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カテゴリーF-1
超高層ビル最上階からの眺望は圧巻だった。天海は部屋の端に立ってジオラマと化した下界の街並みを見下す。
上下黒のパンツスーツで黒縁の大きな眼鏡を掛けた天海の姿は、企業に勤める普通のOL達の格好と大差無かったが、髪は腰まで伸びたストレートロングで髪をまとめてもいなかった。街のビル郡は全て天海の立っている位置より低く、その屋上にある空調設備機器や張り巡らされた銀色のダクトしか見えなかった。
ビルの合間を縫うように、無数の車が点になり動いている。色取り取りの小さな点は血管の中を駆け巡る白血球や赤血球、血小板に思えた。
視線を上に上げる。
晴れ渡った夏空の下、地平線には山の稜線がくっきり浮かび上がっていた。
山の稜線をバックにして、他のビルより頭ひとつ飛び抜けた高層ビルが遠くに見える。そのビルは鉛筆の様に細く尖っていて、外壁は全てガラス張りで夏空を写し込みその存在を空に溶かし込んでいた。尖ったビルの先端付近で何かが反射してキラっと光った。
その時、天海の後方でドアが開く音がして天海は振り向く。
開け放たれたドアから白髪をオールバックにした初老の男性を先頭に男性がふたり続いた。ひとりは病的にやせ細った男で、窪んだ眼がギョロリと天海を睨んだ。もうひとりは長身の金髪碧眼の白人男性でこちらは柔和な笑顔で天海を見ていた。
白髪の男は鋭い視線を天海に向け「待たせた??」と一言言い、あちらへと天海から見て右側の、円卓があるスペースに手招きした。
天海は軽く頭を下げると窓際から離れ円卓に向い、目の前の椅子に座ろうとした。
「そっちは上座だ。客人はこちらに来てもらう」
やせ細ったギョロ目の男が低い声で言った。天海は少し大げさに目を丸くすると反時計回りに円卓を回り込み、ドアが背後にある窓から一番遠い椅子に座った。3人の男達もゆっくりと円卓を回り、白髪の男を真ん中にして男の右側にギョロ目の男、左側に白人が座った。男達が座ると同時に窓の上部から音も無くブラインドが降りて来て、絶景の眺望が見えなくなり、同時に天井から青白い光が降り注いできた。
「結論は出ました?」
先に天海が口を開いた。
「……正直に言おう。まだ結論には至ってない」
渋面で白髪の男は答えた。
「意思決定が遅いですわね」
天海は薄っすらと笑みを浮かべた。それには多少の軽蔑が含まれている事は、言葉のニュアンスで明らかだった。
「我々は連合体だ。多様な意見が出るのは当然の事だ」
「お互い損もリスクも無い取引だと思いますが」
「それはそっちの考えだ」
ギョロ目が言った。
「案外臆病でいらっしゃるのね」
「協力関係を結ぶにはまだ安心できない、と言う意見が根強いのです」
白人の男が流暢な日本語で言った。
「何をそんなに恐れているのかしら?」
天海は首を横に少し傾けた。
「ラボだけではなく津田さん達を殺した上、研究データも持ち去った事に不信感があると言う事です」
「不信感はお互いさまでしょ。それに津田達はラボで佐村を凌辱した報いを受けただけよ」
「我々がイノセン社やラボに幾ら投資したと思っている。その全てを破壊した上、津田まで殺しておいて協力だと? 貴様気は確かか」
ギョロ目が怒りを隠さないまま身を乗り出したが、白髪の男が手を伸ばしギョロ目を制した。
「我々の目的はタカチホブラッドの特性を全て、それこそつまびらかに全て究明する事にある。その為に我々は協力者である佐村に対し可能な限り意思疎通を図り、良好な関係を築こうと努力した。我々が敵対行為を行ったと言うのは全くの言い掛りだ??」
「協力者、ね」
天海は首を軽く左に傾げた。
「天海さん、ラボで起こった事はお互いに取って不幸だったかもしれません」
白人の男は他の男達と違い柔らかい口調だった。表情はこの部屋に入って来た時と同じく柔和な笑顔のままだ。
「ですがやはり私達はコントロールできない佐村とは交渉出来ない、と言う事です。この状況を改善するにはそちらが私達への敵対行為をしないと言う、何らかの担保が示されれば交渉がスムーズに行くと思いますが」
「先に事を進めるな」
白髪の男から、低く、そして怒気を含んだ言葉が白人に向けられた。白人は苦笑を浮かべた。
「担保なら先に提示した筈よ」
「あれは元々我々のデータだ。その一部を返してもらったにすぎん」
「津田のを含め佐村は覚えている。それが欲しくないのかしら?」
「我々の協力を得たければ先にそのデータを渡せ。そうすれば交渉のテーブルについてやる」
ギョロ目の男が言った。
「佐村であっても我々のバックアップ無しには何も出来ない筈だ。譲歩しているのは我々の方なんだぞ、勘違いするな」
天海は芝居がかった様に両手を大きく広げて、肩を竦めお手上げをした。
「平行線ね」
天海は目線を白人に向けた。
「そちらはどうなの? このチャンスをそのまま見過ごす気?」
白髪とギョロ目の刺すような視線が、自然と白人に突き刺さる。
「先ほど申し上げたと思いますが、私達は連合体です。それにここは日本です。日本人は『和を以て貴しとなす』の文化の国だと理解しています」
「なにそれ」
天海は高笑いした。
「でもそちらの文化にはカイロスがいるでしょ」
「さすが博学ですね」
白人は微笑んだ。
「それで、あなたはどうするのかしら」
「勿論前髪は掴まえますよ」
「おい! 話を勝手に進めるなと言っただろ」
ギョロ目が立ち上がり白人に向って叫んだ。
「外の景色がみたいわ、アレン。ブラインド上げてくれるかしら」
天海は退屈そうに言った。アレンと呼ばれた白人は黙ってうなずくと懐に手を入れた。するすると静かにブラインドが上がっていき、再び絶景が現れ、自然光が差し込んで来た。
「勝手なマネはするなと言っているのが分からんのか!」
ギョロ目のその大きな目は、怒りで今にも零れ落ちそうな程、見開かれていた。
「動かない方がいいわよ」
天海が椅子に深く座り直し足を組みながら言った。肘掛に肘を載せ、拝むように掌を顔の前で合わせていた。重なり合った人差し指が、軽く唇に触れる。
「何?」
ギョロ目が天海を振り返って睨んだ。
「左耳」
天海が呟いた。
キンッ、と硬い金属を叩いたかのような甲高い音が部屋に響く。
その瞬間、ギョロ目の左耳が吹き飛び、血が勢いよく噴き出た。破裂したビニールホースから噴き出る水の様に、血は隣に座っていた白髪の男の顔に降り注いだ。
ギョロ目は驚愕の表情から、一瞬にして激痛で歪んだ表情に変わる。反射的に左手で吹き飛んだ耳があった場所を覆うとした。
「左手」
天海がまた呟く。再び甲高い音が響いたと同時にボっと破裂音がしてギョロ目の左手首から上が吹き飛び、机の上に血と肉片を撒き散らした。
ぐああぁぁ。ギョロ目は叫び声をあげ椅子をなぎ倒し、床の上に転がり、のた打ち回った。
顔の右半分が血で染まった白髪の男は微動だにせず、目の光も衰えないままじっと天海を凝視していた。
バンと音を立てて荒々しく天海の背後の扉が開き、数名の大柄な男達が部屋に雪崩れ込んで来た。全員懐に手を差し込んでいる。
「動かないで! 」
天海が後ろも見ずに大声を出した。男達の動きが止まる。
「動くと死ぬわよ」
一転して低い声になる。
アレンが右手を挙げた。男達の視線がそこに集まる。
「言う通りにしてください。それとヤマザキさんは手当てが必要なようです。お連れしてください」
アレンは、床でのた打ち回っている哀れな男を見て言った。
男達は懐から手を抜くと、互いに目配せして次の行動に移った。誰の指示もなく、床で這いつくばり痙攣しているヤマザキの元にすっと2名の男が近づいた。そして手慣れた手順で、ひとりが足首を、もうひとりが両脇に手を差し込んで細い体を担いだ。ヤマザキの呻き声が遠ざかっていき、再び扉は閉じられた。
ひとり少なくなった部屋の中は、鉄錆の匂いが満ちていた。
「さすがに良く訓練されているわね」
「当社の自慢の商品ですから」
「学院に来たのも彼らの仲間?」
「広い意味では。学院に派遣したのはイエメンの部隊の精鋭でした。いかがでした?」
「可もなく不可もなく。唯一のトピックは、彼らの身元を辿れない事ね」
「それは手厳しい」
アレンは笑いをかみ殺していた。
「……いつから通じていた」
汗のように滴り落ちて来た赤黒い血を、ハンカチで拭い終えた白髪の男が、天海に静かに尋ねた。
「それを聞く事に、意味があるの?」
白髪の男は暫く黙ると、ゆっくりと口を開いた。
「何故他の組織に接触しなかった。他の組織ならお前たちの条件を呑む所もあるだろう」
「佐村にしてみれば何処も一緒よ。それにあなたたちあの場所を抑えているし、非公開のリストも持っている。要するに手っ取り早いのよ」
「僭越ながら私もこの体制は維持すべきだと考えます。我々は他の組織よりもやはり数歩、タカチホブラッド研究の先を行っています。佐村の方から我々に接触してきたこの機を逃さない手は無いと思います」
「それは貴様の本国の意向でもあるのか?」
白髪の男は横目でアランを見た。
「私の言葉は本国の言葉です。それと誤解が生じないようにお断りをしておきますが、私は抜け駆けしてはいません。佐村の独占を画策したならば、この部屋に死体がふたつ転がっていた筈です」
白髪の男はまた少し沈黙した後、口を開いた。
「これはデモンストレーションと言う訳か?」
天海は答えず首を右に傾げた。
「状況を教えてもらおう。まだ介入する余地があるなら、条件を聞こう」
「それは賢明な判断よ」
天海は満足そうな笑顔を浮かべ、椅子に深く沈み込むように座りなおした。白髪の男は唇の端を歪めると、続けろ、とだけ呟いた。
「では、佐村から要求のあった任意の第3国政府への折衝条件、当面の拠点である施設改造内容を説明いたします??」
アランは、鉄錆の匂いと弛緩した殺気が満ちた会議室の中で、投資案件のプレゼンをするような調子で話し始めた。
上下黒のパンツスーツで黒縁の大きな眼鏡を掛けた天海の姿は、企業に勤める普通のOL達の格好と大差無かったが、髪は腰まで伸びたストレートロングで髪をまとめてもいなかった。街のビル郡は全て天海の立っている位置より低く、その屋上にある空調設備機器や張り巡らされた銀色のダクトしか見えなかった。
ビルの合間を縫うように、無数の車が点になり動いている。色取り取りの小さな点は血管の中を駆け巡る白血球や赤血球、血小板に思えた。
視線を上に上げる。
晴れ渡った夏空の下、地平線には山の稜線がくっきり浮かび上がっていた。
山の稜線をバックにして、他のビルより頭ひとつ飛び抜けた高層ビルが遠くに見える。そのビルは鉛筆の様に細く尖っていて、外壁は全てガラス張りで夏空を写し込みその存在を空に溶かし込んでいた。尖ったビルの先端付近で何かが反射してキラっと光った。
その時、天海の後方でドアが開く音がして天海は振り向く。
開け放たれたドアから白髪をオールバックにした初老の男性を先頭に男性がふたり続いた。ひとりは病的にやせ細った男で、窪んだ眼がギョロリと天海を睨んだ。もうひとりは長身の金髪碧眼の白人男性でこちらは柔和な笑顔で天海を見ていた。
白髪の男は鋭い視線を天海に向け「待たせた??」と一言言い、あちらへと天海から見て右側の、円卓があるスペースに手招きした。
天海は軽く頭を下げると窓際から離れ円卓に向い、目の前の椅子に座ろうとした。
「そっちは上座だ。客人はこちらに来てもらう」
やせ細ったギョロ目の男が低い声で言った。天海は少し大げさに目を丸くすると反時計回りに円卓を回り込み、ドアが背後にある窓から一番遠い椅子に座った。3人の男達もゆっくりと円卓を回り、白髪の男を真ん中にして男の右側にギョロ目の男、左側に白人が座った。男達が座ると同時に窓の上部から音も無くブラインドが降りて来て、絶景の眺望が見えなくなり、同時に天井から青白い光が降り注いできた。
「結論は出ました?」
先に天海が口を開いた。
「……正直に言おう。まだ結論には至ってない」
渋面で白髪の男は答えた。
「意思決定が遅いですわね」
天海は薄っすらと笑みを浮かべた。それには多少の軽蔑が含まれている事は、言葉のニュアンスで明らかだった。
「我々は連合体だ。多様な意見が出るのは当然の事だ」
「お互い損もリスクも無い取引だと思いますが」
「それはそっちの考えだ」
ギョロ目が言った。
「案外臆病でいらっしゃるのね」
「協力関係を結ぶにはまだ安心できない、と言う意見が根強いのです」
白人の男が流暢な日本語で言った。
「何をそんなに恐れているのかしら?」
天海は首を横に少し傾けた。
「ラボだけではなく津田さん達を殺した上、研究データも持ち去った事に不信感があると言う事です」
「不信感はお互いさまでしょ。それに津田達はラボで佐村を凌辱した報いを受けただけよ」
「我々がイノセン社やラボに幾ら投資したと思っている。その全てを破壊した上、津田まで殺しておいて協力だと? 貴様気は確かか」
ギョロ目が怒りを隠さないまま身を乗り出したが、白髪の男が手を伸ばしギョロ目を制した。
「我々の目的はタカチホブラッドの特性を全て、それこそつまびらかに全て究明する事にある。その為に我々は協力者である佐村に対し可能な限り意思疎通を図り、良好な関係を築こうと努力した。我々が敵対行為を行ったと言うのは全くの言い掛りだ??」
「協力者、ね」
天海は首を軽く左に傾げた。
「天海さん、ラボで起こった事はお互いに取って不幸だったかもしれません」
白人の男は他の男達と違い柔らかい口調だった。表情はこの部屋に入って来た時と同じく柔和な笑顔のままだ。
「ですがやはり私達はコントロールできない佐村とは交渉出来ない、と言う事です。この状況を改善するにはそちらが私達への敵対行為をしないと言う、何らかの担保が示されれば交渉がスムーズに行くと思いますが」
「先に事を進めるな」
白髪の男から、低く、そして怒気を含んだ言葉が白人に向けられた。白人は苦笑を浮かべた。
「担保なら先に提示した筈よ」
「あれは元々我々のデータだ。その一部を返してもらったにすぎん」
「津田のを含め佐村は覚えている。それが欲しくないのかしら?」
「我々の協力を得たければ先にそのデータを渡せ。そうすれば交渉のテーブルについてやる」
ギョロ目の男が言った。
「佐村であっても我々のバックアップ無しには何も出来ない筈だ。譲歩しているのは我々の方なんだぞ、勘違いするな」
天海は芝居がかった様に両手を大きく広げて、肩を竦めお手上げをした。
「平行線ね」
天海は目線を白人に向けた。
「そちらはどうなの? このチャンスをそのまま見過ごす気?」
白髪とギョロ目の刺すような視線が、自然と白人に突き刺さる。
「先ほど申し上げたと思いますが、私達は連合体です。それにここは日本です。日本人は『和を以て貴しとなす』の文化の国だと理解しています」
「なにそれ」
天海は高笑いした。
「でもそちらの文化にはカイロスがいるでしょ」
「さすが博学ですね」
白人は微笑んだ。
「それで、あなたはどうするのかしら」
「勿論前髪は掴まえますよ」
「おい! 話を勝手に進めるなと言っただろ」
ギョロ目が立ち上がり白人に向って叫んだ。
「外の景色がみたいわ、アレン。ブラインド上げてくれるかしら」
天海は退屈そうに言った。アレンと呼ばれた白人は黙ってうなずくと懐に手を入れた。するすると静かにブラインドが上がっていき、再び絶景が現れ、自然光が差し込んで来た。
「勝手なマネはするなと言っているのが分からんのか!」
ギョロ目のその大きな目は、怒りで今にも零れ落ちそうな程、見開かれていた。
「動かない方がいいわよ」
天海が椅子に深く座り直し足を組みながら言った。肘掛に肘を載せ、拝むように掌を顔の前で合わせていた。重なり合った人差し指が、軽く唇に触れる。
「何?」
ギョロ目が天海を振り返って睨んだ。
「左耳」
天海が呟いた。
キンッ、と硬い金属を叩いたかのような甲高い音が部屋に響く。
その瞬間、ギョロ目の左耳が吹き飛び、血が勢いよく噴き出た。破裂したビニールホースから噴き出る水の様に、血は隣に座っていた白髪の男の顔に降り注いだ。
ギョロ目は驚愕の表情から、一瞬にして激痛で歪んだ表情に変わる。反射的に左手で吹き飛んだ耳があった場所を覆うとした。
「左手」
天海がまた呟く。再び甲高い音が響いたと同時にボっと破裂音がしてギョロ目の左手首から上が吹き飛び、机の上に血と肉片を撒き散らした。
ぐああぁぁ。ギョロ目は叫び声をあげ椅子をなぎ倒し、床の上に転がり、のた打ち回った。
顔の右半分が血で染まった白髪の男は微動だにせず、目の光も衰えないままじっと天海を凝視していた。
バンと音を立てて荒々しく天海の背後の扉が開き、数名の大柄な男達が部屋に雪崩れ込んで来た。全員懐に手を差し込んでいる。
「動かないで! 」
天海が後ろも見ずに大声を出した。男達の動きが止まる。
「動くと死ぬわよ」
一転して低い声になる。
アレンが右手を挙げた。男達の視線がそこに集まる。
「言う通りにしてください。それとヤマザキさんは手当てが必要なようです。お連れしてください」
アレンは、床でのた打ち回っている哀れな男を見て言った。
男達は懐から手を抜くと、互いに目配せして次の行動に移った。誰の指示もなく、床で這いつくばり痙攣しているヤマザキの元にすっと2名の男が近づいた。そして手慣れた手順で、ひとりが足首を、もうひとりが両脇に手を差し込んで細い体を担いだ。ヤマザキの呻き声が遠ざかっていき、再び扉は閉じられた。
ひとり少なくなった部屋の中は、鉄錆の匂いが満ちていた。
「さすがに良く訓練されているわね」
「当社の自慢の商品ですから」
「学院に来たのも彼らの仲間?」
「広い意味では。学院に派遣したのはイエメンの部隊の精鋭でした。いかがでした?」
「可もなく不可もなく。唯一のトピックは、彼らの身元を辿れない事ね」
「それは手厳しい」
アレンは笑いをかみ殺していた。
「……いつから通じていた」
汗のように滴り落ちて来た赤黒い血を、ハンカチで拭い終えた白髪の男が、天海に静かに尋ねた。
「それを聞く事に、意味があるの?」
白髪の男は暫く黙ると、ゆっくりと口を開いた。
「何故他の組織に接触しなかった。他の組織ならお前たちの条件を呑む所もあるだろう」
「佐村にしてみれば何処も一緒よ。それにあなたたちあの場所を抑えているし、非公開のリストも持っている。要するに手っ取り早いのよ」
「僭越ながら私もこの体制は維持すべきだと考えます。我々は他の組織よりもやはり数歩、タカチホブラッド研究の先を行っています。佐村の方から我々に接触してきたこの機を逃さない手は無いと思います」
「それは貴様の本国の意向でもあるのか?」
白髪の男は横目でアランを見た。
「私の言葉は本国の言葉です。それと誤解が生じないようにお断りをしておきますが、私は抜け駆けしてはいません。佐村の独占を画策したならば、この部屋に死体がふたつ転がっていた筈です」
白髪の男はまた少し沈黙した後、口を開いた。
「これはデモンストレーションと言う訳か?」
天海は答えず首を右に傾げた。
「状況を教えてもらおう。まだ介入する余地があるなら、条件を聞こう」
「それは賢明な判断よ」
天海は満足そうな笑顔を浮かべ、椅子に深く沈み込むように座りなおした。白髪の男は唇の端を歪めると、続けろ、とだけ呟いた。
「では、佐村から要求のあった任意の第3国政府への折衝条件、当面の拠点である施設改造内容を説明いたします??」
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