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いつか、どこかで
しおりを挟む目玉の大きな怪物がいた。
ほかはそうでもなかったので、怪物はお腹が減ってもクルミのひとつでもほおばればよかった。
目玉が大きいので見つける分には苦労がいらなかった。
どこかへ行きたいときには目玉でごろごろ転がった。
ごみが目に入ると痛かったけれども、目玉の方が手足を浸かって歩くよりよっぽど便利だった。
怪物は大層醜くて、こいつを食べてやろうという動物は一匹だっていなかった。
たまに性格の悪いカラスが好奇心に負けて突っつきに来たりした。
怪物は口も手も足も小さくて追い払うことも出来ず、そういう時はごろごろと目玉を転がして大急ぎで逃げていくのだった。
怪物は特に優しいわけでもなく、意地悪でもなかった。
引っ込み思案で無口で、感激屋で泣き虫だった。
雨上がりの虹を見たとき、「なんて美しい」小さな小さな声で呟いて、大きな目玉からぼたぼたと涙を流した。
虹は色を増し、より美しく雄大になった。
花も木も熊も鹿も光も夜も生まれたばかりの子どもたちも皆そうだった。
「なんて逞しい背中、なんてしなやかな脚、なんと若々しい緑、なんてかわいい笑顔!」
怪物が感嘆する度に、それらはより美しさがますのだった。
目玉に比べて小さな小さなその声は、誰の耳に届くわけでもなかったけれど。
ある日、怪物は死んだ。
王女をさらったという濡れ衣を着せられて人間に退治されたのだ。
怪物は森に置き去りにされていた赤ん坊を見守っていたけれど、一度とて触れたことなどなかったのに。
呟いていただけだ、「なんて可愛らしい子」と。
赤ん坊は森から救い出されて美しい王女に育ったけれど、なぜか鏡を見るたび悲しい気持ちに襲われるのだった。
鏡に映されて、自分の醜さに絶望して死んだ目玉の大きな怪物のことなど覚えてはいなかったろうに。
世界はゆっくりと醜くなっていった。
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