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しおりを挟む「感謝するぞ、雀女! これで夏雪が変なやつに付け入られずに済む」
月弧さんにおもいっきりハグして撫で撫でしてもらう。
夜も明けないうちに起こしてしまったけど、わたしの不在に気づいた塞の神様によって部屋付きのひよこさんたちに起こされる羽目になってちょっとテンションが高めだ。
良かった、帰る前にちゃんと夏雪君の役に立てたし、月弧さんも嬉しそう。
だとしたら、とあんなに心がごちゃごちゃしていたのにすっきりして心が決まる。
帰ろう、心残りを残さずに。
「雀女さん、体調はどう? 夢渡りは危険はないけど、たまに部分的に心を置いてきたりする人もいるから」
目を覚ました夢掘りのだいだら坊と再契約の話をしていた夏雪君が戻ってくる。
まだまだ〈渡し風の間〉で眠るつもりだそうだ。
「しっかりわらわが診た。何の問題もないぞ!」
「ごめんね、夜に月弧にお説教して事情を聞いたけど僕のことを心配してくれたんだってね。僕としてはうちの書画骨董を売るつもりで言ったんだけど、月弧が妙に先走ったみたいで。しばらくは、片寄った人間文化の冊子は控えさせるから。でも、ありがとう」
感謝の言葉とほほ笑みをまっすぐ向けられて胸がいっぱいになる。
このほほ笑みの記憶があればきっと頑張れる。
「あの、あのね、夏雪君、わがままなんだけど、お願いがあるの! もう少ししたら、わたしは元の世界に帰るけど、その前にわたし、わたしね、夏雪君のこと、」
しっかり夏雪君の顔を見据える。
「おおっ!?」
月弧がウキウキと拳を握って身を乗り出す。
「彫りたいのッッ! だからスケッチさせて!!」
「──彫る?」
「雀女!? このシチュエーションでそう来るか!?」
「え? なんか月弧さん、怒ってる?」
「ここは惜別の紅涙を絞って接吻の一つでも要求するところ──」
キョトンとする雀女に説教する月弧を夏雪が笑顔で引き離す。
「ごめんね、雀女さん。冊子の禁止期間伸ばすから」
「なにゆえ?!」
「暴走しがちだから。そう言えば彫刻の勉強しているって月弧から聞きました」
「うん! わたしの住んでた町ね、すごくきれいな天女像があって、わたし大好きだったの。いつも会いに行ってた。でも大きな地震があった時燃えちゃって、わたしも火事に巻き込まれて無事だったの。皆、加護があった奇跡だって喜んでくれたけど、わたし、いたたまれなくて。なんだかわたしのせいみたいで。だから、いつか自分で彫れたらって。でも、自分の技量は稚拙だし、記憶の天女様の姿も薄れて不安だったの。だけど、夏雪君に会えたら、はっきり思い出せたから。今すぐは無理だけど、でも彫ろうって思えたから」
「だから、モデルをお願いします!!」
いじける月弧を横目に夏雪が笑顔で返す。
「僕でよければ」
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