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湿地はかったるい

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「リックさんはサキさんの恋人なの?」
「えっ、ち、違うわよ」

「そう?彼、素敵ですね、びびっと来ました。フェロモン出まくってますよ」

「フェ、フェロモン?そ、そうかしら」

「リックさんがサキさんを好きでもいいか。サキさんが第一婦人で私が第二婦人ね」

「それじゃ、二号さんじゃない……そうか、この世界は一夫多妻制だったっけ。う~ん」

「暫く一緒に行動してもいい?」
「ベ、別に構わないわよ」
「良かった、ありがとう」

リックがフェロモン?……確かに最近は大人っぽく感じるけど。

ーー

 興奮して寝れなかったのか早めに目が覚めた、食堂に行くと2人はまだ来ていない様だ。

「おはよう御座います。朝食を用意出来ますが?」

「2人が来たらお願いします」
「分かりました」

「おはよう」
「おはよう。リック、早いわね」

「さっき来た所だよ」

テーブルに料理が運ばれて来た。

「美味しそう」
「いただきます」

野菜スープは温かく、とてもまろやかで、なかなかの味だ。

パンに手を伸ばした時、2人に異変があった。

「くぅ、身体が……」
「……動かない」


「これでお前とやっと、おさらば出来るな」

「お、……お前、バズール……」

「まさかお前がこの宿に来るとはな。お前も姉と同じ様に、獣人好きの奴らに奴隷として売り飛ばしてくれる」

「くそ、……なにを」

「ゴメス、3人を縛り上げろ。……?ゴメス、何をしてる」

「その人ならもう死んでるよ、ほら、そこに」

「何、うっ、ゴメス……小僧、何で動ける?」
「僕には毒も麻痺薬も効かないよ」

「ならば、俺が殺るまでだ」
「それも無理。バインド!」

「なっ、身体が」

「さあ、2人とも、これを飲んで」

麻痺回復ポーションを2人の口へ運ぶ。

「た、助かった」
「本当に、助かりました」

「この男は君に任せるよ」
「ありがとう、こいつらのせいで私の姉は……」

「色々有るみたいだね」

「リック、何で麻痺しなかったのよ」
「僕の、ズルその②だよ」

「呆れた、でもそのお陰ね。あの男が動け無いのは?」

「ズルその③」
「はあ、分かったわ」

暫くして、ひと仕事を終えて帰って来た手下達を、サキがブチ倒しギルドに引き渡した。

「リックさんのお陰で、姉の敵が打てました。この賞金を受け取って下さい」

「それはミリカさんが、もらうべきだと思う」
「そうだよ」

「ありがとう。これでバズールを捜す必要が無くなったので、ずっとリックさんと旅が出来ます」

「へっ?」

「サキさん、これからもよろしく」
「よ、よろしく。サキどう言うこと?」
「ミリカさんが仲間になるのよ」

「そうなの?」
「リックさん、よろしくね」

「あ、はい」

「湿地のダンジョンに行くんでしょ。さあ、行きましょう」

「お、おう」

不思議な事にサキは、ミリカが仲間になるのを納得している様だ、ならいいか。


これから行くダンジョンは、名前の通り湿地帯の奥にダンジョンが有る、着くまでに水生の魔物も出るので一苦労する。


雷魚の様な魔物を倒しながら進んで行く、ミリカの動きは素早く正確だった。

しかし、カエルの顔をした人型の魔物には参った、グロテスクな上にを酸を吐くのだ。

「あれはトードリアンって言うのよ、悪食で何でも飲み込むの。集団で来られると厄介な奴よ」

「リック、先の方が騒がしいわ」

そう、気が付いてはいたんだが、複数の冒険者が襲われている様だ。

どうするか、ジャバネなら多少の酸を浴びても大丈夫だろう、悪食には悪食だ。

「ミリカ、驚かないでね」

3匹のジャバネを出して巨大化させる。

「出た、異世界G」
「うっ、ひぇ~」

「冒険者達は食べちゃダメだよ。行っておいで」
「ギギィ」

「リック、あれは何?」
「僕の従魔だよ」

「他にもたくさんいるから、ミリカ、覚悟した方がいいわよ」

「うひゃ~」

冒険者の所に着いた時には勝負はついていて、男女合わせて8人いたが、全員が腰を抜かしていた。

ジャバネ達は空中でホバーリングしている。

「た、助けてくれ。虫の魔物に……」

「酷いな、その子達がトードリアンを食べてくれたんだろう?」

「えっ、そ、そう言えば」
「僕の従魔だよ」

「助かったのか?」
「許してくれ、それは恐ろしい光景だったんで」

「あ、それ解るわ」
「どんだけなのよ、サキさん?」

「その内に解るわよ」

「ポーション有るけどいる?」
「ああ、買わせてもらうよ」


「君達、トードリアンくらい一蹴出来なければ、ダンジョンに行っても死ぬだけじゃないのか?」

「判かった、もっとレベルの低い所からやるよ」

「じゃ、僕達は行くね」
「ありがとう、じゃ」

ジャバネをしまって、ダンジョンに向かう。

「リック、虫に乗れば良かったんじゃない」

「あっ、そうか忘れてた、しかし目立ちたくも無いしな。でもここなら帰りは乗ろう」

「それじゃダンジョンに急ぎましょう」

数分後にダンジョンに着いたが入口には魔物の像は無かった。

「無いわね」
「取り合えず周りを見てみよう」

「やっぱり無いわね」
「違うか、まあ一発目で当たったら凄いよね」

「どうする?」
「何か疲れたな」

「そうね朝から色々有ったし」
「帰るか」

「えっ、ダンジョンに入らないの?」

「そうか、言って無かったっけ。僕達はダンジョン攻略が目的では無いんだ」

「あるダンジョンを探しているの」

「そうなの?」

「それでも付いてくる?ミリカ」
「もちろんよ、サキさん」

「お腹空いたし、人も来ない様だし、ここで食事して帰ろう」

「はい」「そうしましょう」

テーブルとイスを出して、料理長に作ってもらったパンにスープ、オークのしょうが焼き風味の肉を並べる。

「いつ見ても凄いわね」
「え~っ、湯気が立ってる」

「冷めない内にどうぞ」

「「いただきます」」

ーー

「さっきは聞こえないふりをしたけど、本当に虫に乗るの?」

「そうよ、怖いのかしら?」
「ま、まさか楽勝よ」

「このまま、西のダンジョン近くの街まで行こうと思う」

「早く着いて、ゆっくりしたいわ」


今日の夜には着きそうだ、今度はちゃんと宿が有るといいがな。

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