ベル先生と混人生徒たち

清水裕

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第一章 賢者と賢者の家族

第14話 ベル、盗賊退治に出向く。

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 鬱蒼と茂る森の中にある街道。その道の真ん中に突如魔方陣が展開され、それが消え去るとそこにはひとりの少女が立っていた。
 ……言わなくとも分かるだろうが、ベルだ。

「とりあえず、ミナットーから話を聞いて分かってたけど、この街道に盗賊が出たのね」

 そう呟きつつ、ベルは周囲を見渡す。
 周りは樹に囲まれて、盗賊やモンスターの姿を隠すようになっており、隠れるのに最適な場所だった。
 そんな周囲を見てから、ベルは小さく頷いた。

「…………あー、うん……これだけ鬱蒼としてたら盗賊が出るのも当たり前……かしらね?」

 苦笑しながら、彼女はその場に立つと静かに目を閉じる。

「さてと……、探し物は何ですか? 見つけ難い物ですか……ってね」

 呟きつつベルは魔力を杖に込めると、それを地面に突き立てると一気に地面へと流した。
 瞬間、地面に流された魔力は波紋のように広がり、周囲に何があるのかということを目を閉じたベルの視界に投影されていった。
 無数の木々、動物、モンスター、岩、石、壁、壁壁壁、穴、そして……。

「見つけた……けど、これって……、いったいどういう……」

 盗賊は見つけることが出来た。ただ……、少し……いや、大分問題があった。
 そのことに顔を顰めつつ、ベルは彼らの根城に向けて歩き出した。
 だが、当然相手も近づいてくる人間に対して無防備であるはずが無い。

『きゃはは、きゃはははは~~♪』
「……来たみたいね。っ! んっ……!」

 耳元で囁くような声が響き、ベルが呟いた瞬間――彼女の体の内側から火照りが湧き上がるのを感じた。
 その火照りはただの熱ではなく、男を肉欲を求める性欲の火照りだった。
 このまま自らの体を弄くり、性欲を満たし男の精を求めたい。そんな思考が頭の中で埋め尽くされる……はずだった。

「――『リフレッシュ』」

 ポツリとベルが呟いた瞬間、彼女の体の内側から包み込むように緑色の光が湧き上がった。
 すると、一瞬湧き上がった火照りは即座に消え去り、冷静な思考が戻り始めた。

「ふぅ……。けどこれは、サキュバスの思念にしては強力ね……」
(しかも、送られてきた思念は誘うようじゃなく、どちらかと言うと……玩具を見つけた子供が笑っているようだった?)

 感じた疑問に首を捻りながら、ベルは再び歩き始めようとする……のだが、その足は停まっていた。

「一応、念には念を入れておいたほうが良いわね。――『マインドプロテクション』」

 彼女の呟きと共に魔法は発動し、催淫などといった精神異常の心配は無くなった。
 その直後、再び彼女の耳に先ほどと同じ囁くような声が聞こえたのだが……、再び淫らな気持ちになることは無かった。

「平気みたいね。……それじゃあ、何があるか確認しましょうか」

 呟きながらベルは今度こそ洞窟に向けて歩き出したのだった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇


「……ここが、盗賊たちの住処ね?」

 10分ほどしてベルは、薄暗い洞窟を前にしながらそう呟く。
 だがその表情は何とも言えないような表情をしていた。
 それもそのはずだ。洞窟の中からは色んな臭いが漂ってきているのだから……。

「色々と腐った臭いが中から漂ってくるわね……。特に生臭い精液の臭いが……」

 鼻を摘みながら、ベルは顔を顰めつつ呟く。
 大量の精液の腐った臭いが中から漂い、それに混ざるようにして漂う染み付いた血の臭い、そして……それらに絡みついた死の臭い。
 そんな臭いが漂う洞窟へとベルは足を踏み入れる。

「入口に罠の類は、仕掛けられては居ないみたいね。……元々は見張りが居て巧妙に隠してたんでしょうね。それにそもそも森を抜けてこんな所まで来るなんて普通は兵士しか居ないでしょうし……『ライト』」

 呟きながら、ジメジメとした洞窟を作り出した光の珠を光源にして歩くが……洞窟の中は人が2人ほど通れる広さで緩やかな下り坂となっており、下に降りるようにベルは歩く。
 だが、奥へ奥へと進むにつれて漂う臭気は段々と濃くなり、鼻を摘んでいても効果が無いように感じられた。

「うぅ……、臭気に毒が混じってたら問題だけど、臭いだけっていうのが厳しいわね……。風を中に送り込んで吹き散らす方法もあるだろうけど……中の臭いを全部吹き飛ばすのも時間が掛かって面倒臭いし、諦めて臭いに慣れるのを待つしかないか」

 ウンザリしながらベルはぼやきつつ洞窟内を歩く。
 それから5分ほど歩くと、下り坂が徐々に平らになっていき……その道をしばらく歩くと先へと続く道の途中で壁をくり貫いて作られたであろう部屋へと辿り着いた。
 ちらり、と部屋の隅から中の様子を見るのだが……明かりはまったく無いので中の様子は分からない。

「敵の警戒をするなら、ナイトアイを使ったほうが良いと思うけど……そのは無いからこれで良いわね――『ライト』」

 言いながらベルは光源である光の珠を新たに作ると、その部屋の中へと送り込んだ。
 すると真っ暗な部屋の中が明るくなり、部屋の中の様子が明らかとなった。

 この部屋は見張りの盗賊たちの休憩所なのだろう。
 事実、4人掛けの無骨な木のテーブルと雑な作りの椅子が置かれておりその椅子に見張りたちは座っており、少し離れたところには犬型のモンスターが鎖に繋がれていた。
 きっとこの犬たちは見張りと共に居てにおいに気づいて吠えていたのだろうが、もう吠えることは無い。
 そして、見張りたちもベルに気づいて襲い掛かることは無い……。
 何故なら……。

「……部屋の中は、干からびた見張りのが4人と……犬の死体が2匹……。しかも両方共食いしようとしてたのか食い千切ったあとがある……と」

 テーブルに寝転がるように倒れた盗賊たちの死体を見ながら、その地面から漂う臭いに顔を顰めつつベルはモンスターを見るが、腐りかけてることに気づく。

(……一通り見終わってから焼却処分したほうが良いわね。疫病とか蔓延したら怖いし……)

 そう考えながら、彼女はこの部屋から出ると再び道を進み始めた。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇


 それから直進の道を少し歩くと、ベルは目的の場所へと辿り着き……堂々とその大部屋へと入った。
 部屋に入る直前に放った光の珠によって部屋の中は照らされており、中の様子は明らかとなっていた。

「うわ……、これは……最悪ね」

 ベルは顔を顰めるのだが、それは当たり前だった。
 何故なら部屋の中には、残りの盗賊たちの死体があるのだが……そのどれもが裸で女に覆い被さり、肉欲の宴を行っていたという体勢で死んでいたのだから……。
 しかも女たちのほうは攫われたであろう女と、盗賊の仲間であろう女なのだろうが、そのどれもが狂った笑みを浮かべたまま死んでいた。
 当然、室内は精の臭いと、死の臭いに満たされており、ベルはますます顔を顰める。

「攫われた女性たちはご愁傷様としか言いようが無いけど……、盗賊たちは自業自得ね」

 呟きながら、ベルは目的の物へと近づく。
 ……それは彼らが略奪した物が保管されている場所で、そのひとつへと彼女は近づいた。

「元凶は……これね」

 それは古めかしいタンスであるのだが……先ほどから彼女の耳元に囁く声はそれからしていたのだ。
 そんなタンスをベルはノックをするようにコンコンと叩いた。

「開きなさい。そこに居るのは分かっているから」
『~~~~♪』
「……本当、楽しそうに笑ってるわね。けど、それはいけないことなの。だから出てきて話をしましょう」

 聞こえてくる声にベルはそう言うのだが、タンスの中からは何も聞こえない。
 ……だから、ベルはゆっくりとそのタンスの戸に手を掛けて、戸を開けた。
 ギギィという音と共に戸は開いたのだが、そこには何も無かった。
 けれど、その中へとベルは手を伸ばす。……すると、中から6歳ぐらいの幼い少女がベルに抱き抱えられて姿を現した。
 白い衣装を着た、長い黒髪をした可愛らしい少女だった。

「見つけたわよ。……こんにちわ、お嬢ちゃん?」
『ん~~? だれぇ~?』

 自らの腕に抱かれた少女に微笑みかけると、少女はこてんと首を傾げながらベルへと思念を送りつける。
 その思念がベルの頭に叩きつけられ、マインドプロテクションを突き抜けて一瞬淫らな感情が湧き起こるけれど……すぐに『リフレッシュ』を発動させた。

「…………『リフレッシュ』『マインドプロテクション』」
(これは……、普通に喋っているつもりみたいだけど……サキュバス特有の催淫が込められてる? だけど、家財道具に住むのはサキュバスじゃない……)

 どういうことなのかまったく分からないまま、ベルは首を傾げる少女に声を掛けた。

「お嬢ちゃん、あなたのお名前は……何て言うの?」
「くらりす! ばんしーのくらりす!」
「……そうなの。私はベルって言うの、よろしくねクラリス」
「うんっ♪ よろしくベル!」

 そう言って、ベルは少女――クラリスへと優しく微笑んだのだった。
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