幼馴染に夢中の夫を捨てた貴婦人は、王太子に熱愛される

Narian

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08.愚かな夫 ※ロイ視点

アイリスが人知れず屋敷を出奔した日の夜。

ロイは上機嫌だった。妻に言いたいことを言ってやったし、愛しいフローラの前で、男の威厳を見せつけられたからだ。

(愛してもいないのにご機嫌をとり、プロポーズまでしてやったじゃないか)

アイリスのことを常々そんなふうに思っている。それなのに、夫婦の時間がほしいだの、他の女にかまうなだの、思い上がりも甚だしい。

社交界で重んじられているからと、甘やかしたのがよくなかった。相当厳しく叱ったから、これからは扱いやすくなるだろう。


「どうしたの?ロイったらごきげんね」

「ああ、フローラ。これからは君と堂々とここで過ごせると思うと、幸せで」

愛しい娘の豊かな金髪を撫でながら、ロイは天にも昇る心地だ。美しい愛妾と、従順な妻。男として望みうる、最上の夢を叶えたと思っている。

「やあん、ロイったらぁ」

「ああフローラ、なんて可愛いんだろう。女はこうでなくては」

「どこかのお堅いご令嬢とちがって?」 

「ははっ、さすがフローラ、ユーモアあるなぁ」

こんなものはユーモアではない、品のない中傷だ。その下劣な品性と無教養こそ、アバンドール家が社交界で冷笑される理由なのだが、ロイもフローラも、気づいてもいないのだった。



「でも、アイリス様どうなさったかしら?」

ふいにフローラが問いかけるが、アイリスを心配してのことでは、もちろんない。あの高貴ぶった女を下僕にするその時が、待ち遠しくて仕方がないのだ。

「別にいいだろ?たまには反省すればいいんだよ。あいつは生意気すぎる」

「かわいそうよぉ。おカタい生まれなんだからしかたないわ」

「優しいなぁ、俺のフローラは」

うふふ……と笑うフローラの顔は、性悪な本性に反して天使のように愛らしい。ロイはこの顔に弱いのだ。

「フローラ、かわいい……」

柔らかな金髪に口付けし、ふたりはクスクスと笑い合う。そしてその後ロイは、妻のことなどすっかり忘れていたのだった。



(そういえば、もうすぐパーティがあったな)

やれやれ、また貴族連中のご機嫌とりをしないといけないのか、とロイがうんざりしながら思い出したのは、その翌日のこと。面倒だが、商売相手との大事な会合だから、行くしかない。

「おい、明後日、ドルズ伯爵邸でパーティがある。アイリスに用意しておくよう言っておけ」

フローラの前でアイリスの名前を出すと拗ねるから、わざわざ部屋の外に出てメイドに言いつける。だが、いつもならオドオドと頷くだけのメイドの様子が、明らかにおかしい。

「お、奥様は…お部屋にいらっしゃいません」

「はぁ?それが何だ。ダイニングでも図書室でも探せばいいだろう?!」

いちいち言わなきゃわからんのかと、ロイはこの無能なメイドをクビにすることに決めた。この一族にとっては、使用人など消耗品でしかないのだ。

「ダイニングにも図書室にも、どこにいらっしゃいません…」

「は?どういうことだ?」

「……奥様が扉の前で土下座するまで屋敷に入れるな、と旦那様がおっしゃいましたので…」

「……っ?!」

昨日の出来事をようやく思い出すロイ。まさか、あれから戻ってきてないのか?

「番小屋か物置にでも隠れているんだろう。さっさと見つけてこい!」

理不尽に怒鳴りつけられたメイドは、飛び上がって走って行った。全くどいつもこいつも気が利かないと、ロイは苛立ちを隠せない。 

(あの女もあの女だ。パーティのことは言ってあったのに。先回りして夫の支度までするのが妻の役目だろうが!)

どこまでも身勝手な男だった。



だが、次の日の朝になっても、アイリスは姿を現さない。

「何て強情な女だ!当てつけのつもりか?」

怒り狂い、使用人を怒鳴りつけるロイだったが、時間が経つにつれ不審に思い始めた。

令嬢育ちの女が、こんなに長い時間、いったいどこに隠れていると言うのだ?いや、本当に隠れているのか?もしかして、もう屋敷には…。

「っ?!」

突然何かを思い出し、朝食を放り出して執務室へと走り出す。

鬼のような形相で執務室へ駆け込むと、乱暴な手つきで机の引き出しを開ける。探していた封筒が視界に入って一瞬安堵するが、すぐに違和感を覚えた。厚みがなさすぎるのだ。

(あの女、まさか……)

慌てて手に取り、中を確かめるロイ。

「っあの女あぁぁっ!!!!」

机に叩きつけられた封筒の中に入っていたのは、折り畳まれた白紙の紙。この時になってようやく、ロイは妻が離婚届を持ち出したことを知った。

「探せっ!!あの女を俺の前に引きずって来るんだ!!」

だが、ロイの指令は達せられることはなかった。数日経ってもアイリスがロイの前に現れることはなく、代わりに役所から届いた証書で、離婚が成立したことを知ったのだった。

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