荒ぶる世界の最果てダンジョン~村娘、姫騎士、女神官。みんなエロトラップに引っかかってアヘ顔Wピース!からの踊り食い~

櫛名月

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31 お子さま王子、見栄を張る

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 砦の背後にそびえる山脈に、渡り鳥が碧空に消えていく。
 中央に布陣するダームスフィア王国連合軍主力、ハザン将軍が剣を天に掲げながら檄を飛ばす。

「正門と城壁攻略に集中しろ! 敵は少数だ! 勝機は我らにあり!」

 角笛の長音とともに、各国の軍旗が一斉に動き出す。
 長梯子を担いだ王国連合軍の傭兵が吶喊とっかんしていく。
 舞いあがる砂塵。
 城門前に布陣しているドルロブ軍に向けて槍兵が密集陣形で歩を進める。
 後列の弓兵が空に向けて弓を構えた。
 砲兵はカタパルトの射出準備を終え、魔道士が詠唱を始めた。

「攻城塔を城壁に寄せろ! 急げ!」

 作戦隊長の檄に兵士が軍旗を振る。
 たちまち周囲の旗持ちに伝播し、いたる所からプォーとラッパ音が高らかに鳴り響いた。
 グリフォンが雄叫びをあげ、軽装歩兵二〇〇名と攻城塔の速度があがる。

「頭上に気をつけろ! 矢が飛んでくるぞ!」
「前進、前進!」

     §

 ダンタリオンは静かに時を待っていた。
 攻城塔は全部で五基。正面城壁に三基。東と西にそれぞれ一基が迫りつつある。
 槍兵の城壁到達まで、およそ五〇メートル。
 王国軍魔道士の詠唱による空中に浮かび上がっている魔法陣が、まもなく総攻撃をしかけてくることを示唆していた。

「予想通りです。では、始めましょう。まずは敵の足場を崩します――」

 あくまでも冷静に。ダンタリオンは右手を前に差し出した。
 周囲に光輝く結晶粒が浮かびあがる。
 結晶粒は魔素エレムトが凝縮されたもので、ダンタリオンの手のひらの上に集まっていき、六芒星を形成していく。
 六芒星がこぶし大ほどになったとき、ヴォーンという振動音が鳴りだした。

「GolemUgula Sakriya KaraAEta」

 ダンタリオンはなにかを唱え、結晶体を握りつぶした。
 薄い硝子板のごとく六芒星は砕け散り、黒い霧となってあとかたもなく霧散した。

     §

 すると城塞を起点にして、平原全体に緑色の霧のような波紋が広がった。
 まるで水面に石を落としてできる、幾重にも描かれた波の輪のように。
 数瞬後、王国軍兵士の足元――地面が液状になって波立ち始めた。

「な、なんだ!」
「なにが起こっている?」

 液状化した土の波が襲う。
 どこかしこから喚き声があがり、二本足で立つこともできず四つん這いになる。
 隆起した地面から転げ落ちていく兵士たち。
 攻城塔はいずれも斜めに傾いて、いまにも倒れそうだ。
 そのうち二基が倒れ、牽引していた数十名の軽装歩兵やまわりの兵士が下敷きとなった。
 後続の兵士も総崩れとなり、もはや攻撃を仕掛けるどころではない。
 さいわいにも、王国連合軍本陣まで波は届かなかった。

「な……なんだこれは? あんなもの見たことがないぞ。戦術級魔法でもなさそうだが? 魔法ではないのか……」

 高台から戦場を見渡していたドルゴールは動揺を隠せずにいた。

「こ……これは……もしかすると、禁呪では……」

 誰かが言った。

「禁呪?」
「はい……私の知る限り、禁呪と思われます。ですが――」

 ドルゴール配下のベテラン女魔導士によれば、禁呪とは古の時代、主に神々が使っていたとされ、一般の人族には奇跡と言われたほうが馴染みがあるかもしれない。
 当然のことながら奇跡は、神以外の種族が扱える代物ではない。

「ならばどうして、神ではないはずの魔族が使える?」

 ドルゴールは女魔導士に問うも、「わかりません」の一言だった。

「ふん、まあいい。禁呪、魔法、精霊術、妖術、いずれにせよ、敵方にはまだ、賢者に匹敵する者がいるということか」

 ドルゴールは拳を握りしめた。

「ドルゴールよ」

 傷ひとつ無い白の金属鎧を身にまとった少年――サミュエルが声をかけた。

「これでは攻めることができないではないか? どうするのだ?」

 サミュエルは眉をしかめながら指をくわえた。

「……残念ながら攻城塔は、もはや使い物になりませぬ。機動力も失われたいま、まずは兵たちの動揺を抑え、再編成を急がせるのが先でございましょう」
「おお! ちょうど僕も同じことを考えていた。では任せたぞ!」

 偉そうな口調でサミュエルが手を前にあげ、ドルゴールに丸投げの命令をくだす。

「ハッ!」

 ドルゴールは一礼すると、数名の部下とともに立ち去った。

(フッ。いまのセリフ決まったな。これで好感度アップ間違いなしじゃね? ……と、そんなことより、どうにかしてエメラルダちゃんと二人きりになれないかな?)

 思わずニヤけるサミュエル。
 近くには一目惚れした公女が――。

(おぉっとヤバいヤバい。頬が緩んでしまった。気を取り直して、と――)

 サミュエルは両腕を組んだ。

「フン。あれしきの魔法・・で狼狽えるとは。ドルゴールもまだまだだな」

 声を低めにし、チラッとエメラルダの顔色をうかがう。
 エメラルダは微笑むこともなく、ただ頷いてみせた。

(う……)

 サミュエルはたじろいだ。
 どことなく冷めた女の目だった。
 かつての記憶がサミュエルの脳裏をよぎった。

「……そ、そうだ姫よ、怖くはないか、ん? だけど、お……僕のそばにいれば安全だ。……だ、だから、もう少し、そ、そばに寄って来てもいいんだぞ?」

 エメラルダは頷くこともなく、ただ微笑んでみせた。加えて心の中でため息をひとつ。

「姫さま!」

 振り向くと、振り袖のついた紺色の神官服に身を包んだ少女が、しっかりとした足取りで近づいてくる。

「アーシェ!」

 駆け寄るエメラルダ。

「姫さま、遅くなって申し訳ございません」
「いいのです。それよりもメリエールの姿がないようですが……なにかあったのですね、アーシェ?」

 勘のいいエメラルダは、アーシェの表情から何かを感じ取っていた。
 アーシェとは長い付き合いだ。
 本人は凛とした態度をとって、隠しているつもりだろうが、目の周りがほんのりと赤いし、どこか困っているようにも、なにか伝えたいことがあるようにも見える。

「なにがあった、アーシェ?」

 同じように感じ取ったのだろう。
 騎士団長ジゼルもまた、優しく問いかけた。

「本当に申し訳ございません。不肖にもこのアーシェ、あの男――鶴春湊に出し抜かれてしまい……メリエールは……鶴春湊の手によって連れ去られてしまいました……」

 エメラルダはジゼルと目を合わせた。
 互いに口を開け、目を丸くしていた。

「脱走したというのか。しかもメリエールを連れて……」

 アーシェはジゼルに首を縦にふった。
 エメラルダはつぶやくようにメリエールの名を呼んだ。

「申し訳ございません……」
「何はともあれ、あなたが無事でなによりです。アーシェ」
「姫さま……」
「ジゼル、急ぎ馬を用意してください」
「かしこまりました。ですが何をなさるおつもりですか、姫さま?」
「メリエールはわたくしが連れ戻します。人質を連れていては、そう簡単に戦場からは逃げ出せないはずです。ジゼルとアーシェはここで待機を。アーシェ――」
「はい……」
「よく頑張りましたね、アーシェ。後のことはわたくしに任せて、いまはゆっくり休んでいなさい」
「姫さま……お言葉でございますが、私もお供を――」

 エメラルダは、かぶりを振った。

「戦はまだ始まったばかりです。これからきっと、あなたの回復術が必要になります。だからいまは力を温存しておいてください。それに、メリエールのことです。うまくあの卑怯者から逃げ出して、ここに姿を現すかもしれません」
「……かしこまりました、姫さま」

 アーシェは深く頭をさげた。
 ジゼルは「そういうことでしたら――」と、馬の準備に取り掛かる。

「ちょっと待った君たち!」

 場の空気をぶった切って割り込んできたのは、サミュエルだった。
 しかし、エメラルダは誰が声をかけてきたのか、すぐにはわからなかった。
 初めて顔を合わせた時は、多少なりとも王子の風格を漂わせていた。
 しかし、いまのはなんというか……言い方がおっさんのようだった……。

「話は聞かせてもらったぞ。ここは僕に任せたまえ! よいか、エメラルダ姫、愛しの妻よ。君にもしものことがあったら大変だ。姫は僕がさっき言ったことを覚えているかな? そう! 僕は君に言った! 『僕のそばにいれば安全だ』と! だから姫を行かせるにはいかない。代わりに僕の兵から捜索隊を五〇〇人送り出そう。そして君の大切な……たいせつな、えー……(ごにょごにょ)を助け出して男は死刑にしてやろう」

 一部、聞き取れない部分があったが、王子が偉そうな態度で話し終えた時、エメラルダは彼から距離をあけていた。
 そして公女は困った様相で答えた。

「ありがとうございます。ですが、これはわたくしたちの問題でございます。サミュエル様のお手を煩わせるわけにはいきません。それにいまは戦の真っ只中でございます。兵士は本来の役目を果たせさせるべきかと存じます」
「そうかそうか……うん? あ、いや、そうじゃなくて――」
「さ、姫さま。決して無理はなさらぬよう」

 ジゼルが割り込んできた。
 白馬を連れてきたジゼルから手綱を受け取ると、姫騎士は颯爽と鐙に足をかけ鞍に跨ると背すじを伸ばした。

「それではジゼル、アーシェ。ここは任せましたよ」

 やっ! と、愛馬の腹をかかとで軽打した。
 姫騎士を乗せた白馬は、たてがみをなびかせるほどにスピードを増して本陣を離れて行った。


 エメラルダの姿が見えなくなると、サミュエルは配下の将に命令をくだした。

「捜索隊を五〇〇人出せ! 怪しそうなヤツがいたら、ここに連れて来るんだ! いいか、女の子を連れた男だぞ。間違えるなよ!」
「殿。いくら我が軍の兵が数で勝っているとはいえ、五〇〇人はやり過ぎかと……」

 将の一人ハイゼンが諌めるように申し出る。

「なんだと! 僕の妻が困っているのにお前は何もするなと言うのか?」
「いえ、そこまでは言っておりませぬ。ただ、捜索にそこまでの人数を駆り出す必要はありませぬ。二〇名もいれば十分かと」
「ダメだ! あ、それとアダンにも伝えろ! 報酬はたっぷりと出すとな」

「殿、わたしもハイゼン殿の意見に賛成です。どうかご一考いただきたく存じます」
「ダトソン。貴様まで僕に歯向かうのか? たった二〇人じゃ、すぐに見つからないだろうが! いいかお前たち。次期国王である僕がいま一度、命令する! 捜索隊を五〇〇人出せ! 衛兵長!」
「はっ!」
「ハイゼン卿とダトソン卿を連れて行け。しばらくの間、頭を冷やしてもらう。領地は減封されるものと思え」
「殿下……?」

 ハイゼンとダトソンは目を丸くした。
 その場にいた諸将も動揺を隠せずにいた。
 皆、眉をしかめ互いに目を合わせている。
 戦争経験のない王子を諌めるべく、適切な対処について助言しただけなのに、ただ気に入らないからと罰せられることになるとは……。
 それに、五〇〇人という数字は、いったいどこから出てきたのか。
 一三歳とはいえ、曲がりなりにも王族の子である。
 これまでに教育は受けていたはずである。
 それにも関わらずただ、自分に酔いしれ、感覚とその時の気分で言っているだけに過ぎない。


 衛兵に連れて行かれるハイゼンとダトソンを見送りながら、ジゼルとアーシェは複雑な気持ちを抱いていた。
 王家とは常に見られているものである。
 此度の戦で、次期国王の力がどれほどのものか貴族たちに見定められていることに、サミュエル王子は気づいていないのだろうか。
 そう考えると、彼はとても王の器ではないし、此度の戦も心配だ。
 もし大敗を喫すれば、ダームスフィア王室、デルバラン家の威信は大きく失墜するだろう。
 主のエメラルダ殿下が、こんな男の元へ嫁ぐのかと思うと、心が重くなった。
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