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いのりのはま
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ふと思いつき、俺は足を止めた。
隣の彼女に少し待っていてくださいと告げ、後ろを向き、スマホを横にしてカメラを立ち上げる。画面には、青く輝く海と誰もいない白い砂浜が映し出されていた。
〇
四月の沖縄は涼しい風が吹く。廊下の開いた窓からその風に乗り、少し外れたトランペットの音が聞こえて来る。放課後、俺はその音を聴きながら写真部の部室に向かっていた。
中学はミステリィ研究会と言う、超マイナー部活から一転、太陽のもとで活動的な高校生活を送ろうと写真部に入ったが、そこは二年生の部長一人だけの過疎部で、新入部員は俺一人。部活動規則では七月までに三人以上部員が揃わなければ、廃部になってしまう。
焦る事はない何か策を練ろう、と部長の山川先輩が呑気な事を言っていたが、どうにも心細い。夏休み前に帰宅部になるのかと、ため息を吐きながら部室のドアを開けた。
その瞬間、俺は固まった。部室の中で、部長と女生徒が身体を密着させている。正確には、腰まで伸びた黒髪の女生徒の背中が見え、その女生徒に重なるように大きく口を開けた銀縁眼鏡の部長の顔があった。
一瞬の間の後、若い二人の逢瀬を邪魔してはいけないと、そのまま静かに立ち去ろうとした時、部長が叫んだ。
「玉城さん、彼です。彼が東君です」
――え? 何で俺を呼ぶの?
黒髪とスカートがひるがえり、玉城と呼ばれた女生徒が俺の方を向いた。ハッとする程の美人だ。だが頬は赤く上気し、半開きの薄い唇が微かに震えていた。赤いリボンから二年生だと分かる。
玉城さんは左手をゆっくり上げた。左手には、黒絣を着た老婆が波打ち際に立っているポスターが握られていた。
淡い島影を背景にしたその老婆は、祈るように両手を合わせている。窪んだ眼窩の小さな目は、澄んだ空を仰ぎ見ていた。陰影や露出、背景のボカシも完璧でお手本の写真だが、今は写真の感想を言っている時ではない。
ポスターを持った玉城さんが徐々に近づいて来て、ついには彼女の吐息が俺の顔に掛かるまでになった。潤んだ大きな瞳が俺を凝視している。俺の心臓は早鐘を打ちまくり一歩も動けなかった。
「どこ?ここはどこなの?」
震えた声だった。だけど俺には何を言っているのか分からなかった。
「お願い、教えて。ここに、おばあちゃんに会いにいかないと」
停止していた頭が動き始めた。
どうやら彼女はこの写真の撮影場所を聞いていると分かったが、何故俺に聞く?
思わず部長に助けを求めようとしたが、山川部長は口を大きく開けたままだった。だがそのずっと後ろ、部室の奥にあるパソコン台に一眼レフのデジカメが置かれているのを見て察するものがあった。
「部長、もしかしてこの写真は俺のデジカメにあったデータですか?」
部長は赤ベコみたいに何度も頭を上下した。それで全てを理解し、俺は彼女を見た。
切羽詰った美麗な顔が眼前にある。俺は生唾をゴクリと飲み込み答えた。
「撮影場所は、分かりません」
彼女の顔に狼狽と驚愕が浮かぶ。
「分からないって……どうして」
か細い震える声が彼女の喉から漏れる。
「……あれは俺の叔父が撮った写真です」
あのデジカメは、俺に写真の手ほどきをしてくれた叔父からもらったもので、中のデータも殆ど叔父が撮った写真で、俺はそれを部のパソコンに保存していた。
「じゃあその方に聞けば……」彼女は必死だった。だが俺は無情にも首を振った。
「叔父は去年、亡くなりました。だから」
……亡くなった
そう呟くと彼女は俺から離れ、持っていたポスターが手から落ちた。
突然彼女は両手で顔を覆った。
駄目! いかないで!
短い悲鳴が上がった。俺達が唖然としていると彼女の身体が小刻みに震え出した。部長と目を合わせる。部長がうなずいた。
――玉城先輩。
俺は驚かさないよう静かに声を掛けた。ビクッと彼女の身体が動く。
彼女の顔がゆっくりと細い指の覆いから現れた。先刻までの表情は消え失せ、白磁のような肌は血の気を感じさせない。
大きな瞳が俺を見ていたが、その瞳から光がフッと消え瞼が落ちた。その瞬間彼女が俺の方に倒れてくる。俺は咄嗟に崩れ落ちていく彼女を受け止めたが、彼女の体温や重さを感じる余裕は俺にはなかった。
〇
「部員募集のポスターを作ってね、掲示板に貼る許可をもらうためにその見本を生徒会に持っていったんだけど、部室に帰ってきたら玉城さんが血相を変えて来てさ」
玉城さんの騒動から二日が経った。
横にいる部長の言葉を聞きながら、俺はモニターに映っている例の写真を見ていた。
合掌している細い両腕と顔に刻まれた深い皺と陰影が、祈る老婆の深い悲しみを現しているようで、見る者の心に訴えかける。
やはり良い写真だ。
要はこの心を震わす写真を俺のフォルダから見つけた部長は、俺に無断で部員募集のポスターに採用したという訳だ。
あの後、部長は人を呼びに部室を飛び出していった。ぐったりした彼女を抱きしめている俺も卒倒しそうだったが、やがて部長が二人の教師を引き連れて来て、彼らが彼女の両脇を抱えて部室から出ていった。
「何だったんでしょうか」
「さあ。僕も何が何だか」
静かになった部室で俺達は立ちつくしていた。
そんな事を思い出しながら、俺は溜息を吐き、クリックする。モニタは人波溢れる商店街の写真に変わる。
叔父が残した写真は千枚近くあった。俺は昨日からそれを撮影年月日順に並べ変え、一枚ずつ確認していた。写真は一五年前の日付から始まり、六年前で終わっていた。
例の写真は一二年前の七月二七日の撮影と分かったが、その日付の写真はそれしかない。前後の写真は日付が五日以上離れていて、海も老婆も映っていない。これでは手がかりには程遠い。二日がかりで全て見ているが、その殆どが沖縄の風景写真だった。
「……やはり分からんな」俺は呟いた。
「君も頑張るね、だが彼女の事は君の責任ではない。気に病むな」
彼女、玉城さんはもう二日も学校に来ていない。騒動があったのは水曜で、金曜日の今日も彼女は休みだと部長から聞かされた。
「それは分かっていますけど」確かに気に病まないが、気にはなる。
俺はあれから幾つか仮説を立てた。一番有力な説は、あの老婆が玉城さんの生き別れた祖母で、その祖母の情報を求め写真部に駆け込んだが俺に分からないと言われショックで倒れた……そんな訳ないよな。
俺は凝り固まった首を回した。
「本当に驚いたよ。普段冷静な彼女があんな感情的になるなんて未だに信じられない」
「部長は玉城さんと親しいんですか」
「小学校からの同級生だよ。それに全国模試上位の頭脳に加えあの容姿。現生徒会書記で次期生徒会長が確実視されている。彼女の事を知らない生徒は新入生くらいだ」
取り乱した表情でも美人と分かる上に、人望厚く頭脳明晰か。そりゃ有名人だ。
「それに彼女は僕よりも二歳年上だよ。多分来年二十歳じゃないかな」
え!
思わず声が出た。
「これも有名な話だけど、幼い時に大病を患ってね、小学校入学が遅れたらしい」
と言う事は俺より三つ年上だ。そんな大人の女性が何故あんなに取り乱したのか。
増々謎が深まった気がした。
――コンコン
ノックの音だ。部長と目が合ったが来訪者の予定はない。もう一度ノックされたので、部長がどうぞと言った。ドアが開き、中に入って来たのは玉城さんだった。
俺達は驚き立ち上がっていた。彼女はゆっくりと俺達の前に進み出た。
潤んでいた瞳は、今は怜悧な光を湛え、震えていた唇はまっすぐに結ばれている。本当に同一人物かと疑う程に表情は一変していた。それは大人の女性の顔だった。その彼女は両手を前で揃えると、深々と頭を下げた。
「先日は本当に申し訳ありませんでした」
俺達が呆然とする中、彼女は姿勢を正し、アホみたいに口を開けている俺を見た。
「東君、と言ったわね。少し時間をくれるかしら。それと山川君」今度は部長を見た。
「しばらく彼と二人きりになりたいの」
部長はしばらくしてから数回うなずき部室から出ていった。ドアが閉まる。彼女は机を挟んで俺の正面に座り、俺を見ている。
俺はぎこちない動作で椅子の向きを変え、座りなおした。彼女の表情は人形のように無表情だった。その彼女の口が動く。
「単刀直入に聞くわ。あの写真の撮影場所をどうしても知りたいの、協力して」
そりゃそれしかないよな。俺は心の中で一息つき、この二日間俺が調べた事を話した。
何の手掛かりもなかったと言う報告なのだが、彼女の表情は動かなかった。外から金属バットの快音が聞こえるほど、部室は静寂に包まれた。それを破ったのは彼女だった。
「叔父様はカメラマンだったの?」
「いえ、新聞記者でした」
「新聞記者?」彼女の表情が一瞬曇った。
「でも一五年前に引退して、その後フリージャーナリストになりました。多分あの写真も引退後に撮ったものだと思います」
叔父は七二で亡くなったが、確か俺が生まれた頃に新聞社を辞めたと聞いている。写真が一五年前から始まっている事から間違いないだろう。それも付け加え話したが、彼女は何か別の事を考えている様子だった。
また部室が静かになった。今度はそれを俺の方から破った。
「先輩はどうして撮影場所を知りたいんですか」彼女はしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと口を開いた。
「信じてもらえるとは思ってないけど、それでもいい?とても非常識な話よ」
俺はうなずいた。聞かなければ始まらない。彼女は少し間をおいてから話し始めた。
「私の中にもう一人の人格があるの。四歳くらいの小さい男の子よ」予想の斜め上の答えに驚いたが、それを顔に出さないよう努めた。
「私幼稚園の年長の時に病気で長期間入院していて、その時にその子が現れた。私も幼かったから不思議にも思わず、その子とよく話をして、遊んでいたわ」
「……イマジナリーフレンド」
知識としてはあったが、それを体験した人を初めて見た。遊びたい盛りの年頃の長期入院で、寂しさのあまり想像上の友達を創り出したと考えれば納得出来る。
「そう、良く知っているわね」
ミステリィで、と言いかけて口をつぐみ、聞いた事があるので、と言い直したが彼女の冷たい視線が刺さる。
「……彼は私の成長に伴って徐々に姿を見せなくなった。でもあの写真を見た時、突然彼が現れ叫んだの。おばあさんに会いたいって。いくら彼を落ち着かそうとしても駄目だった。そのうちに私の意識は彼と混ざり始めて、そしてここで気を失った」
そこで彼女は大きく息を吐いた。
「何かのきっかけでまた同じ事が起きるかもしれない。だからそれに備えておきたいの」
確かににわかには信じがたい話だ。だがそれが本当の事だとしても、もっと大きな疑問が残っている。
「想像上の存在がどうして現実にいるおばあさんに会いたがっているんですか?」
俺は率直に問いただした。彼女の瞳が一瞬泳いだように見えた。
「……今は言えない。理不尽だと分かっている。でもあなたしか頼めないの。お願い」
冷静な表情は変わらないが、言葉の中にあの日と同じ切迫感がある。
俺は壁に掛かっているカレンダーに目をやった。明日土曜から大型連休に突入する。月曜は振替休日で三連休になるが、今年は遊ぶ時間はなくなりそうだ。
「明日叔母の家に行ってきます。でもあまり期待しないでください」
「ありがとう」そう言った彼女の表情は、眉ひとつ動かなかった。
〇
「そんな昔の事、覚えてないわよ」老婆の写真を見ながら、テーブルの向こうの叔母は明るく笑っていた。
昨晩叔父の写真の件で聞きたい事があると連絡を入れ、翌日の昼過ぎ、俺は葬儀以来一年ぶりに叔父の家を訪ねた。
「でも、ちょっと待っていて」叔母は立ち上がると居間から出ていき、暫くして分厚い青色のファイルを数冊抱えて帰ってきた。
多分叔父の部屋から持って来たと思うが、その部屋は現在倉庫と化していて足の踏み場もなく、俺はそこで手掛かりを探すのを、この家に来て早々に諦めていた。
「一二年前だったら、多分これね」ドスンとテーブルの上にファイルを置いた。背表紙には『命の現場』と書かれていた。
「あの人、これをやりたくてフリーになったようなもんだから」
叔父は長年医療問題に関心があり、コツコツと取材を重ねていたと叔母は話した。
「命の現場」はフリーになった最初の仕事で、医療系の月刊誌に一年に渡り長期連載されたらしい。
叔母は薄いファイルを開き俺に見せた。それは掲載されていた記事の切り抜きだった。
何か手掛かりがあるかもしれないと、俺はファイルを引き寄せた。
第一回の記事は終末医療がテーマだった。記事を捲りざっと目を通していく。内容は三ヵ月毎に代わり、救急救命医療の現状、臓器移植の現状と問題点と続き、再生医療の未来で連載は終わっていた。だが例の写真に関連するものは見当たらなかった。
「当時は私も手伝っていたけど、取材はあの人だけでいっていたから、その時撮られた写真なら分からないわ」叔母は別の分厚いファイルを捲っていた。
「それは何です?」
「取材メモとか、気になった記事の切り抜きとか。記事を書くための基礎資料よ」
ファイルはもう一冊ある。俺はそれを手に取り開いた。記事の切り抜きが貼られた紙が現れたが、その記事を囲むように、小さな細かい文字がビッシリ書かれていた。俺が驚いた顔になったのを見て叔母は微笑んだ。
「それ取材メモよ、あの人メモ魔だったから」
ファイルを捲りながら、叔母は懐かしそうに話した。俺はもう一度それを見たが、この字の洪水から、どうやって記事にするだろうかと不思議に思った時だった。
「あら、ほらこれ、同じじゃない」叔母は開いたファイルを俺に差し出した。
俺は息を呑んだ。あの老婆の写真が紙に貼られていた。写真の下に何か書かれている。
やはり小さい字で「K島にて撮影」と読め、続いて一二年前の七月の日付があった。
――K島か。
K島は本島南部の島で、本島とは短い橋で結ばれている。モズク料理が有名で、俺も数回家族と訪れた事がある。
呆然と写真を見ていると、その下に新聞の切り抜きが貼られているに気づいた。
『県内で二例目:R大学病院にて死亡した幼児からの臓器移植が行われたと大学病院が発表しました。先月死亡した幼児の心臓が家族の希望により、県内の心臓病患者に移植されたとの事です。臓器移植法が改正されドナーの年齢制限がなくなってから未就学児からの臓器提供は県内二例目で……』
子供からの臓器移植があった事を伝える記事だったが、この記事と老婆の写真の関係が全く見えなかった。そして俺はおかしな事に気づいた。切り抜きの下の日付は十三年前の五月二日とある。つまりこの記事と写真は一年近い開きがある。
――何故だ?
疑問が真っ先に浮かんだが、何かが繋がりかけていた。
臓器移植、子供、十三年前、イマジナリーフレンド……
ふいに閃きが脳裏に走る。俺は無意識にファイルを捲った。次の頁は臓器移植の記事と叔父の小さな文字。次々捲っても似たような取材メモが続いていた。記事も脳死判定基準や移植年齢の撤廃など、臓器移植に関わるものが殆どだった。
――もう少しで繋がる。
俺は叔母を見た。
「このファイル、借りていっていいですか」
叔母はキョトンとした顔で、別に構わないわよ、と言った。
叔父のファイルを、俺は自分の部屋で読み込んだ。米粒程の文字を読むのは、慣れてしまえばそう難しくなかったが、情報量が多くまた記事の下書きとして書かれた所もあり、必要な情報の取捨選択に時間が掛かった。
それを別のノートに書き出していく。情報は物語の輪郭を描き、登場人物が現れ、いつしか俺は一つの物語の終わりと、それから続いているもう一つ物語を知った。
薄暗い部屋の天井を見上げる。
――バカか、俺は。
謎は解いた。だが達成感はなく、逆に後悔と自己嫌悪が渦巻いている。暫くは悶々と悩んでいたが、成り行きの結果だと自分に言い聞かせ、スマホを手に取った。
着信履歴を見る。玉城さんがワン切りしてきたその番号を押した。
玉城さんはツーコールで出た。お互いにぎこちない挨拶をかわし、本題に入る。
「撮影場所はK島でした」
沈黙の後、暫くして返事があった。
「分かったわ、ありがとう」
素っ気ない返事に安堵の溜息が出そうになる。俺の役割は終わったと、通話を切ろうとした時、彼女が問いかけてきた。
「叔父様の家にもあの写真があったの?」
「……はい」正直に答えた。少し間の後、彼女は想定外な言葉を俺にぶつけた。
「東君、明日K島に一緒にいってくれない?」
「どうしてですか?」思わず聞き返していた。
「また取り乱すかもしれない。その時に事情を知っている人がいて欲しいの、お願い」
二度目のお願いだった。いやでも、と言いかけたが彼女はそれを遮った。
「君と話したい事もあるの。お願い」
俺は彼女の三度目のお願いに、分かりましたと答えた。
〇
三連休の中日の早朝、K島行きのバスの中は俺と玉城さんだけだった。昨晩の電話の後、俺達はネットでK島の行程を調べ、翌朝バスターミナルで会う約束をしていた。
翌朝、バスターミナルに現れた玉城さんは白のロングTシャツに濃い色のデニムのパンツ姿で、制服と違い活動的に見えた。その玉城さんは俺の後ろの席に座っている。
バスは空いている国道を南下していく。収穫の終わったサトウキビ畑の中を進み、家も疎らな海沿いの道を走るが、俺はその風景を虚ろな目で見ていた。
昨晩からの後悔と、彼女にどう向き合うのか、その答えが出ないままバスに揺られていると、K島入口を告げるアナウンスが流れた。俺は慌てて降車ボタンを押した。
運賃を払い、俺達はバスを降りる。バス停の周りは何もなく、人も歩いていない。
ここから暫く歩きが続く。バス停から島へと続く長い下り坂を俺達は無言で歩いた。
風は涼しいが日差しは強い。気づくと、玉城さんは黒いキャップをかぶっていた。
五分も歩くと短い橋が見えてきた。その橋を渡り島に入る。道は左右に分かれているが、周回道路なのでどちらに進んでも構わない。俺は右を選んだ。
低い堤防に沿って、緩やかに左に曲がっている道を進む。数台の車が俺達の横を通り過ぎ、磯の香りと波音が海風に乗ってやってくる。やがて堤防が切れた場所に来た時、それは突然に現れた。
砂浜だ。遠くには光る水平線が、手前には小島が浮かんでいる。暫く俺達は無言でその海を見つめていた。
俺から砂浜に足を踏み入れたが彼女は動かない。気にせず俺は進む。歩きながら遠い景色に視線を配り、波打ち際で足を止めた。スマホに例の写真を出し画面を横にして、背景の島影と目前の風景を見比べる。
間違いない、ここだ。俺は彼女を見た。距離がありキャップに隠れた彼女の顔は見えないが、確かに目が合った感触があった。
暫くして彼女が動いた。ゆっくりと近づいて来る。俺は少し緊張して彼女を待った。
彼女は俺の横まで来て立ち止まる。
彼女は俯いていて、顔を上げない。
「……君はどこまで知っているの」
俺は一呼吸おいて、答えた。
「イマジナリーフレンドはドナーの男の子だった。違いますか?」
「叔父様の資料に私の名前があったのね」
「いえ、ドナーのご家族の名前だけでした」
「それだけでよく分かったわね、凄いわ」
波音に消える程の小さな声だった。
「そうよ、彼は私に心臓をくれた恩人よ」
覚悟はしていたが、彼女の口から真実を聞くと、胸にズキリと痛みが走る。
叔父は一ニ年前、四歳で亡くなり臓器提供をした男の子の家族を取材していた。写真の老婆は男の子の母親の祖母で、男の子は祖母が住むK島を良く訪れていた。
叔父は老婆に会い、あの写真を撮った。
取材メモには、その時の事や、家族が悩みながらも臓器移植に同意した経緯が詳細に書かれていた。そして臓器を受ける側、レシピエントに関しては『県内就学前少女、但し取材は同意を得られず』とあった。
その一文で、俺の閃きが確信に変わった。
ドナーの記憶が、レシピエントに転移する事例が、海外では数多く報告されている。
彼女の場合は更に特殊で、男の子の記憶がイマジナリーフレンドとなって発現した。
「一度だけ親に彼の事を話した事があるの」
彼女は語り始めた。
「親は驚いたわ、当然よね。困った親は『絶対他人に手術の事も彼の事も言ってはダメよ。もし言うとお家に帰れなくなるよ』と私に釘を刺した。怖くなった私は素直に言う事を聞いた。それから誰にも彼の事は言わなかったわ。君に言うまではね」
彼女はキャップを取った。長い黒髪が海風で後ろに流れる。瞳は遠くを見ている。
「彼も入院生活が長かったから私とすぐに仲良くなった。嬉しかったわ、お互いに最初の友達だったもの。彼が現れなくなっても彼を忘れた事はなかった。だけどあの写真を見た時、突然彼が現れ叫んだの。おばあちゃんって。それから海で遊ぶ彼の記憶が流れ込んできた。そして会いたい、会いたいって」
彼女の声が震えながら大きくなっていく。
「私は友達から命を貰ったのに何も恩返し出来ない、だからせめてこの海を見せたかった、おばあさんに会わせたかった。あの写真を見た日から必死で調べた。初めて彼の名前で検索もした、臓器移植の記事も探したわ。でも出てくるのは匿名のドナーとレシピエントの記事だけ。彼は匿名の誰かじゃない!」
彼女の叫びが俺の心を刺す。
一つの命は一つの命を救った。
だが今の日本の臓器移植制度では、それが誰だったのかは公表されず、ドナーとレシピエントは家族を含め特定される情報は原則公開されない。だから叔父はあの写真を世に出す事をしなかった。出来なかった。
でも彼女はドナーの記憶を共有してしまった。男の子の名前も、顔も、家族の事も。
そして、男の子のもう叶わない願いも。
玉城さんは海を見たまま、俺に語り掛けた。
「おばあさんの事も分かったのね」
俺はぐっと息を呑み、下を向いた。
教えて、と彼女が呟く。
玉城さんから見知らぬ老婆に会いたいイマジナリーフレンドの存在を聞かされた時、正直俺の好奇心は刺激された。
俺の閃きが、叔父のメモにより補完され真実に迫っていった時は、ミステリィ小説のトリックを解いていく高揚感もあった。
玉城さんの命が、もう一つの命から引き継がれているという絶対に忘れてはいけない事実を忘れ、俺は自分の好奇心を満たす事だけに没頭していた。多くの善意と悲しみによって繋がれた命の物語だと気づいたのは、もう一つの物語の終わりを知った時だった。
美人に頼まれその気になり、探偵気取りで人の過去を暴いた俺は、とんだ無神経の恥知らずだった。そんな俺が彼女に物語を語っていいのか、昨晩から何度も自問したが答えはいまだ出ていない。
葛藤を続けている俺の心中を察したのか玉城さんは優しく囁いた。
「私が頼んだ事よ、君が苦しむ事はないわ。大丈夫、覚悟はしている。それにもう彼はいない。あの日、彼は消えてしまったの」
驚き顔を上げる。彼女はまだ海を見ていた。
――いかないで!
あの日の叫び声が耳に甦る。
思わず天を仰いだ。あの写真と同じ澄んだ高い空が見える。老婆はこの空へ何を願い祈ったのか、俺には分からない。
だが小さな命から受け継がれた命が今、この場所に立っている。その奇蹟の重さを感じた俺は、空へ大きく息を吐いた。
几帳面な叔父は、老婆の名前が載った黒く縁どられた小さな記事を切り抜き、取材メモに張り付けていた。そこにはやはり丁寧な小さな文字で、安らかに、と書かれていた。
俺は覚悟を決め、彼女を見て告げた。
「五年前に、亡くなっていました」
彼女は一瞬目を伏せたが、すぐに目を見開いた。その瞳から涙が零れ、白く輝く頬を滑り落ちていく。
煌めく海を見つめ、哀しみをこらえながらも凛として立つ彼女の姿を、不覚にも俺は見とれてしまった。
〇
帰路は往路と同じ道を辿った。違ったのはバスには既に人が乗っていて、席は二人掛けの場所一つを残し全て埋まっていた。
彼女は迷わずその席の窓際に座った。そして俺を見ている。俺は仕方なく彼女の隣に座った。微妙な隙間が二人の間にある。
バスが動き出した。来た時とは逆で窓の外は家並が徐々に密になり街になっていく。国道に入ると車の数が多く、所々で渋滞に捕まった。日はまだ高いが、バスに揺られていると眠気が襲ってくる。振り返ると長い一週間だったと思った時、左肩に重みを感じた。
玉城さんの頭が左肩に乗っている。
――ありがとう
その言葉に続いて彼女の軽い寝息が聞こえて来た。
俺は固まったまま、次々と発生し膨らむ妄想を必死で抑えこみ続けたが、終点のバスターミナルはまだまだ先だった。
〇
吹奏楽部の合奏が湿った夏風に乗って聞こえて来る。去年の九州大会、ダメ金で全国にいけず今年こそと力が入っている。
だが俺達写真部も無関係じゃない。その吹奏楽部の健闘を写真に収め、秋の学園祭で写真展を開催すると部長が張り切っていた。
今日はその撮影プランを検討する日で、夏休みにも関わらず俺は登校していた。
やっと部活らしい事が出来ると思いながら部室のドアをノックしたが返事がない。ノブを回すが鍵が掛かっている。
俺は合鍵を使ってドアを開けた。室内はムッとした熱気が籠っていたが、窓は開いていて扇風機も動いている。どうやら先に誰かが来ていたようだ。机の上には、団扇と一枚の紙があった。
『急用で生徒会室に呼ばれました。会議までには戻ります。それと合宿日決定の連絡がありました。カレンダー要確認』綺麗な青色の字でそう書かれていた。
俺は団扇を手に取り、パタパタと自分に風を送りながらカレンダーの前に立った。再来週の土曜に赤文字で『吹部合宿日』と書き込まれていた。
俺はそこを団扇の縁でコンと叩く。
カレンダーの横には、青い海と白い砂浜の写真が壁に貼られている。
あの日、玉城さんと訪れたK島で俺が撮った写真だ。今度はその写真の横の壁をコンコンと二つ叩き、俺は椅子に座った。
扇風機は部屋の熱気を混ぜ返すだけで、中々室温は下がらない。団扇で扇いでも涼しくならないが、やらないよりましだ。
俺は自分で作り出した生ぬるい風を受けながら、まだ来ない二人の先輩を待っていた。
終
隣の彼女に少し待っていてくださいと告げ、後ろを向き、スマホを横にしてカメラを立ち上げる。画面には、青く輝く海と誰もいない白い砂浜が映し出されていた。
〇
四月の沖縄は涼しい風が吹く。廊下の開いた窓からその風に乗り、少し外れたトランペットの音が聞こえて来る。放課後、俺はその音を聴きながら写真部の部室に向かっていた。
中学はミステリィ研究会と言う、超マイナー部活から一転、太陽のもとで活動的な高校生活を送ろうと写真部に入ったが、そこは二年生の部長一人だけの過疎部で、新入部員は俺一人。部活動規則では七月までに三人以上部員が揃わなければ、廃部になってしまう。
焦る事はない何か策を練ろう、と部長の山川先輩が呑気な事を言っていたが、どうにも心細い。夏休み前に帰宅部になるのかと、ため息を吐きながら部室のドアを開けた。
その瞬間、俺は固まった。部室の中で、部長と女生徒が身体を密着させている。正確には、腰まで伸びた黒髪の女生徒の背中が見え、その女生徒に重なるように大きく口を開けた銀縁眼鏡の部長の顔があった。
一瞬の間の後、若い二人の逢瀬を邪魔してはいけないと、そのまま静かに立ち去ろうとした時、部長が叫んだ。
「玉城さん、彼です。彼が東君です」
――え? 何で俺を呼ぶの?
黒髪とスカートがひるがえり、玉城と呼ばれた女生徒が俺の方を向いた。ハッとする程の美人だ。だが頬は赤く上気し、半開きの薄い唇が微かに震えていた。赤いリボンから二年生だと分かる。
玉城さんは左手をゆっくり上げた。左手には、黒絣を着た老婆が波打ち際に立っているポスターが握られていた。
淡い島影を背景にしたその老婆は、祈るように両手を合わせている。窪んだ眼窩の小さな目は、澄んだ空を仰ぎ見ていた。陰影や露出、背景のボカシも完璧でお手本の写真だが、今は写真の感想を言っている時ではない。
ポスターを持った玉城さんが徐々に近づいて来て、ついには彼女の吐息が俺の顔に掛かるまでになった。潤んだ大きな瞳が俺を凝視している。俺の心臓は早鐘を打ちまくり一歩も動けなかった。
「どこ?ここはどこなの?」
震えた声だった。だけど俺には何を言っているのか分からなかった。
「お願い、教えて。ここに、おばあちゃんに会いにいかないと」
停止していた頭が動き始めた。
どうやら彼女はこの写真の撮影場所を聞いていると分かったが、何故俺に聞く?
思わず部長に助けを求めようとしたが、山川部長は口を大きく開けたままだった。だがそのずっと後ろ、部室の奥にあるパソコン台に一眼レフのデジカメが置かれているのを見て察するものがあった。
「部長、もしかしてこの写真は俺のデジカメにあったデータですか?」
部長は赤ベコみたいに何度も頭を上下した。それで全てを理解し、俺は彼女を見た。
切羽詰った美麗な顔が眼前にある。俺は生唾をゴクリと飲み込み答えた。
「撮影場所は、分かりません」
彼女の顔に狼狽と驚愕が浮かぶ。
「分からないって……どうして」
か細い震える声が彼女の喉から漏れる。
「……あれは俺の叔父が撮った写真です」
あのデジカメは、俺に写真の手ほどきをしてくれた叔父からもらったもので、中のデータも殆ど叔父が撮った写真で、俺はそれを部のパソコンに保存していた。
「じゃあその方に聞けば……」彼女は必死だった。だが俺は無情にも首を振った。
「叔父は去年、亡くなりました。だから」
……亡くなった
そう呟くと彼女は俺から離れ、持っていたポスターが手から落ちた。
突然彼女は両手で顔を覆った。
駄目! いかないで!
短い悲鳴が上がった。俺達が唖然としていると彼女の身体が小刻みに震え出した。部長と目を合わせる。部長がうなずいた。
――玉城先輩。
俺は驚かさないよう静かに声を掛けた。ビクッと彼女の身体が動く。
彼女の顔がゆっくりと細い指の覆いから現れた。先刻までの表情は消え失せ、白磁のような肌は血の気を感じさせない。
大きな瞳が俺を見ていたが、その瞳から光がフッと消え瞼が落ちた。その瞬間彼女が俺の方に倒れてくる。俺は咄嗟に崩れ落ちていく彼女を受け止めたが、彼女の体温や重さを感じる余裕は俺にはなかった。
〇
「部員募集のポスターを作ってね、掲示板に貼る許可をもらうためにその見本を生徒会に持っていったんだけど、部室に帰ってきたら玉城さんが血相を変えて来てさ」
玉城さんの騒動から二日が経った。
横にいる部長の言葉を聞きながら、俺はモニターに映っている例の写真を見ていた。
合掌している細い両腕と顔に刻まれた深い皺と陰影が、祈る老婆の深い悲しみを現しているようで、見る者の心に訴えかける。
やはり良い写真だ。
要はこの心を震わす写真を俺のフォルダから見つけた部長は、俺に無断で部員募集のポスターに採用したという訳だ。
あの後、部長は人を呼びに部室を飛び出していった。ぐったりした彼女を抱きしめている俺も卒倒しそうだったが、やがて部長が二人の教師を引き連れて来て、彼らが彼女の両脇を抱えて部室から出ていった。
「何だったんでしょうか」
「さあ。僕も何が何だか」
静かになった部室で俺達は立ちつくしていた。
そんな事を思い出しながら、俺は溜息を吐き、クリックする。モニタは人波溢れる商店街の写真に変わる。
叔父が残した写真は千枚近くあった。俺は昨日からそれを撮影年月日順に並べ変え、一枚ずつ確認していた。写真は一五年前の日付から始まり、六年前で終わっていた。
例の写真は一二年前の七月二七日の撮影と分かったが、その日付の写真はそれしかない。前後の写真は日付が五日以上離れていて、海も老婆も映っていない。これでは手がかりには程遠い。二日がかりで全て見ているが、その殆どが沖縄の風景写真だった。
「……やはり分からんな」俺は呟いた。
「君も頑張るね、だが彼女の事は君の責任ではない。気に病むな」
彼女、玉城さんはもう二日も学校に来ていない。騒動があったのは水曜で、金曜日の今日も彼女は休みだと部長から聞かされた。
「それは分かっていますけど」確かに気に病まないが、気にはなる。
俺はあれから幾つか仮説を立てた。一番有力な説は、あの老婆が玉城さんの生き別れた祖母で、その祖母の情報を求め写真部に駆け込んだが俺に分からないと言われショックで倒れた……そんな訳ないよな。
俺は凝り固まった首を回した。
「本当に驚いたよ。普段冷静な彼女があんな感情的になるなんて未だに信じられない」
「部長は玉城さんと親しいんですか」
「小学校からの同級生だよ。それに全国模試上位の頭脳に加えあの容姿。現生徒会書記で次期生徒会長が確実視されている。彼女の事を知らない生徒は新入生くらいだ」
取り乱した表情でも美人と分かる上に、人望厚く頭脳明晰か。そりゃ有名人だ。
「それに彼女は僕よりも二歳年上だよ。多分来年二十歳じゃないかな」
え!
思わず声が出た。
「これも有名な話だけど、幼い時に大病を患ってね、小学校入学が遅れたらしい」
と言う事は俺より三つ年上だ。そんな大人の女性が何故あんなに取り乱したのか。
増々謎が深まった気がした。
――コンコン
ノックの音だ。部長と目が合ったが来訪者の予定はない。もう一度ノックされたので、部長がどうぞと言った。ドアが開き、中に入って来たのは玉城さんだった。
俺達は驚き立ち上がっていた。彼女はゆっくりと俺達の前に進み出た。
潤んでいた瞳は、今は怜悧な光を湛え、震えていた唇はまっすぐに結ばれている。本当に同一人物かと疑う程に表情は一変していた。それは大人の女性の顔だった。その彼女は両手を前で揃えると、深々と頭を下げた。
「先日は本当に申し訳ありませんでした」
俺達が呆然とする中、彼女は姿勢を正し、アホみたいに口を開けている俺を見た。
「東君、と言ったわね。少し時間をくれるかしら。それと山川君」今度は部長を見た。
「しばらく彼と二人きりになりたいの」
部長はしばらくしてから数回うなずき部室から出ていった。ドアが閉まる。彼女は机を挟んで俺の正面に座り、俺を見ている。
俺はぎこちない動作で椅子の向きを変え、座りなおした。彼女の表情は人形のように無表情だった。その彼女の口が動く。
「単刀直入に聞くわ。あの写真の撮影場所をどうしても知りたいの、協力して」
そりゃそれしかないよな。俺は心の中で一息つき、この二日間俺が調べた事を話した。
何の手掛かりもなかったと言う報告なのだが、彼女の表情は動かなかった。外から金属バットの快音が聞こえるほど、部室は静寂に包まれた。それを破ったのは彼女だった。
「叔父様はカメラマンだったの?」
「いえ、新聞記者でした」
「新聞記者?」彼女の表情が一瞬曇った。
「でも一五年前に引退して、その後フリージャーナリストになりました。多分あの写真も引退後に撮ったものだと思います」
叔父は七二で亡くなったが、確か俺が生まれた頃に新聞社を辞めたと聞いている。写真が一五年前から始まっている事から間違いないだろう。それも付け加え話したが、彼女は何か別の事を考えている様子だった。
また部室が静かになった。今度はそれを俺の方から破った。
「先輩はどうして撮影場所を知りたいんですか」彼女はしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと口を開いた。
「信じてもらえるとは思ってないけど、それでもいい?とても非常識な話よ」
俺はうなずいた。聞かなければ始まらない。彼女は少し間をおいてから話し始めた。
「私の中にもう一人の人格があるの。四歳くらいの小さい男の子よ」予想の斜め上の答えに驚いたが、それを顔に出さないよう努めた。
「私幼稚園の年長の時に病気で長期間入院していて、その時にその子が現れた。私も幼かったから不思議にも思わず、その子とよく話をして、遊んでいたわ」
「……イマジナリーフレンド」
知識としてはあったが、それを体験した人を初めて見た。遊びたい盛りの年頃の長期入院で、寂しさのあまり想像上の友達を創り出したと考えれば納得出来る。
「そう、良く知っているわね」
ミステリィで、と言いかけて口をつぐみ、聞いた事があるので、と言い直したが彼女の冷たい視線が刺さる。
「……彼は私の成長に伴って徐々に姿を見せなくなった。でもあの写真を見た時、突然彼が現れ叫んだの。おばあさんに会いたいって。いくら彼を落ち着かそうとしても駄目だった。そのうちに私の意識は彼と混ざり始めて、そしてここで気を失った」
そこで彼女は大きく息を吐いた。
「何かのきっかけでまた同じ事が起きるかもしれない。だからそれに備えておきたいの」
確かににわかには信じがたい話だ。だがそれが本当の事だとしても、もっと大きな疑問が残っている。
「想像上の存在がどうして現実にいるおばあさんに会いたがっているんですか?」
俺は率直に問いただした。彼女の瞳が一瞬泳いだように見えた。
「……今は言えない。理不尽だと分かっている。でもあなたしか頼めないの。お願い」
冷静な表情は変わらないが、言葉の中にあの日と同じ切迫感がある。
俺は壁に掛かっているカレンダーに目をやった。明日土曜から大型連休に突入する。月曜は振替休日で三連休になるが、今年は遊ぶ時間はなくなりそうだ。
「明日叔母の家に行ってきます。でもあまり期待しないでください」
「ありがとう」そう言った彼女の表情は、眉ひとつ動かなかった。
〇
「そんな昔の事、覚えてないわよ」老婆の写真を見ながら、テーブルの向こうの叔母は明るく笑っていた。
昨晩叔父の写真の件で聞きたい事があると連絡を入れ、翌日の昼過ぎ、俺は葬儀以来一年ぶりに叔父の家を訪ねた。
「でも、ちょっと待っていて」叔母は立ち上がると居間から出ていき、暫くして分厚い青色のファイルを数冊抱えて帰ってきた。
多分叔父の部屋から持って来たと思うが、その部屋は現在倉庫と化していて足の踏み場もなく、俺はそこで手掛かりを探すのを、この家に来て早々に諦めていた。
「一二年前だったら、多分これね」ドスンとテーブルの上にファイルを置いた。背表紙には『命の現場』と書かれていた。
「あの人、これをやりたくてフリーになったようなもんだから」
叔父は長年医療問題に関心があり、コツコツと取材を重ねていたと叔母は話した。
「命の現場」はフリーになった最初の仕事で、医療系の月刊誌に一年に渡り長期連載されたらしい。
叔母は薄いファイルを開き俺に見せた。それは掲載されていた記事の切り抜きだった。
何か手掛かりがあるかもしれないと、俺はファイルを引き寄せた。
第一回の記事は終末医療がテーマだった。記事を捲りざっと目を通していく。内容は三ヵ月毎に代わり、救急救命医療の現状、臓器移植の現状と問題点と続き、再生医療の未来で連載は終わっていた。だが例の写真に関連するものは見当たらなかった。
「当時は私も手伝っていたけど、取材はあの人だけでいっていたから、その時撮られた写真なら分からないわ」叔母は別の分厚いファイルを捲っていた。
「それは何です?」
「取材メモとか、気になった記事の切り抜きとか。記事を書くための基礎資料よ」
ファイルはもう一冊ある。俺はそれを手に取り開いた。記事の切り抜きが貼られた紙が現れたが、その記事を囲むように、小さな細かい文字がビッシリ書かれていた。俺が驚いた顔になったのを見て叔母は微笑んだ。
「それ取材メモよ、あの人メモ魔だったから」
ファイルを捲りながら、叔母は懐かしそうに話した。俺はもう一度それを見たが、この字の洪水から、どうやって記事にするだろうかと不思議に思った時だった。
「あら、ほらこれ、同じじゃない」叔母は開いたファイルを俺に差し出した。
俺は息を呑んだ。あの老婆の写真が紙に貼られていた。写真の下に何か書かれている。
やはり小さい字で「K島にて撮影」と読め、続いて一二年前の七月の日付があった。
――K島か。
K島は本島南部の島で、本島とは短い橋で結ばれている。モズク料理が有名で、俺も数回家族と訪れた事がある。
呆然と写真を見ていると、その下に新聞の切り抜きが貼られているに気づいた。
『県内で二例目:R大学病院にて死亡した幼児からの臓器移植が行われたと大学病院が発表しました。先月死亡した幼児の心臓が家族の希望により、県内の心臓病患者に移植されたとの事です。臓器移植法が改正されドナーの年齢制限がなくなってから未就学児からの臓器提供は県内二例目で……』
子供からの臓器移植があった事を伝える記事だったが、この記事と老婆の写真の関係が全く見えなかった。そして俺はおかしな事に気づいた。切り抜きの下の日付は十三年前の五月二日とある。つまりこの記事と写真は一年近い開きがある。
――何故だ?
疑問が真っ先に浮かんだが、何かが繋がりかけていた。
臓器移植、子供、十三年前、イマジナリーフレンド……
ふいに閃きが脳裏に走る。俺は無意識にファイルを捲った。次の頁は臓器移植の記事と叔父の小さな文字。次々捲っても似たような取材メモが続いていた。記事も脳死判定基準や移植年齢の撤廃など、臓器移植に関わるものが殆どだった。
――もう少しで繋がる。
俺は叔母を見た。
「このファイル、借りていっていいですか」
叔母はキョトンとした顔で、別に構わないわよ、と言った。
叔父のファイルを、俺は自分の部屋で読み込んだ。米粒程の文字を読むのは、慣れてしまえばそう難しくなかったが、情報量が多くまた記事の下書きとして書かれた所もあり、必要な情報の取捨選択に時間が掛かった。
それを別のノートに書き出していく。情報は物語の輪郭を描き、登場人物が現れ、いつしか俺は一つの物語の終わりと、それから続いているもう一つ物語を知った。
薄暗い部屋の天井を見上げる。
――バカか、俺は。
謎は解いた。だが達成感はなく、逆に後悔と自己嫌悪が渦巻いている。暫くは悶々と悩んでいたが、成り行きの結果だと自分に言い聞かせ、スマホを手に取った。
着信履歴を見る。玉城さんがワン切りしてきたその番号を押した。
玉城さんはツーコールで出た。お互いにぎこちない挨拶をかわし、本題に入る。
「撮影場所はK島でした」
沈黙の後、暫くして返事があった。
「分かったわ、ありがとう」
素っ気ない返事に安堵の溜息が出そうになる。俺の役割は終わったと、通話を切ろうとした時、彼女が問いかけてきた。
「叔父様の家にもあの写真があったの?」
「……はい」正直に答えた。少し間の後、彼女は想定外な言葉を俺にぶつけた。
「東君、明日K島に一緒にいってくれない?」
「どうしてですか?」思わず聞き返していた。
「また取り乱すかもしれない。その時に事情を知っている人がいて欲しいの、お願い」
二度目のお願いだった。いやでも、と言いかけたが彼女はそれを遮った。
「君と話したい事もあるの。お願い」
俺は彼女の三度目のお願いに、分かりましたと答えた。
〇
三連休の中日の早朝、K島行きのバスの中は俺と玉城さんだけだった。昨晩の電話の後、俺達はネットでK島の行程を調べ、翌朝バスターミナルで会う約束をしていた。
翌朝、バスターミナルに現れた玉城さんは白のロングTシャツに濃い色のデニムのパンツ姿で、制服と違い活動的に見えた。その玉城さんは俺の後ろの席に座っている。
バスは空いている国道を南下していく。収穫の終わったサトウキビ畑の中を進み、家も疎らな海沿いの道を走るが、俺はその風景を虚ろな目で見ていた。
昨晩からの後悔と、彼女にどう向き合うのか、その答えが出ないままバスに揺られていると、K島入口を告げるアナウンスが流れた。俺は慌てて降車ボタンを押した。
運賃を払い、俺達はバスを降りる。バス停の周りは何もなく、人も歩いていない。
ここから暫く歩きが続く。バス停から島へと続く長い下り坂を俺達は無言で歩いた。
風は涼しいが日差しは強い。気づくと、玉城さんは黒いキャップをかぶっていた。
五分も歩くと短い橋が見えてきた。その橋を渡り島に入る。道は左右に分かれているが、周回道路なのでどちらに進んでも構わない。俺は右を選んだ。
低い堤防に沿って、緩やかに左に曲がっている道を進む。数台の車が俺達の横を通り過ぎ、磯の香りと波音が海風に乗ってやってくる。やがて堤防が切れた場所に来た時、それは突然に現れた。
砂浜だ。遠くには光る水平線が、手前には小島が浮かんでいる。暫く俺達は無言でその海を見つめていた。
俺から砂浜に足を踏み入れたが彼女は動かない。気にせず俺は進む。歩きながら遠い景色に視線を配り、波打ち際で足を止めた。スマホに例の写真を出し画面を横にして、背景の島影と目前の風景を見比べる。
間違いない、ここだ。俺は彼女を見た。距離がありキャップに隠れた彼女の顔は見えないが、確かに目が合った感触があった。
暫くして彼女が動いた。ゆっくりと近づいて来る。俺は少し緊張して彼女を待った。
彼女は俺の横まで来て立ち止まる。
彼女は俯いていて、顔を上げない。
「……君はどこまで知っているの」
俺は一呼吸おいて、答えた。
「イマジナリーフレンドはドナーの男の子だった。違いますか?」
「叔父様の資料に私の名前があったのね」
「いえ、ドナーのご家族の名前だけでした」
「それだけでよく分かったわね、凄いわ」
波音に消える程の小さな声だった。
「そうよ、彼は私に心臓をくれた恩人よ」
覚悟はしていたが、彼女の口から真実を聞くと、胸にズキリと痛みが走る。
叔父は一ニ年前、四歳で亡くなり臓器提供をした男の子の家族を取材していた。写真の老婆は男の子の母親の祖母で、男の子は祖母が住むK島を良く訪れていた。
叔父は老婆に会い、あの写真を撮った。
取材メモには、その時の事や、家族が悩みながらも臓器移植に同意した経緯が詳細に書かれていた。そして臓器を受ける側、レシピエントに関しては『県内就学前少女、但し取材は同意を得られず』とあった。
その一文で、俺の閃きが確信に変わった。
ドナーの記憶が、レシピエントに転移する事例が、海外では数多く報告されている。
彼女の場合は更に特殊で、男の子の記憶がイマジナリーフレンドとなって発現した。
「一度だけ親に彼の事を話した事があるの」
彼女は語り始めた。
「親は驚いたわ、当然よね。困った親は『絶対他人に手術の事も彼の事も言ってはダメよ。もし言うとお家に帰れなくなるよ』と私に釘を刺した。怖くなった私は素直に言う事を聞いた。それから誰にも彼の事は言わなかったわ。君に言うまではね」
彼女はキャップを取った。長い黒髪が海風で後ろに流れる。瞳は遠くを見ている。
「彼も入院生活が長かったから私とすぐに仲良くなった。嬉しかったわ、お互いに最初の友達だったもの。彼が現れなくなっても彼を忘れた事はなかった。だけどあの写真を見た時、突然彼が現れ叫んだの。おばあちゃんって。それから海で遊ぶ彼の記憶が流れ込んできた。そして会いたい、会いたいって」
彼女の声が震えながら大きくなっていく。
「私は友達から命を貰ったのに何も恩返し出来ない、だからせめてこの海を見せたかった、おばあさんに会わせたかった。あの写真を見た日から必死で調べた。初めて彼の名前で検索もした、臓器移植の記事も探したわ。でも出てくるのは匿名のドナーとレシピエントの記事だけ。彼は匿名の誰かじゃない!」
彼女の叫びが俺の心を刺す。
一つの命は一つの命を救った。
だが今の日本の臓器移植制度では、それが誰だったのかは公表されず、ドナーとレシピエントは家族を含め特定される情報は原則公開されない。だから叔父はあの写真を世に出す事をしなかった。出来なかった。
でも彼女はドナーの記憶を共有してしまった。男の子の名前も、顔も、家族の事も。
そして、男の子のもう叶わない願いも。
玉城さんは海を見たまま、俺に語り掛けた。
「おばあさんの事も分かったのね」
俺はぐっと息を呑み、下を向いた。
教えて、と彼女が呟く。
玉城さんから見知らぬ老婆に会いたいイマジナリーフレンドの存在を聞かされた時、正直俺の好奇心は刺激された。
俺の閃きが、叔父のメモにより補完され真実に迫っていった時は、ミステリィ小説のトリックを解いていく高揚感もあった。
玉城さんの命が、もう一つの命から引き継がれているという絶対に忘れてはいけない事実を忘れ、俺は自分の好奇心を満たす事だけに没頭していた。多くの善意と悲しみによって繋がれた命の物語だと気づいたのは、もう一つの物語の終わりを知った時だった。
美人に頼まれその気になり、探偵気取りで人の過去を暴いた俺は、とんだ無神経の恥知らずだった。そんな俺が彼女に物語を語っていいのか、昨晩から何度も自問したが答えはいまだ出ていない。
葛藤を続けている俺の心中を察したのか玉城さんは優しく囁いた。
「私が頼んだ事よ、君が苦しむ事はないわ。大丈夫、覚悟はしている。それにもう彼はいない。あの日、彼は消えてしまったの」
驚き顔を上げる。彼女はまだ海を見ていた。
――いかないで!
あの日の叫び声が耳に甦る。
思わず天を仰いだ。あの写真と同じ澄んだ高い空が見える。老婆はこの空へ何を願い祈ったのか、俺には分からない。
だが小さな命から受け継がれた命が今、この場所に立っている。その奇蹟の重さを感じた俺は、空へ大きく息を吐いた。
几帳面な叔父は、老婆の名前が載った黒く縁どられた小さな記事を切り抜き、取材メモに張り付けていた。そこにはやはり丁寧な小さな文字で、安らかに、と書かれていた。
俺は覚悟を決め、彼女を見て告げた。
「五年前に、亡くなっていました」
彼女は一瞬目を伏せたが、すぐに目を見開いた。その瞳から涙が零れ、白く輝く頬を滑り落ちていく。
煌めく海を見つめ、哀しみをこらえながらも凛として立つ彼女の姿を、不覚にも俺は見とれてしまった。
〇
帰路は往路と同じ道を辿った。違ったのはバスには既に人が乗っていて、席は二人掛けの場所一つを残し全て埋まっていた。
彼女は迷わずその席の窓際に座った。そして俺を見ている。俺は仕方なく彼女の隣に座った。微妙な隙間が二人の間にある。
バスが動き出した。来た時とは逆で窓の外は家並が徐々に密になり街になっていく。国道に入ると車の数が多く、所々で渋滞に捕まった。日はまだ高いが、バスに揺られていると眠気が襲ってくる。振り返ると長い一週間だったと思った時、左肩に重みを感じた。
玉城さんの頭が左肩に乗っている。
――ありがとう
その言葉に続いて彼女の軽い寝息が聞こえて来た。
俺は固まったまま、次々と発生し膨らむ妄想を必死で抑えこみ続けたが、終点のバスターミナルはまだまだ先だった。
〇
吹奏楽部の合奏が湿った夏風に乗って聞こえて来る。去年の九州大会、ダメ金で全国にいけず今年こそと力が入っている。
だが俺達写真部も無関係じゃない。その吹奏楽部の健闘を写真に収め、秋の学園祭で写真展を開催すると部長が張り切っていた。
今日はその撮影プランを検討する日で、夏休みにも関わらず俺は登校していた。
やっと部活らしい事が出来ると思いながら部室のドアをノックしたが返事がない。ノブを回すが鍵が掛かっている。
俺は合鍵を使ってドアを開けた。室内はムッとした熱気が籠っていたが、窓は開いていて扇風機も動いている。どうやら先に誰かが来ていたようだ。机の上には、団扇と一枚の紙があった。
『急用で生徒会室に呼ばれました。会議までには戻ります。それと合宿日決定の連絡がありました。カレンダー要確認』綺麗な青色の字でそう書かれていた。
俺は団扇を手に取り、パタパタと自分に風を送りながらカレンダーの前に立った。再来週の土曜に赤文字で『吹部合宿日』と書き込まれていた。
俺はそこを団扇の縁でコンと叩く。
カレンダーの横には、青い海と白い砂浜の写真が壁に貼られている。
あの日、玉城さんと訪れたK島で俺が撮った写真だ。今度はその写真の横の壁をコンコンと二つ叩き、俺は椅子に座った。
扇風機は部屋の熱気を混ぜ返すだけで、中々室温は下がらない。団扇で扇いでも涼しくならないが、やらないよりましだ。
俺は自分で作り出した生ぬるい風を受けながら、まだ来ない二人の先輩を待っていた。
終
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