十の加護を持つ元王妃は製菓に勤しむ

水瀬 立乃

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豊穣祭

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ギニギル村は村人のほとんどが農家だった。
村には特定の商人や隣町から教師が行き来をしているが、それ以外は他の地域との交流はあまりない。
だが年に一度、毎年九月に七日間開催される『豊穣祭』には、国中から多くの人が集まってくる。
豊穣祭は全国各地で行われる国民行事で、祭りの名前にもなっている豊穣の神はもちろんのこと、生活に欠かせない火・水・風・大地・天空・太陽・月の8つの神への感謝の気持ちを伝えるために催されるお祭りだ。
その土地によって規模や催しの内容は様々で、ギニギル村は特産の野菜や農作物を使った料理を振る舞うお店や、貴族御用達の木工品が庶民価格で買えるお店、各家庭で作られた手芸品のバザーなどがあったり、名のある踊り子達が舞いを踊るステージや楽器の演奏、王都からも視察団がやってきて武術や剣術のパフォーマンスを見せてくれる。

今日はその豊穣祭初日。
私――ステアは、村で唯一の洋菓子店・ホワンの店員として出店の準備を進めていた。
昨夜組み立てておいた白と淡い黄色のストライプ柄のタープテントの中に、横長のテーブルを組み立て、テーブルの上にはテントと同じ柄のテーブルクロスを敷く。
木箱から透明なビンを取り出して稲穂を飾ったら、商品名と価格を書いた紙と、今朝焼いたばかりの菓子を入れた紙袋を取り出して種類別に並べた。
販売するのは、ホワンの看板商品と人気のクッキーだけ。
他にも商品はあるけれど、お祭りの間はとても忙しいので毎年そうしている。

「おはよう、ステア。準備ありがとう」

開店時間が近づくと、制服姿のマロアがやってきた。
マロアはこのお店の店長で、私の家族でもある。
ホワンの制服は丸襟の白いブラウスに卵色のエプロンワンピースで、栗色の髪のマロアによく似合っていて可愛い。
いつもはざっくりと後ろで纏めているだけの髪はゆるめの三つ編みになっていて、そこに小さな花のピンが散りばめられていてとってもお洒落だ。

「おはよう、マロア。気にしないで。こちらこそいつもごめんなさい…」
「もう、謝るのはなしよ。昨日も話したけど、ステアの事情は知ってるし、私もその方が安心だもの」

マロアが気遣わしげに腕に触れた後、にっこりと微笑んだ。
この笑顔に私は何度救われただろうか。

「ありがとう…」
「こちらこそよ。ステアのおかげで、私は毎日楽しいんだから!今日もすごく楽しみよ」
「そうね、私も楽しみ。お客さんがたくさん来ても困らないように、準備しておくね」
「ええ、頼んだわ」
「うん。任せて」

笑顔を返して頷くと、私は空になった木箱を持ち上げた。
ここでの私の仕事は一旦お仕舞い。
この後は店に戻って午後の仕込みをするのが私の担当だ。
数歩進んだところで、マロアに伝え忘れていたことを思い出した。

「あ、午後からルフナが手伝いにくるって。巡回の後にまっすぐ行くと言っていたわ」
「助かるわぁ。でも第二の母としては心配ね。そろそろお祭りを一緒に見て回る子ができてもいい頃だと思うんだけど…」
「ふふ。そんな女の子ができたら、ちょっと寂しいけど…嬉しいわね。本人は相変わらず興味がないと言っているけれど」

ルフナは私のたった一人の大切な息子で、今年で17歳になる。
本人不在のところでこんな話をしたから、今頃彼はくしゃみをしているかも知れない。
マロアと2人でくすくすと笑った後、別れを告げて歩き出す。
それから間もなくして、豊穣祭の開催を知らせる花火が打ち上がった。
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