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妙案

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 吸血鬼のこと以外で問題が有るとすれば、今はグリーンベルトの事だろう。


「こんな遅くにすまんなクロス君」
「何か動きが有りましたか?」

「うむ、フィッシャマ港の漁師達による遠海での目撃が増えて来たので、目撃されたラゴナイラの数とその地点を調べ、過去の例から専門家に計算してもらったのだ。おおよその規模が判った」

「どの程度になりました?」
「幅は20から50kmという事だ」

「そんなに大きくはないですね。時期と進路は?」

「そうだがな……時期はまだ判らない、だがそんなに遠い事ではあるまい。進路は南海からベルク王国との国境付近の山脈からではないかと言われた。対応する準備をしなくてはならん。頭が痛い」

「とすると、オルロイから王都を通ってエルフの森の方に行くという事ですね」

「我が国はもちろんのこと、エルフの森は全滅、その先のパンパミーヤも危ないだろう」

「……先日、人探しの依頼を受けたのはご存知ですよね?」

「知っている。それがどうした?」
「ここだけの話として聞いて下さい」

「解った」

「実はドワーフがギルドで相手にされなかったから、私の所に来たのです……」

ーー

「そんな大事な事を確かめずに相手にしないなどどは、ギルドの連中は実にけしからん」

「まあまあ、内密なので」

「う、うむ。それでカオリナイトは実際の所どうなのだ?」

「おそらく間違いないでしょう」
「では、それを使って何とか出来ないものか?」

「王都から優秀な錬金術師を集められませんか?」
「どうする気だ?」

「私の考えは関係の無い一般の人達を巻き込むので、褒められた事ではありません。なので公に出来ず秘密裏に動かなくてはいけません。下手をすればザラステン王国と敵対することになりますが、どうします?」

「……よかろう、言ってみたまえ」

「我々がカオリナイトを使ってラゴナイラの進路を変えれば、当然周りの国のベルク王国、パラストラ王国、獣王国に被害が及びます。でしたら吸血鬼の親玉がいるザラステン王国の国力を削いだ方がいいと思うのです」

「うむむ、……確かに。その方法は?」
「それは……」

ーー

「な、なるほど。となるとエルフにも協力してもらわねば」

「そちらは私が何とかしましょう。ツテが有ります」

「ふふ、顔が広いな」
「お陰様で」

「陛下への打診は私がしよう」


ーーーー

「ドコライさんいます?」
「クロスか、こっちへ来てみろ出来てるぜ」

裏に回ると樽がたくさん積まれていた。

「こいつには原液が入ってる。使う時は、1000倍くらいに薄めな」

「薄めていいのか?それは都合が良い」

「お前さん、何を企んでる?悪い顔してるぜ。もっと必要なら言ってくれ」

「頼りにしてるよ」

ーー


「え~、今度は1人でエルフの国とザラステン王国に行くの」

「グリーンベルトがいつ来るか判らない。急ぐんだ」

「仕方ないわね」
「いいか、この事は極秘だぞ」

「解ってますよ」
「アンが1番危ないのよ」
「よく言うわね、お姉ちゃん」

「どっちもどっち、なのです」「その通り、ジーナ偉い」

「「ジーナ!」」


今回も1人で行動だ。まあ、今のあいつらなら安心してここを任せられるからな。

ある意味、国の存亡がかかっているので国王の決断も早く対応も素早かった。連絡に扱き使われた従魔達には気の毒だったが。

10日後には錬金術師達がやって来るというのでそれまでに俺の方の用事も済ませなくてはならない。エルフの国へと出発した。


ーーーー

森の方の城ではなく表の城に行く。

「クロスと言う者だが、執務長のバリエスタ様に急ぎ伝えたい事が有るゆえ至急お会いしたい」

俺の差し出した王家の紋章が入ったタリスマンを見た衛兵は、何も言わず中に案内してくれた。

「ここで暫くお待ちください」

ほどなくしてバリエスタが部屋に入って来た。

「クロス殿、火急の用とは何事ですか?」

「この国ではグリーンベルトについてどの程度認識している?」

「獣王国とパラストラ王国の間からはいってドワーフの国に抜けるのでは、とみている。山を挟んだ反対側の森は致し方ないので、終わった後に対応するつもりだが」

「状況が変わったようだ。最近になってベルク王国の南海で目撃が増えていて、専門家が計算したところ、幅は20から50kmでベルク王国側の山脈からバランシア王国を抜けて真の王宮のある森を通るとの予測だ」

「な、何という事だ。不味い、不味いぞそれは」

「そこで提案なんだが……」

ーー

「解った。陛下の所まで一緒に来てくれ」




「なるほどのう。表向きの国の街であれば避難さえしておれば、多少破壊されたとしても問題は無い」

「そうで御座いますね。カオリナイトを使えば被害は少ないでしょうし、誘導したラゴナイラの群れは必然的に大峡谷を通ってザラステン王国に行くというわけだ」

「それが吸血鬼達の牽制になると言うのだな。考えたなクロス殿……解った、協力しよう」

「ありがとう御座います。陛下」

「クロス殿、ここで使う魔道具と人員は任せろ」
「頼みます」


エルフの国はこれで良しと、次はザラステン王国だ。いずれは偵察に行くつもりだったので丁度いい。


バランシアに行くときは苦労した峡谷も、今ではひとっ飛びだ。王都まで半日もかからない。

王都ヴァイツはゆったりと時間が流れていた。戦をしている国とは思えない。レンブロイ王国に手こずっているとはいえ、ここでは遥か遠い所の出来事なのだろう。

「スラッシュじゃない。今まで何処に行ってたのよ?」

懐かしく街並を眺めていたら女に声をかけられた。かなり良い女だ……リンダか、ガッツが懇ろになった娼館の女主人だ。

「久しぶりだな」

「カレンが貴方に会いたがってたわよ。ガッツは?」

「事故で死んだんだ」
「そう……まあ、いいわ。店に来なさいよ」

「ちょっと、待てって、こら」

リンダに腕を掴まれ強引に連れて行かれる。大事な用が有るというのに……。


「カレン、いい男を連れて来たわよ」
「スラッシュ」

「や、やあ」
「やあ、じゃないわ、全く」


ーー

「はぁ~、……やっぱり惚れた男とするのが1番ね。また来てくれるでしょ?」

「ああ」
「約束よ、破ったら承知しないんだから」

「解ったって」

ここも大変な事になるだろう。なんか気がひけるな。

「そうだ、これをやろう。リンダにも店の娘みんなの分もあるぞ」

「なに?香水、変わった匂いね」

「悪い虫がつかないやつさ。エルフの国で流行ってる上物だ」

「ホント!嬉しい」



とんだ所で時間を食ったが俺も楽しんだので仕方がない。本題はここからだ、何もしないのは心が痛むからな、自己満足になるが、何もしないよりは良いだろうと思うしかない。


「邪魔するぜ」
「スラッシュさん。無事だったのですね」

「ああ、あの時の情報はバッチリだったぜ」
「何よりです。それで今日は?」

「これから言うことは他言無用だ」
「もちろんです」

この男タランは、昔からの付き合いで信用の出来る男だ。

「この金で食料を買い集めてくれ」

「……白金貨30枚って、いったい何が起こるんです?」

「近い内に必ずこの国にグリーンベルトが来る」
「ここにですか?私の聞いた情報とは違いますが」

「専門家が言っている。間違いない」
「スラッシュさんがそう言うなら……」

「おそらく、この国の至る所で食い物は無くなる。その時に王都に限らずスラムの連中や困っている奴らにやってくれ。あっ、それとマダムパピヨンという娼館の娘達にも気を使って欲しい。手配するのに信用のおける者を雇っていいぞ」

「解りました。お任せを」
「また来る。下手を打つなよ」
「スラッシュさんこそ」


後は天に運を任せるだけだ。
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