22 / 26
番外編
番外編03.救いようのない者たち1
「ほら新入り、何やってんだい!さっさと床を磨くんだ。それがあんたの仕事だろう?」
「冗談じゃないわ!あたしはねぇ、大理石の床を、ダイヤモンドの靴で歩くのが似合う女なのよぉ?!」
誰が掃除なんかするもんですか、と、フローラは看守の女を睨みつけるが、大柄な看守は全く動じない。
「知ったこっちゃないね」
「なんですってぇ?隣の国の貴族の男も、大商人の跡取りも、あたしには最高級品しか似合わない、って」
「あたしゃ女だ。アホな男どもがどれだけあんたに鼻の下を伸ばそうが、関係ないね。ほら、床磨きのあとは水汲み、その後は洗濯だ。終わるまで飯なしだよ!」
「……っ!」
フローラは今、王都近くの監獄に投獄されている。
金銭を得るということが、どれほどの苦労を伴うか身を以て知れ、と労役を命じられているのだが、反省するそぶりなど微塵もない。
労働など、フローラにとっては卑しいものでしかないのだ。
「こうなったもの全部、あの女……アイリスのせいよ!」
あの女は王宮で皆に傅かれ、贅を尽くした暮らしをしているというのに、どうして自分は、こんな薄汚い場所で惨めに働かされているのだろう。
監獄の冷たい床を磨きながら、アイリスへの憎しみだけが募る。
(もう、無理!こんなとこにいてたまるもんですかぁ!)
我慢の限界が訪れるのは早かった。
ある日、看守の交代の時刻を見計らって独房から抜け出すと、洗濯物の荷台に潜り込んで、見事脱走に成功したのだった。
「見てなさい、アイリス!あたしはこんなとこじゃ終わらないんだからぁ!!」
それから数ヶ月後。
場末の酒場や安宿で出会った男たちのもとを点々としながら、フローラはようやくとある地方の街へとたどり着いた。
(ふふ、やっぱり間違いない。ここだと思ったわぁ)
一軒の古ぼけた小さな館の前で、にやりと笑みを浮かべる。玄関の戸を軽く押すと難なく開いたので、呼び掛けもせずに、館の中へと入った。
昼間だというのにカーテンは閉め切られ、床にうっすら埃が積もり、空気は重く澱んでいる。一見すると空き家のようだが、奥の部屋から、男の唸るような声が聞こえてきた。
「うう……なんで俺が……」
(いたわぁ!)
フローラは、目的の部屋の前まで進むと、急に涙声を出し、崩れ落ちそうになりながらドアを開ける。
「ああ、ロイ!会いたかったわ!」
薄暗く湿った部屋でクダを巻いていたのは、やはりというか、ロイだった。
「ふ、フローラ?!?!お、お前、何しにきたんだ!!」
「何しにって、あなたに会いに来たのよぉ」
「ふざけんなっ!何を今さら。妊娠が嘘だったって知って、お袋はショックで寝込んで、そのまま死んじまったんだぞ!」
「本当にごめんなさい……。あたし、焦ってたの。小さいころから、あなたのお嫁さんになるって信じてたのに、他の人と結婚しちゃうんだものぉ」
「そ、それは……」
絶対に赦さないと決めていたはずなのに、すでにフローラのペースに巻き込まれている。
「ああ、ロイ!」
目に涙をいっぱいに溜め、大手を広げて、フローラはロイを抱きしめた。
「だ、騙されないぞ。お前は俺を捨てたんだ」
そう言いながら、久々の人の温もりに、不覚にも安らぎを覚えてしまっている。
「本当にバカだったわ。あたし、さびしかったのぉ。あなたはぜんぜん離婚してくれないし」
「うっ」
「あたしが好きなのはあなただけよぉ」
「……フローラ…」
「なあに?」
「もう、俺を捨てないか……?」
かかった、とばかりに、一瞬口元が緩むフローラ。
「捨てないわ!あたしはあなたのものよぉ」
(ふふっ、チョロいわぁ。単純なのがロイのいいところよねぇ)
こうしてフローラは、まんまと当面の住処を手に入れたわけだが、こんな古ぼけた館で大人しくしているつもりはさらさらないのだった。
「冗談じゃないわ!あたしはねぇ、大理石の床を、ダイヤモンドの靴で歩くのが似合う女なのよぉ?!」
誰が掃除なんかするもんですか、と、フローラは看守の女を睨みつけるが、大柄な看守は全く動じない。
「知ったこっちゃないね」
「なんですってぇ?隣の国の貴族の男も、大商人の跡取りも、あたしには最高級品しか似合わない、って」
「あたしゃ女だ。アホな男どもがどれだけあんたに鼻の下を伸ばそうが、関係ないね。ほら、床磨きのあとは水汲み、その後は洗濯だ。終わるまで飯なしだよ!」
「……っ!」
フローラは今、王都近くの監獄に投獄されている。
金銭を得るということが、どれほどの苦労を伴うか身を以て知れ、と労役を命じられているのだが、反省するそぶりなど微塵もない。
労働など、フローラにとっては卑しいものでしかないのだ。
「こうなったもの全部、あの女……アイリスのせいよ!」
あの女は王宮で皆に傅かれ、贅を尽くした暮らしをしているというのに、どうして自分は、こんな薄汚い場所で惨めに働かされているのだろう。
監獄の冷たい床を磨きながら、アイリスへの憎しみだけが募る。
(もう、無理!こんなとこにいてたまるもんですかぁ!)
我慢の限界が訪れるのは早かった。
ある日、看守の交代の時刻を見計らって独房から抜け出すと、洗濯物の荷台に潜り込んで、見事脱走に成功したのだった。
「見てなさい、アイリス!あたしはこんなとこじゃ終わらないんだからぁ!!」
それから数ヶ月後。
場末の酒場や安宿で出会った男たちのもとを点々としながら、フローラはようやくとある地方の街へとたどり着いた。
(ふふ、やっぱり間違いない。ここだと思ったわぁ)
一軒の古ぼけた小さな館の前で、にやりと笑みを浮かべる。玄関の戸を軽く押すと難なく開いたので、呼び掛けもせずに、館の中へと入った。
昼間だというのにカーテンは閉め切られ、床にうっすら埃が積もり、空気は重く澱んでいる。一見すると空き家のようだが、奥の部屋から、男の唸るような声が聞こえてきた。
「うう……なんで俺が……」
(いたわぁ!)
フローラは、目的の部屋の前まで進むと、急に涙声を出し、崩れ落ちそうになりながらドアを開ける。
「ああ、ロイ!会いたかったわ!」
薄暗く湿った部屋でクダを巻いていたのは、やはりというか、ロイだった。
「ふ、フローラ?!?!お、お前、何しにきたんだ!!」
「何しにって、あなたに会いに来たのよぉ」
「ふざけんなっ!何を今さら。妊娠が嘘だったって知って、お袋はショックで寝込んで、そのまま死んじまったんだぞ!」
「本当にごめんなさい……。あたし、焦ってたの。小さいころから、あなたのお嫁さんになるって信じてたのに、他の人と結婚しちゃうんだものぉ」
「そ、それは……」
絶対に赦さないと決めていたはずなのに、すでにフローラのペースに巻き込まれている。
「ああ、ロイ!」
目に涙をいっぱいに溜め、大手を広げて、フローラはロイを抱きしめた。
「だ、騙されないぞ。お前は俺を捨てたんだ」
そう言いながら、久々の人の温もりに、不覚にも安らぎを覚えてしまっている。
「本当にバカだったわ。あたし、さびしかったのぉ。あなたはぜんぜん離婚してくれないし」
「うっ」
「あたしが好きなのはあなただけよぉ」
「……フローラ…」
「なあに?」
「もう、俺を捨てないか……?」
かかった、とばかりに、一瞬口元が緩むフローラ。
「捨てないわ!あたしはあなたのものよぉ」
(ふふっ、チョロいわぁ。単純なのがロイのいいところよねぇ)
こうしてフローラは、まんまと当面の住処を手に入れたわけだが、こんな古ぼけた館で大人しくしているつもりはさらさらないのだった。
あなたにおすすめの小説
結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です
柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。
そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。
真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。
けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。
「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」
彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。
アンリは実は、亡き国王の婚外子。
皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。
ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように
柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」
笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。
夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。
幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。
王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。
幼馴染と夫の衝撃告白に号泣「僕たちは愛し合っている」王子兄弟の関係に私の入る隙間がない!
佐藤 美奈
恋愛
「僕たちは愛し合っているんだ!」
突然、夫に言われた。アメリアは第一子を出産したばかりなのに……。
アメリア公爵令嬢はレオナルド王太子と結婚して、アメリアは王太子妃になった。
アメリアの幼馴染のウィリアム。アメリアの夫はレオナルド。二人は兄弟王子。
二人は、仲が良い兄弟だと思っていたけど予想以上だった。二人の親密さに、私は入る隙間がなさそうだと思っていたら本当になかったなんて……。
幼馴染が最優先な婚約者など、私の人生には不要です。
たると
恋愛
シュタイン伯爵家の長女エルゼは、公爵子息フィリップに恋をしていた。
彼の婚約者として選ばれた時は涙を流して喜んだが、その喜びもいまは遠い。
『君は一人でも大丈夫だろう。この埋め合わせは必ずする。愛している』
「……『愛している』、ですか」
いつも幼馴染を優先するアルベルトに、恋心はすっかり冷めてしまった。
文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる──
侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。
だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。
アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。
そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。
「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」
これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。
⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。過激ざまぁタグあります。
4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。
「女友達と旅行に行っただけで別れると言われた」僕が何したの?理由がわからない弟が泣きながら相談してきた。
佐藤 美奈
恋愛
「アリス姉さん助けてくれ!女友達と旅行に行っただけなのに婚約しているフローラに別れると言われたんだ!」
弟のハリーが泣きながら訪問して来た。姉のアリス王妃は突然来たハリーに驚きながら、夫の若き国王マイケルと話を聞いた。
結婚して平和な生活を送っていた新婚夫婦にハリーは涙を流して理由を話した。ハリーは侯爵家の長男で伯爵家のフローラ令嬢と婚約をしている。
それなのに婚約破棄して別れるとはどういう事なのか?詳しく話を聞いてみると、ハリーの返答に姉夫婦は呆れてしまった。
非常に頭の悪い弟が常識的な姉夫婦に相談して婚約者の彼女と話し合うが……
「愛も信頼も消えた」妻を苦しめた夫一家の結末
佐藤 美奈
恋愛
マリアンナ・グランヴィル男爵令嬢は、ジョナス・バーネット子爵令息と結婚し、子爵家に嫁いだ。当初は歓迎されたものの、彼の家族はすぐに本性を現し、マリアンナに厳しく接した。そんな中、マリアンナは夫のジョナスが通信魔石で楽しそうに話しているのを耳にしてしまう。
――夫は、私以外の人と関係を持っていたのだ。
私が辛い日々を送っているというのに、ジョナスは妻である私を守らず、義母ベアトリスの言いなりになり、愛情は失われていた。逃げ場のない牢獄に閉じ込められたような日々だったが、それでも私は決意した。
――夫の家族に報いを受けてもらうつもりだと。少しファンタジー
夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。
佐藤 美奈
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。
三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。
だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。
レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。
イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。
「子供の親権も放棄しろ!」と言われてイリスは戸惑うことばかりで、どうすればいいのか分からなくて混乱した。