米大陸 中央部】
1945年5月9日
連合国はエクリプス作戦において、作戦区域を3つに分けていた。
まずカナダのオンタリオ戦区であり、英国陸軍と日本の遣米軍が主攻戦力となっていた。同軍の任務はオンタリオ周辺からスペリオール湖北部に潜む魔獣の掃討であり、同時に敵獣の南進を未然に防ぐ役割が課せられている。これは後述する合衆国第6軍の進攻を戦略レベルで援護する意味が含まれていた。
次に五大湖戦区である。こちらは合衆国第6軍の担当戦区として割り当てられていた。彼等には文字通り五大湖周辺に潜む魔獣の掃討によって、BMの防衛戦力を低下させる任務が課せられている。まさにエクリプスの主目的を背負っていた。そのため、第6軍は合衆国軍の中でも最も装備の充足化が計られ、優先的に航空支援が得られるように事前調整がなされている。
最後に南部戦区だった。ここは合衆国第7軍の担当戦区となっていた。彼等は第6軍に先行し、アトランタBMから産出される魔獣の北進を挫く役割が与えられている。アトランタBMと南部の魔獣に動きが無かった場合は、戦力予備として状況次第では合衆国第6軍の攻勢に加わる予定となっていた。
端的に要約すれば、エクリプスの主舞台は五大湖戦区であり、主役は合衆国第6軍だった。それ以外の戦区に割り当てられた配役は引き立て役に過ぎなかったのである。英国陸軍、遣米軍、そして合衆国第7軍に期待された役割は南北から邪魔が入らぬよう防波堤として機能することだった。合衆国第6軍が合衆国中央部から五大湖まで打通するまで、他の軍は魔獣の進攻を食い止めれば良かった。逆説的には、合衆国第6軍が打通が失敗した場合、全てが水泡に帰することを意味していた。
上述のようにエクリプス作戦の実態は、あくまでも五大湖周辺の魔獣とBMの無力化を意図した限定攻勢であり、決して後世に語り継がれるような合衆国の全土回復を意図した全面攻勢では無かった。
====================
エクリプス発動の先鋒を切ったのは、航空部隊だった。2000機以上の戦爆混合の攻撃隊が払暁とともに飛び立ち、定められた目標へ向けて爆弾の豪雨を降らした。
主要な攻撃目標は大別して、二つに分かれていた。
一つは陸上戦力の進撃予定路にある魔獣の群れだった。魔獣はセルと呼ばれる群体を形成している。セルの構成は、種族によって様々な形態に分けられていた。例えば、ワームやバジリスクなどの竜種は単一で構成されている。一方、グールやトロールなど人型個体の魔獣は、互いを補うようにセルを形成し、擬似的な複合戦闘集団と化していた。
もう一つの攻撃目標は、大型魔獣だった。ドラゴンやヒュドラなどである。予め識別票をマーキングされた個体に対して、中隊単位の航空隊が割り振られた。それら魔獣は、ロケット弾から1トン爆弾まで航空機に搭載可能なあらゆる兵装を用いて、文字通りミンチになるまで猛攻を受けることになった。一見すると完全な過剰攻撃だったが、ボッティンオーの戦いを鑑みれば致し方ないことだった。彼の地では大型ドラゴン1頭と引き替えに、合衆国軍は1個大隊2000名の将兵を生け贄に捧げていた。本郷たちの活躍がなければ、さらに1個大隊追加されていたかもしれない。合衆国軍にとって、受け入れがたい交換比率だった。
作戦開始から48時間後、航空攻撃によって50個近くのセルと28体の大型魔獣が戦闘不能と判定された。
初動は成功と判断され、5月11日、正面戦力として連合国の陸上部隊20万人が進撃を開始した。
もちろん航空支援は引き続き行われる。連合国は、この日のために30日間稼働可能な物資を集積していた。
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次回3月16日(土)投稿予定
1945年5月9日
連合国はエクリプス作戦において、作戦区域を3つに分けていた。
まずカナダのオンタリオ戦区であり、英国陸軍と日本の遣米軍が主攻戦力となっていた。同軍の任務はオンタリオ周辺からスペリオール湖北部に潜む魔獣の掃討であり、同時に敵獣の南進を未然に防ぐ役割が課せられている。これは後述する合衆国第6軍の進攻を戦略レベルで援護する意味が含まれていた。
次に五大湖戦区である。こちらは合衆国第6軍の担当戦区として割り当てられていた。彼等には文字通り五大湖周辺に潜む魔獣の掃討によって、BMの防衛戦力を低下させる任務が課せられている。まさにエクリプスの主目的を背負っていた。そのため、第6軍は合衆国軍の中でも最も装備の充足化が計られ、優先的に航空支援が得られるように事前調整がなされている。
最後に南部戦区だった。ここは合衆国第7軍の担当戦区となっていた。彼等は第6軍に先行し、アトランタBMから産出される魔獣の北進を挫く役割が与えられている。アトランタBMと南部の魔獣に動きが無かった場合は、戦力予備として状況次第では合衆国第6軍の攻勢に加わる予定となっていた。
端的に要約すれば、エクリプスの主舞台は五大湖戦区であり、主役は合衆国第6軍だった。それ以外の戦区に割り当てられた配役は引き立て役に過ぎなかったのである。英国陸軍、遣米軍、そして合衆国第7軍に期待された役割は南北から邪魔が入らぬよう防波堤として機能することだった。合衆国第6軍が合衆国中央部から五大湖まで打通するまで、他の軍は魔獣の進攻を食い止めれば良かった。逆説的には、合衆国第6軍が打通が失敗した場合、全てが水泡に帰することを意味していた。
上述のようにエクリプス作戦の実態は、あくまでも五大湖周辺の魔獣とBMの無力化を意図した限定攻勢であり、決して後世に語り継がれるような合衆国の全土回復を意図した全面攻勢では無かった。
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エクリプス発動の先鋒を切ったのは、航空部隊だった。2000機以上の戦爆混合の攻撃隊が払暁とともに飛び立ち、定められた目標へ向けて爆弾の豪雨を降らした。
主要な攻撃目標は大別して、二つに分かれていた。
一つは陸上戦力の進撃予定路にある魔獣の群れだった。魔獣はセルと呼ばれる群体を形成している。セルの構成は、種族によって様々な形態に分けられていた。例えば、ワームやバジリスクなどの竜種は単一で構成されている。一方、グールやトロールなど人型個体の魔獣は、互いを補うようにセルを形成し、擬似的な複合戦闘集団と化していた。
もう一つの攻撃目標は、大型魔獣だった。ドラゴンやヒュドラなどである。予め識別票をマーキングされた個体に対して、中隊単位の航空隊が割り振られた。それら魔獣は、ロケット弾から1トン爆弾まで航空機に搭載可能なあらゆる兵装を用いて、文字通りミンチになるまで猛攻を受けることになった。一見すると完全な過剰攻撃だったが、ボッティンオーの戦いを鑑みれば致し方ないことだった。彼の地では大型ドラゴン1頭と引き替えに、合衆国軍は1個大隊2000名の将兵を生け贄に捧げていた。本郷たちの活躍がなければ、さらに1個大隊追加されていたかもしれない。合衆国軍にとって、受け入れがたい交換比率だった。
作戦開始から48時間後、航空攻撃によって50個近くのセルと28体の大型魔獣が戦闘不能と判定された。
初動は成功と判断され、5月11日、正面戦力として連合国の陸上部隊20万人が進撃を開始した。
もちろん航空支援は引き続き行われる。連合国は、この日のために30日間稼働可能な物資を集積していた。
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次回3月16日(土)投稿予定
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